無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第二十八話

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「えっと、回復魔術士? それは一体?」

 回復魔術士とは一般的な職業ではなく、世界にクライブしかいない。

 しかも、その本来の能力を知っているのはクライブとフィオナ、そして彼が契約している魔物たちだけである。


「あー、そうですよね……」

 自信満々に自己紹介をしたクライブだったが、何も伝わっていないことに気づいて気恥ずかしくなり頬を掻いていた。


「えーっと、この木なんですけど毎日魔力をこめたりとかしてました?」

 クライブの回復魔術が効果を見せて、これだけの結果を出したということはこの木は普通の木ではないということがわかる。


 そして、それだけこの木のことを大事にしているというなら少しでも活性化することを願って魔力を流すくらいのことはしているかもしれないと予想していた。


「えっ? は、はい、その効果があるのかはわかりませんが、魔力で植物が元気になるということを聞いたことがあるので毎日少しずつ試してみたんだです、なんの効果もありませんでしたが……それが何か?」

 ディアニスの答えを聞いて、クライブはガルムと顔を見合わせて頷く。


「恐らくですが、この木は毎日毎日魔力を流したことで普通の木から、特別な木になったんだと思います。魔樹とでもいえばいいでしょうか。まあ、とにかく魔の力を持つ木は、魔の力を持つものに効果的な回復魔術が効果を示した。そういうことだと思います」

 クライブは回復魔術の特殊性をなるべくさらっと語る。


「な、なるほど……?」

「あなた! それよりもとにかく元気になってよかったじゃない! 治った理由は良くわかりませんけど、とにかくクライブさんにお礼を言わないと!」

 ディアニスもミーナも事情を完全には理解していなかったが、木が元気を取り戻したことでそんなことどうでもいいくらいに嬉しさに心満ちていた。


「そ、そうだった。驚きが先にたってしまっていた……クライブさん、礼を言うのが遅くなって申し訳ない。我が家の大事な木を助けてくれてありがとう。なんと感謝を言っても足りないくらいだ……本当に、本当にありがとう」

 ディアニスは涙を流し、クライブの手を取って、何度も何度も頭を下げている。


 その様子を見たミーナも涙ぐみ、しかし笑顔でディアニスのことを見ていた。


「さあさあ、みなさんにはもう一度中に入ってもらいましょう! ちゃんとお礼をしないとです。ねえ、あなた」

「あぁ、もちろんだ。さあみなさん入って下さい!」

 ディアニスの足取りは軽く、ミーナもスキップでもしそうなほどご機嫌な様子で家の中へと入って行く。


 その様子を見てクライブはホッとその背中を見ていた。

 そして、ズボンが引っ張られているのを感じ、そちらに視線を向ける。


「えへへー、クライブありがとうね。やっぱりクライブはすごいねー!」

「っ!」

 フィオナが最高の笑顔をクライブに向けており、クライブは思わず口元に手を当てて視線をそらしてしまう。


(か、かわいい!)


「あれ? クライブ、どうかした? おなかでもいたい? それともつかれちゃった?」

 いつもと様子の違うクライブのことをフィオナが心配そうな表情で伺ってくる。


「い、いや、大丈夫。ちょっとクシャミが出そうになっただけだよ。それより、俺たちも中に入ろうか」

「うん!」

 クライブはごまかすようにフィオナの手を引いて建物の中へと入ろうとする。


「うふふっ、クライブのてってあたたかいね」

 フィオナは小さな手でクライブの手を握り返し、再び笑顔になっていた。


 もちろんクライブが先ほどと同じようにクシャミのふりをして、そのにやけ面を隠蔽したのは言うまでもなかった。


「……これは?」

 クライブたちが先ほどの応接間に戻ると、そこにはディアニスとミーナだけでなくメイドに執事にシェフの姿もある。そして、全員が一斉に頭を下げていた。


「わ、わわっ、みんなどうしたのかな?」

 クライブは戸惑い、フィオナは驚いて大きく口を開けて手をあてていた。


「クライブ様、フィオナ様、そしてお仲間のみなさま」

 名前を口にしたのはディアニスだった。先ほどまで『さん』づけだったのが急に『様』づけになったことに、クライブたちは呆気に取られている。


 しかも、お仲間と言っているため、ガルムやプルルのことも含めて呼びかけている。


 そして、更に次の瞬間驚くこととなる。

 全員がガバッと勢いよく頭を下げた。この家の家長であるディアニスとその妻ミーナ、そして使用人たちの全員がである。


「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 揃った声で、クライブたちに礼の言葉を言う。


「えっと……これはどういう? いや、俺たちに礼を言いたいのはわかりますが、なにもこんなに全員揃わなくても……それに、さっき様つけていたような……」

 クライブにとっては、木が元気になって役にたててよかったなあ。フィオナが笑顔になってくれてよかったなあ。それゆえに、この対応にはどうも困惑しかなかった。


 それくらいの気持ちでいた。

 フィオナも同様で、木が元気になってディアニスたちが笑顔になってよかったなあ。と思っているくらいである。


「あの木はずっとうちにあるもので、枯らしてしまっては父たちに顔向けができません。それをあなたがたが救って下さいました! その方々への言葉遣いを改めることになんの抵抗がありましょうか。本当に、本当にありがとうございます!」

 ディアニスはクライブの言葉に止まることなく、感謝の言葉を繰り返している。


 ミーナはもちろん、使用人たちも木のことに悩むディアニスを見て心を痛めていた。

 それを解決してくれた人物ともなれば、大恩人にあたる存在だった。それゆえに、頭を下げることになんの抵抗もなかった。


 クライブだけでなく、フィオナやガルムにプルルにまで礼を言うのにもちゃんと理由がある。


 直接治したのがクライブなのはわかっている。しかし、なんとかできないかと聞いてくれたのはフィオナである。続いて、木に異常がないか確認してくれたのはプルルであった。

 最後にガルム。言葉を理解することはできなかったが、ガルムが何かをクライブに言ったのがきっかけで木を治すことができていたのはわかっている。


 ならば、全員に礼を言うのが当然だとディアニスは判断していた。


「いや、まあ、礼を言いたいのならいいんですが……」

 とりあえず感謝されるのに嫌な気持ちはしないため、ディアニスたちの気が済むまで礼の言葉を聞くことにした。


 ひと段落したところで、使用人たちはそれぞれの持ち場へと戻って行く。

 やっとのことで気持ちが落ちついたディアニスとミーナ、そしてクライブたちは部屋に残ってソファに座り向かい合っている。


 そこには、既に新しいお茶が用意されていた。


「さて、それではどうしようかね?」

 ディアニスから投げられた質問はミーナに向けられている。


「そうですねえ、何かみなさんのお力になれるようなものを用意したいですね」

 どうやら二人が相談しているのは、クライブたちへのお礼の話のようだった。


「ちょ、ちょっと待って下さい。別に大したことはしてないので、お礼とか別にいいです!」

 先ほどの、家の者が総出で頭を下げてきた光景を思い出すと、とんでもないことを言いだされそうであるためクライブは慌てて立ち上がろうとする。


「い、いやいや、それは困ります! ただでさえ妻の荷物を運んでいただいたというのに、家宝にも等しいあの木の傷を癒していただいた方を手ぶらで帰しては、我が家の名折れです。先祖に顔向けできません!」

 あまりの剣幕で言われたため、クライブは上げた腰をそのまま下ろす。


「よかった……それじゃあ、何にしようか決めましょう。みなさんはこの街に来て日は浅いのですか?」

 その後はクライブたちの状況の確認や、彼らが何を求めているのか、何が必要なのかそれを計っていた。


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