無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第三十七話

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 ヒートスライムによって暖をとることができたクライブは洞窟をゆっくりと進んでいく。
 聞こえてくるのは響き渡るクライブの足音のみで、本当にここに氷鳥がいるのか不安になってきていた。

「ガウガルル(奥から気配がする)」
 クライブの心配を感じ取ったわけではないが、ガルムがそんなことを呟く。気配の主が氷鳥とは限らないが、ガルムはどこか確信しているようでもあった。

「ここからはもっと慎重に進むか」
 なるべく足音をたてないように静かに進んでいくと、開けた空間がそこに現れる。

 天井もぽっかりと開いており、そこから光が差し込んでいる。その光が氷に覆われた木に反射してキラキラと輝き、美しい景色を生み出している。
 飛んでいる氷鳥の羽から、氷が剥がれ落ちそれがまた光を反射して幻想的な雰囲気を作っていた。

「綺麗だ……」
 隠れて進むつもりだったクライブだが、姿を隠さずにふらふらとその光景に惹かれて進んでいく。
 それはガルムとプルルも同様であり、目の前の景色に感動していた。

「ピピ?」
 氷鳥のうちの一羽がクライブたちの登場に気づいて、首を傾げながら声を出す。
 しかし、警戒しているという風ではなく、誰だろ? という純粋な疑問を持っている。そんな鳴き声だった。

「あー、すまない。俺はクライブといって冒険者なんだけど、君たちの羽を少し分けてもらえないかと思ってやってきたんだ」
 姿を完全に見られた今となっては、下手に戦闘するのは得策ではないと判断して交渉を持ちかける。

「ピピー……」
「ピッピピー」
「ピーピー」
 すると、氷鳥たちの何羽かがクライブの話を受けて、どう対応するかを話し合っている。ように見える。

 実際その通りであり、羽くらいわけても問題はないだろうという考えの者。何か企んでいるに違いないと疑っている者。どっちでもいいとのんきそうな者。
 それぞれに意見が異なっていた。

「えーっと、ただ羽をもらうのは申し訳ないから代わりに誰か怪我をしていたら治療くらいならできるけど……」
 クライブがそう告げると、先ほど相談していた三羽の氷鳥が血相を変えてクライブのもとへとやってきた。

「ピーピピー!」
「ピッピピー!」
「ピー」
 クライブの治療という言葉に大きく反応した三羽はどこかに案内しようとしている。

 おおよそ言っていることを理解しているクライブだったが、念のため大丈夫かとガルムに確認する。

「ガウ(大丈夫)」
 シンプルな返事だったが、ガルムは氷鳥たちが誰かを助けたいと思っているのを理解しており、それを確実にクライブに伝えていた。

「わかった、怪我をしているやつがいるんだな?」
 クライブの言葉に氷鳥たちは揃って頷く。

「よし、だったら連れていってくれ。俺の職業は回復魔術士、怪我をしている魔物を治すのが仕事だ!」
 力強く宣言したクライブの言葉に喜んだ氷鳥たちは、この開けた場所から更に奥にある小部屋のような場所へと案内する。

 小部屋の中央には、わらのようなもので作られた巣があり、その上に一羽の氷鳥がうずくまっている。
 他の個体に比べてひと回り大きい氷鳥は、呼吸が乱れており、苦しそうな表情をしている。

「こいつはまずいな……」
 明らかに弱っており、このまま放っておけば命が失われていくのはそう遠くない。
 三羽の氷鳥もそれを感じ取っているため、クライブをここに連れて来た。

 大きな氷鳥の周りに集まって、助けてほしいとクライブのことを悲しそうな、それでいて必死な様子で見ている。

「ちょっと見せてくれ」
 クライブは近づくとかがんで大きな氷鳥を確認する。

「目立った怪我は、ない。いや、腹に古傷があってそこが身体に大きく影響を与えているのか」
 別段怪我や病気などに詳しいわけではなかったが、回復魔術士として目覚めたクライブは魔術力によって目の前の魔物がどうして苦しんでいるのかを感じ取ることができていた。

「もし、ダメだったとしても、悪く思わないでくれよ……」
 クライブの言葉に、三羽の氷鳥はただただ彼の顔を見つめている。なんでもいいから、なんとかしてくれ。
 それが三羽の総意である。

「はあ……わかったよ。やれるだけのことはやってみよう。いくぞ、ヒーリング!」
 発動される魔術。光が氷鳥の身体を包んでいく。
 氷鳥の顔色がどういうものなのかはわからないが、クライブの目からも改善しているように見える。

 衰弱が酷かったため、クライブは少し長めにヒーリングを使っていく。
 数分後、衰弱していた氷鳥がピクリと動き、そして羽を動かす。
 一つ、二つ、三つと羽ばたき、そして元気にその場を飛び回る。

「ピ、ピピピ!」
 弱っていた身体が嘘のように回復したことに喜び、自由に動く身体に感動してしばらくの間飛び回っている。その様子を見ていた三羽も一緒に飛び回っている。

「ふう、よかった。これで大丈夫だろ。でも、治ったばかりだ。無理はしないで、ちゃんと食べて栄養をとるんだぞ」
 クライブが声をかけると、四羽は着地し、整列して頭を下げる。

「ピーピピー!」
「ガウガウ(感謝している)」
 ガルムが言葉を通訳してくれるが、それがなかったとしても気持ちは伝わってきていた。

「まあ、よかったよ。それより羽根をわけてくれと助かるんだけど……」
 クライブはここで本来の目的を口にする。三羽はそういう話だったことを思い出して、それぞれが嘴で自らの羽を抜いてクライブに渡す。

「ピピー!」
 それを見た大きな氷鳥も羽を抜いてクライブへと渡す。

「いや、こいつらので十分だったんだけど……ん?」
 病み上がりの身体で羽を抜くようなことをしなくてもいい、そう言おうとしたクライブだったが羽根を受け取って何かが違うことに気づく。

「これは……」
 最初に受け取った三羽の羽は氷が付着している、いわゆる氷鳥の羽根だった。
 しかし、最後のソレはサイズがひと回り大きく、輝きが他のものより強かった。

「……ありがたく受け取っておくよ。こいつはいいものだ」
 クライブが礼を言うと、再度四羽がペコリと頭を下げる。
 感謝の気持ちを伝えているようだったが、そのうちに一体だけが別の行動に移った。

 最初の三羽のうち、羽くらい渡してもいいと考えていた個体だった。

「ピピーピ、ピーピピ」
 クライブの足元に移動すると振り返って、他の氷鳥たちに何かを話している。
 そして、言い終えるとパタパタと羽ばたいてクライブの肩にとまった。

「お?」
 状況がつかめないクライブが首を傾げる。

「ガウガーウ(ついてくるとのこと)」
 これまたガルムが通訳してくれる。

「えっ? 俺と契約するってこと、でいいのか?」
「ピー!」
 クライブの質問に嬉しそうに返事をする氷鳥。

 連れていっていいものかと、残った三羽に視線を向けるが決めたことなら尊重すると頷いていた。

「……わかった。それじゃ一度降りてくれ。今、契約の紙を用意する」
 こうして、新たな仲間がクライブと契約することとなった。


************************
名前:
主人:クライブ
種族:アイスバード
特徴:氷のブレスを使うことができる。
    氷でできた羽だが、炎や熱で融けるにはよほどの高温が必要
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