無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第二十六話

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 急いだかいあって、クライブたちはその日のうちに街に到着することができた。


「わあ、すごい!」

 フィオナは街を見て感動していた。

 夜間であるにも関わらず、魔道具によって灯りによって街は明るさを維持している。


 それはまるで夜空に輝く星々のようでもあり、小さな村や町では見られないようなものであった。


「すごいよなあ。かなり前に同じくらいの大きさの街に立ち寄ったことが一度だけあるけど、そこよりも綺麗だなあ」

 感心したように周りを見回すクライブは過去の記憶を呼び起こすが、その街にはここまでの設備はなかった。


「すごいねえ。でも、これだとよるなのにあかるいからねむれないかも?」

 感動していながらも少し不安そうな表情を浮かべるフィオナ。

 キラキラと輝く街の灯りの中では、眠れないかもしれないという子どもならでは発想にクライブは笑顔になっていた。


「ふふっ、フィオナは楽しいことを言うなあ。でも安心していいよ。あのキラキラした光は、外の道を照らすものだったり、夜でもやっているお店の灯りなんだよ。俺たちは多分宿に泊まることになるけど、宿はちゃんと部屋が暗くなっているんだ」

「ふええ、すごいね!」

 クライブは当たり前のことを説明しただけだったが、フィオナはその言葉に驚き関心しているようだった。


「まだまだ、驚くことはきっとたくさんあるぞ! でも、まずは宿を決めようか。さすがにこの時間だと情報集めも難しいだろうからな」

「うん! おふとん! ふっかふかのー♪ おっふとーん♪」

 フィオナは小屋のベッドを思い出しており、この街でもあんなベッドで寝られたらいいなという思いを込めてオリジナルソングを口ずさんでいた。


 この日は空いている宿に部屋をとることができ、小屋のものとは違ったが柔らかいベッドで寝ることができたため、この日のフィオナは早い時間にぐっすりと眠りについていた。



 翌朝、クライブたちの姿は街中にあった。


 この街の中で過ごすうえで、ずっと宿に泊まっているわけにもいかず、活動するための拠点を探す必要がある。また、フィオナはまだ六歳であるため色々と学ばせてあげたい。そんな考えをクライブは持っていた。


「さて、どこかいい部屋があるといいんだけど……」

 当座の資金に関してはマクスウェルや他の貴族からもらった報酬があるため、しばらくの間は頭を悩ませる必要はない。

 しかし、子どもと一緒に暮らすとなると治安や周囲の環境も整えたい。


「クライブといっしょならどこでもいいよ!」

 そんなクライブの心配を察したのか、フィオナがそんなことを口にする。


「ははっ、そう言ってくれると嬉しいよ。でも、せっかくデカイ街に来たことだし、いい部屋に住みたいなあって思ったんだよ。マクスウェルが伝手となるような人を何人かあげてくれたけど、あの人には世話になりっぱなしだから、できれば自分で見つけたいところなんだよなあ」

