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第十五話

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 しばらくして泣き止んだところで、ダコルはなんとか完了のサインを書いてくれる。

 顔をくしゃくしゃにしながら何度も何度もクライブにお礼を言っていた。


 その頃には日が傾き始め、夕方になっていた。


 待っている間に作業員たちからこの鉱山についての話を聞くことができたのは収穫だった。

 鉱山はとある金持ちのもので、作業員はその金持ちに雇われている。

 いくつかの鉱石をとることができ、その取れ高によって給料が支払われるとのこと。


「結構儲かるんですか?」

 実際の取れ高がどれくらいかわからないため、クライブはそんな質問を投げかける。


「そりゃあ、なあ。見ろよ、あれだけ娘を溺愛しているダコルが家を離れてでも仕事にくるくらいなんだぞ?」

「なるほど」

 そう言われてクライブは納得した。

 視線の先にいるダコルは、鼻をすすりながら手紙に穴があくんじゃないかというほど何度も手紙を読み直している。


「さてと、色々お話を聞くことができましたし、依頼も完了したので戻りますね」

 クライブがそう言って椅子から立ち上がると、ガルムとプルルも立ち上がって帰る準備をする。


「うーむ、これからだと森を通るのは夜になるぞ。布団の予備があるから、今日は泊って行ったらどうだ?」

 普通に街からここまで来るのには人の足では時間がかかる。

 気遣うように作業員が提案してくれるが、クライブは即答せず腕を組んでしばし考え込む。


「……いえ、帰る移動手段はあるので帰ります。お心遣いありがとうございますね。それでは!」

 これ以上引き留められないように、クライブはあっさりと別れを告げ、森に向かって足早に移動を始めた。




 森の入り口まで到着したところで、クライブは息を呑む。

「確かに、これは……暗いな」

 昼間は日の光が差し込んでいるため明るく感じたが、夜ともなると森の中は暗く危険な場所に様変わりしていた。


「うーん、さすがにここを進むのは危険かな?」

 クライブがガルムに確認すると、さすがのガルムも難しい表情になっている。


 狼のガルムは嗅覚がそれなりに鋭いが、それだけを頼りに進むには地面のへこみや石や木の根などが障害になってしまう。


「きゅきゅー(まかせてー)」

 二人が悩んでいるのを見ていたプルルが、何やら大きく震えだし……分裂した。


「わっ、増えた! いや、合体しているうちの一体か。こっちの青いのがプルルで、こっちは薄い黄色?」

 薄黄色のスライムはぴょんっとジャンプすると、ガルムの頭に飛び乗った。

 そして、プルプル震えるとオレンジスライムの前面が灯台のように光を放って前方を照らし出す。


「おぉ、これはすごい! こいつは一体なんていうスライムなんだ」

 クライブはそう言いながら能力を確認する。


【薄黄色のスライム データオープン】

 名づけていないため、変わった掛け声になってしまう。

 それでも薄黄色のスライムの能力を確認することができた。


************************

名前:

