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本編
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リアンたちが遅くなったのは、院内で私たちを捜した後、食料などを探しに行ったからだった。コンビニの袋にいろいろな物資を詰め込んできた。その袋を、須賀が伊丹に手渡す。
伊丹は、受け取った袋の中身をあらためると、中に入っていたシリアルバーを取り出して自分だけ食べ始めた。行儀悪く、口にシリアルバーを詰め込んだまま、そして、銃を持ったまま、須賀にリアンを縛るよう命じた。
58、
突然のことで事態が飲み込めていないはずだが、リアンは危険を察したのか、伊丹に逆らわなかった。こういうことの訓練も受けているのか、落ち着いた様子で伊丹の指示に従う。
車の外は、雨があがって湿気が充満していた。空気が冷やされて肌寒い。その寒空の下、リアンと塩野は揃って濡れたコンクリートの床の上に座らされた。怪我をした塩野にはきつい姿勢だ。床は冷たくなっているはず。辛そうな様子の彼が哀れになる。結局手当も中途半端なまま。
伊丹は、自分は車の助手席に腰をかけたままドアを開け、二人を見下ろしている。ドアが開いていることで車の室内ランプが点いて、床に座っているリアンたちの様子をぼんやりと照らし出していた。
「聞きたいことが山ほどあるが、まずは彼の手当てをさせてくれ。酷い状態だ」
塩野の怪我の様子に、リアンは薄暗いなかでも気付いたらしい。彼の硬い声音に対して、伊丹は朗らかだ。
「質問を許すよ。でも、手当ては君じゃなくて須賀がする。君の腕の拘束を解いたとたん、殴りかかられないとも限らないしね」
伊丹に目で指示された須賀が、リアンの持っていたバックパックを開けて、必要な道具を取り出しはじめた。彼も看護師だし、応急処置のいろはは心得ているのだろう。
須賀は手早く塩野の患部を処置していく。あまり使ったことがないキットを使うからか、時折車の明かりでパッケージを確認するそぶりを見せた。その隣で、リアンはひたりと伊丹を見据えて問うた。
「塩野の怪我がこんなに悪化しているのは、どういうことだ。俺は彼をたしかに手当てしたんだが。その上で、危険があるといけないと思いここに残していった」
「そうなんだ。まあ、ちょっと揉めてね」
「……お前がやったということでいいんだな」
伊丹は肯定も否定もせず、にやついたままシリアルバーを飲み込んだ。飲料水のペットボトルを開けて、三分の一ほど飲む。彼が口を拭うと、さらに、リアンは問う。
「柿山さんはどうした」
「死んだよ。あのヘリが突っ込んできたときに」
リアンは一度目をつぶって、その言葉を反芻しているようだった。ややあって、再び口を開く。
「お前が持っている銃は、軍の支給品と同型だ。それはどうした」
「ああ! そうか、君もあのちびでマッチョな兵士には会わなかったんだっけね。君たちと別れたあと、ホセとかいう兵士と、その連れ二人と合流したんだよ。あいにく、柿山と同じく事故に巻き込まれて死んだけれどね。……ああ、違った。ちび兵士は、逃げ遅れたんだった。のろまだったから、僕が防火シャッターを下ろす前に逃げられなかったんだよ」
「ホセが……、そうか、あいつもここへ。だが、逃げ遅れた?」
リアンの顔がさらに険しくなった。彼は、それでも声を荒げることなく、伊丹に問い続けた。
「ホセは、前線では俺よりも優れた兵士だ。それが、逃げ遅れた? 怪我をして動けない状態だったのを、お前が見捨ててきたんじゃないのか」
伊丹は哄笑した。大げさに肩をすくめて、私を見る。
「ひどいね彼。僕がまるでホセって人を置いてきたみたいなことを言ってさ。だいぶ嫌われているみたい。まあ、大体あってるよ」
