旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす

烏兎 美々子

文字の大きさ
上 下
2 / 14
優雅に娶られる

しおりを挟む
 なんてことない、何時もの朝が来た。
 寝室の、緋色のカーテンの隙間から光が漏れて、私の視界にちらつく。
 「ふあぁ…もう朝なの?」
 寝ぼけながらも身体を起こして、普段通りのルーティンをこなすために、起床する。

 こんな生活、何時まで続くのーーー?

 私、蝶野凛子は令嬢。年齢は二十五歳。
 と、いっても旅館経営社の令嬢であって、しかも旅館は経営が傾きかけている。
 いわゆる【斜陽】となっているのよね。
 そんな不安定な環境で、それでも直向きに、健気に、旅館経営を続けてゆく私達。
 令嬢なのに、いまいちパッとしなくて申し訳ない…。
 申し訳なくなるのは、私が独身だからだ。
 私が、社交界で一際際立つ存在だったら、この旅館経営難も救えるような、切り札として使えるのに…。
 私がじゃじゃ馬もいいところだから、嫁ぎ先が無いのかな…。
 旅館の経営が傾きかけてからというもの、私はひたすら経営に尽力してきた。
 きっと、社交界では嫁にしたい至高の女性…どころか、堅すぎて食えない女として噂されているだろうな。
 誰とも知らない男に食われるなんて嫌だけど、そんなこと気にしてる場合じゃ無い!
 旅館の危機は、私が救わないと!
 …私が仕事しても、少ししか良くならなかったし…。
 自分が動いても、劇的に改善されない現実に半ば悲しくなりながらも、身支度を始める。

 「そうそう…。今日は、来客があるんだったっけ。」
 「私が必ず出迎えなきゃいけない来客なんて、珍しいかも。」
 普段の来客は、平社員の従業員や交渉担当の者が対応してくれているので、私相手には来ることは滅多にない。
 (これは、もしかしたら、とてつもなく重要な案件が来るのかしら!?)
 もしかしたら、総理大臣が泊まりにいらっしゃるのかもしれないって事!?
 そうでなければ、『今日は必ず。必ず、上等の着物を着てきなさい。』と、会長である父・虎治に言われないはずだ。
 私は、テーブルの上に置いておいた着物を取る。
 昨日念入りに選んだ、翡翠色の上品な着物を、丁寧に手で扱いながら、淑やかに着替えていく。
 流石は地元でも長く続く旅館の令嬢である。
 所作がとても美しく、その姿を見るものは一目で見惚れるだろう。
 「さっ。これなら訪問相手が国の官僚だったって、失礼ないはず。」
 着物や髪が乱れていないか確認するため、鏡の前に立ってみた。
 自分で言うのも難だが、非常に美しいのでは?

 「よっしっ!これで極上案件ゲットよ!」
 総理大臣の宿泊予約ではないかもしれないけれども、少くなくとも極上案件の筈。
 もしかしたら、旅館も好業績になるかも…!
 上機嫌のあまり、鼻歌を歌わずには居られない。
 『恋してもいいかも』という、今人気のJ-POPを口ずさみ、クルリと小躍りする。
 「凛子様、早くおいで下さい。来客に間に合わなくなりますので。」
 今日の来客の為に、御付きの者が付いているのだった。
 「ごめんなさい!今行くから…!」
 私は御付きの女と共に、来賓用の別邸へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

双子の事情

詩織
恋愛
顔がそっくりな私達。 好きな食べ物、好きな服、趣味、そして好きな人、全て同じな私達。 ずっと仲良くいたいけど、私はいつも複雑で…

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

Dive in !〜貴方に食べて貰いたい〜

鳴宮鶉子
恋愛
2つ年上の大好きな幼馴染大河に毎日手料理を作り尽くす美優。大河の事を愛しているからなのに、大河に気持ちが通じなくて……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ハメラレ婚〜こんな奴と結婚したくなかった!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
仕事のミスを助けて貰っていい奴と思ったのに、飲まされ意識朦朧してるのをいい事に役所に連れて行かれ婚姻届提出しちゃいました

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

処理中です...