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第百三十八話

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 その頃、ユイナは向かって左手で女の魔族と戦っていた。
「ふふっ、あなたなかなか可愛いじゃない」
 豊満な女性らしい身体を惜しげもなく晒す大胆な衣装を身に纏う女魔族は、妖艶な笑みでユイナのことを値踏みする。その視線を受けたユイナは弓を構えながらじっと女魔族の挙動を見ている。

「どーも、あなたは肌の色を除けば綺麗かも」
 自身の容姿を褒められることに慣れているユイナは、女魔族の言葉をさらっと流す。
 女魔族は艶やかな緑のロングヘア―で、その皮膚の色は紫だった。

「……なまいきね」
 透明感のある白い素肌をもつユイナの反応が気に食わなかった女魔族は不機嫌そうに目を細めた。
「あー、ごめんなさい。私結構本当のこと言っちゃうみたいなのでー」
 にっこりと笑って悪気のないことをアピールしたこのユイナの一言が、さらに女魔族の怒りに触れることとなる。

「あんた、ちょっと可愛いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」
 怒りの形相で青筋を浮かべながら女魔族が魔法の詠唱に入る。濃密な魔力が女魔族から発せられ始めた。

「えへへ、そんな褒めなくても」
「後悔しても遅いわよ、死になさい――“アイシクルバースト”!」
 無邪気にユイナが照れているのが最後の引き金となり、氷の魔法がユイナに襲い掛かる。

 女魔族が唱えたアイシクルバーストは、足元から氷の蔦が這っていくもの。
 ただ怒りもあいまってその魔法に込めた魔力の量が大きく、途中で爆発的に無数の蔦にわかれると、まるで津波のように広がり、ユイナを飲み込もうとする。

「“フレイムアロー”!」
 氷の蔦が襲い来る中、ユイナが使ったのは炎属性の弓術のスキル。
 少し踏ん張るように腰を落として発動した技の威力はまるで大砲のようで、蔦の中央をぶち抜き、威力を落とすことなく女魔族へと向かって行く。

「――なっ!? “氷の障壁”!!」
 女魔族はまさか自身の魔法を撃ち破られるとは思っていなかったようで、慌てて分厚い氷の壁を生み出してフレイムアローを防ごうとする。
 だが、生み出した氷の壁はフレイムアローの熱量にどんどん溶けていき、すぐに打ち破られてしまう。

「きゃあっ!」
 女魔族は打ち破られきる前に横に飛びのいたため、直撃は避けることができたが、矢はそのまま後ろにあった柱を打ち壊し、更にその後ろにあった壁に深く突き刺さっている。その衝撃で女魔族は横に吹き飛ばされていた。

「ふう、ちょっと驚いたー!」
 ケロッとした表情でユイナは矢の行き先を見ながら一息つく。
 氷の蔦による攻撃をそのまま受けていたら、ユイナは氷に飲み込まれてしまうため、強力な一撃で応戦した。

 結果、フレイムアローは氷の蔦を打ち破り、更に女魔族に精神的なダメージを与えることに成功する。

「っ……ちょ、ちょっと待って、あんた、一体なんなの……?」
 ユイナが次に一矢を打ち出そうと構えたため、少しふらつきながら急いで立ち上がった女魔族が慌てて質問する。

「うーん、なんなの? って言われてもなあ……ただの冒険者だけど」
 悩むように唇を尖らせつつ、ユイナはしれっと答えるが、女魔族は困惑してしまう。
 ユイナが冗談でそう言っているようには見えないが、しかし、それは納得できる答えではなかった。

 ただの冒険者が魔王城に乗り込み、魔王直属の部下である実力者の魔族相手にここまで戦えるはずがないと女魔族は思っていた。

「とりあえず、疑問には答えたから……いっくよー!」
 早く戦いたいと言わんばかりにユイナは素早くいくつもの矢を放つ。
 先ほどのフレイムアローではなく、今度は手数を意識したことで、無数の矢が女魔族に襲い掛かっていく。

「――くっ! それくらいの攻撃なら! “アイスアロー”!」
 ユイナの放った矢と同じだけの氷の矢を魔法で生み出し、それを衝突させて相殺させる。
 威力はほぼ同等であるらしく、衝突した瞬間の双方がはじけ飛ぶ。

