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本契約には双方の合意が必要です 4

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 万雷の拍手が、遠くから聞こえる。
 静かな廊下で立ちすくむ華奢な後ろ姿を見付け、エルマは歩み寄った。
 相手は、ちらりとエルマを確認すると、すぐに前に向き直る。いきいきと咲いた薔薇が見える中庭には、小鳥が数羽いる以外、無人だ。眩しい青空が広がっているが、ここは屋根の影になって暗い。
 
「結婚の誓いが済んだんだわ。よかった、祝福されてるみたいで」
「そうね」
 
 エルマは小さくため息をついて、肩をすくめた。
 
「あんただったんでしょ、バハラットにセルチェの偽情報吹き込んだの。九年前、セルチェに不確かな情報を教えたのも、あんただったわね。そんな小細工までしておいて、誰にも気持ちを言わないで、ここで涙するなんて、不毛なんじゃないの、ユラン」
「放っておいて。そんなこと、わかってるもの。どうせ振り向いてもらえない。気持ちを彼に伝えたら、今度はきっとセルチェともうまくいかなくなる。……わかっているのに、諦めきれないし、踏ん切りもつかなかった。壊れちゃえって思ったのよ、ゆがんでるでしょ、私。だから、彼にも好かれるはずがないの」

 ぽろぽろ涙をこぼして、ユランはただ前を見ている。その隣に寄り添って、エルマはまたため息をつく。
 
「卑屈ー。がばーっといけばうまくいったかもしれないじゃない。あの二人だって、同じく不安を抱えていたと思うし、押したらなんとかなったかも」
「無理よ。臆病者だもの私は。それに、それで大失敗したあなたを見てるのよ、私も、セルチェも。慎重にはなるわ」
「大失敗言うな。それと、みんな恋したら臆病になるもんでしょ」
「エルマには、似合わないセリフね」
「はいはい。……はい、これ」

 ふわりと、ユランの白金の髪の上に、白い花冠が被せられた。あなたにも、幸せが訪れますように。そういう意味のこめられた花冠が。
 
 しゃがみこんでむせび泣くユランを残して、エルマは会場に戻った。友人たちはみんな泣いている。シェケルは鼻水が垂れそうな勢いだし、祭壇でバハラットと手をつないだセルチェは真っ赤な目をしている。
 
 あんたら、結婚はしてからが長いんだからね、と先輩ぶって心中で忠告し、祭壇上のセルチェに片目をつぶると、セルチェも気付いたのか、泣き笑いの顔でぎこちなくうなずいた。
 あーあ、幸せそうにしちゃって。
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