無能な回復魔術士、それもそのはず俺の力は『魔◯』専用でした!

かたなかじ

文字の大きさ
上 下
2 / 46

第二話

しおりを挟む

 狼に食事を分けてもらって、いくらか腹が膨れたクライブは座り込んで考え込むように腕を組んでいた。


「うーむ、俺の魔術がまさか魔物を治療するためのものだとは思わなかったな」

 口にすることで改めて自分の魔術の効果を確認する。


 しかし、確認したことで困ることになる。


「つまり――ということは……」

 この先を口にすることにためらいがあったが、これまた口にして確認することにする。


「――俺は人の冒険者パーティに加わることはできない、ってことか……」

 その事実は心に大きな穴をあけることとなる。声のトーンはがっかりとしたもので、クライブは肩をがっくりと落とし、下を向いてしまう。


 回復の力があるということを知った時のクライブは、将来は冒険者になって活躍するんだと周りに触れ回っており、そうなる未来を夢見ていた。

 そんな夢にとどめを刺された気持ちだった。


 しかし、そんなクライブの様子に狼とスライムが慌て始める。


「ガ、ガウガウ!」

 クライブが落ち込んでいる理由はわからないが、元気づけようと狼が声を出してピョンピョンはねて回る。


「きゅーきゅー」

 スライムはクライブの手の中に移動して、プルプル震えてスライムなりに励ましている。


「ぷっ」

「ガウ?」

「きゅー?」

 吹き出すようなクライブの声を聴いて、狼とスライムがきょとんとした様子で動きを止めた。


「……はははっ! ぷはははっ! ふ、二人とも俺を励ましてくれてるのか。ははっ、笑って悪い。ありがとう、元気が出てきたよ。あー!! 使えないと思っていた俺の回復魔術にも使い道があるってわかったんだ……落ち込んでいられないな」

 自分を鼓舞するように何度か頬を叩き、笑顔を取り戻すクライブ。

 そんな彼を見て狼は喜んでクライブの傍に座り込み、スライムも嬉しそうにプルプルと震えている。


「よし、元気が出たところでいっちょやり直してみるぞ!」

 クライブはそう言って勢いよく立ち上がる。


「ガウ!」

「きゅー!」

 そして狼も立ち上がり、スライムも気合の入った鳴き声を出す。


「……いや、ちょっと待ってくれ。俺がやり直すのはいいんだが、お前たちがなんで気合を入れているんだ?」

 首を傾げながらクライブは二人に尋ねる。


「ガウガーウガウ!」

「きゅっきゅきゅー!」

 狼とスライムはそれぞれの言葉で必死に説明している。


「ふむふむ、なるほど治した礼に一緒に来てくれるのか……ってわかるぞ、俺!?」

 正確かどうかは確かではなかったが、クライブは二人の言いたいことがなんとなく理解できていた。


「なぜわかるのかわからないけど、治療してくれたお礼についていきたいってことか」

 クライブの言葉を聞いて狼は何度も頷いて、スライムは小さく飛び跳ねていた。


「まあ、いいか。二人のおかげで俺は力に気づいたわけだし……一緒に行こう」

 その答えを聞いた狼はクライブのあしもとをぐるぐると回って喜び、スライムはその狼の頭の上に飛び乗ってプルプルと震えていた。


「ははっ、喜んでくれると俺も嬉しいよ。しかし、いつまでも狼とスライムじゃ呼びづらいな……名前はあるのか?」

 名前、そう言われて狼とスライムは自分たちを特定する呼称がないことに気づき、狼は首を横に振り、スライムは身体を横に大きく揺らしている。


「そうか、ないのか……」

 そう呟いたクライブは腕を組んで、目を瞑り、しばらく考え込む。

 沈黙の数分間。


 しかし、狼もスライムもその沈黙を嫌なものだとは思っていないようで、静かにクライブの次の言葉を待っていた。


 数分経過したところで、カッとクライブが目を見開いた。


「決めた! お前の名前はガルム、そしてお前はプルルだ!」

 最初に指さしたのが狼で、命名ガルム。

 次に指さしたのがスライムで、命名プルル。


 力強く命名したクライブだったが、内心ではドキドキしていた。魔物が勝手に名前をつけられてどんな反応をするか予想ができないためである。

 加えて、自分の命名センスが二人に気に入られるかどうかも不安だった。


「……」

「……」

 無言の狼、動きを止めたスライム。


(ダメ、だったか? 勝手に名づけたから? それとも気にいらなかったか?)

