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第十二話

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「エ、エリアリア先生。あなたがどうしてこんな場所に?」

 ワズワースは動揺しながらでエリアリアに質問する。

 二人のやりとりを見ながら、エリアリアのことを思い出している生徒も何人かいた。


 入学式の際に教師の紹介が行われており、その中にエリアリアの姿もあった。

 もちろんアレクシスも彼女のことを覚えていた。


「私がここにいたらいけませんか? なーんていう質問は意地悪ですね。一年生が実技の初授業をやると聞いたので覗きにきたんです。そこで、何やら楽しそうなことをしているなあと思って審判の名乗りをあげてみました!」

 お茶目な様子でふるまうエリアリアに対して、ワズワースはどことなく緊張し、気圧されている。


「と、いうわけで……私が審判を務めても構いませんか?」

 お茶目な雰囲気を内に秘め、真剣な表情で問いかけるエリアリアはワズワースだけでなく、アレクシスにも許可を求めている。

 教師とはいえ、戦う両名から了承してもらえなければ勝手はできないと思っていた。


「僕は構いませんよ」

 特に不満はなく、早く終わらせたい思っていたアレクシスはあっさりと了承する。


「お、俺は……はあ、それじゃあエリアリア先生お願いします」

 生徒であるアレクシスが即答したのに、自分がいつまでもわがままを言うわけにもいかず、渋々ながらワズワースもエリアリアが審判を務めることを了解した。


「ふふっ、よかったです。それでは二人とも準備をお願いします」

 アレクシス、ワズワース双方ともにまだ武器を選んでいないため、エリアリアは武器が置かれている棚を指さして二人を促す。


「さて、俺はこの木でできた大剣を使う。アレクシス、お前はどれを使う?」

 棚から大剣を手に取ったワズワースが振り返りながら問いかけた。


 これまでの他の生徒は概ね試験と同じものを使っていた。


 アレクシスが試験で使っていたのは二本のナイフ。

 しかしアレクシスはその武器を使って相手を苛立たせるためと、目くらましをしており、戦ううえで得意武器とは思えず、こんな質問をワズワースは投げかけた。


「そうですね……それじゃあ、僕は片手剣を使います」

 少し考えたのち、片手剣を一本手に取るとアレクシスは戦闘開始位置へと移動する。


「はい、それではワズワース先生も開始位置に立って下さい」

 エリアリアに指示されて、二人は開始位置に立って向かい合った。


「それでは念のためルールを再確認しておきますね。ワズワース先生は当然のごとく魔眼の使用は禁止。しかし、アレクシス君は魔眼の使用可能で本気を出していい――そういうことですね?」

「え、えぇ」

「はい」

 エリアリアの確認に対してワズワースは動揺している。

 アレクシスの力を知っているため、本気を出された場合に対する不安を覚えていた。


 対して、アレクシスにはなんら気にする要素がないため、即答する。


「それではアレクシス VS ワズワース……試合開始!」

 開始の合図に生徒たちがかたずをのむ。

 アレクシスが教師であるワズワースを試験の際に倒したという話に、未だ生徒たちは懐疑的であったからだ。


 その中にあってリーゼリアだけが、アレクシスの強さを確信しているような表情で観ていた。


(試験の時、ワズワース先生は膝をついていました。きっとあれはアレクシスさんが先生を倒したということのはずです……!)


