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本編
70 ■
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肩に手を置かれたまま、口付けられる。ふわりと遠慮がちに。一度唇が離れていって、うっすら目を開けると、窺うようにこちらを見る彼と目が合った。本当にいいのかと、目で問われれば、答えは決まっている。
目を伏せて、リアンの唇に自分のそれを合わせる。閉じあわされている少しかさついた唇を、そっと舌で探る。躊躇いがちに緩んだ唇の隙間に、自分の舌を滑り込ませ、彼の歯列をゆっくりとなぞった。
そうしていると、彼はようやく迎え入れるように口を開いてくれた。
舌同士が触れ合うと、リアンが吐息をもらす。私は自分で彼の肩に手を突いて、体重をかけた。
70、
口付けたままリアンを押し倒した私は、舌で口内をさぐる。余すところ無く、すべてに触れたかった。舌の裏から、上あごの内側、歯列や、ざらつく舌の奥の方。
触れることを許されている。目の奥が熱くなる。
もっと、もっと、たくさん味わわせてほしい。気持ちが急いて、かえってたどたどしい動きになってしまう。それでもリアンは嫌がることなく受け入れてくれる。それだけでもじゅうぶんなのに、徐々に、応えてくれるようになった。私のものとは温度の違う舌が、優しく唇の内側や、舌の付け根をさすっていく。伊丹を殺したときに傷ついた口内を舌でさぐられると、ぴりりと小さな痛みが走った。
唇をあわせる角度を変え、互いの舌をからませあう。リアンの呼吸の音が、間近で聞こえる。
たくましい裸の肩から腕をなでてみる。指先が冷えていたから、リアンはびくりと体を震わせた。く、と噛み殺すような笑い。くすぐったかっただけかもしれない。
腕に浮いた血管をなぞる。弾力のある感触を楽しんで、骨が張り出した手首をなでる。指を一本ずつ、爪の形も確かめて、手首の内側の脈を伝う。肘の内側を指で辿ると、彼が耐えられないというように声をあげて笑った。
重ねた胸にダイレクトに伝わる振動。熱も気持ちも共有してるんだって感じたくて、口付けたまま、浮き出た鎖骨をなで、鍛えられた胸に手を這わせた。温かくてやや硬い。力強い鼓動を感じる。
優しく、乳首を摘むと、吐息が聞こえた。指先で押しつぶして、爪で軽く引っかく。彼が悩ましげな息をもらし、痛くはないのだとほっとした。先ほども感じた、腹の底にたまるようなじわりとした熱が、再燃する。
唇を離し、薄く開いたリアンの緑の目を見つめた。口の端に糸を引いた唾液を、舌先で舐め取って、次は硬い胸に唇を落とす。鎖骨の下、心臓の上。そして、指で摘んでいた彼の乳首に。
リアンの腹筋がぴくりと動いた気がする。
舌で転がして、ときどき歯をたてる。反対側は指で弄ぶ。少しでも彼に気持ちよくなってほしい。
リアンの手が私の太ももから腰の辺りをゆるゆるとなで始めた。私は空いている方の手で、その手を掴んで自分の胸に誘導する。
「ん……」
ごつごつした手に優しく胸を包まれると、声が漏れた。温かくて気持ちがいい。それに、彼が触れてくれていると思うと、おへその下が切なく疼いた。
遠慮がちにリアンは私の胸をなでる。
私がやや強めに彼の乳首を噛んだとき、仕返しとばかりに強く乳房を掴まれて、背中が強張った。触れてほしいと主張するように硬くなった乳首が、硬い掌に擦れただけで、息が鋭くなる。驚くほど、自分が興奮しているのだと、快感の大きさで初めて気づいた。
ぐいっと肩を押されて身を起こす。見下ろすリアンの瞳には、まだ私を気遣う色がある。私ばかり喜んでいるんじゃないかと、少しだけ不安になる。
