無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

文字の大きさ
上 下
38 / 46

第三十八話

しおりを挟む

「氷鳥って、正式名称アイスバードだったのか……」
 能力を確認してクライブが最初に呟いた言葉がこれだった。

「ピピピー(よろしくです)」
 礼儀正しくアイスバードはクライブに向かって頭を下げると、今度はガルムとプルルのもとへと移動して挨拶をする。
 二人ともアイスバードのことを快く受け入れて、ガルムは背中に乗ることを許容しているようだった。

「うんうん、仲良くできてるようで嬉しいよ。それで、まずは名前をつけてやらないとだな……」
 大量にいるスライムたちはさすがに全員の名前を決めてはいないが、アイスバードは表立って一緒に活動することになるであろうため、名前を決めることにする。

 どんな名前にするか、クライブは腕を組んでしばし考え込む。
 時間にして数十秒。

「よし、決めた! お前の名前は……」
「ピー(ごくり)」
 緊張した空気が漂う。名づけというのは魔物たちにとって特別なことだからだ。
 ガルムもプルルも、同じ小部屋内にいる他のアイスバードたちもどことなく緊張した面持ちでクライブの言葉を待っている。

「ツララ……でどうかな?」
 クライブは雪が降るような寒冷地帯では、垂れ落ちる水が棒状に凍り付いて氷柱を形成するという話を思い出していた。

 この命名する瞬間はクライブも緊張する。
 名前を気に入られないかもしれない、嫌な反応をされるかもしれない、契約を解除してほしいとまで思うかもしれない――そんな不安は毎回付きまとう。

「ピピー(ツララー)!」
 名前を決めてもらったアイスバードこと、ツララは嬉しそうにさえずりながらクライブの頭の周りをパタパタと飛んでいる。
 楽しそうな雰囲気から、喜んでくれていることがクライブにも伝わりホッとしていた。

 しばらく喜んでいたツララだったが、落ち着くとガルムの上に乗っているプルルの上に着地した。

「ピピ、ピピピー(あらためて、よろしくです)」
 足元にいる二人とクライブに挨拶をすると、ツララは満足そうにプルルの上に座る。

「よし、名前も決まったし、目的のものも手に入れたから……街に戻ろうか」
「ガウ!」
「きゅー!」
「ピー!」
 クライブの声かけに三人が元気よく返事をするが、クライブは一つ気がかりなことがあった。

「あー、こいつ、ツララのことを連れていくけど……いいのか?」
 契約をしたし、ツララ自身も乗り気であり、クライブも契約できたことを嬉しく思っている。
 だが、ツララの仲間のアイスバードたちの考えも聞いておきたかった。

 その質問に大きなアイスバードも、小さなアイスバード二羽も首を傾げる。
 やりたいことを止める理由がどこにあるのか? そんな表情だった。

「ガウ」
 ガルムがそう一言だけ口にして頷く。
 気にしなくて大丈夫そうだ、とクライブに伝えていた。

 それを確認したクライブも頷いて返し、残ったアイスバードたちに軽く会釈をするとこの場を後にした。
 帰りももちろんガルムに乗っての移動となる。

「ツララ、悪いんだけどさ俺が冒険者ギルドへ報告にいっている間自由行動でいいかな? 俺と契約しているから問題はないと思うんだけど、それでも羽根を集めてこいって依頼で当の魔物を一緒に連れているのもどうかなって思うから」
「ピピー(了解ー)」
 ツララは完全にクライブの指示を理解しており、街が近づいてきたら街の周囲を見て回ろうと決めていた。

 そして、予定通りに別れて行動していく。
 クライブからツララのいる方向は把握できており、反対にツララからもクライブの場所が把握できている。

「これなら大丈夫だな。俺たちは早速報告に行こう」
「ガウ!」
「キュー!」
 二人を伴って街の中を歩いていくクライブ。
 その姿はまだまだ当たり前の光景ではないため、すれ違う人々の視線がクライブたちに集まっている。

「……こればかりは徐々に街に溶け込んでいくしかないよなあ」
 これだけ大きな街でも魔物使いの姿はほとんどないため、クライブの存在は周囲から浮いてしまっていた。
 前の街でも同じ状況は経験しているため、クライブは仕方ないと飲み込んでそのまま冒険者ギルドを目指す。

 冒険者ギルドに到着すると、今回も受付にユミナの姿を発見したためクライブは真っすぐその受付に進む。

「あっ、よかったにゃ! 無事だったんですにゃ。連続して依頼に向かうから心配だったんですよ?」
 ユミナは心から心配してくれていたらしく、ホッとした表情を見せる。

「これは心配をかけて申し訳ないです。無事に帰って来られました。それで、羽根を取って来たんですけどここで出せばいいですか?」
 ただ羽根を持ってきたわけではなく、例の上位個体の羽根も持っているためそのことも確認したいため、少し含みを持たせた様子で質問をする。

「……えっと、もしかして魔石のように数が多いとかですかにゃ?」
 少し声をひそめてユミナが質問する。魔石の時は100を超える数を持ってきたため、それを思い出していた。

「いや、数はそんなに多くないんですけど……ちょっと」
 ちょっと、何かがある。そんな言葉を聞いては、ここでそれを出してもらうわけにはいかないとユミナは頷いた。

「……わかりましたにゃ、今回も裏にお願いしますにゃ」
 そう言うと、前回同様裏手へと案内されていく。
 案内するユミナの表情はやや硬く、一体何事かと冒険者たちはクライブに注目していた。



 正面から出て、裏に回ったところでユミナが振り返る。

「それでは、品物の提示をお願いします。確か氷鳥の羽根でしたね。納品枚数によって報酬が変わります」
「はい、それじゃあ……」
 一羽あたり三枚ずつもらった羽根をクライブはテーブルに並べていく。

「……九枚ですにゃ。うん、どれも良い状態だと思いますにゃ。これで依頼達成ですにゃ!」
 そう宣言したユミナだったが、それじゃあ本題をお願いします。といった表情でクライブのことを見ている。

「ありがとうございます。それでは、こちらを……」
 テーブルの上に出されたのは羽根。しかし、先ほど並べられた数枚とは異なりひと回り大きい。

「大きい、それに光ってますにゃ。まだ冷たいですにゃ……」
 珍しいものを見るかのように見入った様子のユミナがゆっくりと手に取って確認すると、羽根から冷気を感じる。
 いくらクライブの移動速度が速いとはいえ、ここまで冷たさを維持するのは考えられない。

「えっと、一つ先に言っておくと俺たちが氷鳥って呼んでる魔物の正式名称はアイスバードらしいです。で、そのアイスバードの中でも一羽だけ大きな個体がいたんですけど、そいつの羽根がこれになります」
 それが聞こえたため、他の職員たちも集まってくる。

「アイスバードだって?」
「それの上位個体?」
「光ってる……」
「初めて見たぞ!」
「私、話にはきいたことがあります!」

 羽根が載っているテーブルを囲んで職員たちが口々に意見を述べている。

「み、みんな、ちょっと待つにゃ! う、う、うるさいにゃ!」
 クライブとユミナのことを置いて、職員たちだけで盛り上がり始めたためユミナが大きな声をあげて職員たちを怒鳴りつけた。

 職員たちはハッとなって自分たちの対応に気づくと、そそくさとそれぞれの作業に戻って行った。
 戻って行ったが、それでも視線は羽根に向けられていた。

「コホン。みんなが失礼しましたにゃ。それより、これはどこで……というのは愚問だし、聞いちゃいけないですにゃ。それより、これをどうするつもりですにゃ?」
 どうする、と聞かれてクライブは何も考えていなかったことに気づく。

「どう、したらいいですかね?」
 そのため、問いかけに質問で返すことになる。

「と、とりあえず、すぐにギルドで買取というのは難しいのでお持ちくださいにゃ。もし、それでもうちで買い取ってほしいということであれば、またご相談いただくのがいいかと思いますにゃ」
 それを聞いたクライブは静かに頷く。なるほど、それが一番いいな、そう思っていた。

「それでは、依頼の完了のほうだけ手続きをしますにゃ」
 そこからは魔石の時と同様に、冒険者ギルドカードを提示して完了登録と報酬をもって帰路につく。




しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...