【R18】Overkilled me

薊野ざわり

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本編

70 ■

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 肩に手を置かれたまま、口付けられる。ふわりと遠慮がちに。一度唇が離れていって、うっすら目を開けると、窺うようにこちらを見る彼と目が合った。本当にいいのかと、目で問われれば、答えは決まっている。

 目を伏せて、リアンの唇に自分のそれを合わせる。閉じあわされている少しかさついた唇を、そっと舌で探る。躊躇いがちに緩んだ唇の隙間に、自分の舌を滑り込ませ、彼の歯列をゆっくりとなぞった。
 そうしていると、彼はようやく迎え入れるように口を開いてくれた。
 舌同士が触れ合うと、リアンが吐息をもらす。私は自分で彼の肩に手を突いて、体重をかけた。

70、

 口付けたままリアンを押し倒した私は、舌で口内をさぐる。余すところ無く、すべてに触れたかった。舌の裏から、上あごの内側、歯列や、ざらつく舌の奥の方。
 触れることを許されている。目の奥が熱くなる。
 もっと、もっと、たくさん味わわせてほしい。気持ちが急いて、かえってたどたどしい動きになってしまう。それでもリアンは嫌がることなく受け入れてくれる。それだけでもじゅうぶんなのに、徐々に、応えてくれるようになった。私のものとは温度の違う舌が、優しく唇の内側や、舌の付け根をさすっていく。伊丹を殺したときに傷ついた口内を舌でさぐられると、ぴりりと小さな痛みが走った。

 唇をあわせる角度を変え、互いの舌をからませあう。リアンの呼吸の音が、間近で聞こえる。

 たくましい裸の肩から腕をなでてみる。指先が冷えていたから、リアンはびくりと体を震わせた。く、と噛み殺すような笑い。くすぐったかっただけかもしれない。
 腕に浮いた血管をなぞる。弾力のある感触を楽しんで、骨が張り出した手首をなでる。指を一本ずつ、爪の形も確かめて、手首の内側の脈を伝う。肘の内側を指で辿ると、彼が耐えられないというように声をあげて笑った。

 重ねた胸にダイレクトに伝わる振動。熱も気持ちも共有してるんだって感じたくて、口付けたまま、浮き出た鎖骨をなで、鍛えられた胸に手を這わせた。温かくてやや硬い。力強い鼓動を感じる。
 優しく、乳首を摘むと、吐息が聞こえた。指先で押しつぶして、爪で軽く引っかく。彼が悩ましげな息をもらし、痛くはないのだとほっとした。先ほども感じた、腹の底にたまるようなじわりとした熱が、再燃する。

 唇を離し、薄く開いたリアンの緑の目を見つめた。口の端に糸を引いた唾液を、舌先で舐め取って、次は硬い胸に唇を落とす。鎖骨の下、心臓の上。そして、指で摘んでいた彼の乳首に。
 リアンの腹筋がぴくりと動いた気がする。
 舌で転がして、ときどき歯をたてる。反対側は指で弄ぶ。少しでも彼に気持ちよくなってほしい。

 リアンの手が私の太ももから腰の辺りをゆるゆるとなで始めた。私は空いている方の手で、その手を掴んで自分の胸に誘導する。

「ん……」

 ごつごつした手に優しく胸を包まれると、声が漏れた。温かくて気持ちがいい。それに、彼が触れてくれていると思うと、おへその下が切なく疼いた。
 遠慮がちにリアンは私の胸をなでる。
 私がやや強めに彼の乳首を噛んだとき、仕返しとばかりに強く乳房を掴まれて、背中が強張った。触れてほしいと主張するように硬くなった乳首が、硬い掌に擦れただけで、息が鋭くなる。驚くほど、自分が興奮しているのだと、快感の大きさで初めて気づいた。

 ぐいっと肩を押されて身を起こす。見下ろすリアンの瞳には、まだ私を気遣う色がある。私ばかり喜んでいるんじゃないかと、少しだけ不安になる。

 凹凸のある腹筋の上から手を退かして、体ごと後ろに下がった。硬い太ももにまたがると、下着の上から、硬くなっているものに触れる。嫌がられないことに勇気付けられて、下着に手を入れそこに直接触れた。じっと見つめ合いながらだと、ひどく緊張した。

