旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす

烏兎 美々子

文字の大きさ
上 下
3 / 14
優雅に娶られる

しおりを挟む
 
 手入れのされた奥ゆかしい日本庭園の中を通り抜ける。庭は所々苔むしていて、それがまた歴史ある風情がある。
 敷石を踏みしめながら、私達は来賓別邸へとたどり着いた。
 別邸へと目をやると、直ぐ様父様が近づいてきた。
 「遅いぞ凛子。早く入らんか。」
 「すみません、父様。」
 聞けば来客まであと数分。
 玄関口から入り、下駄をきちんと揃えてから客間に向かった。
 今まで入ったことがない上客用の客間。
 入れば桧の心地よい薫りがする。
 そして、私は淑やかに座布団に正座して、時を待つ。
 数刻して、「来客の方が、無事に着きました。」報告があった。
 待ちに待った来客、私の顔がパッと明るくなる。

 「凛子、俺と結婚するんだ。もう決定だ。異論は認めない。」

 数秒だった。襖が開いて、見目麗しい男前が出てきて、そして、こう言ったのだ。
 紺碧のスーツに漆黒のネクタイ、手入れのいき届いた純白のワイシャツが、上等の男だということをイヤというほど解らせてくる。
 あまりにも立派すぎる男前は、私に近づいて、跪き手をとってきた。
 「ここにいる時間は無い。もう出発するからな、凛子。」
 「…っ!?なんで!?」
 突然の展開に思考が追いつかない。
 さっきから、凛子凛子って、呼ぶ口調が馴れ馴れしすぎるにも程があるし。
 急速すぎるのでは、この男。
 いくら、上客といえど、私を秒で娶るなんて…。
 娶るなんて!?
 そうこう考えて、事の重大さに気づく間に、私は男前に手を引かれて、迎えの車の前まで着ていた。

 ロールスロイスの扉が御付きの者に開かれて、私は社内に押し込められていく。
 「よし、予約済みのレストランまで行ってくれ。」
 「かしこまりました、旦那様。」
 このまま、順調に出発しそう。
 私と男前は社内で隣同士で密着してるけれど、男前の隣に居て、安心するような。
 …なんでかな?どこか懐かしい感じがするのは。
 私が、謎の男前の顔を見つめていると、父様の大声がした。
 「麟斗様!娘をどうか、宜しく頼みます!!」
 深々と礼をしながら、父様は私達を乗せた車を見送っていた。
 いや、待ってよ!?今さっき「りんと」って言った?

 …「りんと」って、あの「麟斗くん」?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

双子の事情

詩織
恋愛
顔がそっくりな私達。 好きな食べ物、好きな服、趣味、そして好きな人、全て同じな私達。 ずっと仲良くいたいけど、私はいつも複雑で…

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

Dive in !〜貴方に食べて貰いたい〜

鳴宮鶉子
恋愛
2つ年上の大好きな幼馴染大河に毎日手料理を作り尽くす美優。大河の事を愛しているからなのに、大河に気持ちが通じなくて……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ハメラレ婚〜こんな奴と結婚したくなかった!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
仕事のミスを助けて貰っていい奴と思ったのに、飲まされ意識朦朧してるのをいい事に役所に連れて行かれ婚姻届提出しちゃいました

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...