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第四十話

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 食事を終え、片付けも終わったところで、全員リビングルームに集まって今日の依頼の話をする。

 ドラゴンと会ったことや、氷鳥の本来の名前がアイスバードでその上位個体の命を救ったこと。
 そこで、ツララを仲間にしたことなどを、その時の心境なども交えて説明していく。

「――すごい!」
 聞いている途中でも口にしていたセリフだが、ぱあっと顔を明るくなったフィオナはクライブの話を聞き終えて、興奮交じりに再度そう言ってクライブたちを称賛していた。

「いやあ、それほどでも」
 素直に言葉をぶつけてくるフィオナの言葉にクライブは照れた様子で頭を掻いている。

「そ、それでドラゴンはどのような感じでしたか?」
 こちらはエルナからの質問だった。彼女はドラゴンと直接会ったという話を聞いて興奮していた。

「ど、どのようなってさっき話したとおりだけど、すごくデカいし、存在感が半端なかったよ。今回は弱っていた上に俺が治療した形だから好意的に話してくれたけど、もし怪我をしてなくて俺たちに敵意を持っていたら……」
「もっていたら?」
 クライブがタメを作ったため、恐る恐るといったようにフィオナが質問する。

「い、いいじゃないですか! みんな無事に帰ってきたのですから! さあさあ、フィオナ。お風呂に入りましょう!」
 クライブは話の流れが悪い方向にいってしまったことに気づいて、エルナに目配せをしていた。
 それを察したエルナが手を打って立ち上がりながら話題を転換して、屋敷に設置されている風呂へとフィオナの背を押して強引に連れていった。

 夕食の片づけをしたあとに、丁度風呂を沸かしておいたのが功を奏した結果となる。

「いやあ、今のは失敗だったな。エルナの質問に答える形だったけど、俺たちがここに戻ってこないなんて話はしないほうがいいからな……」
 うっかりそんなことを口走りそうになった自分の頭をコツリと叩いて戒める。

 父も母も叔父も失った彼女にとって、家族がいなくなるのは心への大きな負担となることが考えられるため、今後はうっかりとしても言わないようにと心に強く決めていた。

 風呂からあがったフィオナはすっかりこの話のことを忘れて、ツララと遊んでいた。
 その後クライブも風呂に入って、のんびりと過ごすことができた。


 翌日

 この日はクライブは依頼にはでかけず、フィオナ、エルナを伴って散策にでかけている。
 出かけたのは街の北にある森。

 今日はフィオナと一緒に遊ぶ日と決めてここにやってきていた。
 この森は凶暴な魔物が出ることはなく、のんびりと過ごせる場所だと聞いていたため、選んでいた。

 フィオナはガルムの背中に乗って景色を楽しみながら鼻歌を歌い、エルナは大きなバスケットに詰め込んだお弁当を運んでいる。
 クライブは数歩先を歩いているが、彼は周囲の気配を探るのを目的としていた。

 といって、彼自身の力だけではそれを行うのは難しいため、スライム何体かを先行させて周囲に魔物がいるかどうかを確認させていた。
 仮に、他の魔物とぶつかることがあったとしてもクライブと契約している彼らは普通のスライムの何倍も強力な力を持っているため、しかも五体一組で行動させ、よほどの敵でない限り負けることはない。

 実際、魔物の数は少なかったが、それでも数体の魔物と遭遇して、それら全てをスライムたちが追い払っていた。

 エルナはそれに気づいているようだったが、フィオナの笑顔が守られていることを喜んでおり、あえて触れずにいる。

「さて、この森だ。確か、奥のほうに小さな湖があるんだよな?」
「えぇ、私も以前ディアニス様に同行して行ったことがありますが穏やか雰囲気のとても綺麗な場所でした」
 森の入り口に到着したところでクライブが質問し、エルナが昔を思い出しながら答える。

「うわあ、すっごいたのしみ!」
 それを聞いたフィオナは、今からそこへ行くのが楽しみだと、ガルムの上で身体を揺らしていた。

「ピピー!」
 あまり大きく身体を揺らすとガルムの負担になるため、落ち着かせようとツララがフィオナの目の前を飛び、彼女の手のひらにゆっくりと着地する。

「ツララー、うふふっ。かわいいね!」
 ツララの狙いどおり、フィオナはツララに夢中になり、優しい動作でツララの頭を撫でていた。

「あ……ガルム、ごめんね。うえでゆれたらこまるよね」
 フィオナは落ち着いたことでさっきの自分の行動を思い出し、それが乗せてくれているガルムにとってよくないことだったと反省して謝罪する。

「ガウガウ」
 しかし、ガルムは気にしていないと首を横に振っている。

「うふふー、ありがとうね」
 ガルムが自分に気遣ってくれていることがわかっているため、フィオナはそれが嬉しくて笑顔になり、こちらも優しい手つきでガルムの頭を撫でていた。

 自分の契約する魔物たちと仲良くしてくれるフィオナをみて、胸が温かくなるのをクライブは感じた。

「さて、それじゃあ湖に向かうか」
 クライブの言葉に頷き、森の景色を楽しみながらゆっくりと湖へと向かって行く。




「おおう」
「わあ」
 到着すると、クライブとフィオナはその光景に感動していた。

 湖からはキラキラと魔素が浮き上がっていているが、それは濃くなく、太陽の光で水面が照らされるのとはまた違う輝きを放ちながらただただ美しい景色を作り出していた。

「いや、魔素が濃くないのにこれだけ目に見えるってどういうことなんだ?」
 魔素が濃ければ目に見えるのは理解できる。
 しかし、魔物たちに確認しても魔素は薄いという答えが返ってきて、自分の感覚でもこの場所の魔素は濃くないとクライブは判断していてる。

「ふふっ、旦那様もわからないことがあるのですね」
 口元に手を寄せたエルナがくすくすと楽しそうにクライブのことをからかう。

「いやいや、俺は知らないことばかりだよ。みんなが助けてくれるから今の俺があるわけだ」
 クライブはそう言って肩をすくませると、笑顔になる。

 ガルムやプルルをはじめとする魔物たちがいたからこそ、冒険者として活動することができている。
 フィオナがいるからこそ、もっと頑張ろうという気持ちが生まれてくる。
 エルナがいるからこそ、あの家を維持することができているし、フィオナのことを任せることができている。

 心から思っているため、クライブは堂々とそう言ってのけた。

「ガウガウ!」
「きゅー!」
「ピピー!」
「むう!」
「旦那様!」

 しかし、この答えはみんなが望むものではなかったらしく、不満そうな表情をしている。

「……え? いや、だってみんながいるからこその俺だろ?」
 クライブの追加の言葉を聞いて、五人ともがやれやれと首を横に振っていた。

「旦那様、旦那様のお力のことや契約のことは聞いています。それにフィオナを助けたことも聞いていますし、ディアニス様の悩みを解決したのも全て知っています」
 真剣な表情のエルナが何かを説明しようとしているが、クライブは首を傾げている。

「みんながいるから旦那様がいるのではありませんよ。旦那様がいるから、みんなが集まったのです。ガルムもプルルもツララはあなただからこそ契約したのです。あなたがいたからこそ、フィオナは助かりました。私が屋敷に来ることになったのも、あなたがディアニス様の大事にされていた木を治療したからです」
 そう説明されてクライブは言葉がでなくなる。

「というわけで、旦那様はもっとご自身の能力に自信を持って下さい。ほら、背筋を伸ばす!」
「っ――はい!」
 エルナにパシンと背中を叩かれてクライブは背筋を伸ばした。

 その様子を見て、フィオナはクスクスと笑っていた。




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