無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

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第七話

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 変化のあったガルムとプルルに驚くクライブだったが、一つ思い当たることがあった。


「あ、そうだ……ちょっと待っててくれ。えっと、エラリアさんにもらった魔物使いの本のどこかに……」

 そう言いながら、クライブはごそごそとカバンの中を漁り、本を取り出すと魔物の変化に関するページを探していく。

 ざっと見ただけであり記憶に薄っすら残っている程度だったが、魔物が変化することについて書いてあった……ような気がしていた。


「あった! ――なになに? 魔物は戦いを続け経験を積んでいくなかで進化することがあります。ただし、かなりの経験を積む必要があるため、特に進化は一生のうちに一度できればよいと言われています……だってさ」

 説明を読み上げたクライブは、ガルムとプルルに視線を送る。


「おおう可愛い、って……いやいや! 一生のうちに一度!?」

 可愛らしく小首を傾げる二人に一瞬癒やされたクライブだったが、我に返ったように驚きながら再度本に目を落とす。

 何度確認しても一生のうちに一度できればよいという文章に変化はなかった。


「出会ってから一日? 二日? そんなもんで進化したんだが……」

 クライブは呆然とした様子でガルムとプルルを見ている。


 二人は今となっては森狼でもなくグリーンスライムでもない、進化した存在である。

 その現実にクライブは頭がおいついていない様子であった。


 当のガルムとプルルは互いの身体を確かめるように匂いを嗅いだり身体を動かしたりしている。


 ここでクライブの頭に疑問が浮かぶ。

 ――じゃあ、一体何に進化したのだろうか?


 そう考えた時に、もう一つエラリアの本に掲載されていた文章の一つを思い出す。


「確か、どこかに……仲間の、能力――ここだ!」

 ぱらぱらと急いでページをめくりながらクライブは必死にそれをさがし、見つける。

 仲間の能力についての項目に記載されていた文章。


「――獣魔契約を果たしたものは、その魔物の能力を確認することができる。と言われているが、結びつきが弱い場合はそれに限らない」

 そこまで読むと、次のページにはその能力の確認方法が記されている。


「ていってもまあ出会ったばかりだときっと能力の確認なんてできないんだろうな……」

 そう言いながらも、クライブはその方法に目を通して、やり方を確認する。


「えっと、【ガルム データオープン】……うおっ!」

 ガルムに手のひらを向けて、そう口にするとクライブの前に一枚の薄く透けるようなスクリーンが現れる。

 クライブが驚いている様子を見て、ガルムとプルルは顔を見合わせる。クライブが何に驚いているのかわからない様子だった。


「あれ? ここになんか文字が出てるのって見えてないのか?」

 クライブが質問すると、ガルムは近づいてきて再度首を傾げる。


「ガル?(文字?)」

 近づいてもガルムには何も見えなかった。 


「俺だけにしか見えないのか……って書いてあった。尚、能力を確認できるのは契約した主のみである……って小さすぎるよ!」

 クライブがツッコミを入れたくなるほどに、その注釈は隅のほうに小さな文字で記されていた。


「はあはあ……まあいいか。能力を確認していこう、名前や種族が一覧で見ることができるのか」


 そのスクリーンにはガルムについての情報が記載されていた。




************************

名前:ガルム

主人:クライブ

種族:蒼森狼

特徴:素早い動きから繰り出される体当たりは強力。

    鋭い牙は皮を突き通し、肉をえぐり取る。

    森狼の上位種であり、十倍以上の身体能力を持っている。

    元来の能力に加えて、魔術士クライブとの繋がりにより更に強化されている。

************************




 その情報を確認したクライブは、最後の行を何度も確認していた。


「――魔術師クライブとの繋がりにより更に強化?」

 そして、その一文を口にする。

 次に、魔物使いの本を急いで確認していく。


 何周かしてみるが、そのどこにも契約すると魔物の力が強化されるとは書いていない。


「……まあ、あれだ。ラッキーってことにしておこう」

 考えてもわからないことであり、事実はそう記されているのでそういうものだとクライブは納得する。


「とりあえず、ガルムは蒼森狼という種族に進化したらしい。そして、前よりも十倍強くなったらしい。頼りにしているぞ!」

 クライブは頭を撫でながらガルムに声をかける。


「ガウガウ!(任せて!)」

 頼りにしているという言葉は相当に嬉しかったらしく、ガルムの尻尾は盛大に左右に動いていた。


「きゅーきゅー(こっちもーみてー)」

 すると、プルルも自分の能力を見て欲しいとねだってきた。


「わかったわかった。【プルル データオープン】」





************************

名前:プルル

主人:クライブ

種族:サファイアスライム

特徴:宝石の名を関するスライム。

    一般的なスライムの上位に位置する種。

    溶解能力は一般的なスライムよりも強い。

    また、体内への保存容量は大幅に増えている。

    宝石スライムは弾力性のある身体に加えて、硬度を上げての攻撃防御を行える。

    魔術士クライブとの繋がりにより一気に進化した。

************************




「なんか、聞いたこともないスライムの種族名が……サファイアスライム? しかも保存容量が大幅に増えているって便利スライムじゃないか!」

 一気に強化されたプルルのデータを見たクライブは驚いて、思わず大きな声をだしてしまう。


 少し前に身体の中にものを保存できる能力を活かせないか? と考えたが、容量が大幅にアップしたともなれば、十分利用価値がある。


「それで、プルルのほうには『魔術士クライブとの繋がりにより一気に進化した。』ってあるけど、つまり俺の力が今の力に影響しているか、進化に影響したかの違いってことか……」

 二人のデータに表示されているメッセージが微妙に異なるため、クライブはその意味を考えていた。


「なんにせよ……」

「ガル?(うん?)」

「きゅー?(なにー?)」

 クライブは一度言葉を切って、タメを作る。


「すげー強くなったってことだ!」

 そして出てきた言葉はシンプルな、しかして今の二人の状態を端的に表すものだった。


「それにして、二人がこれだけ強くなったとなると……俺の存在価値が危ういなあ」

 先ほどの戦いの時点でガルムとプルルはかなりの戦果をあげており、反対にクライブは戦いに貢献していない。


「ガウガウ(大丈夫)」

 ガルムはシンプルな、そして何か確信しているような慰めの言葉をかける。


「きゅー、きゅきゅー(あるじは、つよいよー)」

 それに続くプルルの言葉。

 これにガルムも大きく頷いていた。


「俺が、強い?」

 実感のない言葉をかけられたクライブは腕を組んで首を傾げていた。


「ガウガウガーウ(能力を確認するといいよ)」

 そんなガルムの言葉に、今度はプルルが同意しているようだった。


「なるほどな。今回の報告をしたら確認してみようか」

 薬草と角の両方をそろえることができたクライブたちは、冒険者ギルドに戻ってこれらを納品することで依頼達成し報酬をもらえることになる。


 そして人の能力は冒険者ギルド内にある能力確認の魔法陣に入ることでチェックすることができる。通常は、初めて登録をした時。明らかに成長したと実感した時にそれを確認することになっている。


 報告ついでに確認するなら一石二鳥だと考えていた。

 しかし、自分が強いというのは二人が慰めるために言ってくれているのだろうともクライブは考えていた。


 それでも、二人が気を使ってくれることは嬉しかった。

 これまで参加したパーティでは、クライブの実力を認めてくれる者はいなかったがゆえに、二人の暖かい言葉はクライブの胸を打っていた。





 冒険者ギルドへと戻った三人は今回受けた二つの依頼報告を行う。


「はい、薬草十枚確認しました。綺麗に摘みとっているので問題なしです。次はホーンドッグの角ですが……」

 受付嬢に言われて、クライブはカバンの中から角を取り出してカウンターに並べていく。


「こ、これはすごいですね!」

 今回の依頼はホーンドッグの角五本だったが、クライブが取り出した角の数は十本だった。

 受付嬢は角の数に驚いただけでなく、その品質にも舌をまいていた。


「これだけ綺麗な状態の角は初めて見ました。他の方が持ってこられるのは途中で切られたものなんですが、これは途中で切れずに丸々一本の状態です!」

 これほどに綺麗にとってくるには、丁寧に筋肉や皮を剥がす必要があるため、時間も技術も必要になる。それほどに、クライブの持ってきた角の状態は見事なものだった。


「しかも、短期間でこれだけの量を用意するなんて……」

「いや、まあ……ははっ、と、とりあえず大丈夫ですかね? 依頼は完了ですか?」

 まだプルルの身体の中には角がある、とは言い出せずクライブは依頼完了の確認をする。


「はい、もちろんです! よろしければ余剰分の五本はギルドで買い取らせてもらいますが、構いませんか?」

「お願いします! いやあ、それは助かるなあ」

 多く手に入ったため、どうしたものかと考えていたが買い取りをしてくれるのであれば、願ったりかなったりだった。


 その後、クライブは依頼完了のデータ更新を冒険者ギルドカードに施してもらい、報酬を受け取る。


「あ、そうだ。能力確認を行いたいんですけど……」

 クライブはガルムとプルルに言われたことを思い出していた。


「はい、どうぞ。そこのカウンターから入って、奥の部屋です。使い方はご存知、ですよね?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 許可を得たため、クライブはカウンターの中へと入り、能力確認の部屋へと入って行く。


 部屋の中には水晶玉が用意されており、そこに手を置くことで目の前の石板に能力が表示される。

 この部屋は内側から鍵をかける仕組みになっており、外からは開けられないようになっている。

 これによって、外からの侵入を防ぎ能力の漏洩を防いでいる。


 クライブは部屋に備え付けられている説明書を改めて読んで、水晶玉に手を置いて自らの能力を確認する。

 映し出された能力にクライブは一瞬固まった。


「――なんじゃこりゃあああああああ!」

 そんなクライブの声がギルド内に響き渡るのは、能力確認後数秒してからのことだった。
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