2 / 20
1、この恨み、晴らさでおくべきか(2)
しおりを挟む
ノルンの前のテーブルには、キツネ色の焼き菓子が、陶器の皿に乗せて置かれている。皿は金色の羽根模様が描かれている、私の部屋にはいささか優美すぎるもの。実家の母が、お菓子を食べるときにちょうどいいだろうとわざわざ見繕って贈ってくれたものだ。ノルン相手にしか出番がない、可哀想な皿である。
私が、最低限の設備しかない備え付けのキッチンでお湯を沸かしている間に、ノルンはあくびしたり菓子をつまんだりしてくつろいでいる。
隔週開催が定着しつつある、ふたりのだらけたお茶会の始まりは、いつもこんな感じ。
「お、これ甘さ控えめだけどシナモン効いてて美味いな、初めて食べる」
気だるげな仕草で、貝の形に焼き上げたキツネ色のお菓子をつまんで口に運ぶノルンに、私は呼びかけた。
「せめて、いただきますくらい言ったらどうなのさ。ごちそうされる身なんだから」
「へえへえ、いただきます。
といっても、これももらいもんだろ? 筋肉の塊のカメリアなんかに、うまい菓子だの酒だの貢いで、色目つかう連中の気が知れねえ。ま、半数以上が女からってのが笑えるけどな」
お茶請けのお菓子は、部隊対抗の訓練試合の観戦者からもらったものが多い。一月に二度、一般公開もされている、騎士団の宣伝のための試合だ。
ほかには私の実家から届けられた日持ちするお菓子なんかもある。何度いらないと言っても、母が気を利かせて箱で送ってくれるのだ。
甘いものが苦手な私には、いかんともしがたいお菓子の在庫はこうして増えていく。むしろ、ひとりでいると、全然減らない。
お茶会の名目で、お菓子の過剰在庫を甘党のノルンにおすそ分けするようになって、どのくらい経つか。
ノルンと親しくなったのが、互いに昇進し、班を任されたあとだ。同期で同時期の昇進だったうえに、同じ部隊の所属だからなにかと関わることがあって、……ではもう一年ほど? 時が経つのは早い。なにをきっかけにお茶会が始まったかも、もう覚えてない。
「自分がお菓子をもらえないから、モテる私に嫉妬してるの?」
「平凡顔なのになんでモテるのかね。おっぱいだってカチコチの筋肉だってのに」
「触ったことないくせに」
「この前、休憩時間に寝こけたお前のおっぱいもんでみたけどカチコチだったしな。いくら女が少ない騎士団とはいえ、お前に粉かけるなんてよっぽど餓えてるのかねえ」
眉間に力がこもる。
「勝手にひとのおっぱい揉んでおいて、失礼な。お代払え。じゃなきゃ沸きたての湯を鼻から流し込む」
「はーい被害妄想。お前の魅力はちゃーんと理解してるぜ、カメリアちゃん。
『実家の商売を継ぐのが嫌で、前線で魔物ぶった切る騎士になりましたー! 挙句の果てに、昇進して、部隊の索敵班の統括してまーす』なんて剛毅な経歴の女は、国中でもお前だけ。めったにない魅力だぜ。たぶんカメリアに菓子を貢ぐやつらは、珍獣に餌付けしてる気分なんだな」
「なにその珍獣って」
「実家の商売、軌道に乗ってるって言ってたろ。継げば安泰ってわかってるのに、それほっぽりだして戦場にくるやつが珍獣でないわけねえな」
「あら、意外と安定思考だね、ノルン。親の轍を逸れたくないヤツ?
ところでうちの実家の商売、あんたに話したっけ」
「おまえに興味ねーから、聞いたかどうかも忘れたわ」
「だろうね。私も話さなくてもいい相手だから、話したかどうかも忘れてた」
湯が沸いたので、会話は一時中断する。やはりこのときにしか出番のない、皿とおそろいのカップを出して、紅茶を注ぐ。
早くと急かす声がしたので、たっぷり焦らしてやる。苦味がでたとしてもいいや、ノルン相手だし。
私が、最低限の設備しかない備え付けのキッチンでお湯を沸かしている間に、ノルンはあくびしたり菓子をつまんだりしてくつろいでいる。
隔週開催が定着しつつある、ふたりのだらけたお茶会の始まりは、いつもこんな感じ。
「お、これ甘さ控えめだけどシナモン効いてて美味いな、初めて食べる」
気だるげな仕草で、貝の形に焼き上げたキツネ色のお菓子をつまんで口に運ぶノルンに、私は呼びかけた。
「せめて、いただきますくらい言ったらどうなのさ。ごちそうされる身なんだから」
「へえへえ、いただきます。
といっても、これももらいもんだろ? 筋肉の塊のカメリアなんかに、うまい菓子だの酒だの貢いで、色目つかう連中の気が知れねえ。ま、半数以上が女からってのが笑えるけどな」
お茶請けのお菓子は、部隊対抗の訓練試合の観戦者からもらったものが多い。一月に二度、一般公開もされている、騎士団の宣伝のための試合だ。
ほかには私の実家から届けられた日持ちするお菓子なんかもある。何度いらないと言っても、母が気を利かせて箱で送ってくれるのだ。
甘いものが苦手な私には、いかんともしがたいお菓子の在庫はこうして増えていく。むしろ、ひとりでいると、全然減らない。
お茶会の名目で、お菓子の過剰在庫を甘党のノルンにおすそ分けするようになって、どのくらい経つか。
ノルンと親しくなったのが、互いに昇進し、班を任されたあとだ。同期で同時期の昇進だったうえに、同じ部隊の所属だからなにかと関わることがあって、……ではもう一年ほど? 時が経つのは早い。なにをきっかけにお茶会が始まったかも、もう覚えてない。
「自分がお菓子をもらえないから、モテる私に嫉妬してるの?」
「平凡顔なのになんでモテるのかね。おっぱいだってカチコチの筋肉だってのに」
「触ったことないくせに」
「この前、休憩時間に寝こけたお前のおっぱいもんでみたけどカチコチだったしな。いくら女が少ない騎士団とはいえ、お前に粉かけるなんてよっぽど餓えてるのかねえ」
眉間に力がこもる。
「勝手にひとのおっぱい揉んでおいて、失礼な。お代払え。じゃなきゃ沸きたての湯を鼻から流し込む」
「はーい被害妄想。お前の魅力はちゃーんと理解してるぜ、カメリアちゃん。
『実家の商売を継ぐのが嫌で、前線で魔物ぶった切る騎士になりましたー! 挙句の果てに、昇進して、部隊の索敵班の統括してまーす』なんて剛毅な経歴の女は、国中でもお前だけ。めったにない魅力だぜ。たぶんカメリアに菓子を貢ぐやつらは、珍獣に餌付けしてる気分なんだな」
「なにその珍獣って」
「実家の商売、軌道に乗ってるって言ってたろ。継げば安泰ってわかってるのに、それほっぽりだして戦場にくるやつが珍獣でないわけねえな」
「あら、意外と安定思考だね、ノルン。親の轍を逸れたくないヤツ?
ところでうちの実家の商売、あんたに話したっけ」
「おまえに興味ねーから、聞いたかどうかも忘れたわ」
「だろうね。私も話さなくてもいい相手だから、話したかどうかも忘れてた」
湯が沸いたので、会話は一時中断する。やはりこのときにしか出番のない、皿とおそろいのカップを出して、紅茶を注ぐ。
早くと急かす声がしたので、たっぷり焦らしてやる。苦味がでたとしてもいいや、ノルン相手だし。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる