67 / 76
番外編 初春
虎は神の指先でまどろむ 3■
しおりを挟む
ダブルサイズのベッドの上で、窓を背に丸くなった三小田が、毛布をかぶっていた。
手を差し込むと布団は彼女の体温を吸って、温かかった。
隣に潜り込み、寝る体勢に入る。
瞼を閉じる前に彼女の顔を見ようと、その額に落ちた髪を指で払い、皮膚の盛り上がったミミズ腫れのような傷痕に触れた。このカーテン越しの薄明かりでは目視で判別できなくとも、指先で僅かな違和感を覚えるほどには、周りの滑らかで温かな皮膚から浮いている。
ふと、視線がぶつかった。睫毛の下から、こちらを見つめている二つの目。
三小田がおもむろに手を伸ばし、神前の頬を撫でた。恐る恐るという様子で。
「……怪我、しちゃったんですね」
さっきは何も言わなかったくせに、心配そうに指先で傷口を確かめる。
「眠れねえのか」
「うーん、心配になって目が覚めちゃって。氣虎さん、今回の事件のことなんにも話さないし。何かあったのかなって」
「別に」
普段は仕事が一段落すると、お互いにその件について話したりするが、今回はそれがためらわれた。その理由がきっと事件の内容によるものだと、神前はわかっていた。
「痛いですか」
「全然」
三小田が身を起こし、神前の頬の傷に口付けた。そのままぺろ、と舐める。繰り返し。
ぴりとした小さな刺激が走ったが、神前は好きにさせることにした。彼女の、丸い後頭部に手を添えて、髪に指を梳き入れる。地肌のぬくもりを感じた。
彼女はそれ以上、事件について言及する気はなさそうだった。いつか話す気になったらでいいと言外に示すように、傷口に舌を這わせながら、覆いかぶさってくる。
布越しの柔らかく温かい肉体とその重みを意識すると、先程彼女の喉元を見て生じた飢餓感が、神前の胸中にまた湧き上がってきた。浸透する彼女の熱が、体の奥に凝る冷たいものを溶かしていく。
何度も彼女の頭を撫でながら、神前は思う。
この丸くて小さな頭蓋の中に、インプラントが入らなくて、よかったのかもしれない。
彼女はきっとそれを悔しく思っているだろうが。
将来的に、生体インプラントに用いられている素材自体が改良されて、彼女もその恩恵に預かることも、あり得る。
だがそれまでに、不適合だなんて言葉が無いくらいには救済措置が整備されていて、誰しも不安なくその施術を受けることができる世になっていてもらわないと困る。
飽きもせず、自分の頬を優しく舐める三小田の頬に手を添え、引き離す。口付けたくて、その柔らかな頬に自分のものを擦り付けたくて。
その前に、ぱく、と三小田が神前の親指を口に含んだ。甘噛みし、いたずらっぽく笑う。
「もう眠いですか?」
「ちっとも眠くねー」
「じゃあ、お相手しましょう。そしたらぐっすりでしょう」
歓迎の表明に三小田の頭を引き寄せ、柔らかい唇を自分のそれで塞いだ。薄い皮膚の感触と弾力は、よく熟れた果実のようで夢中になる。ひとしきり堪能し、ふと、三小田の顔が険しくなっているのに気付いた。
「タバコ吸いました? 最近、量増えてませんか。吸殻入れ、ぎゅうぎゅうでしたけど」
「お前の間食も増えてるだろ。ゴミ箱溢れさせる気か。食うなら肉にしておけ」
反論が来る前にまた口を塞ぎ、今度は熱くて柔らかい舌を噛んだ。
彼女の服に手を差し込み腹を撫でる。触り心地が柔らかくなった。昨夏よりは。
昨冬、少し戻った三小田の体も、夏頃また薄くなってきた。単純に夏が苦手ということもあるのだろうが、それだけではないのは知っていた。こうして体を重ねるとその変化は顕著で、無理して自分にあわせていることがよくわかった。体は正直だという、まるでチープなポルノムービーのようなセリフを思い付いたほどだ。
声をかけるタイミングを見計らっているうちに、彼女は帰省し、戻ってきたらずいぶんすっきりした顔をしていた。それからは調子がよくなったらしい。
求められれば手助けするつもりではあったが、自分で消化する方法がわかったんだったらその方がいい。
今はもう、いい塩梅の肉付きに戻りつつある腹部から、ゆっくりと肋骨を上へ上へ辿り、ささやかな膨らみと腕の付け根の境を撫でる。唇の合わせ目から三小田の笑声混じりの吐息がもれた。それにはわずかに快感の甘さが混じっている。
「もっとちゃんとしてくれないと寝ちゃいますよ」
乳首をつまみつつ、もう片方の手をショーツの中に突っ込む。
「よく言う。こんなに濡らしておいて」
「ひゃ、ぁっ」
余裕ぶった笑みを一転させ、切なげに眉根を寄せた彼女は、小さく吐息を漏らし、神前の腿をまたいだ脚をもぞもぞさせた。
充血して膨らんだ陰核に蜜を絡めてやると、彼女の吐息の温度が上がり、間隔が短くなっていく。
三小田が耐えるように細い顎を上げ、瞼をぎゅっと閉じる。
その反応を確かめて、神前は彼女の中に指を挿入した。つぷ、という軽い抵抗のあとは、柔らかな肉が歓迎するようにきゅうきゅうと締め付けてくる。
「あ、あ……きもち、い……です」
「そうか」
気が急いて仕方がない。まどろこしい前戯は抜きに、彼女と体をつなげたい。
しかし、これは肉体的精神的な充足のために、必要なプロセスなのだと自分を戒める。
スウェットの上から勃起した陰茎を撫でられた。
三小田が長いまつげの下の潤んだ目で見つめてくる。数度服の上から感触を確かめ、彼女の指はおずおずと下着の中に侵入して、先走りのにじみ出る鈴口に触れた。茎を包んで、ちょっと強めの力加減で、しごかれる。
目で、吐息で、仕草でねだられている。彼女の方もまどろこしいのは十分らしい。
「どうしてほしい」
答えがわかっている問いを投げかけると、彼女はわずかにためらい、口を開いた。
「氣虎さんの、……ください」
神前はヘッドボードの引き出しに入っている避妊具に手を伸ばした。
身を起こし上掛けを跳ね上げる。自分の服を脱ぐ。
三小田も、もぞもぞ服を脱いでいた。
カーテン越しの光が、女の白い裸身をベッドの上に浮き立たせる。それを堪能するのは後にする。
背に手を添えて三小田を横にし、今度は神前が上になった。膝を掴み割り開かせた先にある彼女の熱い泥濘に、男根を突き立てる。
「ぁ、や、はぃ……てる」
彼女の唇から上ずった声が溢れる。
挿入のときの、彼女のこの表情が神前の情欲をたまらなくそそる。体内に侵入してくるものをまざまざと意識させられて、今まさに染め上げられていくというその顔が。
粘膜の熱さに責め立てられながらも、逸る気持ちを抑え込み、彼女が違和感を慣らして息をつくのを待つ。
抱きしめる彼女の首筋に鼻先を埋めた。シャンプーとボディーソープの、あたりさわりのない匂いに、甘酸っぱいような女の匂いが混ざっている。
肩口に乱れた温い吐息が当たり、神前はやおら腰を動かした。
彼女が痛がる素振りはない。徐々にスピードを上げる。
片手で体重を支え、もう片方の手でささやかで柔らかな三小田の胸を弄った。
「ぁあ、あ……あっ」
声の調子が変わり締め付けられ、彼女のいい場所にあたっているのだと悟った。凝った乳頭をつまむ指の力をわずかに強めれば、さらに声が高くなる。
温かで潤んだ肉を貪るほどに、集まった熱が解放に向けて疼く。
彼女の方も同じなのだろう、普段は限界まで強情に噛み殺す嬌声が、最初からぽろぽろこぼれている。
「き、きとら、さ……っ」
突き上げられて目測を誤った唇が、神前の顎に押し当てられた。次は頬の下あたり。
口付けを返してやってもまだ足りないのか、強請る切ない声が、氣虎、と呼んだ。
「なんだよ真藍」
三小田は頬を緩め、すぐにくしゃりとさせた。
「いくか」
必死に頷き、しがみついてくる体を抱きしめてやる。
「あっ、ああぁ」
感極まった声を聞きながら、収斂する膣による刺激に任せ、神前も息を詰めて達した。
二人分の荒い息が、寝室の空気を僅かに揺らす。
汗でこめかみに貼り付いた彼女の髪を、指で払ってやる。目が合うと三小田ははにかみ笑った。
神前は身を起こし、後始末をした。
滴る蜜を拭ってやるときは顔を背け目を泳がせていた彼女も、今は息を落ち着け、ぼんやり虚空を眺めている。
「ふあ……」
三小田が毛布も掛けず、全裸のままあくびをした。満足げで無防備に。