凹凸のある腹筋の上から手を退かして、体ごと後ろに下がった。硬い太ももにまたがると、下着の上から、硬くなっているものに触れる。嫌がられないことに勇気付けられて、下着に手を入れそこに直接触れた。じっと見つめ合いながらだと、ひどく緊張した。
リアンは軽く身を起こし、やや乱暴に私の胸を揉みしだいた。そして、さきほど私がしたように、指で私の乳首を摘む。
「あっ」
甘い痺れが背中を走る。同時に、自分の脚の間がじわりと湿るのを感じた。もともとの雨での湿りとも違う、生ぬるいものがあふれる。
太い指は、少し痛いくらいの力加減で私の乳首を押しつぶす。意図せず背中が反る。もっとしてほしくて目でねだれば、汲んでくれたのか、リアンが腹筋の力で身を起こして、私の胸にむしゃぶりついてきた。舌で大きく乳首を舐め上げられる。
「ひぁ……ああっ、あっ」
温かい口内の体温に肩が震えてしまう。反射的に体を引こうとするが、背中に腕をまわされた。逃げられないように捕まえられて、私は苦し紛れに茶色の髪を掴んだ。もう片方の手で、硬度を増していく彼自身をゆっくりと上下にしごく。先端からわずかにぬるりとしたものがあふれ出し、手のひらで円を描くようになでた。まるい切っ先に塗り込めるように。
よかった。少しは気持ちよくなってくれてる?
リアンの手が、自分にまたがる私の太ももに触れる。冷えた脚を温めるように優しくなでられると、期待でまた下腹部が熱くなった。
しばらくやわやわと鼠蹊部を行き来していた手が、不意に下着の上から私の最も敏感な部分に触れてきた。
ぱちぱち、帯電したような、甘い痺れが走る。
「んぅっ……! あっ!」
腰が跳ねた。じっと見つめられていることに気づき、うなじがかっと熱くなる。つきんつきんと甘く疼いているのは、彼の唇に挟まれている乳首も同じで、おもむろに歯を立てられると変な声が出てしまう。
リアンの太ももを跨いでいるから脚を閉じることもできない。布越しに指先で弄ばれ、上ずった声をあげながら腰をくねらせる。
胸から口を離したリアンが、反応を楽しむように私の顔を覗き込んでくる。その、ぎらついた目。肌がひりつくような視線に、じくじくと下腹部が疼いた。
リアンは私の目を見つめたまま、ショーツの中に手を滑り込ませた。
「はあ……ん」
自分でもわかるほどそこは湿り気を帯びていて、彼の太い指が触れると鳥肌が立つような切ない痺れが背筋を貫く。つま先に力がこもり、それを逃がすために息を吐く。勝手に眉根が寄ってしまう。だらしなく開いた口から、悲鳴じみた吐息がもれた。
指がゆっくり体内に侵入し、その異物感ですら、たまらない充足をもらたす。抜き差しされると、どうしようもなく、締まった腹筋に手をついて腰を揺らしてしまった。
「気持ち、いい……ふ、ぁあ、おね、が……もっと……」
「ああ」
足首を掴まれてリアンの膝の上で開脚させられた。ひっくり返りそうになって、後ろに手をつく。下着を剥ぎ取られ膝を開かされる。いくら薄暗くてもこれでは丸見えだ。羞恥に顔に血が集まる。
リアンは私の顔を見つめたまま、再び私の中に指を侵入させた。
奥まで挿し入れて、ゆっくりと引き抜く。それを繰り返しつつ、指が徐々に増えていく。自分の脚の間で、てらてらとぬめった太い指が出入りする。指が動くたびに、粘膜が痺れて、声を我慢できない。乱れる様子をじっと観察されて、いたたまれないのに、やめないでほしい。
「あ、あ……んんっ」
声が漏れるのを止められない。太ももが勝手に震える。自分でも驚くほどに濡れていた。指の動きに合わせて、ちゅくちゅくと湿った音がする。
「ひ、あ、ぁああっ、だ、め、そこだめっ」
指を体内で曲げるようにして擦り上げられ、のけぞってしまった。姿勢が維持できない。彼の指がある一点に触れると、ずんとした重みのある快感が腹部で暴れる。たまらず、リアンの肩にすがりつく。追い打ちに首筋を舐められる。ふうっと吐息が耳朶をかすめていく。背中を指でなでられて、身を捩る。