 不安な気持ちでいっぱいになるクライブ。


「ガウガウガウ! ガーウ!」

「きゅっきゅきゅっきゅー!」

 しかし、突然二人は声をあげて大きな反応を示した。


 狼はクライブの足にすり寄って、スライムは狼の頭からクライブの身体に移動して肩の上でピョンピョンはねている。


「気に入った、ってことでいいのか?」

 その問いかけに、ガルムは大きく頷き、プルルも頷くような動きを見せる。


「ははっ、そいつはよかったよ。改めてよろしくなガルムにプルル。俺の名前はクライブ。人間の冒険者で職業は回復魔術士だ!」

 クライブは自己紹介をしてガルムに手を差し出す。


「ワフ」

 すると、ガルムはこちらこそといった感じでクライブの手のひらに右の前足を乗せた。


 それを握手とすると、今度は右肩にのっているプルルにクライブは左手を差し出す。

 するとプルルは身体を変形させてクライブの指を握った。


「とりあえず、プルルには俺のカバンの中に入ってもらってガルムは隣を歩いてもらうか。三人だったらクエストもこなせるはずだし色々受けてみようか」

「ガウ!」

「きゅー!」

 クライブの言葉が何を意味するかわからなかったが、二人は元気よく返事をした。




 行きとは異なり、二人のお供が増えたクライブは意気揚々と街に戻ってきた。

 クライブが目指しているのは、冒険者ギルド――だったが、なにやら視線が痛いのを感じる。

 それに加えてクライブが歩く方向に向かって人が遠巻きに避けて道が出来上がっている。


「なんだろ? なにか変かな?」

 森で座り込んだ時に服でも汚れたかと思って見てみるが、目だった汚れや傷などもない。


 そのため道を歩きながら首を傾げるクライブのもとに一人の男が駆け寄ってくる。

 それは、冒険者ギルドの職員で今日は休みのため、普段着でいる人族の男だった。


「ク、クライブさん! なんで魔物を連れ込んでいるんですか! パーティをクビになって、いよいよおかしくなったんですか!?」

 焦りから汗を浮かべる男は慌てた様子で質問をする。

 どうやら、それが他からも向けられている視線の理由であるようだった。


「おかしくなったって、酷い言われようですね。まあ、それは置いとくとして……可愛いでしょ? こいつらは懐いているんで大丈夫なんですよ。ほら、暴れないでしょ?」

 クライブの言葉を証明するようにガルムはクライブの足に甘えた声を出しながらすり寄って、安全ですアピールをしている。


「確かによく懐いて……って、いやいや、そうではないですよ! 安全でも懐いていても、魔物を街に連れてくるのが問題なんです! しかもクライブさん、テイマーギルドに行くわけでもないですよね? だって、どう見ても街の中央に向かってますもん!」

 一瞬納得しかけた職員は慌てたように首を振って否定する。

 それを聞いて、クライブはテイマーギルドという存在に初めて思い当たった。


 街の冒険者ギルドにも、知り合いにも魔物を連れている冒険者がいないため、魔物を連れ歩くうえでのルールを忘れていたが、テイマーギルドで登録するというものが第一前提としてあった。


「そういえば……」

「そういえば……、じゃないです! テイマーギルドは街の入り口近くにあるんですから、早く行って下さい!」

「わ、わかりました!」

 冒険者ギルド職員に背中を押されつつ言われたクライブは慌てて元来た道を引き返し、テイマーギルドがある場所へを向かって行った。




「やばいやばい、ガルムもプルルも大人しいから完全に忘れていたよ。でも、ルールは守らないと、っとここか……」

 職員の勢いそのままに走って戻ったため、すぐにテイマーギルドに到着した。


 だが、クライブは建物の前で呆然と立ち尽くしていた。


「これが、テイマーギルド? あるのは知ってたけど、こんなにボロボロだなんて……」

 クライブは呆然としながら建物を見上げる。


 テイマーギルドだということを表す看板は傾いて、一部の文字が消えかかっている。

 壁もところどころ板がはげており、ギルドへ続く数段の階段部分も一部腐っている。

 幽霊屋敷かと思うほどそこはボロボロだった。


「やってるかどうかも不安になるけど……行くしかないか」

 クライブは恐る恐る階段をのぼって行く。

 途中ひやりとする場面もあったが、なんとか踏み抜かずにギルドの扉をあけて中へ入ると、中は中で雑然としていた。


「えっと、すみませーん」

 人の気配はしないが、奥にも部屋があるようなので声をかけてみるが返事はない。


「すみませーん!」

 もう一度大きな声を出して呼びかけると、奥から何かをかき分けるようなガタガタという音が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっと待って……!!」

 そして焦ったような声も聞こえてきたが、声の主は酷く慌てているようで何かをなぎ倒しているのか、ドタバタ音を立てながら出てくるようである。


 そして、しばらく待っているとその姿を現す。


「はあはあ、す、すみません。ちょっと奥で作業をしていたのと、まさかお客さんが来るとは思わなかったので……」

 現れたのは建物の状態には似つかわしくない、輝く金髪で美しい顔立ちの女性だった。

 その彼女の最大の特徴は尖った耳であり、そのことからエルフであることがわかる。

 慌てて出てきたせいもあってかすこしよれた雰囲気があるが、その身を清楚ながら上品に引き立てるドレスをまとっていた。


「……」

 このボロボロの建物から彼女のような人物が現れるとは思っていなかったクライブはしばし呆然として彼女に見とれることとなった。



しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...