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本編
22
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倒れている人は――いや、正確に言うと、倒れている元人は、臙脂のユニフォームを着ていた。よく見かける病院スタッフの服装だ。
近寄ると、中年の女性だった。色を抜いた髪をゆるく巻いていて、しっかりと化粧をしている。左わき腹から出血していたようだ。血は乾いているので、彼女が怪我をしてからしばらくたっているのだろう。
怪我をしたのは、窓際だ。這いずったらしく、血痕が窓の方から続いていた。
22、
一階では、出口の場所にある窓は、ブラインドが下ろされている。そのブラインドの向こうから雨水がばたばたと床に流れていた。窓が割れて、ガラスが床に散乱している。
彼女は窓に近付き撃たれたのか。誰も助けてくれなかったのかと思うと、同情心がこみ上げてくる。
しゃがみこみ、身分証を探す。病院のスタッフは、IDカードや名札を身に着けている人が多いと思っていたのだが、思い込みか。彼女は、身分が特定できるものを持っていなかった。
そのままにしていおくのも気が引けて、彼女の手をみぞおちでゆるく組み、衣服を整えておく。最後に彼女に向かって手を合わせた。
そういえば、エレベーターで鉢合わせしたときも不思議だった。この廃病院に医療従事者と思われる人間がいたのはなぜだろうか。騒動のせいで逃げ込んできたのだろうか。みんなで集まって?
私は、彼女に背を向けナースステーションへ向かう。カルテや事務用品がごちゃごちゃしているが、ざっと見た限り気になるものはなかった。その背後にあるバックヤードへのドアをくぐる。がらんとした部屋があった。看護師が待機するのに使っていたのか。一階で私が拳銃を手に入れた部屋と同じようなレイアウトで、机や棚が並んでいる。
棚には書籍ではなくて、プラスチックコンテナが並んでおり、ネームシールを使って中身の名前が貼り付けられていた。おそらく、ここには薬を格納していたのではないか。すでにコンテナの中は空で、引越しの際じゃまだったから収納用品は置いていったように見える。
そういった棚がずらりと壁一面に並んでいる以外、特筆すべきところもなかった。
廊下に戻り、次は、ナースステーションを横切って、病室のドアをそっと開いた。病室のドアの横には、入院者の名前を入れるためのネームプレートがあるが、今は空だ。ネームプレートの上に掛けられた部屋番号は301号室となっていて、その隣が302号室、奥の壁にエレベーター、廊下挟んで302号室の目の前が303号室となっている。
やけに軽い引き戸の向こうには、リネンを剥ぎ取られたベッドが左右に二台ずつ、合計四台ならんでいた。それぞれの横に小さなキャビネットが置かれている。本来ならカーテンを天井から吊るすはずのカーテンレールも、金具を残しているだけ。窓にはブラインドがかかっている。
電気が点いていないとやたら薄暗く、寒々しい景色だった。
床には分厚い埃の層ができていて、部屋が長期間使われていないのだと主張している。
302号室、303号室も、多少間取りが違うだけで、同じような状態だ。
なんの収穫もない。
女性の遺体がある休憩所をはさんで、305号室、306号室があり、その二部屋も同じようなものだった。
305号室の対面、上ってきた階段側には、非常口とリネン室があった。
リネン室は、鉄のドアがつけられている。関係者以外立入禁止と書かれているが、私はそのドアノブをひねってみる。かなりドア自体が重いせいで、鍵がかかっているように思えたが、ぐいっと力を入れてノブを回すと、なんとかドアを開けることができた。
わずかな隙間から、強烈な臭いが漂ってきた。怯んだはずみにドアノブを離してしまった。
がちゃんと低い音を立てドアが閉まる。臭いが幾分軽減された。
腐臭、だろうか。わずかに金臭さもあった気がする。
とても、気が進まないが――。
覚悟を決めて、右腕を鼻に押し当てドアを開けた。
むわっと嫌な臭いが押し寄せる。吐き気を誘う臭いだ。
ドアを開け放つと、ばっと黒い塊が立ち上った。
ハエだ。ぶんぶんと羽音をさせて、たくさんのハエが飛び回る。手で払いのけようにも数が多すぎる。薄暗い室内では、あまりはっきりしたものの形は見て取れない。小さな採光窓が奥の壁の上部にある。その横には、貨物用の小型エレベーターがあり、細長い室内には左右に棚が並んでいて、本来なら汚れ物を回収した後使うための、布製の大きな袋がついたカートが三台、棚の下に収められている。
においの元はすぐにわかった。リネンにくるまれた塊が、ちょうど部屋の真ん中にごろんと転がっている。べったりとリネンはその転がっているものの形に張り付いている。
それはどう見ても人型だった。
飛び回るハエを手で払いながら、私は、そのリネンに手を伸ばした。つまんで、一気に持ち上げる。
ハエが狂ったように飛び回る。
私は、転がるように部屋を飛び出して、ドアを閉めた。何匹か部屋から逃げ出たハエが周りを飛び回っているが、やがてどこかへ飛び去っていった。