あっさりとそう認めた。伊丹は愉快でたまらないという表情で、リアンの反応を伺っている。彼が激昂したり、悲しむ様子を見たくてうずうずしている。私は、伊丹の隣に立ったまま、手を強く握り締めるほかなかった。
「そうか」
リアンは短くそう返すに留まった。表情こそ硬いが、感情的になる様子はない。それを見て、伊丹は自分から話し始めた。
「あのちび、えらそうに僕に説教してさ。何様のつもりだか。だから、ヘリが突っ込んだあと、あいつの目の前でシャッターを閉めてやった。あのときのあいつの顔、傑作だったよ。あんたたちも、あの病院に行ってみたんだろ? 七階まで行ってみたのかな。悪いね、先に合流してれば、そしてこの話をしていれば、あそこで手を合わせてやれたかもしれないのにね。ああ、あんたの場合、十字かな」
けらけら笑って伊丹は膝を打つ。治療を受けている塩野が、痛みのためかそれとも怒りでかぐうっと呻き声をあげた。体が自由になるなら、今すぐ伊丹に掴みかかるだろうという顔をして。
須賀はリアンと同じで、――いや、さらに無表情で淡々と作業をしている。
「ひとつ聞きたいんだが。お前の目的は何だ?」
伊丹が、首を傾げた。
「目的? どういう意味?」
「ここを脱出するだけなら、わざわざこんなことをする意味はないだろう。むしろ、戦力を制限する行動だ、自分の生存率を下げている」
「ああ、そういうこと? 別に」
伊丹は肩を竦めた。私をちらりと見て、口の端を上げる。
「まあ、最初はいろいろやること決めてて。バンビちゃんと、須賀と大木でここを出るのが目的だったけれどね。寄り道していたら、ちょっと楽しくなってきちゃった。もう少しこれを楽しんで、飽きたらこの街を出ればいいかなと思ってるよ」
「まるで遊びか」
リアンは呆れたというように、小さく呟いた。その言葉は伊丹の耳にもしっかり届いただろう。隣に立つ私にも聞こえているのだから。
「そうだよ、遊びさ。つまらなくなったら、失敗したらやり直せばいい」
「やり直せないことだってあるだろう」
「お説教する気? おじさんだねえ。こんなのがいいなんて、バンビちゃんは趣味悪いよ」
急に私の話に跳んで、私は反射的に伊丹を見た。彼はただ楽しそうで、その顔の裏で何を思っての発言なのか理解できない。
横顔に感じる、リアンの視線に気まずさを覚えて、私は床に視線を落とした。
「僕はね、あんたらと違ってやり直せるんだよ。何度でも。バンビちゃんもそう。だから、いいんだよ寄り道しても。たとえ死んだとしても次がある」
リアンは眉を寄せて、理解しがたいものを聞いたという顔をした。
伊丹の言うことは、精神疾患のある者の妄言か、宗教的な妄信によった言葉にしか聞こえない。到底、理解できないはずだ。それは伊丹もわかっているはず。その上で、リアンや塩野が理解できないと戸惑う様子を、まるで自分が優位に立っているように錯覚して、優越感を獲得する。リアンの同じ反応を見て疎外感を覚える私には、それを理解できない。
「だからさ、今回はあんたらで目一杯遊んでみようかなって思ってね。付き合ってもらうよ」
「断る」
間髪いれずリアンが言った。強い調子で。伊丹は、片方の眉を跳ね上げて、口の端を再び吊り上げた。
「そんな状態でなに言ってるの。断れるわけないじゃん。動けもしないで」
「俺たちは、お前に付き合う義理はないと言っている。そういう自分の欲求を満たしたいだけなら他所でやれ。迷惑だ」
伊丹はやれやれと言って、肩を竦めると、車から降りてリアンの前に立った。そして、手にしたショットガンを振り上げると、勢いよくそれを振り下ろした。
骨と金属がぶつかったからか、硬い音がした。うつむいたリアンの顔の下の床に、ぽたぽたと黒くて丸い血の染みができる。
「やめて」
私の制止を受け入れて、伊丹がおどけてウインクする。