「だ、め……! も、もう、ぁあっ、あ、あ」
指が引き抜かれる。濡れた指を彼は躊躇なく舐めた。至近距離で自分の愛液のにおいがして、私はようやく我に返った。
息が荒いまま、彼の顔を見る。どうして、やめてしまったの。喪失感で泣きたくなる。……あと少しだったのにと浅ましくも、思う。
リアンは涼しい顔をしたまま、私の尻をやわやわと揉んでいる。
「あの、私、……なにかまずかった?」
「いや。気持ちよさそうにしてて、可愛かったが」
可愛いという言葉が、こういうときのためのリップサービスだとわかっていても、胸が疼く。
でも、だとしたらなぜ先をしてくれないの。
「その、……もしかして焦らしてる?」
「ああ」
頷いて、彼は破顔した。
「すごく物欲しそうな顔をするんだな」
恥ずかしさでまた涙が浮いてきた。だって。そんなの仕方ない。好きな人に触れてもらえて嬉しくなってはいけないの?
「ちょっとからかっただけで。随分泣き虫だな、ミシカ」
苦笑されてしまった。
本格的に涙が出てきて、目を必死でしばたたかせた。
「……本当に泣くなよ」
「だって、名前。……呼んでくれたから」
リアンが、名前を呼んでくれた。それだけで、息ができないほど、胸が締め付けられる。
泣きたいわけじゃないのに、感情が昂ぶっていてどうしようもない。顔を手で覆って隠そうとしたが、手首を掴まれて阻まれる。
口付けられる。深く、深く。切れた頬の内側を舌でさすられると、ぴくりと肩が震えたら、慰めるように背中を何度も撫でられた。
私はリアンの頬を両手で包み、必死に舌を受け入れた。息継ぎのときに漏れる呼気のひとつだって失いたくない。
「……君は、実は可愛いかったんだな。強情っぱりの癖に変なところで健気だ」
すっと離れていった唇が、そんなことを言う。
泣きながら睨みつけると、リアンは頬を緩ませて再び軽く口付けた。キスしてくれた、その喜びで結局また涙が出てしまう。
腰を掴んで持ち上げられる。厚みのある肩に手を突き膝立ちになる。性器を宛てがわれて、自ら、腰を落としていく。指とは比べ物にならない質量を飲み込み、ひゅうっと喉が鳴った。最後まで飲み込むと、じんわり期待していた快感が訪れて、背筋が粟立つ。
リアンが私の中にいる。その事実がなにより嬉しかった。
「大丈夫か?」
痛がっていると思ったのだろうか、気遣うように、リアンが私の背中をなでた。
私は返事の代わりに彼をぐいと押し倒して、硬い腹に腕を突っ張って腰を動かした。
ぎゅっと彼の腹筋が締まる。その筋肉の軋みが、触れた手を伝わってくる。
リアンが眉根を寄せて、悩ましげな息を吐くから、私の方がますます追い詰められるように高まってしまう。
「は、ああ、あんっ……ふ、う」
自分の中に感じるリアンの存在。満たされているはずなのに、どうしてかとても胸が苦しい。
彼が離れていってしまうような気がして、自分の腰を支えていた彼の手を掴んで、指を絡ませた。長くて節の張った指。それが少し戸惑ったようにゆっくりと、私の指に絡んでくる。痛くない程度に力をこめて、手を包み込まれる。多幸感で、胸がつぶれそう。
「はっ、あ、ぁああ」
目の奥がちかちかする。腰を動かすごとに、顎が上がる。限界が近い。
腕を引かれて、横たわる彼の胸に頬から倒れこんだ。
耳の下で、心臓の音が聞こえる。少し速い気がする。温かな肌が、確かなその感触が愛おしくて切ない。このまま、ずっとこうしていたい。そんな馬鹿なことを考えた。
「……泣くな」
頬を優しくなでられる。ほっとした瞬間、腰を突き上げられて、私は嬌声を上げた。
「あっ、……はぁっ、あんっ、あっ」
あやすように背中をなでられながら、何度も何度も腰を打ち付けられる。むせび泣きながら、リアンにしがみつく。彼が私の最奥を穿つ度、浮遊感にも似た快感が、体内に生まれた。