その柔らかな喉笛に噛みつきたい。凶暴な衝動に駆られ、神前は投げ出されていた華奢な足首を掴み開脚させた。
「うわっ、な、なんですか」
三小田は慌てて上半身を起こし膝をすり合わせる。その胸の前で組まれていた手首を、一掴みで頭上に引き上げ、隠されていた乳房に舌を這わせた。胸の横の部分が弱点であることは熟知している。期待通り、鼻にかかった悲鳴が上がった。
「ひゃ……ぁんっ、き、氣虎さん、私、も、十分っ、です」
「自分だけすっきりして終わりってことはないよな」
「えっ、だってさっき」
「もう一回。相手してくれるって、お前が言ったよな」
「い、言いましたけど、でも、うう」
取った言質を突きつけると、悔しそうな顔になる。回数制限を文言に盛り込み忘れたとでも思っているんだろうか。
先程はぞんざいな扱いをしてしまった体を、今度はじっくり味わうべきだと、立ち上がった乳首を口に含んだ。もう片方は指でくすぐる。
明るいところでその淡い色合いを眺めるのも好きだが、こうして視覚情報が制限された状況下で触れると、柔らかな皮膚の感触をいつもより鋭敏に感じ取れて、それはそれで気に入っている。
拘束していた手を解いても抵抗はなかった。神前の腕に添えられた指が、刺激にあわせてぴくぴくと震える。ん、ん、と声もこぼれだす。
視線を横にずらすと、細い二の腕に引き攣れた傷痕がある。だいぶ色は薄くなってきたが、縫い合わせた部分はぷくっと盛り上がっている。今度はそこを舌で撫でた。
「やぅっ! くすぐったいって言ってるのに、どうしていつも舐めるんですか」
非難の声に合わせて、彼女の背が震えた。
「お前だってベロベロ俺の舐めてたじゃねえか」
「そ、それはいつもあなたがやるから、やっ」
どうして舐めるか。
それは、なぜそこに傷ができてしまったか忘れないためだ。
そして、彼女が嫌がりながらも感じて身悶えるから。
時折思う。
このまま力任せにねじ伏せ、泣いて許しを請うまでいじめ倒したい。
なんなら、気絶するくらいまで追い込んでみたい。
どこまで彼女が許容してくれるか、その度量のほどを確かめたい。
頑是ない子供のようなその願望は、平時は鳴りを潜めている。心身ともに疲労していると鎌首をもたげるのだった。
反動だろうか。普段は、できる限り尊重し優しく扱い、自分が頼りがいのある人間だと示したい。何かの弾みにそれが切り替わる。
それでは彼女につまらないあだ名を付けた相手と同じだ。
みっともないと嫌悪しつつも、時にその衝動に負ける。
殆どの場合、三小田は怒りながらも受け入れてくれて、その彼女の反応に神前は気恥ずかしさと後ろめたさを覚え、冷静になる。
今日のところは――まだ制御できそうだった。うどんで腹がくちくなったからか。それとも、頬の傷を優しく舐められて、ささくれ立っていた気持ちもわずかながら癒やされたからだろうか。
「く、くすぐったい」
身を捩って逃げた三小田のひくひく動いている脇腹を、神前は指で撫でる。悲鳴があがった。面白くなり指を背中まで辿らせると、しなやかに反る白い肌のなか、肩甲骨の凹凸がうねるのを見てやたら興奮した。
まだ逃げようともがく腰を両手で捕まえる。彼女の抵抗など、さして意味もない。懲りもせず再度充血した自身を、蜜を滴らせているぬかるみに後ろから挿入した。
「ひあぁ……あ」
細い悲鳴が上がり、白い背中がまた反る。
くたりと上半身を敷布に預け、突いた手の甲に顎を乗せた三小田は、すがるような目を向けてきた。彼女の内腿の震えが伝わってくる。一度達し、その体内はいよいよ熱く潤んでいた。ねっとりした感触は、さっきとは違う。彼女の快感の度合いに応じて、中の状態が変化するのが楽しい。そんなこと言ったら三小田は顔を真っ赤にするだろうから、そのうちぜひ言おうと思う。
できれば膜越しではなくて直でこの熱を味わいたい。これまでも何度となく黙殺してきた願望を、それもいつかと心に留め、神前は一度は性急に穿ったそこをゆるゆる行き来した。蕩けきった彼女の顔が見たくて。
「んぅ……んっ、んんっ」
しかし、三小田は、唇を噛み締めて声を殺した。
さっきは素直だったくせに。
ならばと、神前は彼女の背中に胸を密着させて、手を伸ばした。陰核に蜜を絡めて撫でる。びくっと体を震わせて、彼女は悲鳴を上げた。
「あっ、それっ、やだ、やっ、……いく、っあ」
それまで強情に引き結ばれていた唇から、嬌声がこぼれた。
気分が高揚する。
この甘い声を聞く権利があるのは自分だけだというなら、それをもっと積極的に行使すべきだ。懈怠は許さぬ。
ひんひん情けない涙声を上げ、三小田が体を硬直させた。
引き絞るような膣の蠕動に神前も高められ、彼女の体を反転させ、その弛緩しきった顔を眺めながら達した。
褒めて嫌がられても、やはりこの顔が好きだった。
神前が与えた快楽を享受して、他の一切を手放した顔。
一番は普段の間抜けな笑顔なのだが、それはまだ伝えたことがなかった。彼女の方で出し惜しみしないから、つい言うタイミングを逃している。
口付けると、しばし受け身だった彼女も、やがて神前の首に手をまわし自分から舌を差し出してきた。
手を差し込むと布団は彼女の体温を吸って、温かかった。
隣に潜り込み、寝る体勢に入る。
瞼を閉じる前に彼女の顔を見ようと、その額に落ちた髪を指で払い、皮膚の盛り上がったミミズ腫れのような傷痕に触れた。このカーテン越しの薄明かりでは目視で判別できなくとも、指先で僅かな違和感を覚えるほどには、周りの滑らかで温かな皮膚から浮いている。
ふと、視線がぶつかった。睫毛の下から、こちらを見つめている二つの目。
三小田がおもむろに手を伸ばし、神前の頬を撫でた。恐る恐るという様子で。
「……怪我、しちゃったんですね」
さっきは何も言わなかったくせに、心配そうに指先で傷口を確かめる。
「眠れねえのか」
「うーん、心配になって目が覚めちゃって。氣虎さん、今回の事件のことなんにも話さないし。何かあったのかなって」
「別に」
普段は仕事が一段落すると、お互いにその件について話したりするが、今回はそれがためらわれた。その理由がきっと事件の内容によるものだと、神前はわかっていた。
「痛いですか」
「全然」
三小田が身を起こし、神前の頬の傷に口付けた。そのままぺろ、と舐める。繰り返し。
ぴりとした小さな刺激が走ったが、神前は好きにさせることにした。彼女の、丸い後頭部に手を添えて、髪に指を梳き入れる。地肌のぬくもりを感じた。
彼女はそれ以上、事件について言及する気はなさそうだった。いつか話す気になったらでいいと言外に示すように、傷口に舌を這わせながら、覆いかぶさってくる。
布越しの柔らかく温かい肉体とその重みを意識すると、先程彼女の喉元を見て生じた飢餓感が、神前の胸中にまた湧き上がってきた。浸透する彼女の熱が、体の奥に凝る冷たいものを溶かしていく。
何度も彼女の頭を撫でながら、神前は思う。
この丸くて小さな頭蓋の中に、インプラントが入らなくて、よかったのかもしれない。
彼女はきっとそれを悔しく思っているだろうが。
将来的に、生体インプラントに用いられている素材自体が改良されて、彼女もその恩恵に預かることも、あり得る。
だがそれまでに、不適合だなんて言葉が無いくらいには救済措置が整備されていて、誰しも不安なくその施術を受けることができる世になっていてもらわないと困る。
飽きもせず、自分の頬を優しく舐める三小田の頬に手を添え、引き離す。口付けたくて、その柔らかな頬に自分のものを擦り付けたくて。
その前に、ぱく、と三小田が神前の親指を口に含んだ。甘噛みし、いたずらっぽく笑う。
「もう眠いですか?」
「ちっとも眠くねー」
「じゃあ、お相手しましょう。そしたらぐっすりでしょう」
歓迎の表明に三小田の頭を引き寄せ、柔らかい唇を自分のそれで塞いだ。薄い皮膚の感触と弾力は、よく熟れた果実のようで夢中になる。ひとしきり堪能し、ふと、三小田の顔が険しくなっているのに気付いた。
「タバコ吸いました? 最近、量増えてませんか。吸殻入れ、ぎゅうぎゅうでしたけど」