喘ぐように息をして床に座り込んだ。鼻の奥にあの腐臭が張り付いているような気がする。
目を閉じると、まぶたの裏に薄暗い中で見た光景が広がる。
顔がつぶされた男の人だった。凹凸が完全になくなっていて、そこにぺたりとリネンが貼り付いていた。彼は見たことのある格好――病院のユニフォームを着ていたように見えた。
深呼吸を何度もしていると、徐々に気分が落ち着いてくる。
臭いも見た目も流石に強烈だった。薄暗くて、詳細があまりわからなかったことだけが幸いだ。克明に見えていたら、きっと嘔吐していただろう。
それにしても、なぜこんなところに遺体が? 彼はいったい、なんだったのだろう。
感染者に殺された犠牲者なのだろうか。その可能性が一番高いが、そうなると、ひとつ疑問がある。あのリネンだ。寝食を忘れるような興奮状態にある感染者たちが、死者の上にリネンをかけるような気遣いを見せるものだろうか。あれは、まるで死者を悼むような、あるいは隠匿するために、掛けられたもののような気がするのだが……。
もし、その考えで行くのであれば、少なくとも、リネンをあの遺体にかけた人物が――感染者ではない人が他にもう一人いたのではないだろうか。
それが、すぐそこの休憩所で亡くなっている女性だったらわかりやすいのだけれど……。
考えてもすべて憶測で終わってしまう。意味がない。
もう一度深呼吸して、立ち上がった。
これで、三階はすべて確認したが収穫らしいものはなかった。残りの上の階を回っても、収穫はないかもしれない。そもそも、何かを得ようと思って、探索を始めたわけではないことを思い出す。満足したら、別の脱出方法を考えればいい。
それなら、せっかくだから、上の階も見ておいていいのかも。
こんなところでもったいない精神を発揮しなくてもいいのに、と自分でつっこみを入れてしまう。
階段を使って四階に到着した。
内装は、壁紙の色が淡いブルーになった以外、ほぼ三階と同じだった。休憩所の窓が割れておらず、そこには車椅子が二台並べてあることや、テーブルの配置がやや違うことくらいの差しかない。
ナースステーションの隣の病室は部屋番号401号室から始まっている。
この階のナースステーションも特筆すべきことはない。その奥にある、バックヤードを見ようと、ナースステーションへのスイングドアを通ろうとしたときだった。
エレベーターの、到着を知らせる電子音がしてはっとした。
開きつつあるドアの向こうから、銃口が私に向けられる。反射的に手を上に上げ、バールを取り落とした。
「動くな!」
「撃たないで、感染してない!」
私の声と、その銃口の主の声が交差した。
エレベーターに乗っていたのは小柄で、帽子の上にヘッドセットをつけた若い男。リアンと同じような服装をしてる。軍人だ。ヒスパニック系の血が混じっているように見える。年齢は二十代の後半か。少し垂れ気味の双眸と日に焼けた肌が、どことなく幼い感じだ。身体の厚みは立派だが。
彼は油断なく距離を詰めると、しばらく私の顔を睨んだ後、表情を緩めて銃を降ろした。硬直する私に向け敬礼する。
「驚かしてすまない。俺は、ホセ・勇次・バーキン。ホセと呼んでくれ。勝田基地に所属している陸軍の隊員だ。感染者を鎮圧するために派遣された」
彼はかすかにイントネーションに癖のある日本語で妙にはきはきと名乗り、有無を言わせぬ強引さで握手を求めてきた。
私は戸惑いながらも、彼の手を握る。力強い握手だ。
「私は磯波美鹿」
彼はじっと私の顔を見る。やや色の薄い茶色の目が、昔近所で飼われていたシベリアンハスキーに似ている。
「あんたはどうしてここに? 避難しているところだった?」
「ええ。逃げ回ってここに」
「突然だが、助けてくれないか」
「はい?」
思わず聞き返す。すると彼は、そばかすの残る顔を曇らせてもう一度、助けてほしいと言った。
近寄ると、中年の女性だった。色を抜いた髪をゆるく巻いていて、しっかりと化粧をしている。左わき腹から出血していたようだ。血は乾いているので、彼女が怪我をしてからしばらくたっているのだろう。
怪我をしたのは、窓際だ。這いずったらしく、血痕が窓の方から続いていた。
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一階では、出口の場所にある窓は、ブラインドが下ろされている。そのブラインドの向こうから雨水がばたばたと床に流れていた。窓が割れて、ガラスが床に散乱している。
彼女は窓に近付き撃たれたのか。誰も助けてくれなかったのかと思うと、同情心がこみ上げてくる。
しゃがみこみ、身分証を探す。病院のスタッフは、IDカードや名札を身に着けている人が多いと思っていたのだが、思い込みか。彼女は、身分が特定できるものを持っていなかった。
そのままにしていおくのも気が引けて、彼女の手をみぞおちでゆるく組み、衣服を整えておく。最後に彼女に向かって手を合わせた。
そういえば、エレベーターで鉢合わせしたときも不思議だった。この廃病院に医療従事者と思われる人間がいたのはなぜだろうか。騒動のせいで逃げ込んできたのだろうか。みんなで集まって?