やがて頭の中が真っ白になる。一瞬、息が止まった。甘い波が全身に広がっていく。
「ひ、……うぁ……」
「……っ」
ぎっと、リアンが歯を食いしばった音が、頭上で聞こえた。
とてつもない疲労感が一気に襲ってきて、私は脱力した。
硬い胸に頬を預けたまま。彼の心臓の音かと思ったら、自分のだった。息が苦しい。自分の膣の収斂にあわせて結合部から、またぞくぞくと熱がへその下に溜まっていく。ただ、もう、自力で動けそうになかった。あれだけ寒くて仕方なかったのに、今は全身に汗をかいている。冷えた空気が肌をなで、心地よかった。
「リアン、……キス、してくれる……?」
「ん」
ねだると、リアンは私を抱えたまま、身を起こして口付けてくれる。角度を変えて、何度も。
彼の腰に座り込む形になって、ぎちりと結合が深くなる。内臓を押し上げる感覚は、いまだひくひくしている私のそこを再び熱くした。
「ようやく、泣き止んだな。あんまり泣くから、過呼吸にでもなるんじゃないかとひやひやしたぞ」
「うん、……ごめん。でも、もしそうなったら処置してくれるでしょう?」
「窒息したら困るからな」
真面目な返事で、つい、笑ってしまった。
私の前髪をかきあげて、リアンが額に口付けた。
「泣いてる顔もそそるが、笑っている方がいいな」
今度は私が彼に押し倒される番だった。冷たく硬い床がごつごつしていて、少し痛い。でも、床の冷たさのおかげで彼の熱をより強く感じることができる。
私の顔の横に肘をついて、体重をかけないようにして、リアンが何度目かもわからない口付けをくれた。
ゆっくりと、彼が動き始めた。労わるように、ゆるゆると浅い位置を行ったり来たりする。それだけで、甘い痺れがぞくぞくと私の背骨を駆け上がっていく。
「はあ……ぁ、あ」
「辛くないか?」
「……気持ち良くて、辛い」
口付けが、噛み付くような激しさに変わった。怪我をしていない方の脚を抱えられ、体を密着させたまま、最奥を穿たれる。暴力的な快感に、悲鳴を上げた。
でもそれも、合わされた彼の口内に消えていく。口の中も奥まで犯されて、私はただリアンの背に爪を立てるしかなかった。揺さぶられるたびに、瞼の裏に火花が散るような錯覚。
「んっ、……ふ、ぁんッ、あ、ぁああッ」
鼻に掛かった意味を成さない声が、唇同士の隙間から零れるたびに、隙間を塞ぐように舌を捻じ込まれる。
彼と繋がっている部分が、熱い。荒くなっている彼の吐息で、耳の奥もじんとする。背中が反って、後頭部がごつごつと床にぶつかる。リアンが私の脚を離して、頭を抱えるように手を入れてくれた。離された脚を自分で彼の腰に絡める。
「りあ、ん……ッ、っあ、もう、だめ、ぁあ、あ、あっ……」
「――ミシカ」
名前を呼ばれた。瞼の奥で、光がはじけた。
声は出なかった。ひゅっと喉が鳴っただけ。勝手に背中が撓る。崖から落ちるような浮遊感。太ももとその内側が痙攣する。
果てた私を抱きしめて、彼は自身を抜くと、数度自分でしごいて、静かに果てた。
目を伏せて、リアンの唇に自分のそれを合わせる。閉じあわされている少しかさついた唇を、そっと舌で探る。躊躇いがちに緩んだ唇の隙間に、自分の舌を滑り込ませ、彼の歯列をゆっくりとなぞった。
そうしていると、彼はようやく迎え入れるように口を開いてくれた。
舌同士が触れ合うと、リアンが吐息をもらす。私は自分で彼の肩に手を突いて、体重をかけた。
70、
口付けたままリアンを押し倒した私は、舌で口内をさぐる。余すところ無く、すべてに触れたかった。舌の裏から、上あごの内側、歯列や、ざらつく舌の奥の方。
触れることを許されている。目の奥が熱くなる。
