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とてつもない疲労感を抱え、<ルーチェ>の四ブロック先の住宅街に辿りついた。
立ち並ぶ安普請の建物のうち、ココア色の外壁のアパートの一室がわたしの住処だ。
古いエレベーターはついているものの、サングエで素性のわからぬ他人と密室になるなんて怖いこと出来ない。五階まで、地道に階段を登る。途中、階段で寝そべっているおじさんがいたが、目を合わせずに足早に横をすり抜けた。彼の饐えた体臭が鼻につく。
五階最奥の部屋の前で脚を止めて、鍵を外した。
ドアのチェーンががつんと音を立ててわたしの行く手を阻む。
口元がほころぶのが自分でわかった。
「クラウディオ、ただいま」
ドアの隙間から声をかけると、室内で気配が動いて、中からチェーンが外された。
「お帰り、イノリ」
笑顔で出迎えてくれたのは、同居人のクラウディオだ。
玄関先でハグすると、短く刈り込んである彼の茶髪が頬をくすぐった。大きな手がわたしの頬を包み込み、額にもキスが振ってくる。間近で見つめる灰色の目は切れ長で鋭いが、今は親しげに細められているので怖くはない。
今日のクラウディオはシンプルなVネックのニットとダークブルーのデニム姿。いつもこんなラフな格好をしている。仕事柄だろうか。
唯一、こだわりを垣間見せるのが、左手の指に光るシルバーのリング。亡くなった奥さんとの結婚指輪だそうだ。
玄関に入ってすぐの床には、まだ片付けられてないバッグやら箱やらが無造作に置かれている。中には、クラウディオの仕事道具であるカメラや周辺機器が納まっているはず。それらを避けて、ダイニングキッチンへ。
「いつ帰ってきたの」
「さっきだ。朝食はもう済ませたか? ペスカトーレを作るんだが、食べるか?」
「まだ食べてないよ。ペスカトーレ、いいね。わたしも手伝う」
「じゃあ、イノリは皿と水を出しておいてくれ。スープも任せていいか?」
「がんばってみる」
手荷物を片付け、肩先まで伸びた髪を適当に結んで手を洗い、エプロンを身に着ける。食器棚からお皿を出した。うちのお皿はほとんどが白磁。クラウディオの好みで、一番お料理がおいしく見えるという。スープ皿と角皿を二人分取り出しテーブルに並べる。
たまねぎをバスケットから一つ、使いかけのにんじんとハムを冷蔵庫から取り出すと、わたしはクラウディオの横に並んで、野菜の皮をむく。
クラウディオは手際よく材料を切り終え、既に火にかけている。白ワインがフライパンに注がれていく。隣ではスープ用の鍋がふつふついいだした。
お互いに無言。野菜を刻む音や換気扇の音、油が跳ねる音がする。それが心地よい。しばらくすると、クラウディオの方からいい香りが漂ってきた。わたしの方もたまねぎとにんじんに火が通ったので後は簡単。沸かしておいたお湯を鍋に注いで材料を入れて、調味料で味を調えて完成。
程なくして、クラウディオの方も火が消えた。
手分けしてテーブルに配膳していく。立ち上る香りと湯気がわたしの食欲を大いに刺激する。
エプロンをしたまま、向かい合って着席した。クラウディオは小さく十字を切って、祈る。彼が目を開けたら、食事の始まり。
わたしは自分で作ったスープそっちのけでペスカトーレを口に運んだ。思わず、口角が上がってしまう。
「やっぱり美味しい。クラウディオ、レシピ本とか出版したらいいのに」
「まさか。そんな腕はないし、何より写真以外で本は出さないよ」
「じゃあ、動画を投稿するとか」
「いやいや……」
困ったような笑顔は、ちょっと情けない感じ。強面に分類されるだろう顔立ちも、これでは迫力がない。
「それよりイノリ、留守中何か変わったことは? ……やつらは来なかったようだが」
灰色の目が、ぐるりと壁を見回した。
ペールグリーンの壁には、一定間隔を置いて幾何学模様の描かれた額が飾られている。アンティークな印象の絵(というのだろうか。アート?)は、近づけば、印刷ではなく手描きで、加工で古く見せているのではなく本当に年月を経ているのだとわかるのだ。
クラウディオ好みのヴィンテージ家具を多く置いた部屋のインテリアには馴染んでいるが、改めて見ると独特のオーラがある。わたしがものぐさのせいで、埃を被っているからかもしれない。