「お前の間食も増えてるだろ。ゴミ箱溢れさせる気か。食うなら肉にしておけ」
反論が来る前にまた口を塞ぎ、今度は熱くて柔らかい舌を噛んだ。
彼女の服に手を差し込み腹を撫でる。触り心地が柔らかくなった。昨夏よりは。
昨冬、少し戻った三小田の体も、夏頃また薄くなってきた。単純に夏が苦手ということもあるのだろうが、それだけではないのは知っていた。こうして体を重ねるとその変化は顕著で、無理して自分にあわせていることがよくわかった。体は正直だという、まるでチープなポルノムービーのようなセリフを思い付いたほどだ。
声をかけるタイミングを見計らっているうちに、彼女は帰省し、戻ってきたらずいぶんすっきりした顔をしていた。それからは調子がよくなったらしい。
求められれば手助けするつもりではあったが、自分で消化する方法がわかったんだったらその方がいい。
今はもう、いい塩梅の肉付きに戻りつつある腹部から、ゆっくりと肋骨を上へ上へ辿り、ささやかな膨らみと腕の付け根の境を撫でる。唇の合わせ目から三小田の笑声混じりの吐息がもれた。それにはわずかに快感の甘さが混じっている。
「もっとちゃんとしてくれないと寝ちゃいますよ」
乳首をつまみつつ、もう片方の手をショーツの中に突っ込む。
「よく言う。こんなに濡らしておいて」
「ひゃ、ぁっ」
余裕ぶった笑みを一転させ、切なげに眉根を寄せた彼女は、小さく吐息を漏らし、神前の腿をまたいだ脚をもぞもぞさせた。
充血して膨らんだ陰核に蜜を絡めてやると、彼女の吐息の温度が上がり、間隔が短くなっていく。
三小田が耐えるように細い顎を上げ、瞼をぎゅっと閉じる。
その反応を確かめて、神前は彼女の中に指を挿入した。つぷ、という軽い抵抗のあとは、柔らかな肉が歓迎するようにきゅうきゅうと締め付けてくる。
「あ、あ……きもち、い……です」
「そうか」
気が急いて仕方がない。まどろこしい前戯は抜きに、彼女と体をつなげたい。
しかし、これは肉体的精神的な充足のために、必要なプロセスなのだと自分を戒める。
スウェットの上から勃起した陰茎を撫でられた。
三小田が長いまつげの下の潤んだ目で見つめてくる。数度服の上から感触を確かめ、彼女の指はおずおずと下着の中に侵入して、先走りのにじみ出る鈴口に触れた。茎を包んで、ちょっと強めの力加減で、しごかれる。
目で、吐息で、仕草でねだられている。彼女の方もまどろこしいのは十分らしい。
「どうしてほしい」
答えがわかっている問いを投げかけると、彼女はわずかにためらい、口を開いた。
「氣虎さんの、……ください」
神前はヘッドボードの引き出しに入っている避妊具に手を伸ばした。
身を起こし上掛けを跳ね上げる。自分の服を脱ぐ。
三小田も、もぞもぞ服を脱いでいた。
カーテン越しの光が、女の白い裸身をベッドの上に浮き立たせる。それを堪能するのは後にする。
背に手を添えて三小田を横にし、今度は神前が上になった。膝を掴み割り開かせた先にある彼女の熱い泥濘に、男根を突き立てる。
「ぁ、や、はぃ……てる」
彼女の唇から上ずった声が溢れる。
挿入のときの、彼女のこの表情が神前の情欲をたまらなくそそる。体内に侵入してくるものをまざまざと意識させられて、今まさに染め上げられていくというその顔が。
粘膜の熱さに責め立てられながらも、逸る気持ちを抑え込み、彼女が違和感を慣らして息をつくのを待つ。
抱きしめる彼女の首筋に鼻先を埋めた。シャンプーとボディーソープの、あたりさわりのない匂いに、甘酸っぱいような女の匂いが混ざっている。
肩口に乱れた温い吐息が当たり、神前はやおら腰を動かした。
彼女が痛がる素振りはない。徐々にスピードを上げる。
片手で体重を支え、もう片方の手でささやかで柔らかな三小田の胸を弄った。
「ぁあ、あ……あっ」
声の調子が変わり締め付けられ、彼女のいい場所にあたっているのだと悟った。凝った乳頭をつまむ指の力をわずかに強めれば、さらに声が高くなる。
温かで潤んだ肉を貪るほどに、集まった熱が解放に向けて疼く。
彼女の方も同じなのだろう、普段は限界まで強情に噛み殺す嬌声が、最初からぽろぽろこぼれている。