私は、彼女に背を向けナースステーションへ向かう。カルテや事務用品がごちゃごちゃしているが、ざっと見た限り気になるものはなかった。その背後にあるバックヤードへのドアをくぐる。がらんとした部屋があった。看護師が待機するのに使っていたのか。一階で私が拳銃を手に入れた部屋と同じようなレイアウトで、机や棚が並んでいる。
棚には書籍ではなくて、プラスチックコンテナが並んでおり、ネームシールを使って中身の名前が貼り付けられていた。おそらく、ここには薬を格納していたのではないか。すでにコンテナの中は空で、引越しの際じゃまだったから収納用品は置いていったように見える。
そういった棚がずらりと壁一面に並んでいる以外、特筆すべきところもなかった。
廊下に戻り、次は、ナースステーションを横切って、病室のドアをそっと開いた。病室のドアの横には、入院者の名前を入れるためのネームプレートがあるが、今は空だ。ネームプレートの上に掛けられた部屋番号は301号室となっていて、その隣が302号室、奥の壁にエレベーター、廊下挟んで302号室の目の前が303号室となっている。
やけに軽い引き戸の向こうには、リネンを剥ぎ取られたベッドが左右に二台ずつ、合計四台ならんでいた。それぞれの横に小さなキャビネットが置かれている。本来ならカーテンを天井から吊るすはずのカーテンレールも、金具を残しているだけ。窓にはブラインドがかかっている。
電気が点いていないとやたら薄暗く、寒々しい景色だった。
床には分厚い埃の層ができていて、部屋が長期間使われていないのだと主張している。
302号室、303号室も、多少間取りが違うだけで、同じような状態だ。
なんの収穫もない。
女性の遺体がある休憩所をはさんで、305号室、306号室があり、その二部屋も同じようなものだった。
305号室の対面、上ってきた階段側には、非常口とリネン室があった。
リネン室は、鉄のドアがつけられている。関係者以外立入禁止と書かれているが、私はそのドアノブをひねってみる。かなりドア自体が重いせいで、鍵がかかっているように思えたが、ぐいっと力を入れてノブを回すと、なんとかドアを開けることができた。
わずかな隙間から、強烈な臭いが漂ってきた。怯んだはずみにドアノブを離してしまった。
がちゃんと低い音を立てドアが閉まる。臭いが幾分軽減された。
腐臭、だろうか。わずかに金臭さもあった気がする。
とても、気が進まないが――。
覚悟を決めて、右腕を鼻に押し当てドアを開けた。
むわっと嫌な臭いが押し寄せる。吐き気を誘う臭いだ。
ドアを開け放つと、ばっと黒い塊が立ち上った。
ハエだ。ぶんぶんと羽音をさせて、たくさんのハエが飛び回る。手で払いのけようにも数が多すぎる。薄暗い室内では、あまりはっきりしたものの形は見て取れない。小さな採光窓が奥の壁の上部にある。その横には、貨物用の小型エレベーターがあり、細長い室内には左右に棚が並んでいて、本来なら汚れ物を回収した後使うための、布製の大きな袋がついたカートが三台、棚の下に収められている。
においの元はすぐにわかった。リネンにくるまれた塊が、ちょうど部屋の真ん中にごろんと転がっている。べったりとリネンはその転がっているものの形に張り付いている。
それはどう見ても人型だった。
飛び回るハエを手で払いながら、私は、そのリネンに手を伸ばした。つまんで、一気に持ち上げる。
ハエが狂ったように飛び回る。
私は、転がるように部屋を飛び出して、ドアを閉めた。何匹か部屋から逃げ出たハエが周りを飛び回っているが、やがてどこかへ飛び去っていった。
喘ぐように息をして床に座り込んだ。鼻の奥にあの腐臭が張り付いているような気がする。
目を閉じると、まぶたの裏に薄暗い中で見た光景が広がる。