部屋の一番奥の壁に、小さな机が寄せてある。白い布をかぶり、磔刑に処されたキリストの像が置かれ、周りにはごちゃごちゃした名前もわからない小物と、太さも色も様々なキャンドルが並ぶ。
クリスチャンじゃないわたしには、異様な威圧感を覚える小さな祭壇だ。
机一帯はクラウディオが作ったスペース。たまにここに向かって祈っている。彼が何を祈っているのかは知らない。一緒に暮らせないでいる家族について、……かもしれない。
出発前と違いない部屋の状態を見てもらえれば分かるとおり、クラウディオが心配していたことは起きなかったわけだ。
わたしは微笑んだ。
「大丈夫。なんともなかったよ」
「仕事の方も順調か?」
「……うん。じゅんちょう」
声が裏返った。記憶の中で、あのド派手な金髪男が笑顔で手を振っているんだもの。
「イノリ?」
クラウディオの表情が一気に険しくなる。
「何があった?」
「別に、大したことは」
「何があった?」
「う……」
「大したことじゃなくても話しなさい。何かあってからじゃ遅い」
「いや、本当に大したことではなくて……ほら、街中にも結構変わった人がいるでしょう? お店にそんな人が来て、ちょっとびっくりしただけだよ」
「どんなヤツだ」
クラウディオの言外に「サングエの変な住民たちと比較しても更に変な男」が、という共通認識がある。
「ええと……、その、こう、顔はすごくきれいなのに、ピンクのスーツなの。趣味悪すぎ。それでオムレツを食べていて」
「変態だな」
「ええっ? だ、断定しちゃうの?」
「紛れも無い変態だ。仕方ない。良くしてくれたマスターには悪いが、仕事は止めだ」
過保護にもほどがある。まだ拳銃の話も、帰り際の話もしていないのに!
「大丈夫よ! あんな奴、この街にはいっぱいいるじゃない。それに、今のお仕事辞めちゃったら、簡単に新しい仕事なんて見つからない」
「君を養うだけの金はある」
「駄目。そこまでしてもらうわけにはいかないもの」
「なら引っ越そう。この街は危険だ」
「息子さんが住んでいるからここにいるって言っていたじゃない」
鋭い視線に負けるものかと、精一杯厳しい顔を作る。にらみ合うこと数十秒。
「……悪い。気を使わせているな」
先に口を開いたのは、クラウディオだった。
「謝られることなんて何一つないよ。だって、クラウディオのおかげでわたしは今こうしてこの国で生きていられるんだもの」
日本にもイタリアにも身寄りはなく、身の振り方をどうすればいいかわからなかったわたしに、手を差し伸べてくれたのは、他ならぬクラウディオだ。
偽りない本音を告げると、クラウディオは大きな手をテーブル越しに伸ばして、わたしの頬にキスした。
やはり、困ったような笑み。
クラウディオにはわたしよりも大きな息子さんがいるらしい。多く見積もっても三十代半ばにしか見えないのに驚きだ。
息子さんとは、事情があって一緒には暮らせない。けれどせめて近くにいたいとこの街に留まっているとクラウディオは言っていた。
時々思う。クラウディオは、息子さんへの愛情をわたしにくれているのじゃないかと。たまにみせる偏執的ともいえる過保護さは、わたしと息子さんを重ねているからじゃないか。
「疲れているだろう。食べたらゆっくり休め」
「うん、そうする。クラウディオの次の仕事はどこ? いつ出発するの?」
「まだ決まってない。スケジュールの調整中だ。今日も午後打ち合わせに出る。
……そうだ、イノリ、今度の休みはローマに行かないか」
突然の申し出に、びっくりした。
「でも……」
「会いたい人がいる。例の件で。旅費は心配しなくていい」
灰色の目が細くなって、真剣な表情になった。わたしは唾を飲み込んで、小さく顎を引いた。
「それに、君も友人たちに逢いたいだろ? なんなら逢う約束をして、食事でもしてくればいい」
「ん、……ありがとう、クラウディオ」
「炭酸水飲むか?」
瓶を差し出し小首を傾げたクラウディオは、いつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。
わたしはグラスを差し出して、口角だけを上げる。
ローマに戻ったところで、わたしを待っている友達なんていないのよ、クラウディオ。
一緒に暮らし始めて数週間。わたしたちはまだ、お互いに言えない事情を抱えて、相手の急所に触れないように気遣いあって過ごしている。
立ち並ぶ安普請の建物のうち、ココア色の外壁のアパートの一室がわたしの住処だ。
古いエレベーターはついているものの、サングエで素性のわからぬ他人と密室になるなんて怖いこと出来ない。五階まで、地道に階段を登る。途中、階段で寝そべっているおじさんがいたが、目を合わせずに足早に横をすり抜けた。彼の饐えた体臭が鼻につく。
五階最奥の部屋の前で脚を止めて、鍵を外した。
ドアのチェーンががつんと音を立ててわたしの行く手を阻む。
口元がほころぶのが自分でわかった。
「クラウディオ、ただいま」
ドアの隙間から声をかけると、室内で気配が動いて、中からチェーンが外された。
「お帰り、イノリ」
笑顔で出迎えてくれたのは、同居人のクラウディオだ。
玄関先でハグすると、短く刈り込んである彼の茶髪が頬をくすぐった。大きな手がわたしの頬を包み込み、額にもキスが振ってくる。間近で見つめる灰色の目は切れ長で鋭いが、今は親しげに細められているので怖くはない。
今日のクラウディオはシンプルなVネックのニットとダークブルーのデニム姿。いつもこんなラフな格好をしている。仕事柄だろうか。
唯一、こだわりを垣間見せるのが、左手の指に光るシルバーのリング。亡くなった奥さんとの結婚指輪だそうだ。
玄関に入ってすぐの床には、まだ片付けられてないバッグやら箱やらが無造作に置かれている。中には、クラウディオの仕事道具であるカメラや周辺機器が納まっているはず。それらを避けて、ダイニングキッチンへ。
「いつ帰ってきたの」
「さっきだ。朝食はもう済ませたか? ペスカトーレを作るんだが、食べるか?」
「まだ食べてないよ。ペスカトーレ、いいね。わたしも手伝う」
「じゃあ、イノリは皿と水を出しておいてくれ。スープも任せていいか?」
「がんばってみる」
手荷物を片付け、肩先まで伸びた髪を適当に結んで手を洗い、エプロンを身に着ける。食器棚からお皿を出した。うちのお皿はほとんどが白磁。クラウディオの好みで、一番お料理がおいしく見えるという。スープ皿と角皿を二人分取り出しテーブルに並べる。
たまねぎをバスケットから一つ、使いかけのにんじんとハムを冷蔵庫から取り出すと、わたしはクラウディオの横に並んで、野菜の皮をむく。
クラウディオは手際よく材料を切り終え、既に火にかけている。白ワインがフライパンに注がれていく。隣ではスープ用の鍋がふつふついいだした。
お互いに無言。野菜を刻む音や換気扇の音、油が跳ねる音がする。それが心地よい。しばらくすると、クラウディオの方からいい香りが漂ってきた。わたしの方もたまねぎとにんじんに火が通ったので後は簡単。沸かしておいたお湯を鍋に注いで材料を入れて、調味料で味を調えて完成。
程なくして、クラウディオの方も火が消えた。
手分けしてテーブルに配膳していく。立ち上る香りと湯気がわたしの食欲を大いに刺激する。
エプロンをしたまま、向かい合って着席した。クラウディオは小さく十字を切って、祈る。彼が目を開けたら、食事の始まり。
わたしは自分で作ったスープそっちのけでペスカトーレを口に運んだ。思わず、口角が上がってしまう。
「やっぱり美味しい。クラウディオ、レシピ本とか出版したらいいのに」
「まさか。そんな腕はないし、何より写真以外で本は出さないよ」
「じゃあ、動画を投稿するとか」
「いやいや……」
困ったような笑顔は、ちょっと情けない感じ。強面に分類されるだろう顔立ちも、これでは迫力がない。
「それよりイノリ、留守中何か変わったことは? ……やつらは来なかったようだが」
灰色の目が、ぐるりと壁を見回した。
ペールグリーンの壁には、一定間隔を置いて幾何学模様の描かれた額が飾られている。アンティークな印象の絵(というのだろうか。アート?)は、近づけば、印刷ではなく手描きで、加工で古く見せているのではなく本当に年月を経ているのだとわかるのだ。
クラウディオ好みのヴィンテージ家具を多く置いた部屋のインテリアには馴染んでいるが、改めて見ると独特のオーラがある。わたしがものぐさのせいで、埃を被っているからかもしれない。
部屋の一番奥の壁に、小さな机が寄せてある。白い布をかぶり、磔刑に処されたキリストの像が置かれ、周りにはごちゃごちゃした名前もわからない小物と、太さも色も様々なキャンドルが並ぶ。