「き、きとら、さ……っ」
突き上げられて目測を誤った唇が、神前の顎に押し当てられた。次は頬の下あたり。
口付けを返してやってもまだ足りないのか、強請る切ない声が、氣虎、と呼んだ。
「なんだよ真藍」
三小田は頬を緩め、すぐにくしゃりとさせた。
「いくか」
必死に頷き、しがみついてくる体を抱きしめてやる。
「あっ、ああぁ」
感極まった声を聞きながら、収斂する膣による刺激に任せ、神前も息を詰めて達した。
二人分の荒い息が、寝室の空気を僅かに揺らす。
汗でこめかみに貼り付いた彼女の髪を、指で払ってやる。目が合うと三小田ははにかみ笑った。
神前は身を起こし、後始末をした。
滴る蜜を拭ってやるときは顔を背け目を泳がせていた彼女も、今は息を落ち着け、ぼんやり虚空を眺めている。
「ふあ……」
三小田が毛布も掛けず、全裸のままあくびをした。満足げで無防備に。
その柔らかな喉笛に噛みつきたい。凶暴な衝動に駆られ、神前は投げ出されていた華奢な足首を掴み開脚させた。
「うわっ、な、なんですか」
三小田は慌てて上半身を起こし膝をすり合わせる。その胸の前で組まれていた手首を、一掴みで頭上に引き上げ、隠されていた乳房に舌を這わせた。胸の横の部分が弱点であることは熟知している。期待通り、鼻にかかった悲鳴が上がった。
「ひゃ……ぁんっ、き、氣虎さん、私、も、十分っ、です」
「自分だけすっきりして終わりってことはないよな」
「えっ、だってさっき」
「もう一回。相手してくれるって、お前が言ったよな」
「い、言いましたけど、でも、うう」
取った言質を突きつけると、悔しそうな顔になる。回数制限を文言に盛り込み忘れたとでも思っているんだろうか。
先程はぞんざいな扱いをしてしまった体を、今度はじっくり味わうべきだと、立ち上がった乳首を口に含んだ。もう片方は指でくすぐる。
明るいところでその淡い色合いを眺めるのも好きだが、こうして視覚情報が制限された状況下で触れると、柔らかな皮膚の感触をいつもより鋭敏に感じ取れて、それはそれで気に入っている。
拘束していた手を解いても抵抗はなかった。神前の腕に添えられた指が、刺激にあわせてぴくぴくと震える。ん、ん、と声もこぼれだす。
視線を横にずらすと、細い二の腕に引き攣れた傷痕がある。だいぶ色は薄くなってきたが、縫い合わせた部分はぷくっと盛り上がっている。今度はそこを舌で撫でた。
「やぅっ! くすぐったいって言ってるのに、どうしていつも舐めるんですか」
非難の声に合わせて、彼女の背が震えた。
「お前だってベロベロ俺の舐めてたじゃねえか」
「そ、それはいつもあなたがやるから、やっ」
どうして舐めるか。
それは、なぜそこに傷ができてしまったか忘れないためだ。
そして、彼女が嫌がりながらも感じて身悶えるから。
時折思う。
このまま力任せにねじ伏せ、泣いて許しを請うまでいじめ倒したい。
なんなら、気絶するくらいまで追い込んでみたい。
どこまで彼女が許容してくれるか、その度量のほどを確かめたい。
頑是ない子供のようなその願望は、平時は鳴りを潜めている。心身ともに疲労していると鎌首をもたげるのだった。
反動だろうか。普段は、できる限り尊重し優しく扱い、自分が頼りがいのある人間だと示したい。何かの弾みにそれが切り替わる。
それでは彼女につまらないあだ名を付けた相手と同じだ。
みっともないと嫌悪しつつも、時にその衝動に負ける。
殆どの場合、三小田は怒りながらも受け入れてくれて、その彼女の反応に神前は気恥ずかしさと後ろめたさを覚え、冷静になる。
今日のところは――まだ制御できそうだった。うどんで腹がくちくなったからか。それとも、頬の傷を優しく舐められて、ささくれ立っていた気持ちもわずかながら癒やされたからだろうか。
「く、くすぐったい」
身を捩って逃げた三小田のひくひく動いている脇腹を、神前は指で撫でる。悲鳴があがった。面白くなり指を背中まで辿らせると、しなやかに反る白い肌のなか、肩甲骨の凹凸がうねるのを見てやたら興奮した。