もっと、もっと、たくさん味わわせてほしい。気持ちが急いて、かえってたどたどしい動きになってしまう。それでもリアンは嫌がることなく受け入れてくれる。それだけでもじゅうぶんなのに、徐々に、応えてくれるようになった。私のものとは温度の違う舌が、優しく唇の内側や、舌の付け根をさすっていく。伊丹を殺したときに傷ついた口内を舌でさぐられると、ぴりりと小さな痛みが走った。
唇をあわせる角度を変え、互いの舌をからませあう。リアンの呼吸の音が、間近で聞こえる。
たくましい裸の肩から腕をなでてみる。指先が冷えていたから、リアンはびくりと体を震わせた。く、と噛み殺すような笑い。くすぐったかっただけかもしれない。
腕に浮いた血管をなぞる。弾力のある感触を楽しんで、骨が張り出した手首をなでる。指を一本ずつ、爪の形も確かめて、手首の内側の脈を伝う。肘の内側を指で辿ると、彼が耐えられないというように声をあげて笑った。
重ねた胸にダイレクトに伝わる振動。熱も気持ちも共有してるんだって感じたくて、口付けたまま、浮き出た鎖骨をなで、鍛えられた胸に手を這わせた。温かくてやや硬い。力強い鼓動を感じる。
優しく、乳首を摘むと、吐息が聞こえた。指先で押しつぶして、爪で軽く引っかく。彼が悩ましげな息をもらし、痛くはないのだとほっとした。先ほども感じた、腹の底にたまるようなじわりとした熱が、再燃する。
唇を離し、薄く開いたリアンの緑の目を見つめた。口の端に糸を引いた唾液を、舌先で舐め取って、次は硬い胸に唇を落とす。鎖骨の下、心臓の上。そして、指で摘んでいた彼の乳首に。
リアンの腹筋がぴくりと動いた気がする。
舌で転がして、ときどき歯をたてる。反対側は指で弄ぶ。少しでも彼に気持ちよくなってほしい。
リアンの手が私の太ももから腰の辺りをゆるゆるとなで始めた。私は空いている方の手で、その手を掴んで自分の胸に誘導する。
「ん……」
ごつごつした手に優しく胸を包まれると、声が漏れた。温かくて気持ちがいい。それに、彼が触れてくれていると思うと、おへその下が切なく疼いた。
遠慮がちにリアンは私の胸をなでる。
私がやや強めに彼の乳首を噛んだとき、仕返しとばかりに強く乳房を掴まれて、背中が強張った。触れてほしいと主張するように硬くなった乳首が、硬い掌に擦れただけで、息が鋭くなる。驚くほど、自分が興奮しているのだと、快感の大きさで初めて気づいた。
ぐいっと肩を押されて身を起こす。見下ろすリアンの瞳には、まだ私を気遣う色がある。私ばかり喜んでいるんじゃないかと、少しだけ不安になる。
凹凸のある腹筋の上から手を退かして、体ごと後ろに下がった。硬い太ももにまたがると、下着の上から、硬くなっているものに触れる。嫌がられないことに勇気付けられて、下着に手を入れそこに直接触れた。じっと見つめ合いながらだと、ひどく緊張した。
リアンは軽く身を起こし、やや乱暴に私の胸を揉みしだいた。そして、さきほど私がしたように、指で私の乳首を摘む。
「あっ」
甘い痺れが背中を走る。同時に、自分の脚の間がじわりと湿るのを感じた。もともとの雨での湿りとも違う、生ぬるいものがあふれる。
太い指は、少し痛いくらいの力加減で私の乳首を押しつぶす。意図せず背中が反る。もっとしてほしくて目でねだれば、汲んでくれたのか、リアンが腹筋の力で身を起こして、私の胸にむしゃぶりついてきた。舌で大きく乳首を舐め上げられる。
「ひぁ……ああっ、あっ」
温かい口内の体温に肩が震えてしまう。反射的に体を引こうとするが、背中に腕をまわされた。逃げられないように捕まえられて、私は苦し紛れに茶色の髪を掴んだ。もう片方の手で、硬度を増していく彼自身をゆっくりと上下にしごく。先端からわずかにぬるりとしたものがあふれ出し、手のひらで円を描くようになでた。まるい切っ先に塗り込めるように。
よかった。少しは気持ちよくなってくれてる?
