無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第三十一話

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 朝になってフィオナとエルナにいってきますと告げて、街に出たクライブの姿は冒険者ギルドにあった。
 その隣にはもちろんガルムとプルルの姿がある。

「さて、どの依頼を受けようかね」
 ガルムとプルルはどの依頼を受けるか全てクライブに任せており、彼が決めた依頼であればそれに反対するつもりはなかった。

 この街は大きな街であるため、数多くの依頼が依頼掲示板に貼られており選び放題である。
 それゆえに、どの依頼を受けるか悩んでいる。

「この周辺の状況がわからないから、面白い魔物がいるところがどこなのか……」
 それを判断できる材料は依頼に記されている魔物の名前しかない状況である。
 一つ一つ依頼を精査してみるが、どれがいいのかわからずに悩んでいる。

「あのー、どんな依頼をお探しですかにゃ?」
 クライブは自身では気づかなかったが掲示板の前で一時間ほど唸っており、見るに見かねた女性が声をかけてきた。服装を見る限りでは恐らくこのギルドの受付嬢の一人であるということが予想できる。

「えっ? あー、えっと、その、あなたは?」
 しかし、急に話しかけられたたため、クライブは動揺しながら何者なのかを尋ねる。

「申し遅れましたにゃ。私の名前はユミナ、当ギルドの受付嬢をしておりますにゃ。先ほどからずっと掲示板の前で悩んでらっしゃったので、ちょっと声をおかけしてみましたにゃ」
 ニコリと微笑みかけるユミナは猫の獣人で、ピンク色の髪を短く切りそろえている。
  身長は150センチそこそこと小柄だが、落ち着いた様子からは頼りになりそうな雰囲気を感じ取ることができる。

「えっと、珍しい魔物とか強い魔物と会えるような依頼を探しているんですけど……こうやって魔物と一緒に行動しているもので」
 クライブはガルムとプルルに視線を送って、自分が求めている依頼についての話をする。

「なるほど、そういった魔物と出会いたい、うまくいくのであれば契約もしたい……そういうことですにゃ」
 ユミナはクライブの考えを理解したうえで、どの依頼が彼にとって適しているかを考えている。

「そういうことですね。色々な魔物と会ってみたいんですよね……契約はできたらラッキー程度なんですけどね。あと、強すぎてやられたら困るのである程度の強さが望ましいかなあと」
 難しいことを言っていると自分でも思っているため、最後のほうはやや視線を逸らしながらの言葉となる。

「ふむふむ、ということならば……こちらかこちらの依頼はいかがでしょうかにゃ?」
 ユミナは二枚の依頼を剥がしてそれをクライブに手渡す。

「えっと、こっちがミナズ川の底にある魔石の採集で、こっちのは氷鳥の羽の採取?」
 受け取ったクライブは依頼の内容を確認していく。二つ目の氷鳥についてはわかるものの、一つ目を薦めて来た理由がわからずクライブは首をひねる。

「氷鳥については、そのまま魔物が珍しいのでお薦めしましたにゃ。疑問に思っていらっしゃるのはミナズ川のほうだと思いますにゃ。そちらは……ちょっとこちらに来て下さいにゃ」
「わかりました」
 掲示板の前で話を続けていては他の冒険者に迷惑がかかってしまうので、ユミナは一度受付に移動することを提案する。クライブも彼女のあとをついていき、受付へと向かった。

 ユミナは受付の向こう側に移動すると、カウンターの上に地図を広げた。

「こちらをご覧くださいにゃ。今、私たちがいるのがここですにゃ」
 指さしたのは今クライブたちがいるこの街だった。

「次に、目的地となるミナズ川があるのは、ここの平原のこのあたりの位置ですにゃ。で、先ほどの疑問の答えになりますが、周囲には泉があるんです……」
「魔物の泉!」
 ハルは泉と聞いてガルムたちと出会ったあの森の、魔物が集まっていた泉のことを思い出していた。

「あぁ、そうですにゃ。確かに魔物が集まる泉なので、魔物の泉という言い方は確かに的を射た名称ですにゃ。うんうん、いいと思いますにゃ。とにかくそこであれば、色々な魔物と会えると思いますにゃ」
 その提案を聞いたクライブは目を輝かせる。あの場所であれば、敵対心が少なくて契約している魔物を選択するには適していると考えていた。

「それじゃ、この二つ受けてみます。難易度もそんなに高くないみたいだし、このカードお願いします」
 クライブはユミナの提案を呑み、依頼を受けることを決定して冒険者ギルドカードを提出する。

 依頼の細かい内容をユミナから聞いて、クライブは依頼に向けて西にあるミナズ川へと向かっていた。
 ガルムの背中に乗って移動しているため、移動速度はかなり速く、十分程度で目的地である川へと到着した。

「さて、まずは川底にある魔石集めをしないとなんだけど……」
 クライブが言うと、プルルが反応して分裂する。

「きゅきゅきゅー(まかせてー)」
 そして、次々に川の中へと侵入していく。
 水の中に入ったスライムたちは、水を反射してキラキラ輝いており、幻想的な風景を生み出していた。

「これは、すごいな……」
 スライムたちは川の中に入ると魔石が発する微量な魔力を感じ取って、一体が一つずつ魔石を回収していく。護衛用に屋敷に数体のスライムを残しているが、それでも百体以上のスライムがここにおりあっという間に相当な数の魔石が集まっていく。

「ガウガウ(さすがだ)」
 ガルムもプルルたちが魔石収集する姿を見て、感心している。

 しばらく待っていると、スライムたちが川から戻ってきて再びプルルのもとに集まって合体した。

「きゅきゅっきゅー(あつまったー)」
 プルルはクライブに報告をする。集めた魔石はプルルの身体の中に収集されている。

「よくやってくれた」
 クライブは今回も活躍してくれたプルルの頭を撫でて礼を言う。
  彼らがあれだけ自由に判断して自由に動けるのはクライブと契約しているからであり、その主人に褒められたことはプルルやその中に内包されるスライムたちにとって至福の時であった。

 そして、クライブはプルルに礼を言うだけでなく、振り返って近くにいるガルムの頭にも手を置く。

「ガルムもありがとうな。お前のおかげでここまであっという間に来られたよ」
 馬車でゆっくりと移動していれば、安全だがそれなりに時間がかかってしまう。それがガルムがクライブを乗せて走ることで短時間での移動が可能だった。

「ガ、ガウガウ(そ、それほどでも)」
 ガルムは自分まで褒められるとは思っていなかったため照れながらも、喜びを隠せず尻尾を左右に大きく振っていた。

「さて、プルルたちのおかげでなんとか依頼は完了だ。というか、終わるの早すぎる! いや、とてもいいことなんだけどね。おかげで魔物の泉にいける」
 そう言うと、クライブは一枚の地図をとりだす。それはユミナが描いてくれたもので、草原の簡単な地図だった。そこには草原の入ってから川に到着するまで、そして魔物の泉の場所が記されている。

「あっちか」
 魔物の泉の場所はクライブたちがいる場所から川沿いに南下した場所にある。
 クライブはガルムの背中にのって、目的の場所へと移動していく。


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