 白紙の魔眼持ちのアレクシス、その彼がいかにしてワズワースに膝をつかせたのか? リーゼリアはその真実を知りたかった。


 一方、舞台上の二人はにらみ合ったまま動かずにいる。


「どうした、試験の時はかなりの勢いで俺に突撃してきたと思ったが?」

「先生こそもっと好戦的な方だと思っていましたよ」

 挑発するワズワースだったが、アレクシスはしれっとした顔で冷静な返しをする。

 年齢にそぐわない反応に、ワズワースは思わずたじろぎそうになる。


「ほらほら、ワズワース先生。生徒にそんなことを言われていいんですか? 相手は入学したばかりの新入生、しかも今日が授業の初日なんですよ?」

 ふふっと笑みを浮かべながらエリアリアは試験の結果を全て知ったうえで、ワズワースのことを煽る。


「む、むう。エリアリア先生、そうは言いますが……」

 ワズワースは何かを言い返そうとして、彼の右側にいるエリアリアに視線を向ける。

 それは一瞬のことではあったが、アレクシスはその隙を見逃さずに動き始めていた。


 ──身体強化の魔眼起動──


 魔眼を発動させ、素早い動きでアレクシスは右に動いた。

 ワズワースが視線が向いている方向とは反対に動くことで、彼の死角をつく。


 アレクシスはそのままの勢いで片手剣をワズワースの腹部に向けて横なぎに斬りはらう。

 しかし、それはガキンという音とともにワズワースの大剣によって防がれてしまった。


「やはりお前ならさっきの小さな隙を見逃さないと思っていたぞ」

 初手で隙をついて攻撃に転じる。

 体格差、実力差を考えればこれがアレクシスにとっての最善手であることはワズワースも予想していた。

 つまり、先ほど視線を動かしたのはアレクシスを動かすためのブラフであった。


「それは、さすがです、ね!」

「むお!」

 しかし、ワズワースの予想と異なることが起こっていた。


 彼は大剣で防ぐと同時にアレクシスを片手剣ごと吹き飛ばすつもりでいた。

 だが、アレクシスはその場に踏みとどまって拮抗させている。


「よっと、さすがワズワース先生。なかなか力が強いですね」

 長時間同じ状態でいては体力の面で不利になることがわかっているアレクシスは一度距離をとった。


「お前こそな。その身体で吹き飛ばされないなんて、どんな構造をしてるんだ?」

 わざと隙を見せていたため、ワズワースの体勢は不十分だった。

 それにしても体格差から見て単純な力比べでアレクシスが拮抗するとはこの場にいる誰もが思いもしなかった。


「まあ、僕にも色々あるということですよ……さて、時間もなくなっていくので次いきます!」

 言葉が終わるのとほぼ同時にアレクシスは攻撃に転じる。

 今度は単純に片手剣で斬りかかっていった。


「せい! やあ! とう!」

 掛け声とともに繰り出される連続の攻撃。

 子どもが斬りかかったところで、筋力差は圧倒的であるため、ワズワースがすぐに弾き飛ばすと思われた。


「むっ、これは、なかなか」

 しかし、アレクシスの攻撃は一撃一撃が子どものソレとは思えないほどの重さで、最初は油断していたワズワースも腰をいれて受け止めていた。


「ふう、これもダメですか」

 防ぐ手が鈍ったところを突こうと思っていたアレクシスだったが、ワズワースは疲労を見せる様子はない。


「五分経過、残り十分!」

 審判のエリアリアが経過時間と残り時間を口にする。

 まだ三分の一が過ぎたところだったが、このままではいずれ時間切れになることは目に見えていた。


「ワズワース先生、このままだと時間切れになりそうなので次の攻撃で決着をつけます」

「ほう、ならば俺も全力で応えよう」

 アレクシスの言葉を受けて、ワズワースの剣を握る手に力が入る。


 ワズワースはここまで自分から攻撃をしかけることはなかった。

 それは、今回の模擬戦において大事なのは教師としてアレクシスの攻撃を全て受けきって、彼の力を見極めることだと考えているためだった。


 目の前で繰り広げられる戦いの熱さにあてられた生徒たちは、二人の会話を聞いて緊張していた。


 ここまでアレクシスは鋭く重い攻撃を繰り出してワズワースを防戦一方にしている。


 しかし、ワズワースも全ての力を出しているわけではない。それは生徒もわかっていた。

 次で終わる──それがこの場にいる全員に伝播し、空気が重くなる。


「うおおおおおおお!」

 気合の入った雄たけびとともに、アレクシスが片手剣を構えて走っていく。


「かかってこおおおおい!」

 それを迎え撃つために、大剣を両手で持つワズワース。

 思い切り振り下ろされるアレクシスの片手剣と、下から思い切り振り上げられるワズワースの大剣が衝突した。


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