37 / 46
第三十七話
しおりを挟むヒートスライムによって暖をとることができたクライブは洞窟をゆっくりと進んでいく。
聞こえてくるのは響き渡るクライブの足音のみで、本当にここに氷鳥がいるのか不安になってきていた。
「ガウガルル(奥から気配がする)」
クライブの心配を感じ取ったわけではないが、ガルムがそんなことを呟く。気配の主が氷鳥とは限らないが、ガルムはどこか確信しているようでもあった。
「ここからはもっと慎重に進むか」
なるべく足音をたてないように静かに進んでいくと、開けた空間がそこに現れる。
天井もぽっかりと開いており、そこから光が差し込んでいる。その光が氷に覆われた木に反射してキラキラと輝き、美しい景色を生み出している。
飛んでいる氷鳥の羽から、氷が剥がれ落ちそれがまた光を反射して幻想的な雰囲気を作っていた。
「綺麗だ……」
隠れて進むつもりだったクライブだが、姿を隠さずにふらふらとその光景に惹かれて進んでいく。
それはガルムとプルルも同様であり、目の前の景色に感動していた。
「ピピ?」
氷鳥のうちの一羽がクライブたちの登場に気づいて、首を傾げながら声を出す。
しかし、警戒しているという風ではなく、誰だろ? という純粋な疑問を持っている。そんな鳴き声だった。
「あー、すまない。俺はクライブといって冒険者なんだけど、君たちの羽を少し分けてもらえないかと思ってやってきたんだ」
姿を完全に見られた今となっては、下手に戦闘するのは得策ではないと判断して交渉を持ちかける。
「ピピー……」
「ピッピピー」
「ピーピー」
すると、氷鳥たちの何羽かがクライブの話を受けて、どう対応するかを話し合っている。ように見える。
実際その通りであり、羽くらいわけても問題はないだろうという考えの者。何か企んでいるに違いないと疑っている者。どっちでもいいとのんきそうな者。
それぞれに意見が異なっていた。
「えーっと、ただ羽をもらうのは申し訳ないから代わりに誰か怪我をしていたら治療くらいならできるけど……」
クライブがそう告げると、先ほど相談していた三羽の氷鳥が血相を変えてクライブのもとへとやってきた。
「ピーピピー!」
「ピッピピー!」
「ピー」
クライブの治療という言葉に大きく反応した三羽はどこかに案内しようとしている。
おおよそ言っていることを理解しているクライブだったが、念のため大丈夫かとガルムに確認する。
「ガウ(大丈夫)」
シンプルな返事だったが、ガルムは氷鳥たちが誰かを助けたいと思っているのを理解しており、それを確実にクライブに伝えていた。
「わかった、怪我をしているやつがいるんだな?」
クライブの言葉に氷鳥たちは揃って頷く。
「よし、だったら連れていってくれ。俺の職業は回復魔術士、怪我をしている魔物を治すのが仕事だ!」
力強く宣言したクライブの言葉に喜んだ氷鳥たちは、この開けた場所から更に奥にある小部屋のような場所へと案内する。
小部屋の中央には、わらのようなもので作られた巣があり、その上に一羽の氷鳥がうずくまっている。
他の個体に比べてひと回り大きい氷鳥は、呼吸が乱れており、苦しそうな表情をしている。
「こいつはまずいな……」
明らかに弱っており、このまま放っておけば命が失われていくのはそう遠くない。
三羽の氷鳥もそれを感じ取っているため、クライブをここに連れて来た。
大きな氷鳥の周りに集まって、助けてほしいとクライブのことを悲しそうな、それでいて必死な様子で見ている。
「ちょっと見せてくれ」
クライブは近づくとかがんで大きな氷鳥を確認する。
「目立った怪我は、ない。いや、腹に古傷があってそこが身体に大きく影響を与えているのか」
別段怪我や病気などに詳しいわけではなかったが、回復魔術士として目覚めたクライブは魔術力によって目の前の魔物がどうして苦しんでいるのかを感じ取ることができていた。
「もし、ダメだったとしても、悪く思わないでくれよ……」
クライブの言葉に、三羽の氷鳥はただただ彼の顔を見つめている。なんでもいいから、なんとかしてくれ。
それが三羽の総意である。
「はあ……わかったよ。やれるだけのことはやってみよう。いくぞ、ヒーリング!」
発動される魔術。光が氷鳥の身体を包んでいく。
氷鳥の顔色がどういうものなのかはわからないが、クライブの目からも改善しているように見える。
衰弱が酷かったため、クライブは少し長めにヒーリングを使っていく。
数分後、衰弱していた氷鳥がピクリと動き、そして羽を動かす。
一つ、二つ、三つと羽ばたき、そして元気にその場を飛び回る。
「ピ、ピピピ!」
弱っていた身体が嘘のように回復したことに喜び、自由に動く身体に感動してしばらくの間飛び回っている。その様子を見ていた三羽も一緒に飛び回っている。
「ふう、よかった。これで大丈夫だろ。でも、治ったばかりだ。無理はしないで、ちゃんと食べて栄養をとるんだぞ」
クライブが声をかけると、四羽は着地し、整列して頭を下げる。
「ピーピピー!」
「ガウガウ(感謝している)」
ガルムが言葉を通訳してくれるが、それがなかったとしても気持ちは伝わってきていた。
「まあ、よかったよ。それより羽根をわけてくれと助かるんだけど……」
クライブはここで本来の目的を口にする。三羽はそういう話だったことを思い出して、それぞれが嘴で自らの羽を抜いてクライブに渡す。
「ピピー!」
それを見た大きな氷鳥も羽を抜いてクライブへと渡す。
「いや、こいつらので十分だったんだけど……ん?」
病み上がりの身体で羽を抜くようなことをしなくてもいい、そう言おうとしたクライブだったが羽根を受け取って何かが違うことに気づく。
「これは……」
最初に受け取った三羽の羽は氷が付着している、いわゆる氷鳥の羽根だった。
しかし、最後のソレはサイズがひと回り大きく、輝きが他のものより強かった。
「……ありがたく受け取っておくよ。こいつはいいものだ」
クライブが礼を言うと、再度四羽がペコリと頭を下げる。
感謝の気持ちを伝えているようだったが、そのうちに一体だけが別の行動に移った。
最初の三羽のうち、羽くらい渡してもいいと考えていた個体だった。
「ピピーピ、ピーピピ」
クライブの足元に移動すると振り返って、他の氷鳥たちに何かを話している。
そして、言い終えるとパタパタと羽ばたいてクライブの肩にとまった。
「お?」
状況がつかめないクライブが首を傾げる。
「ガウガーウ(ついてくるとのこと)」
これまたガルムが通訳してくれる。
「えっ? 俺と契約するってこと、でいいのか?」
「ピー!」
クライブの質問に嬉しそうに返事をする氷鳥。
連れていっていいものかと、残った三羽に視線を向けるが決めたことなら尊重すると頷いていた。
「……わかった。それじゃ一度降りてくれ。今、契約の紙を用意する」
こうして、新たな仲間がクライブと契約することとなった。
************************
名前:
主人:クライブ
種族:アイスバード
特徴:氷のブレスを使うことができる。
氷でできた羽だが、炎や熱で融けるにはよほどの高温が必要
************************
0
お気に入りに追加
1,740
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる