無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第八話

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「どど、どうしました!?」

 受付嬢が慌てて能力確認の部屋の前までやってきて声をかけてくる。


「あっ、あぁ、いや、大丈夫。ちょっとビックリしちゃって……申し訳ない。もう大丈夫です、ありがとうございました」

 クライブはそれだけ言うと慌てて冒険者ギルドを出て行き、そのまま走ってギルドから離れていく。


 途中から速度を落とし、歩くクライブだったが口を開かず無言である。そのあとを黙ってついていくガルムとプルル。

 徐々に早足になって、クライブは広場の噴水まで移動し、その縁に座る。


「ガウガウ、ガウ?(主殿、どうしたの?)」

 ガルムはここまで何も聞かずにいたが、座って落ち着いた様子のクライブを見て質問する。

 プルルも口には出さないが、心配している様子だった。


「あ、あぁ、ごめん。いや、二人に言われて自分の力を見てみたんだけど、ちょっと予想外だったんだよ」


 以前のクライブの能力を思い出す。


************************

名前:クライブ

職業:回復魔術士

スキル:回復魔術

************************


 シンプルにこれだけが記されていた。

 しかし、今回ギルドで確認した内容が次になる。


************************

名前:クライブ

職業:回復魔術士

スキル:回復魔術、獣魔契約、魔物強化、強化(自身)

契約獣魔:ガルム、プルル

特徴:世界で唯一回復魔術を使える人間。

   回復魔術は魔に属するものの回復を行える数少ない手段。

   使用するのは魔力ではなく、魔術力と呼ばれる力。

   魔術力は契約した魔物を強化し、魔物の力を自らにも還元する。

************************


「なんか、スキル増えてた。しかも、特徴っていう欄が増えてて色々書いてあった。ってか、魔術力なんて初めて聞いたぞ……」

 ここまで内容が増えたという話は聞いたことがなかった。


「いや、能力表示がこんなに大きく変わるなんてありえないだろ。いや、俺すげえ強くね? なにこれ、俺と契約すると強くなるの? しかも俺も契約してると強くなるの? 世界で唯一って俺しか回復魔術使えないの? いやいや、魔術力ってなによ!」

 色々とツッコミどころがあったため、思わず大きな声をクライブは出してしまう。


 しかし、タイミングよく噴水が水を強く噴き出した為、その声は周囲に聞こえずにすんでいた。


「ガルル、ガルガル(だから、言ったでしょ)」

「きゅー、きゅきゅー(あるじ、つよいー)」

 ガルムとプルルはすごい結果になることをわかっていたため、どや顔になっている。


「あぁ、言っていたな。でも、まさかここまでなんかよくわかんないことになってるとは思わなかった。この魔術力っていうのがあるからお前らが強くなったのか? ってことは、普通に契約しただけじゃ強くなれない?」

 想定以上の結果であるため、クライブは混乱の最中にあるため疑問が止まらずに口をついてでる。


「それに……モゴモゴ!」

 まだまだ尽きない疑問が出ようとするが、プルルが口を塞いで話を中断させる。

 クライブは周囲が見えていなかったため、ガルムのとっさの指示でプルルが言葉を遮る。


「おい、ちょっとなんで口をふさぐ……いや、ありがとう」

 プルルを引きはがしたところで状況に気づいたクライブは小さな声で礼を言う。


 クライブたちのもとへとやってきたのは数人の冒険者だった。

 ギルドで見たことがあるような気はしたが、クライブが話したことがある人物ではなかった。


「おう、お前さっきギルドで騒いでいたやつだよな」

 それはクライブが能力確認時に大声を出していたことを指している。


「えぇ、ご迷惑かけたならすみませんでした。ちょっとビックリすることがあったもので」

 クライブは立ち上がり軽く会釈しながら謝罪する。


「いや、別にそれはどうでもいい。それよりもお前の連れに用があるんだよ」

 クライブには目もくれず、ガルムとプルルを見た男たちがニヤニヤ笑っている。


「なかなか珍しい魔物を連れてるじゃねえか」

 その視線はガルムとプルルのことを完全に捉えている。

 どうにも良い意味での視線でないことをクライブたち三人が感じ取っていた。


「俺の大事な仲間ですからね」

 自分が契約をしている。そして、手放すつもりはないという意味を込めてクライブが静かに言葉を放つ。

 それと同時に、二人を自分の後ろに隠れさせる。


「お前、無能ヒーラーだろ? 有名だぞ。回復が使えるはずなのに、かすり傷すらろくに治せないってな!」

 クライブの無能さを周囲に知らしめるように、男の一人がわざと大きな声で言う。


「そう言われてましたね。色々なパーティに迷惑をかけましたが、今はこいつらがいてくれるのでなんとか冒険者としてやっていけてますよ」

 あえてニコニコとクライブは話す。

 相手の目的がクライブを挑発したいというのは見え見えである。


「……ちっ、そのニヤケ顔イラつくぜ。まあいい、そいつらはお前みたいな能無しヒーラーと一緒にいるより俺たちと一緒にいるほうがいい。ここらじゃ見たことにない魔物だから、さぞかしレアだろうしな。高く売れそうだ……」

 したなめずりしながら最後に小さく言った一言が男たちの本音だった。


 それはクライブには聞こえないような小さな声、のつもりで男は口にしていた。

 しかし、今は噴水もおさまっており、他に人がほとんどいないため、クライブの耳に全て届いていた。


「――今、なんて言った?」

 クライブは冷ややかな声音で質問する。その口調は先ほどまでのものとは変化していた。


「ああん? 能無しヒーラーと一緒にいるより俺たちと……」

「違う! 最後に言ったやつだ!」

 男が先ほどの言葉を繰り返そうとするが、クライブに遮られる。


「はっ、聞こえていたのかよ。あぁ、そうだよ。そいつらは珍しい魔物だからさぞ高く売れるだろうってな! お前なんかと一緒にいるより、俺たちが有効利用してやるよ。だから、さっさとそいつらを俺たちに引き渡せ!」

 クライブを怒鳴りつける男。その仲間たちは横からガルムとプルルを捕まえようとしている。


「おい……」

 低い声でそう言ったクライブは顔をあげると前にいる男を睨みつける。

 それと同時に左右の手で仲間の男たちの胸倉をつかんでいた。


「悪いが、こいつらは売り物じゃない。俺の仲間だ! ふざけたことをするなああああ!」

 クライブが掴んだ男たちを思い切り投げる。決して筋肉質とは言えないクライブが投げる。

 本人はただ無我夢中。男たちは力の弱いヒーラーのささやかな抵抗――そう考えていた。


「あれ?」

 結果は本人も首を傾げるほどのものであり、投げられた男たちは一回転して、数メートル後方にぶざまな形で着地した。


「ぐへえ」

「ぐああ」

 情けない声を出す男たちは、驚きのあまりまともに受け身をとれずダメージを受けていた。


「て、てめえ! よくもあいつらに手を出しやがったな!」

「いや、先に俺の仲間に手を出そうとしたのはそっち……」

「うるせえ!」

 クライブの言葉を遮って頭に血が上った男が殴りかかる。


「……あれ?」

 しかし、その動きはクライブの目にはっきりととらえられるものであり、あっさりと手で受け止める。


「ぐっ! くそっ! 放しやがれ!」

 そんなことされるつもりがなかった男は顔を真っ赤にして拳を引きはがそうとする。


「あぁ、ごめんごめん。いや、でもそんな強い力で握ったつもりはなかったんだけどなあ……」

 自分の予想外の事態にここでもクライブは首を傾げる。

 ただただ思っていることが口から出ているだけである。


「ふざけんなよ!」

 だが、男にとっては馬鹿にされているように感じたため、腰から剣を引き抜いた。


「いやいや、武器は危ないでしょ」

 口ではそういうが、クライブは危険を感じていない。剣を持つ男を前にしているというのに。

 ここまでの流れで自らの力を把握し始めているクライブにとって、それは武器を構えるに値しないものになっていた。


「くそっ、ふざけんなあああ!」

 剣が振り下ろされ、その光景を見た周囲の人々が悲鳴をあげる。


「だから、危ないって。よっと」

 クライブは剣を避けると、すぐに男の手首のあたりを強く握って剣を放させる。


「いて、いてて! や、やめてくれ! 悪かった! 俺たちが悪かったからやめてくれ!」

「はい、どうぞ」

 男の言葉にクライブは素直に手を放した。


 つっかかってきたのは男たちであり、クライブは仲間を守ることができ、かつ自分の力を把握できたことで満足していた。


「お、覚えてろよ!」

 そんな三下の捨て台詞を残して男たちは逃げていった。


「おー!」

「にいちゃんすげえな!」

 パチパチパチパチ


 男たちが大声を出していたため、一連の流れを周囲の人々が見ていた。

 クライブの見事なあしらいかたをみた街の人たちから自然に拍手と歓声が巻き起こっていた。
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