【R18】Overkilled me

薊野ざわり

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本編

10 ■

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 出会ってたった数時間の人と肌を重ねるなんて、考えたこともなかった。
 自分がおかしくなっている。でも、このおかしいことだらけの世界で、正常のままなんて無理だ。
 気休めでもいい。気休めが、少しでも役に立つなら。私にも、彼にも。


10、

 一瞬ためらって、塩野は私に口付けた。最初は触れるように。唇と唇の優しい熱を交換する。そして徐々に深く。歯列をなぞり、舌をからめる。彼の舌は薄くて柔らかく、私の口内の形を調べるように余す所なくなぞる。上顎の内側を舌でなぞられると、鼻に抜けるようにぞくぞくした。

 その間にも塩野の右手は、性急に私のカットソーの中に忍び込み、腹部をなでる。手を繋いだときは温かく感じた彼の手も、服の中では冷えて感じる。触れられる度、私の背は小さく震えた。

 塩野の手はするすると脇腹と背中をなでて、下着のホックを簡単に外した。圧迫感が消え、胸を優しく掴まれた。そのままゆっくり、押しつぶされ、確かめるように揉みしだかれる。彼の指が、手のひらが、胸の先端を掠めると、じわりとした熱が背骨に走る。

「……ん」

 声が漏れてしまう。その小さな、呼気のような声に、塩野はさらに口付けを深くして、空いている左手で私の頭を後ろから押さえた。
 私は両手で塩野のシャツのボタンを外していく。すべてのボタンを外すと、彼のインナーウエアの上から、胸元をまさぐった。指に引っかかりを覚えた場所を優しく触れたあと、爪を立てた。彼の吐息が震えた。

「こっちに来て」

 腕を引かれ塩野に跨る。シートは狭くできる体勢は限られている。彼の肩に両手を突き腰を浮かせ、負担をかけないようにする。なんと言っても、彼は怪我人だ。……こんなことしない方が、身体にはいいのだろうに。
 考えているうちにカットソーをたくし上げられ、胸の先に噛み付かれた。

「あっ」

 痛いような、むず痒いような感覚に、思わず声が出た。
 塩野は私の腰を右手で掴んで固定し、胸の頂を舌で転がし、痛くない程度に甘噛みする。左手の爪がもう片方の胸の先をつねった。
 その刺激に、私は背中を跳ねさせる。

「ふっ……う」
「声、もっと聞かせてよ」
「こんな場所で、無理っ、ん……」

 左手はそのままに、塩野は私の身体を舐める。胸の舌を舐め、みぞおちを舐め、おへそを舐める。
 塩野の右手でそっと腰をなでられると、くすぐったいようなじれったい快感が生じて、また声が出てしまった。
 彼はぺろりと自分の唇を舐めた。目にはぎらぎらとした熱が篭っていて、直視するのが少し――怖かった。

 内股をなでられると、膝が震えて、塩野にしなだれかかってしまう。彼の手は、何度か私の太ももをなでたあと、すっとショートパンツの裾から侵入し、ショーツのクロッチを引っ掻いた。そしてゆっくりと、私の一番敏感な部分を、ショーツの上からさする。寒気に似た快感に、私はため息をもらす。

「気持ちいい?」

 そこに触れたのだから答えはわかっているだろうに、彼はわざわざ、耳元で囁く。生暖かい呼気が耳朶をかすめ、背筋が震えた。

「よくない? ねえ、どう?」

 ゆるゆると下着の上から、潤んでいる部分を刺激され、そのもどかしい快感に私は息をつくしかない。
 嗜虐心ともとれるような興奮を目に宿して、塩野は私の顔を覗き込んできた。十分楽しんでいるよう。

「ねえ、……ミシカちゃん、どう」

 言うまでこの状態を続けるというの。ひどい。
 彼の肩口に顔を埋める。目を見ては言えないから。

「お願い、もっと……」

 吐息で笑って、塩野は私の下着の中に指を差し込んできた。膣口のまわりをゆっくりなでた後、その上の最も敏感な突起を優しくこする。
 私は小さく悲鳴を上げて、彼にすがりついた。指が動く度、自分の口から甘ったるい声がこぼれるのが、たまらなく恥ずかしい。

「とっても硬くなってる。気持ちよかったんだね。もっと、気持ちよくなって」
「あ、ぁあっ……ん」

 強弱をつけて指を前後されると、腰が震えてしまう。彼は胸の先端を摘みながら、私を弄ぶ。
 腰の奥、背骨のあたりがぞわぞわと熱くなってくる。触られると、背筋が勝手に弓形に反る。

