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第四十四話
しおりを挟むフィオナとエルナがそれぞれの席に戻ったところで、クライブが話を戻す。
「俺は魔術を使う元孤児、フィオナは魔族、エルナは鬼族の末裔とそれぞれが人にあんまり言わないほうがいい秘密を抱えている。魔術なんてそもそもみんな知らないし、魔族は怖がられているし、鬼族なんて本当にいるのか? いたら危険って思われてるから。でも、俺たちはそれぞれが相手のことを深く知れてよかったと思っている。だろ?」
ふっと優しく笑ったクライブに話を振られた二人は当然だという思いを込めて笑顔で頷いている。
「だから、今から再スタートってことで、これまで打ち明けなかったとかそういう些細なことはおいとこう。それより、どうしたものかね……」
腕を組んだクライブは別のことに頭を悩ませている。
「なにかこまってるの?」
そんなフィオナの質問にクライブは苦笑しながら頭を撫でる。
「あの魚人の存在、ですね」
エルナはクライブの悩みに気づいており、そう口にした。
あの魚人はクライブたちが気づいていないことや、秘密にしていたことを理解しているようだった。
そして、エルナに一撃で吹き飛ばされはしたものの強力な力を持っており、なにより誰かの指示で動いているとの話だった。
「俺の予想だと、フィオナを追いかけて来たやつの仲間とかなんじゃないかと思う。魔族の気配がしたから姿を現したって言っていたから……」
この話はフィオナもエルナも覚えており、神妙な面持ちで頷いていた。
「俺たちがこの街に来る道中で、フィオナを狙ってきたやつがいてそいつは倒した。フィオナの叔父さんを殺したのもそいつらしい。叔父さんはフィオナを連れて俺が拠点にしていた街の近くまで逃げて来ていた」
クライブは亡くなった叔父のことを思い出させる話をしていると自覚していたが、それでも話を止めない。
フィオナは必要な説明であるとわかっているため、頑張って話を聞いている。
しかし、何かをこらえるようにその右手はクライブの服の裾を掴んでいた。
「つまり、今回のあの魚人もそいつと同じくフィオナを追いかけてんじゃないかと予想している。たまたま向かった森でたまたま出会ったなんて、どんな確率だよって思うけどね。いや……もしかして」
クライブは話をしている途中で何かに気づいたのか、フィオナに向かい合った。
「プルル」
そして、プルルを呼び寄せた。
「フィオナ、ちょっと動くなよ。もしかして……プルルも何か変わったものがないか確認してくれ」
クライブはフィオナの手や顔や髪などを確認していく。
「きゅー」
もそもそとフィオナの頭に乗っかったプルルは髪の毛の中などの細かい場所を確認していた。
「うぅぅ」
フィオナはくすぐったさになんとか耐えながら二人のチェックが終わるのを待っている。
「きゅきゅー!!」
問題のものを見つけたプルルは大きな声を出すと、パッとフィオナから離れた。
そして、そのブツをクライブに渡す。
「これは……わかるか?」
それは小さな魔道具で、更に小さな魔石がはめ込まれている。
「詳しくは専門家に調べてもらわないとわかりませんが、何やら見慣れない魔力を放っているように思われます。もしかしてこれが……?」
「確信はないけど、恐らく……」
二人の結論は同じである。
この魔道具がフィオナの身体に付着していたことで、追跡されやすい状態にあったのだろうと。
「プルル、これを体内に収納して外に魔力や何かが漏れないようにできるか?」
「きゅー(うん)!」
そう来るだろうと予想していたプルルは即答で返事をする。
そして、宣言通りに魔道具を身体の中に飲み込んでいく。プルルのやわらかい身体の中に吸収されたそれはあっという間に見えなくなった。
「さて、これで一安心。あの魚人から俺たちの情報が漏れたということもないだろう。あいつが吹き飛んで、すぐに毒で死んで、身体は湖の底にある」
つまり、誰かに情報を渡す猶予はなかったはずである。
「……でも、楽観視はできない。いずれまた刺客がやってくる可能性がある」
一度ホッとさせておいて、ここにきてクライブが緊張させる一言を口にした。
「さて、そこでだ。それに対抗するために俺たちができることを考えていこうじゃないか」
クライブはニカッと笑うと、前向きな提案をする。
このまま、ただ指をくわえていつかくる追っ手との戦いを待つのか。
そんなことをしていては、その時がきたら危険が迫ってくる。
「まず俺だ。俺は魔物と契約することで強くなっていく。だから、もっと色々な魔物と契約していく。魔物も俺と契約することで強くなるから、互いにいい関係になれる。屋敷にも警備として魔物をおいておきたい。もちろん冒険者として活動していくことで俺自身を鍛えるのも忘れない」
これがクライブと、そして契約する魔物に関してのクライブの考えである。
といっても、これは今までと大きく変わるものではなく意識がより強化に向くということである。
「それで、次はエルナ。君だ」
「わ、私ですか?」
指をさされて、名指しされたことでエルナは動揺してしまった。
戦えることは見せたため、そんな話が来るとは思っていた。
しかし、いざその時が来ると緊張してしまう。
「エルナが強いのはよくわかった。俺に飛んできた攻撃を全て防いでくれたし、何よりあの一撃の威力は相当なものだ。でも、最近はそんなに戦うことはなかったんだろ?」
強力な一撃を繰り出した時は見事だったが、手加減がしっかりできていたか不安な様子が見られていた。
「それは、はい。基本的に私はメイドです。もちろん掃除や洗濯や料理などの家事、それに買い出しなどが仕事でした。今もそうです。戦う力は持っていますが、それを使うことはここ最近はほとんどありませんでした」
自分の不甲斐なさに一瞬だけ落ち込み、しかし次に戦う時はもっと自信を持って戦えるように考えを改める。
「うん、わかってるみたいだから大丈夫だね。うちのことはみんなでやればいい。そうして、できた時間でトレーニングをしておいてくれ」
「はい!」
エルナもわかっており、決意を秘めた表情で頷いた。
「次にフィオナだ」
「はい!」
いよいよ自分の順番だと、フィオナは背筋を伸ばして手を挙げると元気よく返事をする。
「まずフィオナはいくつかある。狙われているのはフィオナらしい。だからフィオナはなんで狙われているのか、思いだしたことがあったらすぐに話してくれ」
「は、はい!」
今現在、思い出せることがないため、不安な思いがありながらもフィオナは返事をした。
「次に、この街のことをもっと色々調べてからにはなるけど、フィオナには学校に通ってもらおうと思う」
「が、がっこう……?」
思ってもみない提案に彼女は首を傾げている。
「あぁ、こちら側の当たり前を、色々な知識を身に着けるのは将来の自分を助けることになる。色々な人と交流することで考え方を広げることができる。それに……子どもは学ぶべきだ」
「はい、そのとおりです」
「うーん……」
クライブの考えに賛同するエルナ。
しかし、フィオナは納得がいかない様子である。
「納得できない気持ちはわかるけど、とにかく勉強はしておくに越したことはない」
「でも!」
フィオナは自分だけ思い出すことと勉強だけということに不満を訴えようとする。
しかし、クライブの話は終わっていないため、笑顔で彼女に座るように促した。
「わかってる。フィオナにやってもらいたいのはそれだけじゃない。前にも話したようにエルナと一緒に戦闘訓練もしてくれ。魔族だから肉体的な強さもあるだろうし、練習すれば魔法も使えるようになるはずだ。期待しているぞ」
「う、うん!」
優しく頭を撫でながらのクライブの提案に、フィオナは嬉しくなり笑顔で頷く。
ここから、三人の強くなるための生活が始まっていく――。
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