11 / 20
11
しおりを挟むアルトゥステア歴七百十五年の十二月二日。火傷を負ってちょうど二年。
エクトルが王立魔法学園に入学し、そしてリュシヴィエールが生まれ育ったクロワ侯爵領キャメリアを後にした春から、再び季節が一巡しようとする。
リュシヴィエールが今いるのは、コーンウェール伯爵領シュロトカにひっそりとたたずむ小さな屋敷だった。位置関係としてはキャメリアの隣の隣、ここから馬車で一日すれば王都につける。王立魔法学園は王都にあるわけだから、エクトルとの距離はむしろ近くなったと言っていい。
シュロトカは【暁の森】と呼ばれる不気味な広葉樹林を所有する土地で、屋敷はその森のかたわらにあった。誰もわざわざ近づいてこようとはしない、人目につかない立地だから、問題ある貴婦人たちを幽閉するために使われてきたらしい。父がここを買い取りリュシヴィエールを住まわせたのだった。
――あの一件は不審火からの不幸な事故だったということになっている。
明らかな魔法の火を見たことについて、リュシヴィエールは口をつぐんだ。調査にやってきた王の調査官にさえ話さなかった。
魔法使いが没落しかけた侯爵家を燃やしてなんの利益がある? あれは明らかに誰かを狙って放たれた火だった。リュシヴィエールを? いいえ。それこそ没落貴族の令嬢を燃やしても意味がない。
暗殺者としてのエクトルがゲームの通り裏社会で名をはせていたのか知らないが、クロワ侯爵の犬として恨みを買っているのは事実だろう。命を狙われることも多かったと聞く。原作の強制力で、あるいはもっと別の理由で彼を狙って火が放たれた可能性はあった。
だからリュシヴィエールは、口を閉ざした。どんなことがあっても彼の足枷にはなりたくなかった。今、自分がそうなっている自覚があったからこそ。
……二年前。
入学前の最後の日の夜、エクトルはリュシヴィエールの寝室に現れた。リュシヴィエールはそのとき、肌けた胸と腕に軟膏を塗っている最中だった。
「エル、出てお行き」
「手伝うよ、姉上。これからしばらく会えないでしょ。最後くらいいいでしょ」
と肩をすくめる少年に、何も言い返せなかった。
治療魔法のおかげで肌のかさつきとデコボコはずいぶん治って、けれどまだ白さは戻らない。火傷の赤さはところどころを醜く腫れあがらせたまま、とくに黒く色素が沈着してしまった肘関節付近の見た目はなかなか目を逸らしたくなるものがある。
リュシヴィエールはしぶしぶ、薬草と魔法を練り合わせた軟膏をエクトルに手渡した。彼は慣れた手つきで木匙を持ち、容器の中をくるくる回して柔らかくしてから、リュシヴィエールの手の届かない背中や首の後ろに塗り広げた。
「このあたり、まだ皮膚が薄いですね」
「ぅ、んん。ええ、そうね……」
剣の練習の成果で硬い豆のある、すでに大人ほどに大きなエクトルの手が背中を滑る。すべすべした軟膏ごしに感じる手の温度、その手つきが患部を触る慎重さというよりは……どこか、大事なものを壊さないような意図を持っていると感じることから、必死に目を逸らした。
「学園の手引書は読んだの? どう? うまくやっていけそうかしら」
と話題を挙げて、リュシヴィエールはわざと能天気な声を出した。窓の外でざあざあと風が鳴っていた。
「全部読んだよ。俺がしくじると思う? きちんとやってくるよ。友達だって仲間だって作ってくる」
でもなあ、とエクトルは張り合うようなやけに明るい声を出す。
「貴族の友達なんて、これまでいなかったから。緊張するなあ」
王立魔法学園に入学すると生徒は皆、寮生活になる。親元から離れ自立心を得るため、どんな高貴な生まれであろうがそうする決まりだ。
首の付け根の丸い骨をかさついた親指がぐっと押す。リュシヴィエールはびくりと背骨を跳ねさせた。それにまるで気づかないふりをして、エクトルはぐっぐと指の力だけでリュシヴィエールの凝り固まった背中をほぐしていく。
「ティレルや他の年配の連中に聞いたんだ。友達を作るにはどうすればいいかって。そしたらみんな口を揃えて言う。相手の言葉をよく聞いて、気持ちを汲んでさしあげることですよって。あとは球技なり好きなことを協力してやるようにして、そしたら気づけば親友ですってさ――ハハ、ねえ姉上?」
「あ、な、なに?」
「それってまるで姉上が俺にしてくれたことみたいだよね」
ぐうう、っと名前の知らない感情でリュシヴィエールの胸はいっぱいになる。嬉しさのようなもどかしさのような、くすぐったい温かいもの。
「それなら俺はやり方を知っているもの。きっと大丈夫だよね」
「あ……のね、エル。エクトル」
「うん。なあに?」
――これからなかなか会えなくなるのだ、と思う。それならなおのこときちんと話すべきだとする自分と、逆に時間と距離を置くことで状況が変わるのを期待する自分がいる。
「エクトル、あなたは――わたくしと平民の子たちくらいとしか打ち解けてこなかったから。だから少し、他のご子息ご息女とは離れた部分があるかも、しれなくてよ」
「ああ、姉上」
エクトルの両手がリュシヴィエールの肩を掴み、親指が肩甲骨の間をぐっと押す。軟膏は塗り終えて、薄い治りかけの皮膚に配慮した按摩にほうっと息が漏れた。
エクトルのすることなら説明なんてなくてもリュシヴィエールは恐れることはないし、その逆もその通り。あんなに、近しかったのだもの。お互いにすること、されることに疑問や痛みを覚えることはない。
「俺があなた以外の女に首ったけになることはないよ」
息が詰まって、肺が膨らんだまま戻らなくなった。リュシヴィエールは息を吸い込もうと躍起になった。
「あなただけだよ」
深い諦念と執着を滲ませる澄んだ声。
火事以来、エクトルは自分を責めていた。どうしてもっと早く気づかなかったのか、あと一歩早く屋敷から出られていたら、と。
「あなたの……わたくしへの想いは、気の迷いだから」
エクトルの手にわずかに力が籠った。長い間寝付いていたので固まった筋肉は後遺症のひとつだ。そこを揉み解してもらえるのは嬉しいしありがたい、けれど――
「普通の女の子を見て、自分の中を見つめ直して。お願いよ。わたくしはそれだけを望んでる」
沈黙が落ちた。
エクトルがふっと笑う気配がして、やがてがさがさになった首筋の皮膚に吐息が触れる。
「エル!」
押しとどめようとした手をエクトルは掴んだ。
「俺が母上の子だと思うから、拒絶するのか?」
間近に見る青い目のふちに、銀の輪がきらきらと浮かび上がっていた。リュシヴィエールは目を逸らした。息を整えようとして、耳に吹きかけられた息、軽く触れた唇の渇いた感触にひっくり返りそうになる。
わなわな震える手で、それでもなんとか、エクトルの小さく形より丸い頭を押しのけることができた。
「可能性はあるだろ、姉上? あの母上だ。どうしようもない人だ。自分が産んだんじゃない赤ん坊を押し付けられて連れ帰ってきたり、するかもしれないだろ。頭が悪い人なんだって、みんな言ってるじゃないか!」
「母の悪口などいうものじゃないわ、エクトル。それにそんなことをする理由がどこにもないじゃない。あの母上が? ご自身の名誉すべてと引き換えに、赤ん坊を助けるなんて。ありえないわ」
「学園に慣れたらね、王宮の内情を知ってる生徒を探すつもりでいるんだ。何かわかるかもしれない」
リュシヴィエールは黙ってエクトルから身を離す。
「もう行きなさい。やっぱり部屋に入れるのではなかったわ」
元はメイド用の、粗末な小屋である。壁の穴にリネンを詰めて隙間風を塞ぎ、小さな暖炉にめいっぱい薪を突っ込んでお嬢様が寒くないようにしてあるだけの。
「姉上。もしそれで、俺たちがなんでもなかったら……俺とあなたは」
「仮にそうだったとしてもわたくしはおまえなんか相手にしないわ」
リュシヴィエールはきっぱりと首を横に振った。あの北の塔でのキスの余韻がじんわりと唇に蘇ったのを、知らないふりして。
そうだとも、リュシヴィエールが悪い。応えようとしたこの肉体が悪い。エクトルが王立魔法学園でゲームのストーリーを体験出来たら、それ以上のことはないでしょう? お相手は【癒しの歌の聖女】。神に選ばれた、人を蘇らせることさえできる万能の治療術師なのだ。
リュシヴィエールは頑なに言い募った。自分からエクトルが離れていくのは切なく、けれど大歓迎だった。そう思わなければならなかった。