「もう、イキそう?」

 首を横に振ったのに、首筋を舐められ耳朶を噛まれて。

「んん――!」

 視界が白くなった。身体が裏返るような、浮き上がるような。
 波が去り、私は塩野の胸に頭をつけて、ずるずるとへたりこんだ。
 塩野は私の脚の間をいじっていた手を、わざわざ見せつけるように舐めた。私が感じていた証がそこにはべったりついていて、恥ずかしさでたまらなくなる。

「気持ちよくなってるミシカちゃん可愛かったよ」

 死を目前としたときの意識の飛び方に似ている……なんて、感想を彼に伝えたら、同じように褒めてくれただろうか。
 荒い息をついてぐったりしている私の腰を掴んで、彼はショートパンツをショーツごと脱がしにかかった。

「ごめん、汚れちゃったね」

 火照った肌が外気に晒されると、ぞくぞくと寒気が走る。自分の愛液の匂いが車内にたちこめたような気がして、なんだか落ち着かない。下半身が無防備な状態になっているのも、落ち着かない原因かもしれない。
 塩野の目が促しているので、私は彼のベルトのバックルを外した。そして、スラックスの前をくつろげる。怒張した彼の性器を、下着から取り出す。
 余裕の顔をしているけれど、彼も十分興奮しているんだ。そう思うと、気恥ずかしさだけではなく、満足感がわいてくる。

「ちょっと狭いから……こっちで」
「うん、ありがと」

 そっと彼自身を手で包み、ゆっくりと上下させる。左手で茎の部分をしごき、右手の親指の付け根で先端から首の部分をこねるように摩擦する。彼の先走りで、手は滑らかに動いた。
 熱い息をもらし塩野が腰を揺らす。眉根を寄せて悩ましげな顔をしている。その顔を見ていると、つい、手を動かすのに夢中になった。

「ああ……」

 その吐息をもっと聞きたい。塩野の肩口に顔を埋め、首筋をゆっくりと舐めた。汗の塩気を舌先に感じる。
 ふと、腰を掴んでいた彼の手が私の脚の間に入ってきて、準備のできている膣口に指を侵入させた。その違和感が鈍い快感に変わるのは、すぐだ。
 指を増やして、塩野は私の体内を刺激する。一度達した身体は、どんな刺激にも敏感に反応してしまう。

「はっ……ああ、ん、……あっ」

 粘膜をこする湿った音に、自分たちの声が混じる。
 塩野が噛み付くように口付けてきた。その舌を迎え入れると、今度は腰を引き寄せられる。

「……いいかな」

 頷き、塩野の胸に手を突いて腰を落とす。彼が手を添えた陰茎は、ゆっくりと、私の中に入ってきた。

「……あ」

 圧迫感に、痛みや嫌悪感はなく、むしろ、充足感があった。身震いする。
 目が合う。
 塩野がゆっくり腰を動かした。

「気持ちいい……、ミシカちゃん、温かい」

 うっとりとそう言って、塩野はペースを徐々にあげていく。私はといえば、余裕なんてなく、彼の頭を抱き込むようにして、体勢を維持するのが精一杯だった。

「ひぅっ……あ、あん! ああっ、やっ」

 意味不明な声がひっきりなしに漏れる。
 塩野が動くたびに、腰の中で熱い液体が渦巻いているような感覚が生まれ、背中がたわむ。
 こんなところで、こんなに喘いで。どうかしてる、とどこか冷静に思うけれど、……感覚は自分でどうにもできない。
 胸の頂を甘噛みされると、まるで子犬の鼻鳴きのような情けない声が漏れてしまった。

「やばい、……すっごく、いい」

 塩野は荒い息の合間にかすれた声を出して、全力で腰をうち当ててきた。

「あっ!? それ、だめっ! あ、ああっ!」

 彼の指が、先ほど達して敏感になっている脚の間の突起に触れた。感電するような強い刺激で、涙が浮かぶ。身を捩っても塩野は許してくれなかった。

「ミシカちゃん、俺、そろそろ……!」
「んぅっ、……ぁあ、あっ……!」

 ひときわ強く、腰を打ち付けられる。頭の奥がスパークするような感覚。
 塩野の指が、強く私の花芯を摘んだ。視界が白く染まる。背筋を駆け上がる、電撃のような衝撃。
 悲鳴をあげながら、私は塩野にしがみ付く。
 太ももに、熱いほとばしりを感じ、終わったことを知った。

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