顔を上げたリアンの頬に裂傷ができていた。かなり広範囲で皮膚が裂けたようで、血があとからあとからこぼれ、顎を伝っている。痛いだろうに、彼は動揺した様子もなく冷えた目で、伊丹を睥睨していた。
「立場がわかってないみたいだから、はっきり言ってあげるよ。おもちゃの意見を聞く持ち主がいる? お前たちは僕のおもちゃだよ。壊れるまで好きにさせてもらう」
「わかってないのはお前だ。自分だけ特別になったつもりか? たとえこの街を脱出できたとしても、このことできっとお前は裁かれる」
「裁かれる? 裁かれるって言った?」
伊丹は哄笑した。大げさに、天を仰ぐように胸を反らして、ひきつった声で笑う。
「誰が裁くっていうのさ。あんたが? それとも警察? 神様? できるならやってみればいいよ。ここでは今警察なんかいないし、きっと神様は僕の味方だ。あんたが裁けるならやってみなよ。まあ、無理だと思うけれど。だって、恋人一人守れない人間だもんね。何度でも転生できる僕に、敵いっこない」
急に腕を掴みあげられて、背後から羽交い絞めにされ、私は短く悲鳴を上げた。伊丹の生暖かい息を首筋に感じ、身がすくむ。腕を振り回して暴れたいが、太ももに当たる冷たく硬い銃の感触に、彼との約束を思い出した。
私が大人しくしている限り、リアンに危害は加えない。
「意味がわからないって顔してるね。でもいいんだよ仕方ない。わからないだろ、僕らの言葉は。可哀想なのは、このバンビちゃんだよ。前世で恋人だったあんたを庇って、あんたを生かす代わりに僕の言うことを聞くってさ。まだ気持ちがあるんだろうね。でも、あんたはそれを全然覚えていない。そのことも可哀想だけど、もっと可哀想なのは、そのせいで本来選ぶべき相手を間違ってるってことさ。だから、諦められるようにしてあげるんだ。その方が、君のためだよ」
後半は、私への言葉だ。
リアンも塩野も、ちっとも理解できないという顔で、私と伊丹の顔を交互に見比べている。その彼らの前で、伊丹は私の胸を鷲掴みにした。
伊丹は、受け取った袋の中身をあらためると、中に入っていたシリアルバーを取り出して自分だけ食べ始めた。行儀悪く、口にシリアルバーを詰め込んだまま、そして、銃を持ったまま、須賀にリアンを縛るよう命じた。
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突然のことで事態が飲み込めていないはずだが、リアンは危険を察したのか、伊丹に逆らわなかった。こういうことの訓練も受けているのか、落ち着いた様子で伊丹の指示に従う。
車の外は、雨があがって湿気が充満していた。空気が冷やされて肌寒い。その寒空の下、リアンと塩野は揃って濡れたコンクリートの床の上に座らされた。怪我をした塩野にはきつい姿勢だ。床は冷たくなっているはず。辛そうな様子の彼が哀れになる。結局手当も中途半端なまま。
伊丹は、自分は車の助手席に腰をかけたままドアを開け、二人を見下ろしている。ドアが開いていることで車の室内ランプが点いて、床に座っているリアンたちの様子をぼんやりと照らし出していた。
「聞きたいことが山ほどあるが、まずは彼の手当てをさせてくれ。酷い状態だ」
塩野の怪我の様子に、リアンは薄暗いなかでも気付いたらしい。彼の硬い声音に対して、伊丹は朗らかだ。
「質問を許すよ。でも、手当ては君じゃなくて須賀がする。君の腕の拘束を解いたとたん、殴りかかられないとも限らないしね」
伊丹に目で指示された須賀が、リアンの持っていたバックパックを開けて、必要な道具を取り出しはじめた。彼も看護師だし、応急処置のいろはは心得ているのだろう。
須賀は手早く塩野の患部を処置していく。あまり使ったことがないキットを使うからか、時折車の明かりでパッケージを確認するそぶりを見せた。その隣で、リアンはひたりと伊丹を見据えて問うた。