リアンの手が、自分にまたがる私の太ももに触れる。冷えた脚を温めるように優しくなでられると、期待でまた下腹部が熱くなった。
しばらくやわやわと鼠蹊部を行き来していた手が、不意に下着の上から私の最も敏感な部分に触れてきた。
ぱちぱち、帯電したような、甘い痺れが走る。
「んぅっ……! あっ!」
腰が跳ねた。じっと見つめられていることに気づき、うなじがかっと熱くなる。つきんつきんと甘く疼いているのは、彼の唇に挟まれている乳首も同じで、おもむろに歯を立てられると変な声が出てしまう。
リアンの太ももを跨いでいるから脚を閉じることもできない。布越しに指先で弄ばれ、上ずった声をあげながら腰をくねらせる。
胸から口を離したリアンが、反応を楽しむように私の顔を覗き込んでくる。その、ぎらついた目。肌がひりつくような視線に、じくじくと下腹部が疼いた。
リアンは私の目を見つめたまま、ショーツの中に手を滑り込ませた。
「はあ……ん」
自分でもわかるほどそこは湿り気を帯びていて、彼の太い指が触れると鳥肌が立つような切ない痺れが背筋を貫く。つま先に力がこもり、それを逃がすために息を吐く。勝手に眉根が寄ってしまう。だらしなく開いた口から、悲鳴じみた吐息がもれた。
指がゆっくり体内に侵入し、その異物感ですら、たまらない充足をもらたす。抜き差しされると、どうしようもなく、締まった腹筋に手をついて腰を揺らしてしまった。
「気持ち、いい……ふ、ぁあ、おね、が……もっと……」
「ああ」
足首を掴まれてリアンの膝の上で開脚させられた。ひっくり返りそうになって、後ろに手をつく。下着を剥ぎ取られ膝を開かされる。いくら薄暗くてもこれでは丸見えだ。羞恥に顔に血が集まる。
リアンは私の顔を見つめたまま、再び私の中に指を侵入させた。
奥まで挿し入れて、ゆっくりと引き抜く。それを繰り返しつつ、指が徐々に増えていく。自分の脚の間で、てらてらとぬめった太い指が出入りする。指が動くたびに、粘膜が痺れて、声を我慢できない。乱れる様子をじっと観察されて、いたたまれないのに、やめないでほしい。
「あ、あ……んんっ」
声が漏れるのを止められない。太ももが勝手に震える。自分でも驚くほどに濡れていた。指の動きに合わせて、ちゅくちゅくと湿った音がする。
「ひ、あ、ぁああっ、だ、め、そこだめっ」
指を体内で曲げるようにして擦り上げられ、のけぞってしまった。姿勢が維持できない。彼の指がある一点に触れると、ずんとした重みのある快感が腹部で暴れる。たまらず、リアンの肩にすがりつく。追い打ちに首筋を舐められる。ふうっと吐息が耳朶をかすめていく。背中を指でなでられて、身を捩る。
「だ、め……! も、もう、ぁあっ、あ、あ」
指が引き抜かれる。濡れた指を彼は躊躇なく舐めた。至近距離で自分の愛液のにおいがして、私はようやく我に返った。
息が荒いまま、彼の顔を見る。どうして、やめてしまったの。喪失感で泣きたくなる。……あと少しだったのにと浅ましくも、思う。
リアンは涼しい顔をしたまま、私の尻をやわやわと揉んでいる。
「あの、私、……なにかまずかった?」
「いや。気持ちよさそうにしてて、可愛かったが」
可愛いという言葉が、こういうときのためのリップサービスだとわかっていても、胸が疼く。
でも、だとしたらなぜ先をしてくれないの。
「その、……もしかして焦らしてる?」
「ああ」
頷いて、彼は破顔した。
「すごく物欲しそうな顔をするんだな」
恥ずかしさでまた涙が浮いてきた。だって。そんなの仕方ない。好きな人に触れてもらえて嬉しくなってはいけないの?
「ちょっとからかっただけで。随分泣き虫だな、ミシカ」
苦笑されてしまった。
本格的に涙が出てきて、目を必死でしばたたかせた。
「……本当に泣くなよ」
「だって、名前。……呼んでくれたから」
リアンが、名前を呼んでくれた。それだけで、息ができないほど、胸が締め付けられる。
泣きたいわけじゃないのに、感情が昂ぶっていてどうしようもない。顔を手で覆って隠そうとしたが、手首を掴まれて阻まれる。
口付けられる。深く、深く。切れた頬の内側を舌でさすられると、ぴくりと肩が震えたら、慰めるように背中を何度も撫でられた。
私はリアンの頬を両手で包み、必死に舌を受け入れた。息継ぎのときに漏れる呼気のひとつだって失いたくない。
「……君は、実は可愛いかったんだな。強情っぱりの癖に変なところで健気だ」
すっと離れていった唇が、そんなことを言う。
泣きながら睨みつけると、リアンは頬を緩ませて再び軽く口付けた。キスしてくれた、その喜びで結局また涙が出てしまう。
腰を掴んで持ち上げられる。厚みのある肩に手を突き膝立ちになる。性器を宛てがわれて、自ら、腰を落としていく。指とは比べ物にならない質量を飲み込み、ひゅうっと喉が鳴った。最後まで飲み込むと、じんわり期待していた快感が訪れて、背筋が粟立つ。
リアンが私の中にいる。その事実がなにより嬉しかった。
「大丈夫か?」
痛がっていると思ったのだろうか、気遣うように、リアンが私の背中をなでた。
私は返事の代わりに彼をぐいと押し倒して、硬い腹に腕を突っ張って腰を動かした。
ぎゅっと彼の腹筋が締まる。その筋肉の軋みが、触れた手を伝わってくる。
リアンが眉根を寄せて、悩ましげな息を吐くから、私の方がますます追い詰められるように高まってしまう。
「は、ああ、あんっ……ふ、う」
自分の中に感じるリアンの存在。満たされているはずなのに、どうしてかとても胸が苦しい。
彼が離れていってしまうような気がして、自分の腰を支えていた彼の手を掴んで、指を絡ませた。長くて節の張った指。それが少し戸惑ったようにゆっくりと、私の指に絡んでくる。痛くない程度に力をこめて、手を包み込まれる。多幸感で、胸がつぶれそう。
「はっ、あ、ぁああ」
目の奥がちかちかする。腰を動かすごとに、顎が上がる。限界が近い。
腕を引かれて、横たわる彼の胸に頬から倒れこんだ。
耳の下で、心臓の音が聞こえる。少し速い気がする。温かな肌が、確かなその感触が愛おしくて切ない。このまま、ずっとこうしていたい。そんな馬鹿なことを考えた。
「……泣くな」
頬を優しくなでられる。ほっとした瞬間、腰を突き上げられて、私は嬌声を上げた。
「あっ、……はぁっ、あんっ、あっ」
あやすように背中をなでられながら、何度も何度も腰を打ち付けられる。むせび泣きながら、リアンにしがみつく。彼が私の最奥を穿つ度、浮遊感にも似た快感が、体内に生まれた。
やがて頭の中が真っ白になる。一瞬、息が止まった。甘い波が全身に広がっていく。
「ひ、……うぁ……」
「……っ」
ぎっと、リアンが歯を食いしばった音が、頭上で聞こえた。
とてつもない疲労感が一気に襲ってきて、私は脱力した。
硬い胸に頬を預けたまま。彼の心臓の音かと思ったら、自分のだった。息が苦しい。自分の膣の収斂にあわせて結合部から、またぞくぞくと熱がへその下に溜まっていく。ただ、もう、自力で動けそうになかった。あれだけ寒くて仕方なかったのに、今は全身に汗をかいている。冷えた空気が肌をなで、心地よかった。
「リアン、……キス、してくれる……?」
「ん」
ねだると、リアンは私を抱えたまま、身を起こして口付けてくれる。角度を変えて、何度も。