「ただの弟ですからね、おまえは」
エクトルはぐっと唇を噛み締める。拳を握った彼に心が痛んだ。
それでも、火傷まみれの年増女と生涯を共にして一生と才能を棒に振る選択肢を選ぼうとする愛しい少年を留めるためなら、なんでもやった。
そっと小屋を出ていく少年の背中を見送り、まともに話したのはそれが最後だった。
翌朝、まだ朝もやの出ている屋敷前の大通りにリュシヴィエールはエクトルを見送った。
何かを言い合うような時間はなく、ギリギリまで荷物を詰め込んだトランクを引きずるエクトルは不釣り合いに幼く見える。彼はしばらく不貞腐れたように下を向いていたが、やがて顔を上げて、
「それじゃあ……行ってきます」
とだけ言った。門の向こうに止まっている馬車には近隣の学生たちのうちお金のない者が、つまり平民の特待生だとか支援者を得て入学した商家の子息などが鮨詰めに詰め込まれている。女子生徒たちはスカートの裾をお尻の下にたくしこみ、男子生徒たちは足を縮めて身をかがめる。
エクトルが息を詰まらせないかリュシヴィエールは心配した。だが声を上げることを我慢した。我慢できた。
「じゃあ、姉上。身体を冷やさないで。薬はちゃんと塗って」
そうして手を振り、エクトルは駆けていく。
これでよかったのだ、と思った。いつまでも不健康に家の中で怪我人の姉のことばかり見ていないで。もっと広い、明るいところが彼にふさわしい。
「青春を楽しんで。友達や恋人と…」
と一人呟く声には羨望が混じっていた。リュシヴィエールにはどこかからりとした達観があった。
……これで原作ゲームのストーリーが始まる。そしてリュシヴィエールはエクトルを殺さない。決して、それだけはしない。
王立魔法学園での青春と、その先にある未来がエクトルを待っている。仮に原作の強制力じみた何かが運命の名の下にリュシヴィエールを凶行に駆り立てるのだとして――だったら自殺してでも自分の腕を止めてやる。その覚悟がリュシヴィエールにはある。
今までは違った。仮にも若い美しい女だった頃には、自らを惜しむ一人前の気持ちがあった。
けれど今ここに残るのは、若くもない火傷を負った片足を引きずる女である。一生を人の善意に縋って生きなければならない、もはや貴族の血筋さえ重荷になるほどの身。
誰になんの見栄を張る必要もなく、自分自身にさえ嘘をつかなくていい。
リュシヴィエールはやっと解放された気持ちだった。
この先エクトルの人生にリュシヴィエールが必要なくなり、手紙のやりとりさえ間遠になるのだとしても――死にたいほど悲しくなっても死ぬことはないだろう。
リュシヴィエールはいつまでも馬車の後ろ姿を、わだちの跡を見送った。やがてさんさんと春の太陽が頭上に輝くようになるまで。
そして荷物をまとめ、取り壊されるクロワ邸をあとにしてシュロトカの【暁の森】の近くに引っ越してきたのだった。
クロワ邸は再建され、父とその『妻子』が住むのだという。彼が再び仕事にやる気を見せたのなら、それは何より領民にとっていいことだ。やはりリュシヴィエールでは書類仕事ひとつとっても限界がある、小娘を舐めた管財人に掠め取られたぶんの財源を、父は正しく取り返すに違いない。
言葉はもらえなかったが、父の署名と封印のあるぶっきらぼうな手紙が一枚、きていた。貴族令嬢が着飾るには少ないが、女一人が生きていくには足りるほどの年金の支給の報せだった。将来を悲観する他ない身の上だったが、たとえ父が死んだら途絶えるかもしれない送金でもしばらくの安泰を保証されるのは助かった。父を愛していなかったが、感謝の念はあった。
あとの人生はリュシヴィエールの心得次第である。
そのようにしてリュシヴィエールの新しい生活が始まった。人が近寄らぬ魔が住むという【暁の森】のかたわらで。彼女はもう貴族ではない。貴族の屋敷に住まない貴族の血を持つだけの火傷の女。
自由の味がこれだというのなら、なんて苦くかぐわしいものだろう。
306
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる