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第四十六話
しおりを挟むいよいよフィオナが学校に通う初日がやってくる。
「お、おかしくないかな?」
制服に身を包んだフィオナがクライブとエルナに自身の姿を確認する。
頭には大きなリボンをして、その上に帽子をかぶり、彼女のサイズにあわせてあつらえられた制服はとてもよく似合っている。彼女が魔族であるがゆえにある角はリボンと帽子でうまく隠せていた。
肩にポシェットのようなカバンをかけ、くるりとひと回りして見せる姿はかわいらしいものだった。
「おかしくない、まるで天使かと思ったぞ」
「わかります」
彼女の愛らしさにデレデレしそうになる顔を抑えきれていないクライブの言葉に、にっこりと笑顔のエルナが即答する。
「そ、そんなこと……うぅ、はずかしい!」
二人がストレートに褒めてくるのでフィオナは顔を真っ赤にして、両手でその顔を隠してしまう。
「ほらほら、可愛い顔を隠してないで出発しますよ。旦那様は今日は依頼に出かけるとのことなので、私が学校まで付き添いますね」
「ひ、ひとりでいけるよ!」
提案を拒否しようとするフィオナだったが、エルナはゆっくりと首を横に振る。
「まずは職員室にいって、先生に挨拶をしないとですので私の同行は必要なのですよ。帰りは、恐らく一人で帰ることになると思いますので、行くときに道順をしっかりと覚えて下さいね」
「う、うん」
最初は一人で行くといったものの、どこか自信のない様子でフィオナが返事をする。
「それでは出発しましょうか。旦那様、行ってまいります」
「クライブ、いってきまーす!」
屋敷を元気よく出発するフィオナの背中をクライブは笑顔で見送っていた。
その背中が見えなくなるまで手を振り続け、見えなくなったところでクライブは家に鍵をかけてガルムたちを伴ってでかけることにする。
学校に通うという一つ前に進んだフィオナ。
それに対して、自分も成長していかないといけないなと感じたクライブは、今日の最初の目的地を定めていた。
「まずは俺自身が強くならないとな……」
そう呟いてやってきたのは武器屋だった。
クライブが持っているのは、絡んできた冒険者から手に入れた剣と元々持っていた古いナイフだけ。
だから、自分に適した武器が欲しいと考えていた。
「というわけなんだけど、何がいいかわからない……」
多くの武器が並んでいる店の中において、クライブは自分がどんな武器を手にするべきなのかが分からずにいた。
基本的に戦闘はガルムたちに任せている部分があり、回復魔術士である自分に合う武器が想像できなかった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
悩んでいるクライブのもとへ店員が声をかけてくる。穏やかな青年が対応してくれた。
「えーっと、その、普段は片手剣とかナイフを使っているんですけどどうもしっくりこないんですよね。だから、自分にあった武器が何かないかと思って……」
クライブは素直に自分が何を使えばいいのかわからずに悩んでいることを伝える。
「ふーむ、なるほどなるほど。片手剣とナイフがダメとなると……そうですね、槍か片手斧などはいかがでしょうか? 槍は突きにも払いにも使えますし投げることもできます。離れた場所から攻撃できるので、優れた武器です。一方で片手斧は、剣よりは重いですが威力が高く大きな斧に比べて小回りが利くと思います」
勧められた武器を順番に手に取ってみる。
「うーん……」
武器として振るったわけではないが、クライブはどちらもしっくりこなかった。
この槍や、この片手斧がダメなのか、それともこれらの種類の武器が自分に合わないのかわからないが、とにかくピンときていない。
その後も、いくつかの武器を試してみる。
店の中の開けた場所で軽く素振りなどをしてみたりもしたが、やはりどれもイマイチである。
店員はクライブが武器を持つ様子、振るう様子を見てこれらの武器が違うということを感じ取っている。
「お客様にはうちの店の武器は合わないかもしれませんね……」
「……ガーン!」
衝撃的な宣言をされてしまったため、クライブはショックを古典的な表現で口にしてしまう。
「い、いえ、その勘違いさせてしまったのなら申し訳ありません。うちの店に置かれている武器はもちろん品質には自信を持っておりますが、当店に置いてある武器ではお客様をご満足させることができないようです」
申し訳なさそうに店員は謝罪をしながら、先ほどの言葉を補足するが、それでもこの店に自分に向いた武器がないという事実は変わらずクライブはガックリと肩を落としていた。
「お、お待ち下さい。あくまでうちの店ではということです。よろしければこちらの店に行ってみて下さい」
慌てたようにそう言いながら、店名の書いてある地図を渡してくれる。
「ここは?」
そこに記されている店名には鋼の工房とある。
「工房とありますがいわゆる武器屋です。ただ、うちのような大衆向けといいますが多くの物を多くのお客様に提供する店とは異なって、お客様と話をして要望に応えて武器を作るという店なのです」
それを聞いてクライブはなるほどと頷いた。
「その店ならもしかしたら俺の武器を作ってもらえるかも?」
「しれません」
光明が見えたことにクライブの顔が明るくなる、がすぐに疑問が浮かんでいた。
「なぜ別の武器屋を? 客を他の店に紹介するのは、ライバルの援護になるのでは?」
当然の疑問をクライブが口にした。
同じ武器屋であるなら客層の違いは確かにあれど、紹介することは理解に苦しむ部分である。
「ふふっ、実はここは弟の店なのですよ。私とは考えの違いからスタイルの異なる店を営んでいますが、それでも弟なので彼の店にも繁盛してほしいという気持ちがあるのです」
店員は照れながらそんな説明をする。その表情からは弟のことを大事に思っているのが伝わってきた。
「わかりました。それじゃあ、ここに行ってみます!」
「……あっ!」
店員はまだ何か言いたそうな様子だったが、その声はクライブに届くことはなく背中に消えていった。
「さて、早速この鋼の工房に行ってみよう!」
クライブは店を出ると、外で待機させていたガルムとプルルを伴って教えてもらった店へと向かって行く。
しばらく街中を歩いていくが、徐々に店や民家がの数が減っていき、あたりの風景が寂しくなってくる。
「こっちであってるよな……?」
内心不安を感じつつもクライブは地図を見て首を傾げながら、それでも進んでいく。
「ガウ!」
そのとき、ガルムが何かを発見して声をかけた。
「えっ? あっ、あそこか……」
ガルムが指し示した先――そこは確かに武器屋だった。
店の屋根には巨大な剣が飾っており、そこに『鋼の工房』と記されている。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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