無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第九話

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「ど、どもども」

 クライブが頭を下げて拍手に応える。

 ガルムとプルルはすぐそばにいて、どこか誇らしそうだった。


 しばらくすると、解散してみんながそれぞれの目的に向かって移動していく。


 残ったクライブは足元に転がった剣を手に取る。

「これ、どうしよう?」

「ガウガウ?(もらったら?)」

「きゅきゅーきゅー(ここにあるとあぶないー)」

 ガルムの提案、そしてプルルの指摘を受けて、クライブは剣を持っていくことにした。


 逃げる際に、男は剣の鞘を落としていってくれたためそれにしまって腰に身に着ける。


「うん、なんか意外といい剣かも。まあ、剣を見る鑑定眼なんてないけど」

 そう言うクライブは迷惑をかけられた戦利品としてとっておくことにする。

 先ほどのいさかいは多くの人が見ていたため、クライブがこの剣を持って行っても問題ないと考えられた。


「さて、思いがけず武器が手に入った。自分の力も確認できた。そして、冒険者ギルドにすぐに戻るのはちょっと恥ずかしい」

 さて、どうしようか?


 クライブは腕を組んで今後の予定をどうするか考え込む。


「ガウガウー(森に行くとか)」

「きゅーきゅーきゅー(であったとこー)」

 二人は別段あの森に郷愁を感じているわけではなかったが、それでも久しぶりに行ってみるのも悪くないかなと思っていた。


「なるほど、あの森か……悪くないかも」

 依頼をこなすために向かったのは西にある森。そして、クライブたちが出会ったのは北にある森だった。


 クライブが乗り気になったため、心なしかガルムとプルルも嬉しそうな様子である。

 そうと決まれば動きは早く、三人は北の森へと向かうことにした。


 前回クライブは空腹と疲労で野垂れ死にしそうになったため、それを教訓にいくらかの食べ物を購入したため、野垂れ死にの危険性は減った。


 果物をそれぞれが口にしながらしばらく歩いていると森へと到着する。


「さて、森に到着したものの……あの時はもう心身ともにボロボロだったから、あんまり覚えていないんだよなあ。ガルムの怪我を治して、そのあとプルルも治して、猪も治した気がするけど……そんなもんだったかな?」