クリスチャンじゃないわたしには、異様な威圧感を覚える小さな祭壇だ。
机一帯はクラウディオが作ったスペース。たまにここに向かって祈っている。彼が何を祈っているのかは知らない。一緒に暮らせないでいる家族について、……かもしれない。
出発前と違いない部屋の状態を見てもらえれば分かるとおり、クラウディオが心配していたことは起きなかったわけだ。
わたしは微笑んだ。
「大丈夫。なんともなかったよ」
「仕事の方も順調か?」
「……うん。じゅんちょう」
声が裏返った。記憶の中で、あのド派手な金髪男が笑顔で手を振っているんだもの。
「イノリ?」
クラウディオの表情が一気に険しくなる。
「何があった?」
「別に、大したことは」
「何があった?」
「う……」
「大したことじゃなくても話しなさい。何かあってからじゃ遅い」
「いや、本当に大したことではなくて……ほら、街中にも結構変わった人がいるでしょう? お店にそんな人が来て、ちょっとびっくりしただけだよ」
「どんなヤツだ」
クラウディオの言外に「サングエの変な住民たちと比較しても更に変な男」が、という共通認識がある。
「ええと……、その、こう、顔はすごくきれいなのに、ピンクのスーツなの。趣味悪すぎ。それでオムレツを食べていて」
「変態だな」
「ええっ? だ、断定しちゃうの?」
「紛れも無い変態だ。仕方ない。良くしてくれたマスターには悪いが、仕事は止めだ」
過保護にもほどがある。まだ拳銃の話も、帰り際の話もしていないのに!
「大丈夫よ! あんな奴、この街にはいっぱいいるじゃない。それに、今のお仕事辞めちゃったら、簡単に新しい仕事なんて見つからない」
「君を養うだけの金はある」
「駄目。そこまでしてもらうわけにはいかないもの」
「なら引っ越そう。この街は危険だ」
「息子さんが住んでいるからここにいるって言っていたじゃない」
鋭い視線に負けるものかと、精一杯厳しい顔を作る。にらみ合うこと数十秒。
「……悪い。気を使わせているな」
先に口を開いたのは、クラウディオだった。
「謝られることなんて何一つないよ。だって、クラウディオのおかげでわたしは今こうしてこの国で生きていられるんだもの」
日本にもイタリアにも身寄りはなく、身の振り方をどうすればいいかわからなかったわたしに、手を差し伸べてくれたのは、他ならぬクラウディオだ。
偽りない本音を告げると、クラウディオは大きな手をテーブル越しに伸ばして、わたしの頬にキスした。
やはり、困ったような笑み。
クラウディオにはわたしよりも大きな息子さんがいるらしい。多く見積もっても三十代半ばにしか見えないのに驚きだ。
息子さんとは、事情があって一緒には暮らせない。けれどせめて近くにいたいとこの街に留まっているとクラウディオは言っていた。
時々思う。クラウディオは、息子さんへの愛情をわたしにくれているのじゃないかと。たまにみせる偏執的ともいえる過保護さは、わたしと息子さんを重ねているからじゃないか。
「疲れているだろう。食べたらゆっくり休め」
「うん、そうする。クラウディオの次の仕事はどこ? いつ出発するの?」
「まだ決まってない。スケジュールの調整中だ。今日も午後打ち合わせに出る。
……そうだ、イノリ、今度の休みはローマに行かないか」
突然の申し出に、びっくりした。
「でも……」
「会いたい人がいる。例の件で。旅費は心配しなくていい」
灰色の目が細くなって、真剣な表情になった。わたしは唾を飲み込んで、小さく顎を引いた。
「それに、君も友人たちに逢いたいだろ? なんなら逢う約束をして、食事でもしてくればいい」
「ん、……ありがとう、クラウディオ」
「炭酸水飲むか?」
瓶を差し出し小首を傾げたクラウディオは、いつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。
わたしはグラスを差し出して、口角だけを上げる。
ローマに戻ったところで、わたしを待っている友達なんていないのよ、クラウディオ。
一緒に暮らし始めて数週間。わたしたちはまだ、お互いに言えない事情を抱えて、相手の急所に触れないように気遣いあって過ごしている。
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