「ふっ、これくらいなら私にも!」
 矢が全て防げたことに安堵した女魔族は、自信たっぷりの表情で視線をユイナに戻す。

「……いない!?」
 しかし、そこには既にユイナの姿はなかった。

 矢がぶつかって視界が一瞬悪くなった時にユイナは自らに強化魔法をかけ、一度横にずれて女魔族の視界から外れるようにして接近していた。

「こっちだよー!」
 左からユイナの声が聞こえたため、女魔族はそちらを向いて右手を前に出し、瞬発的に魔法を放とうとする。

 しかし、そちらにもユイナの姿はなかった。女魔族が生み出した魔法が行き場を失い、光の粒となって霧散する。

「あはっ、ごめん、逆だったー」
 後ろから楽しそうに笑うユイナが声をかけるが、今度は振り返る隙も与えず、背中にとんっと手を当てる。

「“ホーリーフレイム”!」
 聖女のみが扱うことができるこの魔法が生み出す清らかなる炎は、魔族にも強力なダメージを与える魔法である。あまねく恨み、怒り、怨念、魔などの負なる力に対して絶大な威力を発揮する。
「きゃああああああああああああ!」
 完全に虚をつかれた形となる女魔族は、ホーリーフレイムの直撃を受けてその身を焼かれていく。

 青い美しい炎は女魔族の身体を直接焼くのではなく、その身に宿る魔族特有の魔力を浄化するように溶かしていった。

「……っとと、このへんで止めないとかな」
 相手を殺したいわけではないユイナは、魔力切れを起こした女魔族が意識を飛ばしたあたりで魔法を中止する。

「危ない危ない、レベルが上がってたのを考えてなかったよー」
 以前使った時の威力であれば、全力でやって気絶させらる程度だとユイナは考えていた。
 しかし、以前と比べて格段にレベルが上がっているため、威力も上がっていたことを失念していた。

 ホーリーフレイムから解放された女魔族は、燃え尽きたようにぷすぷすと白い煙をあげながらその場にぱたりと倒れ、気絶していた。

「し、死んで、ないよね? ……だいじょうぶ、いきてる。よかったあ」
 やり過ぎたかと焦ったユイナは慌てて首元に手をあてて脈をはかり、女魔族が生きていることを確認した。
 ほっとしたように一息つくとヤマトの方へと目線を送る。

 これで、ルクス、エクリプス、ユイナの戦いは終わり、誰もが実力者相手にあっさりと勝利できた。
 しかし、ヤマトが相手をしているのは魔族の王たる魔王であり、他の魔族たちとは比べ物にないほどの力を持っている。

「なかなか強いな?」
 楽しそうに目を細めた魔王はにやりと笑う。
「そっちこそ、伊達に魔王と名乗ってるわけじゃないって感じだね」
 ヤマトもまた、好戦的に笑って見せる。

 二人は激しく剣を交えて戦っている最中にも拘らず、笑顔だ。
 互いに、強者と戦えていることに喜びを感じているようだった。

「あー、なんか盛り上がってるね」
「ご主人様、楽しそうですにゃ」
「ヒヒーン」
 ユイナ、ルクス、エクリプスの三名はそれぞれ戦っていた魔族を一か所に運んできて、邪魔にならない場所からヤマトと魔王の戦いを眺めていた。

「先にこの三人を縛っておこっかー」
 いい笑顔を浮かべたユイナは自らのマジックバッグからロープを取り出して、しゅるしゅると魔族たちを縛り上げる。強化されたロープは、魔族といえども簡単にはほどくことができないものだった。

「さーって、どうなるかなぁ?」
 魔族たちを縛り終えたユイナはヤマトと魔王の戦いを楽しそうな笑顔で眺めていた。
 何か含みのある様子の彼女に、ルクスはきょとんとした表情で首をかしげていた。










ヤマト:剣聖LV1000、大魔導士LV950、聖銃剣士LV929
ユイナ:弓聖LV1000、聖女LV950、聖強化士LV932、銃士LV911、森の巫女LV852
エクリプス:聖馬LV1000
ルクス:聖槍士LV949、サモナーLV1000
ガルプ:黄竜LV940
エグレ:黒鳳凰LV904
トルト:朱亀LV883
ティグ:青虎LV891
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