 リアンは軽く身を起こし、やや乱暴に私の胸を揉みしだいた。そして、さきほど私がしたように、指で私の乳首を摘む。

「あっ」

 甘い痺れが背中を走る。同時に、自分の脚の間がじわりと湿るのを感じた。もともとの雨での湿りとも違う、生ぬるいものがあふれる。
 太い指は、少し痛いくらいの力加減で私の乳首を押しつぶす。意図せず背中が反る。もっとしてほしくて目でねだれば、汲んでくれたのか、リアンが腹筋の力で身を起こして、私の胸にむしゃぶりついてきた。舌で大きく乳首を舐め上げられる。

「ひぁ……ああっ、あっ」

 温かい口内の体温に肩が震えてしまう。反射的に体を引こうとするが、背中に腕をまわされた。逃げられないように捕まえられて、私は苦し紛れに茶色の髪を掴んだ。もう片方の手で、硬度を増していく彼自身をゆっくりと上下にしごく。先端からわずかにぬるりとしたものがあふれ出し、手のひらで円を描くようになでた。まるい切っ先に塗り込めるように。

 よかった。少しは気持ちよくなってくれてる?

 リアンの手が、自分にまたがる私の太ももに触れる。冷えた脚を温めるように優しくなでられると、期待でまた下腹部が熱くなった。
 しばらくやわやわと鼠蹊部を行き来していた手が、不意に下着の上から私の最も敏感な部分に触れてきた。
 ぱちぱち、帯電したような、甘い痺れが走る。

「んぅっ……! あっ!」

 腰が跳ねた。じっと見つめられていることに気づき、うなじがかっと熱くなる。つきんつきんと甘く疼いているのは、彼の唇に挟まれている乳首も同じで、おもむろに歯を立てられると変な声が出てしまう。

 リアンの太ももを跨いでいるから脚を閉じることもできない。布越しに指先で弄ばれ、上ずった声をあげながら腰をくねらせる。

 胸から口を離したリアンが、反応を楽しむように私の顔を覗き込んでくる。その、ぎらついた目。肌がひりつくような視線に、じくじくと下腹部が疼いた。
 リアンは私の目を見つめたまま、ショーツの中に手を滑り込ませた。

「はあ……ん」

 自分でもわかるほどそこは湿り気を帯びていて、彼の太い指が触れると鳥肌が立つような切ない痺れが背筋を貫く。つま先に力がこもり、それを逃がすために息を吐く。勝手に眉根が寄ってしまう。だらしなく開いた口から、悲鳴じみた吐息がもれた。
 指がゆっくり体内に侵入し、その異物感ですら、たまらない充足をもらたす。抜き差しされると、どうしようもなく、締まった腹筋に手をついて腰を揺らしてしまった。

「気持ち、いい……ふ、ぁあ、おね、が……もっと……」
「ああ」

 足首を掴まれてリアンの膝の上で開脚させられた。ひっくり返りそうになって、後ろに手をつく。下着を剥ぎ取られ膝を開かされる。いくら薄暗くてもこれでは丸見えだ。羞恥に顔に血が集まる。
 リアンは私の顔を見つめたまま、再び私の中に指を侵入させた。
 奥まで挿し入れて、ゆっくりと引き抜く。それを繰り返しつつ、指が徐々に増えていく。自分の脚の間で、てらてらとぬめった太い指が出入りする。指が動くたびに、粘膜が痺れて、声を我慢できない。乱れる様子をじっと観察されて、いたたまれないのに、やめないでほしい。