彼の腰に座り込む形になって、ぎちりと結合が深くなる。内臓を押し上げる感覚は、いまだひくひくしている私のそこを再び熱くした。
「ようやく、泣き止んだな。あんまり泣くから、過呼吸にでもなるんじゃないかとひやひやしたぞ」
「うん、……ごめん。でも、もしそうなったら処置してくれるでしょう?」
「窒息したら困るからな」
真面目な返事で、つい、笑ってしまった。
私の前髪をかきあげて、リアンが額に口付けた。
「泣いてる顔もそそるが、笑っている方がいいな」
今度は私が彼に押し倒される番だった。冷たく硬い床がごつごつしていて、少し痛い。でも、床の冷たさのおかげで彼の熱をより強く感じることができる。
私の顔の横に肘をついて、体重をかけないようにして、リアンが何度目かもわからない口付けをくれた。
ゆっくりと、彼が動き始めた。労わるように、ゆるゆると浅い位置を行ったり来たりする。それだけで、甘い痺れがぞくぞくと私の背骨を駆け上がっていく。
「はあ……ぁ、あ」
「辛くないか?」
「……気持ち良くて、辛い」
口付けが、噛み付くような激しさに変わった。怪我をしていない方の脚を抱えられ、体を密着させたまま、最奥を穿たれる。暴力的な快感に、悲鳴を上げた。
でもそれも、合わされた彼の口内に消えていく。口の中も奥まで犯されて、私はただリアンの背に爪を立てるしかなかった。揺さぶられるたびに、瞼の裏に火花が散るような錯覚。
「んっ、……ふ、ぁんッ、あ、ぁああッ」
鼻に掛かった意味を成さない声が、唇同士の隙間から零れるたびに、隙間を塞ぐように舌を捻じ込まれる。
彼と繋がっている部分が、熱い。荒くなっている彼の吐息で、耳の奥もじんとする。背中が反って、後頭部がごつごつと床にぶつかる。リアンが私の脚を離して、頭を抱えるように手を入れてくれた。離された脚を自分で彼の腰に絡める。
「りあ、ん……ッ、っあ、もう、だめ、ぁあ、あ、あっ……」
「――ミシカ」
名前を呼ばれた。瞼の奥で、光がはじけた。
声は出なかった。ひゅっと喉が鳴っただけ。勝手に背中が撓る。崖から落ちるような浮遊感。太ももとその内側が痙攣する。
果てた私を抱きしめて、彼は自身を抜くと、数度自分でしごいて、静かに果てた。
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美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。
※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。
※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。
※AI(chatgpt)アシストあり
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サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
不労の家
千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。
世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。
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初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。
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