 マクスウェルの紹介に頼るのは最後の手段にしようというのがクライブの考えだった。


「うーん、ふかふかのベッドがいいなあ」

 小屋でのベッド、そして今回の宿でのベッドと良いベッドを味わったフィオナはその条件を外したくないと考えている。


「そうだなあ、ある程度の広さの部屋を借りてそこにはいいベッドを用意できるようにしよう。この街に寝具店があるはずだから、そこで買えるはずだ」

「やったー!」

 よほど嬉しかったのか、フィオナはピョンピョン飛び跳ねながら道をゆく。


「きゃっ!」

 しかし、後ろ向きになった時にエルフ族の女性にぶつかってしまいそうになる。


「ご、ごめんなさい!」

 なんとかぶつからずに回避することには成功したが、女性はバランスを崩してゆっくりとではあるが膝をついてしまう。


「い、いえいえ、いいのよ。私のほうもぼーっとしていたから」

 エルフは長命であるため実際の年齢を計るのは難しく、成人している女性であることくらいしか把握できない。


「うちの子が申し訳ありません。ほら、フィオナ」

 クライブはフィオナを自分の隣に連れてくると、視線を送る。


「あの、ほんとうにごめんなさいです」

 泣きそうな表情でフィオナが改めて謝罪をする。


「あらあら、本当にいいのよ? ほら、可愛い子にそんな顔はもったいないわ。私は怪我をしなかったし、あなたも良い経験ができました。だから、大丈夫です」

 エルフの女性はかがんでフィオナと目線の高さを合わせニコリと笑い、そして優しく頭を撫でてくれた。


「あの、ありがとう、ございます」

 フィオナはどう言えば正解なのかがわからずにいたが、頭を撫でてくれて嬉しい気持ちがあったため、それに対してお礼の言葉を口にしていた。


「はい、素直にお礼を言えるのはとてもよいことです。よいお子さんですね」

 再度頭を撫でると、エルフの女性は立ち上がって、今度はクライブ向けて笑顔を見せた。


「いや、まあ、ありがとうございます。それより、ご迷惑をかけたお詫びに何か……その荷物はあなたのですか?」

 本当の娘ではないため戸惑うクライブだったが、女性の後ろには多くの荷物が台車に乗って置かれていた。


「えぇ、たまにしか買い物に出ないものでついつい大量に買ってしまいました」

 苦笑する女性。彼女の細腕で持ち運ぶのはなかなか難しいのではないかというほど、大量の物が載っていた。


「だったら、それを運ぶの手伝いますよ」

「てつだう!」

 クライブの提案を聞いて、名案だと判断したフィオナも元気よく手をあげている。


「えっと、それはすごく助かるけどいいのかしら? かなり重いわよ? 私も誰かに頼もうと思っていたくらいだし……」

 クライブたちの申し出を聞いて、彼女は助かるという気持ちと悪いという気持ちがせめぎあっていた。


 それを察したクライブが既に動き始めている。


「お前たち、台車の下に入り込んで運ぶことはできるか?」

 クライブが質問している相手はもちろん契約しているスライムたちである。


「きゅー(もちろん)!」

 代表して返事をしたのはいつものとおりプルルである。

 そして、返事をするやいなや荷物が載った台車の下に数体のスライムが入り込む。


「よし、それじゃ行きましょう。おうちはどちらですか?」

「えっ? だ、大丈夫なの? それならうちはこちらなのだけれど……」

 おずおずと自分の家の方向を指さす女性。


「了解です。みんないくぞ」

 クライブが頷き、スライムたちに指示を出すと台車はゆっくりと動き始める。


「きゃっ! す、すごいわね。こんなふうにスライムを使役しているだなんて……」

 スライムたちが荷物を落とさないように、安全に台車を運ぶ様子を見て女性は驚き、感心しているようだった。


 スライムが台車を運ぶ様子を見て、すれ違った通行人たちが何事かと見てくるがクライブとフィオナはいつものことであるため気にしていない。

 また、エルフの女性も初めて見るスライムたちによる荷物の運搬に興味津々でワクワクしていた。


 彼女の案内でたどり着いた先は、一軒の古めかしい洋館だった。

「ここが私のうちです。どうぞ上がって下さい、あなたー! あなた、お客さんですよ!」

 扉の鍵をあけて中に声をかけるが、返事はない。


 クライブとフィオナは、彼女の夫は留守なのだろうと予想している。

 しかし、彼女はその行き先がわかっているらしくため息をついて、家の中へと入って行く。


 荷物を玄関の中に運び込んでから、クライブたちも彼女のあとを追って行く。

 進んだ先は屋敷の中庭。そこには古ぼけた巨木が一本あった。


 サイズは大きいが、生命力はあまり感じられず、このまま枯れていく予感すらする。


「あなた……」

 その木にそっと手を触れて考え込むようにたたずんでいるエルフの男性。

 それが彼女の夫だった。


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