「あ、あ……んんっ」

 声が漏れるのを止められない。太ももが勝手に震える。自分でも驚くほどに濡れていた。指の動きに合わせて、ちゅくちゅくと湿った音がする。

「ひ、あ、ぁああっ、だ、め、そこだめっ」

 指を体内で曲げるようにして擦り上げられ、のけぞってしまった。姿勢が維持できない。彼の指がある一点に触れると、ずんとした重みのある快感が腹部で暴れる。たまらず、リアンの肩にすがりつく。追い打ちに首筋を舐められる。ふうっと吐息が耳朶をかすめていく。背中を指でなでられて、身を捩る。

「だ、め……! も、もう、ぁあっ、あ、あ」

 指が引き抜かれる。濡れた指を彼は躊躇なく舐めた。至近距離で自分の愛液のにおいがして、私はようやく我に返った。
 息が荒いまま、彼の顔を見る。どうして、やめてしまったの。喪失感で泣きたくなる。……あと少しだったのにと浅ましくも、思う。
 リアンは涼しい顔をしたまま、私の尻をやわやわと揉んでいる。

「あの、私、……なにかまずかった?」
「いや。気持ちよさそうにしてて、可愛かったが」

 可愛いという言葉が、こういうときのためのリップサービスだとわかっていても、胸が疼く。
 でも、だとしたらなぜ先をしてくれないの。

「その、……もしかして焦らしてる?」
「ああ」

 頷いて、彼は破顔した。

「すごく物欲しそうな顔をするんだな」

 恥ずかしさでまた涙が浮いてきた。だって。そんなの仕方ない。好きな人に触れてもらえて嬉しくなってはいけないの?

「ちょっとからかっただけで。随分泣き虫だな、ミシカ」

 苦笑されてしまった。
 本格的に涙が出てきて、目を必死でしばたたかせた。

「……本当に泣くなよ」
「だって、名前。……呼んでくれたから」

 リアンが、名前を呼んでくれた。それだけで、息ができないほど、胸が締め付けられる。
 泣きたいわけじゃないのに、感情が昂ぶっていてどうしようもない。顔を手で覆って隠そうとしたが、手首を掴まれて阻まれる。

 口付けられる。深く、深く。切れた頬の内側を舌でさすられると、ぴくりと肩が震えたら、慰めるように背中を何度も撫でられた。
 私はリアンの頬を両手で包み、必死に舌を受け入れた。息継ぎのときに漏れる呼気のひとつだって失いたくない。

「……君は、実は可愛いかったんだな。強情っぱりの癖に変なところで健気だ」

 すっと離れていった唇が、そんなことを言う。
 泣きながら睨みつけると、リアンは頬を緩ませて再び軽く口付けた。キスしてくれた、その喜びで結局また涙が出てしまう。
 腰を掴んで持ち上げられる。厚みのある肩に手を突き膝立ちになる。性器を宛てがわれて、自ら、腰を落としていく。指とは比べ物にならない質量を飲み込み、ひゅうっと喉が鳴った。最後まで飲み込むと、じんわり期待していた快感が訪れて、背筋が粟立つ。
 リアンが私の中にいる。その事実がなにより嬉しかった。

「大丈夫か?」

 痛がっていると思ったのだろうか、気遣うように、リアンが私の背中をなでた。
 私は返事の代わりに彼をぐいと押し倒して、硬い腹に腕を突っ張って腰を動かした。
 ぎゅっと彼の腹筋が締まる。その筋肉の軋みが、触れた手を伝わってくる。
 リアンが眉根を寄せて、悩ましげな息を吐くから、私の方がますます追い詰められるように高まってしまう。

「は、ああ、あんっ……ふ、う」

 自分の中に感じるリアンの存在。満たされているはずなのに、どうしてかとても胸が苦しい。
 彼が離れていってしまうような気がして、自分の腰を支えていた彼の手を掴んで、指を絡ませた。長くて節の張った指。それが少し戸惑ったようにゆっくりと、私の指に絡んでくる。痛くない程度に力をこめて、手を包み込まれる。多幸感で、胸がつぶれそう。