 クライブは覚えていることを口にしていく。


 ガルムとプルルはその言葉を聞いて、頷いていた。

 自分たちの記憶と同じであると同意している。


「で、確かガルムたちの家があっちに……」

 食事を分けてもらったガルムの家に向かおうとするクライブだったが、ガルムがズボンのすそを咥えて止める。


「どうした?」

「ガルガルー(あっちに行こう)」

「きゅーきゅきゅー(なかまのとこー)」

 ガルムたちはクライブのことをどこかに案内したいらしく、そちらへと引っ張っていく。


「わ、わかった! ついていくから引っ張らないでくれ!」

 クライブに言われてガルムはズボンから口をはなして先を歩いていく。案内をしてくれるらしかった。


 ガルムの案内に続いてしばらく歩いていく。

 その通り道には道ならざる道もあり、茂みをかき分けて進み、ついに到着する。


 そこには泉があった。

 ただ、泉があるだけでなく泉を埋め尽くすほどの数の……。


「ス、スライム!? なんだこのスライムの数は! 緑に赤に青に茶にオレンジに……金に銀にってすっげえ! あんなにスライムに種類がいるのか!」

 クライブは見たことのない種類のスライムを見て感動していた。


「きゅきゅきゅー、きゅーきゅ(すらいむのみずばー、みんななかまー)」

 プルルはクライブにそう言うと、ピョンピョン跳ねて仲間のもとへと向かって行った。


 なにやらスライム同士でコミュニケーションをとっているようである。


「プルルのやつ、今はサファイアスライムってのに進化してるけど、仲間はプルルだって認識できるのかな?」

「ガルガルルー(問題ないと思う)」

 ガルムがそう答えたように、プルルは問題なくスライムの輪に溶け込んで歓迎されているように見えた。


「ふーむ、やっぱり仲間と一緒にいるのがいいのかなあ……」

 クライブは人であり、ガルムは狼種であり、プルルはスライム。

 互いのことを分かり合えるように、同じ種の仲間と一緒にいたほうがいいのかもしれない。クライブはそんな風に考えていた。


「ガウガウ!」

 そんなクライブのことをガルムが吠えつける。


「ど、どうした?」

「ガウガウ、ガウガウガー!(契約したのは、一緒にいたいから!)」

 そう言うと、ガルムはクライブの足にげしげしと体当たりをする。


「わ、悪かったよ。わかった! わかったから、やめろって! 力を抑えてくれてるみたいだけど、地味に脛が痛い! 痛いって! プ、プルル助けてくれ!」

 クライブは仲間のもとへといったプルルに助けを求める。


 すると、プルルがクライブたちのもとへと戻ってきた。

「よかった、プルル助けて……ってデカッ! でかくないか? いや、でかいですよね?」

 なぜか敬語になるクライブ。


 ガルムもクライブへの攻撃をやめて、プルルに視線を向けて固まっている。


「きゅーきゅー(けんかだめー)」

 二人のことを止めてくれるプルルのサイズは、見上げるほどの大きさだった。


「えっと……両手で持てるくらいのサイズだった気が」

「ガウガウ(うんうん)」

 クライブの言葉に、ガルムは大きく頷いている。

 そんな二人の視線はプルルに釘付けだった。


「きゅーきゅきゅー(ぶんれつー)」

 ポンっという音とともに、プルルはもとのサイズに戻り、周囲には仲間のスライムが次々に登場する。


「なるほど、つまり……合体していたってことか」

「きゅー(そー)」

 プルルの返事に呼応するように、他のスライムたちもプルプルと震えている。


 色とりどりのスライムたちに囲まれる光景は、どこか幻想的でもあった。


「きゅきゅきゅ、きゅきゅー(みんな、けいやくー)」

「「「「きゅーーー」」」」

 プルルがみんなに呼びかけると、スライムたちが列を作ってクライブの前に並ぶ。


「えっ? も、もしかして全員俺と契約するの?」

「「「「きゅー」」」」

 もちろんだと言わんばかりに、全員が声をあげた。


「は、ははっ。これはすごいな……ようっし! いいぞ、みんな順番に契約だ! にしても……もしかして、この俺に懐いてくれるのはあの魔術力ってやつが関係しているんだろうか?」

 エラリアに契約方法を教えてもらった時に、念のため大量の魔方陣を作成しておいたことが功を奏し、今いる数分の用紙があった。


 流れ作業で次々に契約がかわされていくが、全ての契約を終えたのは一時間後のことだった。


「はあ、はあ、はあ……や、やっと終わったぞ。つ、疲れた……」

 契約したスライムの数は百をゆうに超えている。クライブも最初のうちは数えていたが、疲労が強く途中からわからなくなっていた。


「ガウガウ(おつかれさま)」

 疲労困憊のクライブを労う様に、ガルムが声をかける。そして、クッション代わりになるように近くにきてしゃがんだ。


「ガウ(どうぞ)」

「あ、あぁ、ありがとう。お言葉に甘えるよ」

 そう言うとクライブはガルムにもたれかかって休憩する。


 その周囲にはたくさんのスライムの姿があった。


「この数、どうすればいいんだろう?」

 これだけの数のスライムを連れて歩くわけにはいかない。合体してもらっても、巨大なプルルを連れ歩くのも難しい。

 そう考えて、クライブは頭を悩ませていた。


 自らの能力はギルドに行かなければ確認できないが、彼のステータスにはそのスライムの総数が記されている。



************************

名前:クライブ

職業:回復魔術士

スキル:回復魔術、獣魔契約、魔物強化、強化(自身)

契約獣魔:ガルム、プルル、スライム種154体

特徴:世界で唯一回復魔術を使える人間。

    回復魔術は魔に属するものの回復を行える数少ない手段。

    使用するのは魔力ではなく、魔術力と呼ばれる力。

    魔術力は契約した魔物を強化し、魔物の力を自らにも還元する。

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