「塩野の怪我がこんなに悪化しているのは、どういうことだ。俺は彼をたしかに手当てしたんだが。その上で、危険があるといけないと思いここに残していった」
「そうなんだ。まあ、ちょっと揉めてね」
「……お前がやったということでいいんだな」
伊丹は肯定も否定もせず、にやついたままシリアルバーを飲み込んだ。飲料水のペットボトルを開けて、三分の一ほど飲む。彼が口を拭うと、さらに、リアンは問う。
「柿山さんはどうした」
「死んだよ。あのヘリが突っ込んできたときに」
リアンは一度目をつぶって、その言葉を反芻しているようだった。ややあって、再び口を開く。
「お前が持っている銃は、軍の支給品と同型だ。それはどうした」
「ああ! そうか、君もあのちびでマッチョな兵士には会わなかったんだっけね。君たちと別れたあと、ホセとかいう兵士と、その連れ二人と合流したんだよ。あいにく、柿山と同じく事故に巻き込まれて死んだけれどね。……ああ、違った。ちび兵士は、逃げ遅れたんだった。のろまだったから、僕が防火シャッターを下ろす前に逃げられなかったんだよ」
「ホセが……、そうか、あいつもここへ。だが、逃げ遅れた?」
リアンの顔がさらに険しくなった。彼は、それでも声を荒げることなく、伊丹に問い続けた。
「ホセは、前線では俺よりも優れた兵士だ。それが、逃げ遅れた? 怪我をして動けない状態だったのを、お前が見捨ててきたんじゃないのか」
伊丹は哄笑した。大げさに肩をすくめて、私を見る。
「ひどいね彼。僕がまるでホセって人を置いてきたみたいなことを言ってさ。だいぶ嫌われているみたい。まあ、大体あってるよ」
あっさりとそう認めた。伊丹は愉快でたまらないという表情で、リアンの反応を伺っている。彼が激昂したり、悲しむ様子を見たくてうずうずしている。私は、伊丹の隣に立ったまま、手を強く握り締めるほかなかった。
「そうか」
リアンは短くそう返すに留まった。表情こそ硬いが、感情的になる様子はない。それを見て、伊丹は自分から話し始めた。
「あのちび、えらそうに僕に説教してさ。何様のつもりだか。だから、ヘリが突っ込んだあと、あいつの目の前でシャッターを閉めてやった。あのときのあいつの顔、傑作だったよ。あんたたちも、あの病院に行ってみたんだろ? 七階まで行ってみたのかな。悪いね、先に合流してれば、そしてこの話をしていれば、あそこで手を合わせてやれたかもしれないのにね。ああ、あんたの場合、十字かな」
けらけら笑って伊丹は膝を打つ。治療を受けている塩野が、痛みのためかそれとも怒りでかぐうっと呻き声をあげた。体が自由になるなら、今すぐ伊丹に掴みかかるだろうという顔をして。
須賀はリアンと同じで、――いや、さらに無表情で淡々と作業をしている。
「ひとつ聞きたいんだが。お前の目的は何だ?」
伊丹が、首を傾げた。
「目的? どういう意味?」
「ここを脱出するだけなら、わざわざこんなことをする意味はないだろう。むしろ、戦力を制限する行動だ、自分の生存率を下げている」
「ああ、そういうこと? 別に」
伊丹は肩を竦めた。私をちらりと見て、口の端を上げる。
「まあ、最初はいろいろやること決めてて。バンビちゃんと、須賀と大木でここを出るのが目的だったけれどね。寄り道していたら、ちょっと楽しくなってきちゃった。もう少しこれを楽しんで、飽きたらこの街を出ればいいかなと思ってるよ」
「まるで遊びか」
リアンは呆れたというように、小さく呟いた。その言葉は伊丹の耳にもしっかり届いただろう。隣に立つ私にも聞こえているのだから。
「そうだよ、遊びさ。つまらなくなったら、失敗したらやり直せばいい」
「やり直せないことだってあるだろう」
「お説教する気? おじさんだねえ。こんなのがいいなんて、バンビちゃんは趣味悪いよ」