「はっ、あ、ぁああ」

 目の奥がちかちかする。腰を動かすごとに、顎が上がる。限界が近い。

 腕を引かれて、横たわる彼の胸に頬から倒れこんだ。
 耳の下で、心臓の音が聞こえる。少し速い気がする。温かな肌が、確かなその感触が愛おしくて切ない。このまま、ずっとこうしていたい。そんな馬鹿なことを考えた。

「……泣くな」

 頬を優しくなでられる。ほっとした瞬間、腰を突き上げられて、私は嬌声を上げた。

「あっ、……はぁっ、あんっ、あっ」

 あやすように背中をなでられながら、何度も何度も腰を打ち付けられる。むせび泣きながら、リアンにしがみつく。彼が私の最奥を穿つ度、浮遊感にも似た快感が、体内に生まれた。
 やがて頭の中が真っ白になる。一瞬、息が止まった。甘い波が全身に広がっていく。

「ひ、……うぁ……」
「……っ」

 ぎっと、リアンが歯を食いしばった音が、頭上で聞こえた。
 とてつもない疲労感が一気に襲ってきて、私は脱力した。
 硬い胸に頬を預けたまま。彼の心臓の音かと思ったら、自分のだった。息が苦しい。自分の膣の収斂にあわせて結合部から、またぞくぞくと熱がへその下に溜まっていく。ただ、もう、自力で動けそうになかった。あれだけ寒くて仕方なかったのに、今は全身に汗をかいている。冷えた空気が肌をなで、心地よかった。

「リアン、……キス、してくれる……?」
「ん」

 ねだると、リアンは私を抱えたまま、身を起こして口付けてくれる。角度を変えて、何度も。
 彼の腰に座り込む形になって、ぎちりと結合が深くなる。内臓を押し上げる感覚は、いまだひくひくしている私のそこを再び熱くした。

「ようやく、泣き止んだな。あんまり泣くから、過呼吸にでもなるんじゃないかとひやひやしたぞ」
「うん、……ごめん。でも、もしそうなったら処置してくれるでしょう?」
「窒息したら困るからな」

 真面目な返事で、つい、笑ってしまった。
 私の前髪をかきあげて、リアンが額に口付けた。

「泣いてる顔もそそるが、笑っている方がいいな」

 今度は私が彼に押し倒される番だった。冷たく硬い床がごつごつしていて、少し痛い。でも、床の冷たさのおかげで彼の熱をより強く感じることができる。
 私の顔の横に肘をついて、体重をかけないようにして、リアンが何度目かもわからない口付けをくれた。
 ゆっくりと、彼が動き始めた。労わるように、ゆるゆると浅い位置を行ったり来たりする。それだけで、甘い痺れがぞくぞくと私の背骨を駆け上がっていく。

「はあ……ぁ、あ」
「辛くないか?」
「……気持ち良くて、辛い」

 口付けが、噛み付くような激しさに変わった。怪我をしていない方の脚を抱えられ、体を密着させたまま、最奥を穿たれる。暴力的な快感に、悲鳴を上げた。
 でもそれも、合わされた彼の口内に消えていく。口の中も奥まで犯されて、私はただリアンの背に爪を立てるしかなかった。揺さぶられるたびに、瞼の裏に火花が散るような錯覚。

「んっ、……ふ、ぁんッ、あ、ぁああッ」

 鼻に掛かった意味を成さない声が、唇同士の隙間から零れるたびに、隙間を塞ぐように舌を捻じ込まれる。
 彼と繋がっている部分が、熱い。荒くなっている彼の吐息で、耳の奥もじんとする。背中が反って、後頭部がごつごつと床にぶつかる。リアンが私の脚を離して、頭を抱えるように手を入れてくれた。離された脚を自分で彼の腰に絡める。

「りあ、ん……ッ、っあ、もう、だめ、ぁあ、あ、あっ……」
「――ミシカ」

 名前を呼ばれた。瞼の奥で、光がはじけた。
 声は出なかった。ひゅっと喉が鳴っただけ。勝手に背中が撓る。崖から落ちるような浮遊感。太ももとその内側が痙攣する。
 果てた私を抱きしめて、彼は自身を抜くと、数度自分でしごいて、静かに果てた。
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