主人:クライブ

種族:ライトスライム

特徴:戦闘能力はほとんどないが、光り輝くことができる。

    身体全体、一部だけ、一方向だけなど光らせる部分を変化できる。

************************


「なんと便利な。でも、これなら進めるな。ナイスだ。アカリ!」

 クライブの言葉にライトスライムが振り返る。


「ま、眩しい!」

 ライトスライムの前方を照らすあかりが、クライブを直撃していた。


「ぷるるん!」

 慌てたライトスライムが光を弱めた。


「きゅきゅきゅ(あかり)?」

 落ち着いたところでプルルが先ほどのクライブの言葉について聞き返す。


「ん? あぁ、それに反応したのか。光で照らしてくれるから、アカリっていう名前にしてみたんだけど……まずかったか?」

 そう言われたアカリは大きく身体を横に震わせた。まずくないということを身体全体で表している。


「ぷるぷる(うれしい)!」

 名前をつけ、改めてクライブのことを主として認めたことでアカリの言葉がクライブに理解できるようになった。


「おおう、すごい。アカリの言葉もわかるのかあ。さすがに全員がしゃべりだしたら困るけど、繋がりが強くなったようで嬉しいな」

「ぷる(うん)」

 返事をすると、アカリは前方を向いて再度照らし始める。自分の仕事を全うしようという気持ちが伝わってくる。


「さてそれじゃあアカリは前方を、ガルムは移動を頼む」

「ガウ!」

「プル!」

 二人が返事をすると、ゆっくり進んでいく。


 暗い森の中は、言い知れぬ圧迫感があった。

 しかし、プルルとガルムとアカリの三人がいることでクライブにのしかかる圧迫感は軽減されていた。


 森の半ばまで進んだところで、ふいにガルムがピタリと足を止めた。


「どうした? 魔物か?」

 クライブがナイフに手をかける。アカリは前方の照らす範囲を少し広げた。プルルは後方を確認している。


「ガウ……ガルル……(あの……ひとが……)」

 乗っているクライブたちに影響がないよう、ガルムはゆっくりと足をあげ、右前方を指した。


 その方向をクライブ、プルル、アカリの三人が見る。

 茂みから、小さな手が少し見える。


「……人だ。いやいやいやいや! 人が倒れてちゃまずいだろ! ちょっと、ちょっとちょっと! 大丈夫ですか!?」

 人だと分かった瞬間、慌てたようにクライブはガルムの背中から降りると、急いで茂みへと駆け寄った。


 茂みをかき分けると、そこには確かに人が倒れていた。


「子ども? しかも……角?」

 年齢は恐らく五歳かそこらの少女。髪の色は金髪。血の気が失せているのもあってか肌が白い。

 そして、頭には小さな角が生えていた。


 しかし、それ以上に頭から血を流していることのほうが最優先事項だった。

 しかも、呼吸も浅くなってきている。


「くそ、俺の魔術じゃ……」

「ガルガルガルル(主のまじゅつ使って)!」

 人に対する回復に自信のないクライブは何とかしたいと思いつつ、ついためらって固まってしまう。

 だが鼓舞するように吠えるガルムの顔をクライブが見るとガルムは力強く頷いた。


 何か確信があるガルムに背中を押されて、クライブは回復魔術を発動させる。


「『ヒーリング』」

 手が光を放ち、少女の傷を覆っていく。

 その光はクライブの予想に反してどんどん強くなり、いつしか全身を覆っていた。


「こ、これは」

 動揺するクライブだったが、それでも魔術の発動は止めない。

 少女は身体のそこかしこしに小さな傷を負ってるらしく、クライブの魔術がそれら全てを治癒していく。


 傷が多く、治癒が完了するまでに十分程の時間が経過していた。


「ふう、これで大丈夫だ。呼吸も落ち着いている。しかし、どうしたものか……」

 角が生えていて、クライブの回復魔術が効果を発揮したことを考えると、普通の人族ではない。

 そして、子どもが一人でこんな森の中にいるという状況……あきらかに普通ではない。


 そんな少女を街に連れていって、一緒の宿に泊まらせるというのはいらぬ問題を招き入れかねない。


「ガウガウガルル(僕らの住処に行こう)」

「なるほど、あそこなら彼女を寝かせることができるし、休憩するには悪くないな。ガルム、この子をのせてもらうぞ」

「ガウ」

 クライブは隣を歩き、少女をガルムの背中に乗せる。

 それ以外は先ほどと同じ陣形で、ガルムたちの住処がある北の森に向かうことになった。


 アカリが照らしてくれたため、西の森は問題なく通過できる。

 そして、北の森はガルムたちの庭のようなものであるため、すんなりと住処に到着することができた。


 木の根元の大きな穴に、柔らかな葉を敷き詰めて少女を寝かせた。

 クライブはというと敷き詰められたスライムベッドに寝転がり、ガルムを枕にしてゆっくりと休んだ。


 翌朝、クライブたちが目覚め、朝食を食べていると少女が目を覚ました。


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