急に私の話に跳んで、私は反射的に伊丹を見た。彼はただ楽しそうで、その顔の裏で何を思っての発言なのか理解できない。
横顔に感じる、リアンの視線に気まずさを覚えて、私は床に視線を落とした。
「僕はね、あんたらと違ってやり直せるんだよ。何度でも。バンビちゃんもそう。だから、いいんだよ寄り道しても。たとえ死んだとしても次がある」
リアンは眉を寄せて、理解しがたいものを聞いたという顔をした。
伊丹の言うことは、精神疾患のある者の妄言か、宗教的な妄信によった言葉にしか聞こえない。到底、理解できないはずだ。それは伊丹もわかっているはず。その上で、リアンや塩野が理解できないと戸惑う様子を、まるで自分が優位に立っているように錯覚して、優越感を獲得する。リアンの同じ反応を見て疎外感を覚える私には、それを理解できない。
「だからさ、今回はあんたらで目一杯遊んでみようかなって思ってね。付き合ってもらうよ」
「断る」
間髪いれずリアンが言った。強い調子で。伊丹は、片方の眉を跳ね上げて、口の端を再び吊り上げた。
「そんな状態でなに言ってるの。断れるわけないじゃん。動けもしないで」
「俺たちは、お前に付き合う義理はないと言っている。そういう自分の欲求を満たしたいだけなら他所でやれ。迷惑だ」
伊丹はやれやれと言って、肩を竦めると、車から降りてリアンの前に立った。そして、手にしたショットガンを振り上げると、勢いよくそれを振り下ろした。
骨と金属がぶつかったからか、硬い音がした。うつむいたリアンの顔の下の床に、ぽたぽたと黒くて丸い血の染みができる。
「やめて」
私の制止を受け入れて、伊丹がおどけてウインクする。
顔を上げたリアンの頬に裂傷ができていた。かなり広範囲で皮膚が裂けたようで、血があとからあとからこぼれ、顎を伝っている。痛いだろうに、彼は動揺した様子もなく冷えた目で、伊丹を睥睨していた。
「立場がわかってないみたいだから、はっきり言ってあげるよ。おもちゃの意見を聞く持ち主がいる? お前たちは僕のおもちゃだよ。壊れるまで好きにさせてもらう」
「わかってないのはお前だ。自分だけ特別になったつもりか? たとえこの街を脱出できたとしても、このことできっとお前は裁かれる」
「裁かれる? 裁かれるって言った?」
伊丹は哄笑した。大げさに、天を仰ぐように胸を反らして、ひきつった声で笑う。
「誰が裁くっていうのさ。あんたが? それとも警察? 神様? できるならやってみればいいよ。ここでは今警察なんかいないし、きっと神様は僕の味方だ。あんたが裁けるならやってみなよ。まあ、無理だと思うけれど。だって、恋人一人守れない人間だもんね。何度でも転生できる僕に、敵いっこない」
急に腕を掴みあげられて、背後から羽交い絞めにされ、私は短く悲鳴を上げた。伊丹の生暖かい息を首筋に感じ、身がすくむ。腕を振り回して暴れたいが、太ももに当たる冷たく硬い銃の感触に、彼との約束を思い出した。
私が大人しくしている限り、リアンに危害は加えない。
「意味がわからないって顔してるね。でもいいんだよ仕方ない。わからないだろ、僕らの言葉は。可哀想なのは、このバンビちゃんだよ。前世で恋人だったあんたを庇って、あんたを生かす代わりに僕の言うことを聞くってさ。まだ気持ちがあるんだろうね。でも、あんたはそれを全然覚えていない。そのことも可哀想だけど、もっと可哀想なのは、そのせいで本来選ぶべき相手を間違ってるってことさ。だから、諦められるようにしてあげるんだ。その方が、君のためだよ」
後半は、私への言葉だ。
リアンも塩野も、ちっとも理解できないという顔で、私と伊丹の顔を交互に見比べている。その彼らの前で、伊丹は私の胸を鷲掴みにした。
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