まだ逃げようともがく腰を両手で捕まえる。彼女の抵抗など、さして意味もない。懲りもせず再度充血した自身を、蜜を滴らせているぬかるみに後ろから挿入した。
「ひあぁ……あ」
細い悲鳴が上がり、白い背中がまた反る。
くたりと上半身を敷布に預け、突いた手の甲に顎を乗せた三小田は、すがるような目を向けてきた。彼女の内腿の震えが伝わってくる。一度達し、その体内はいよいよ熱く潤んでいた。ねっとりした感触は、さっきとは違う。彼女の快感の度合いに応じて、中の状態が変化するのが楽しい。そんなこと言ったら三小田は顔を真っ赤にするだろうから、そのうちぜひ言おうと思う。
できれば膜越しではなくて直でこの熱を味わいたい。これまでも何度となく黙殺してきた願望を、それもいつかと心に留め、神前は一度は性急に穿ったそこをゆるゆる行き来した。蕩けきった彼女の顔が見たくて。
「んぅ……んっ、んんっ」
しかし、三小田は、唇を噛み締めて声を殺した。
さっきは素直だったくせに。
ならばと、神前は彼女の背中に胸を密着させて、手を伸ばした。陰核に蜜を絡めて撫でる。びくっと体を震わせて、彼女は悲鳴を上げた。
「あっ、それっ、やだ、やっ、……いく、っあ」
それまで強情に引き結ばれていた唇から、嬌声がこぼれた。
気分が高揚する。
この甘い声を聞く権利があるのは自分だけだというなら、それをもっと積極的に行使すべきだ。懈怠は許さぬ。
ひんひん情けない涙声を上げ、三小田が体を硬直させた。
引き絞るような膣の蠕動に神前も高められ、彼女の体を反転させ、その弛緩しきった顔を眺めながら達した。
褒めて嫌がられても、やはりこの顔が好きだった。
神前が与えた快楽を享受して、他の一切を手放した顔。
一番は普段の間抜けな笑顔なのだが、それはまだ伝えたことがなかった。彼女の方で出し惜しみしないから、つい言うタイミングを逃している。
口付けると、しばし受け身だった彼女も、やがて神前の首に手をまわし自分から舌を差し出してきた。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
憧れの童顔巨乳家庭教師といちゃいちゃラブラブにセックスするのは最高に気持ちいい
suna
恋愛
僕の家庭教師は完璧なひとだ。
かわいいと美しいだったらかわいい寄り。
美女か美少女だったら美少女寄り。
明るく元気と知的で真面目だったら後者。
お嬢様という言葉が彼女以上に似合う人間を僕はこれまて見たことがないような女性。
そのうえ、服の上からでもわかる圧倒的な巨乳。
そんな憧れの家庭教師・・・遠野栞といちゃいちゃラブラブにセックスをするだけの話。
ヒロインは丁寧語・敬語、年上家庭教師、お嬢様、ドMなどの属性・要素があります。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
【完結】【R18】淫らになるというウワサの御神酒をおとなしい彼女に飲ませたら、淫乱MAXになりました。
船橋ひろみ
恋愛
幼馴染みから、恋人となって数ヶ月の智彦とさゆり。
お互い好きな想いは募るものの、シャイなさゆりのガードが固く、セックスまでには至らなかった。
年始2日目、年始のデートはさゆりの発案で、山奥にある神社に行くことに。実はその神社の御神酒は「淫ら御神酒」という、都市伝説があり……。初々しいカップルの痴態を書いた、書き下ろし作品です。
※「小説家になろう」サイトでも掲載しています。題名は違いますが、内容はほとんど同じで、こちらが最新版です。
【R18】同級生のエロアカをみつけたので、いろんな「お願い」をすることにした
黒うさぎ
恋愛
SNSを眺めていた俺はとあるエロアカをみつけた。映りが悪く顔すら映っていない下着姿の画像。さして珍しくもないその画像に俺は目を奪われた。女の背後に映っている壁。そこには俺と同じ高校の制服が映りこんでいたのだ。
ノクターンノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる