無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第三十二話

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 南下していき、川から少し離れた場所に大きな岩があるのが見える。
 クライブたちはその岩へと近づいていく。

「確か、ここを反対側に回ると……あった!」
 大きな岩は何かを囲むようにいくつか並んでおりぐるっと回ってみると、岩に囲まれたその中に入れる隙間があるのが見つかった。

 確かに隙間はあるものの、そこから人が入れるかは微妙なサイズである。

「どうしたものかね……」
 クライブが悩んでいると、ガルムがするすると隙間から中へと入って行く。
 かなり大きなサイズのガルムだったが、うまく身体をくねらせてひっかかることなく見事に通過していた。

「ガウ(いける)」
 そう言って、手招きするガルムだったがクライブが通ろうとしても恐らく引っかかってしまうことはわかりきったことだった。

「プルル、なんとかできるか?」
「きゅきゅー(まかせてー)」
 クライブの質問に即答したプルルは分裂する。そして、数体がクライブの身体に張り付いた。

「お、おぉ? ど、どういうことだ?」
 プルルに疑問を投げかけるクライブだったが、当のプルルは岩と岩の間の地面の上でペターっと潰れていた。

「きゅきゅー(とおってー)」
 クライブは首を傾げるが、プルルが通れと言っているのであれば信じてとおるしかないと覚悟を決めて岩の隙間へと頭から入って行く。

「あれ? 思ったよりいけそう?」
 岩と服が摩擦をおこして、身体がひっかかるため通れない。クライブはそう予想していたが、引っかかりはなくするすると隙間を抜けて中へと入ることができた。

 クライブの身体に張りついたスライムたちが、岩との摩擦をゼロにしてくれていた。加えて、プルルが地面の土を吸収してクライブが通る分の余裕を作り出していた。

 しかし、プルルがクライブのもとへ戻ってくるとその地面は元通りになっていた。

「さすがだな、俺が通ったのと同時に土を元通りに戻したのか。これなら他のやつらが侵入してくることもないだろう」
 そのままにしておけば他の冒険者たちもここに来てしまう。

 ここが魔物の泉であるということは、実のところ基本的には冒険者に教えることはない。
 しかし、魔物使いであるということがわかっていたためユミナの判断でこの場所を教えていた。
  彼女の祖父も魔物使いであり、似た雰囲気を持っているクライブに力を貸してあげたいと思っていた。

 魔物使いになろうという人物はどんどん減っている。
 その中にあって、クライブが連れている魔物、つまりガルムとプルルは彼に懐いている。
 主人と魔物との信頼関係を構築しているクライブであれば、あの場所を教えてもきっと変なことにはならないだろうとユミナは信じていた。

「にしても、これはすごいな……」
 クライブは岩の中の光景に驚いていた。
 泉の大きさは大きめの水たまり程度、そして集まっている魔物の数も数体程度。そう思っていた。

 しかし、そこは外見とは異なり広大な湖が広がっていた。
 更に、湖の周りにも中にも数多くの魔物がいて水浴びをしたり、水を飲んだりとそれぞれに楽しんでいる。

「別の空間に繋がっていたのか……」
 眼前にある大きな湖は自ら魔力を感じる。そして、湖の周囲に視線を巡らせるとそこは森になっている。明らかに先ほどの岩の大きさでは考えられないほどの広大な空間だった。

 クライブがゆっくりと泉に近づいていくと、数体の魔物がチラリと視線を送ってくる。
 しかし、警戒することはなく再び休憩に戻って行った。

「俺を怖がらないのか?」
 初めてガルムたちに会った時もそうだったが、魔物たちがクライブのことを受け入れてくれていることに驚きを覚えていた。

「ガウガウ、ガウ(主殿は、特別)」
「きゅきゅー(とくべつー)」
 クライブは特別の意味を計りかねていたが、恐らく回復魔術士であることが関係しているのだろうと納得する。

「ガルム、プルル、自由にしてていいぞ。少しここでゆっくりしよう」
「ガウ!」
「きゅー!」
 クライブが声をかけると二人は勢いよく泉の中に飛びこんで水浴びを開始する。
 そんな二人の様子を微笑ましく見てから、周囲の魔物へと視線を向ける。

「すごい色々な魔物がいるなあ」
 ガルムのような狼種の魔物、プルルのようなスライム系の魔物はもちろん、大きな鳥の魔物、猪の魔物、植物系の魔物、身体を岩が覆っている魔物、燃える毛が身体を包んでいる魔物などなど、クライブが見たこともない魔物の姿もある。

 クライブが泉の周りを歩いて回っていると、そんな魔物たちと目が合うが彼らは珍しい人間という存在に興味を持ちはするものの、そこから契約に至るのは難しいと思えた。

「まあ、ガルムたちと契約できたのも治療したからだし、スライムたちと契約したのもプルルという仲介役がいたからだもんなあ……」
 そんなことを呟きながら歩くクライブだったが、ふと顔をあげると巨大な魔物が目の前にいた。

「ドラゴン……」
 そこに横たわっていたのは、強固な黒い鱗に包まれた大きなドラゴンだった。
 恐らくダークドラゴンと呼ばれる種で、切り立った山岳地帯に生息すると言われているその魔物が静かで温暖な森の中の泉にいることは通常ではありえないことであり、クライブは驚き呆然としている。

『そなたは人間か?』
 口をポカーンにドラゴンが呼びかけてくる。

「えっ? お、俺? もしかして、話しかけてきてる? でも、耳からじゃない、よな?」
 脳内に声が響いてくるという初めての経験にクライブは動揺していた。

『ふむ、口を開いて人が理解する言葉を発するのは身体に負担がかかってしまうのでな。直接そなたの脳に語りかけさせてもらっている』
 そう口にするドラゴンは身体を動かすことはなく、そこに鎮座したままクライブに声をかけていた。

「な、なるほど。って、俺は普通に話していいのかな? それとも俺も脳内で考えたほうがいいのかな?」
 初めてのことであるため、どうするのが正しいのかわからず、クライブは素直にドラゴンへと質問を投げかける。

『そなたは気にせずに普通に話すといい。耳は聞こえているので問題はない。それよりもそなたに聞きたいことがある。……なぜ、そなたはそのようなモノなのだ?』
 ドラゴンの質問にクライブは首を傾げていた。

「なぜ? そのようなモノ? なんのことを言っているのかわからないんだけど……俺はただの回復魔術士で、湖で遊んでるあいつらと契約しているだけさ」
 見えるか見えないかわからないが、クライブはガルムとプルルがいる方向に顔を向けながら自分の説明をする。自分でも魔術や魔術力のことを理解しきれていないため、こんな回答になっていた。

『ふむ、自分の力を理解していないようだな。そなたの力を持つような人間は見たことがない。そなたの身体だを覆う魔術力、それは特別なものだ。ここの魔物たちがそなたを見ても逃げないのはその力によるものだ。多くの魔物と契約しているであろう? それもその力によるものだ』
「そ、そんなに特別なものだったのか……」
 自分のステータスや魔物のステータスを確認した際に、魔術力のことが記されていたのを覚えており、そのことを改めて指摘されたことにクライブは動揺していた。

 その様子を察したガルムとプルルがかけつけて、クライブとドラゴンの間に滑り込む。

「ガルルル!」
「きゅきゅー!」
 明らかに実力差がある相手だったが、主人であるクライブを守るためだったらなんでもすると決死の覚悟で二人は攻撃態勢に入っている。 




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