顔がつぶされた男の人だった。凹凸が完全になくなっていて、そこにぺたりとリネンが貼り付いていた。彼は見たことのある格好――病院のユニフォームを着ていたように見えた。
深呼吸を何度もしていると、徐々に気分が落ち着いてくる。
臭いも見た目も流石に強烈だった。薄暗くて、詳細があまりわからなかったことだけが幸いだ。克明に見えていたら、きっと嘔吐していただろう。
それにしても、なぜこんなところに遺体が? 彼はいったい、なんだったのだろう。
感染者に殺された犠牲者なのだろうか。その可能性が一番高いが、そうなると、ひとつ疑問がある。あのリネンだ。寝食を忘れるような興奮状態にある感染者たちが、死者の上にリネンをかけるような気遣いを見せるものだろうか。あれは、まるで死者を悼むような、あるいは隠匿するために、掛けられたもののような気がするのだが……。
もし、その考えで行くのであれば、少なくとも、リネンをあの遺体にかけた人物が――感染者ではない人が他にもう一人いたのではないだろうか。
それが、すぐそこの休憩所で亡くなっている女性だったらわかりやすいのだけれど……。
考えてもすべて憶測で終わってしまう。意味がない。
もう一度深呼吸して、立ち上がった。
これで、三階はすべて確認したが収穫らしいものはなかった。残りの上の階を回っても、収穫はないかもしれない。そもそも、何かを得ようと思って、探索を始めたわけではないことを思い出す。満足したら、別の脱出方法を考えればいい。
それなら、せっかくだから、上の階も見ておいていいのかも。
こんなところでもったいない精神を発揮しなくてもいいのに、と自分でつっこみを入れてしまう。
階段を使って四階に到着した。
内装は、壁紙の色が淡いブルーになった以外、ほぼ三階と同じだった。休憩所の窓が割れておらず、そこには車椅子が二台並べてあることや、テーブルの配置がやや違うことくらいの差しかない。
ナースステーションの隣の病室は部屋番号401号室から始まっている。
この階のナースステーションも特筆すべきことはない。その奥にある、バックヤードを見ようと、ナースステーションへのスイングドアを通ろうとしたときだった。
エレベーターの、到着を知らせる電子音がしてはっとした。
開きつつあるドアの向こうから、銃口が私に向けられる。反射的に手を上に上げ、バールを取り落とした。
「動くな!」
「撃たないで、感染してない!」
私の声と、その銃口の主の声が交差した。
エレベーターに乗っていたのは小柄で、帽子の上にヘッドセットをつけた若い男。リアンと同じような服装をしてる。軍人だ。ヒスパニック系の血が混じっているように見える。年齢は二十代の後半か。少し垂れ気味の双眸と日に焼けた肌が、どことなく幼い感じだ。身体の厚みは立派だが。
彼は油断なく距離を詰めると、しばらく私の顔を睨んだ後、表情を緩めて銃を降ろした。硬直する私に向け敬礼する。
「驚かしてすまない。俺は、ホセ・勇次・バーキン。ホセと呼んでくれ。勝田基地に所属している陸軍の隊員だ。感染者を鎮圧するために派遣された」
彼はかすかにイントネーションに癖のある日本語で妙にはきはきと名乗り、有無を言わせぬ強引さで握手を求めてきた。
私は戸惑いながらも、彼の手を握る。力強い握手だ。
「私は磯波美鹿」
彼はじっと私の顔を見る。やや色の薄い茶色の目が、昔近所で飼われていたシベリアンハスキーに似ている。
「あんたはどうしてここに? 避難しているところだった?」
「ええ。逃げ回ってここに」
「突然だが、助けてくれないか」
「はい?」
思わず聞き返す。すると彼は、そばかすの残る顔を曇らせてもう一度、助けてほしいと言った。
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