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第百十二話

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 罠が発動していくなかで、じっと塔を見ていたヤマトとユイナは安全地帯を確認していた。

「ん、あそこと、あそこだねー」
 元々の勘の良さと目の良さを発揮したユイナはその安全地帯目がけて目印となるように矢を放つ。ヤマトもその正確さに笑顔で頷く。

「それじゃ、黄龍。ありがとうございました。俺たちはあそこから塔に入りますね」
 そう言うと、ヤマトは黄龍の返事を待たずに背中から目印を付けた安全地帯へと飛び降りる。

「それじゃあねー!」
 ぱあっと弾けるような笑顔で大きく手を振りながら、ユイナもヤマトに続いて飛び降りる。

「それでは失礼します」
『父様、さらばです』
「ヒヒーン」
 そして、残った三人も続いて飛び降りていく。
 黄龍は全員が降りたことを確認すると一度大きく旋回してから住処へと戻って行った。




 一同が降り立った場所は、五メートル四方のエリアで、同じような場所が数か所、安全地帯として存在している。その安全地帯にはユイナの矢が目印として刺さっている。

「いくつか安全地帯があるわけなんだけど、このうちのどれかから中に入ることができるんだよ」
 振り返ってメンバーに向かい、ヤマトはここからどうするかを話していく。

「その、正解はどれなのでしょうか……?」
 ぱっと見ではユイナの矢が刺さっているのみで、何の変哲もない床に戸惑うルクスの質問に、ヤマトとユイナはそれぞれ腕を組んで考え込んでいた。

「うーん、それが問題だよねえ」
「そうだねえ、一体どれが正解なのか……」

 二人が深く考え込む様子を見たルクスは動揺する。

「えっ? その、わかっていてここに降り立ったのでは……?」
 二人に任せておけば大丈夫だ――そう絶対的な信頼を持っていただけに、彼らの言葉はルクスにとって驚くべきものだった。

「ふふっ、ルクスが動揺してるー」
 つんつんとルクスの顔をつついたユイナはその反応を見て、クスクスと笑いながら楽しんでいた。

「まあ、おおよその見当はついてるんだけどね」
 意地悪してしまったことを軽く詫びつつ、ヤマトは地面に手をつくと、探るように魔力を張り巡らせていく。
 彼の手から一気に拡散するように魔力の波動が広がる。一行は黙ってそれを見守っていた。

「…………あそこだ」
 顔を上げたヤマトが真剣な表情で視線を向けたのは、今いる場所から二十メートルほど離れた安全地帯だった。

「みんなあそこまでジャンプできるかな?」
 ヤマトが気軽にした質問に、ルクスとエクリプスは勢いよく首を横に振っていた。

『申し訳ない、私がもう少し大きければみんなを乗せて移動できたのだが』
 ガルプがまるで自分のせいだといわんばかりに頭を下げる。父である黄龍のように

「あぁ、気にしなくていいよ。ガルプには今後期待を持ってるから、今は仲間になってくれただけで十分。それより、安心してくれていいよ。ジャンプできるかどうかは試しに聞いてみただけだからさ」
 励ますようにガルプを撫でたヤマトはそう言うと二カッと笑う。

「もう、ヤマトったら。そんな意地悪しなくてもいいじゃない。方法はあるんでしょ?」
 笑顔だが呆れ交じりにユイナに言われた苦笑したヤマトは、再度床に手をつける。
 先ほどとは異なり、今度は両方の手を床につけていた。

「いくよ、“フリージングライナー”!」
 呪文を詠唱すると、ヤマトが手をついた場所から、入り口にあたると思わしき場所へと氷の橋ができあがっていく。以前、『水の祠』に行く際に使用した魔法だ。
「おぉおおおお! す、すごいです!」
 それを初めて見たルクスは感動のあまり、大きな声をだしてしまう。

「氷の魔法の応用だね。攻撃でも、防御でもなく、安全のため、時には移動のために魔法を使う場合は、こういう使用方法もあるんだよ。逆に生活に役立つ魔法が攻撃や防御に役立つことだってあるんだ」
 魔法の使い方は色々あるのだと説明するヤマトのことを、ルクス、エクリプス、ガルプは尊敬のまなざしで見ていた。

「ヤマトは魔法の使い方というか、使い道の発想が上手だよね。私だったら、攻撃魔法として覚えたらそれだけだからなー」
 氷の橋を一番先頭で機嫌良く歩きながらくるりと振り返ったユイナは、ヤマトに笑いかける。

「せっかく魔法が使えるから、色々便利に使えたほうが楽しいかなって。風の魔法が使えれば、攻撃や障壁だけに使うんじゃなく、熱ければ涼しくしたいし、洗濯物を乾かしたりできればすごく便利でいいよね」
 皆に褒められてくすぐったそうに笑うヤマトはゲームとしての魔法だけでなく、今、この世界で自分が使う魔法の用途を色々と考えていた。
 彼の作り出した氷の橋は全員が歩いても壊れる様子はない。

「さすがご主人様です!」
 ルクスはキラキラと目を輝かせながらヤマトのことを見ている。
『このような魔法の使い方は初めて見た』
 自分のマスターであるルクスの主人であるヤマト。ガルプはそのヤマトのことを改めてすごい人物だと思っていた。

「ですよね! それだけご主人様はすごいのですよ!」
 食い気味でルクスが興奮気味に言うと、ガルプは何度も神妙な面持ちで頷いた。
 エクリプスはヤマトならば当然だと鼻を鳴らしている。

「まあ、ただ移動するための道を作っただけだけどね。それより、ここが……」
 一番先に到着したヤマトは辿り着いた先の床を調べ、空洞になっている部分を思い切り押す。
「さあ、みんなも手伝って!」
 ヤマトが押している場所を、他の面々も押していく。

 すると、床がすとんと地面に飲み込まれていき、そこからヤマトたちは塔の中へと落ちる。
 床が動いた瞬間にヤマトが全員にアイコンタクトを送っていたため、とくに焦る様子はない。

 この状況はヤマトが求めていた結果であり、彼らは塔の中に入ることに成功する。
 降り立った先はそれほど深くないところであり、ヤマトたちは難なく着地した。
 中は石畳の空間で、ひやりとした空気が漂う静かな空間だった。

「なんとか入れたね……それにしても、すごいなあ」
「うん、まさかね」
 見つめ合ったヤマトとユイナは同じ考えが頭に浮かんでいた。

「えっと……何がすごくて、何がまさかなのでしょうか?」
 話の聞き手に徹しているルクスが話を動かすために、二人へと質問をする。

「そうだなあ、ここに来てみて何か違和感は感じないかい?」
 笑顔のヤマトはルクスを試すように質問する。
「普通、ここに入れる人なんていないよね。私たちだって黄龍に連れてきてもらえたから入れたけど、そんなことができる人、そうそういない」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべたユイナはヒントを提示する。

「……人がいない……違和感――はっ!」
 少し考え込んだルクスは何かに気づいた。
「綺麗、すぎる?」
 その解答にヤマトもユイナも満面の笑みで大きく頷いた。

「そう、人の出入りがない場所であるはずなのにホコリも汚れもほとんどないんだよ」
「誰かここに入ったものがいる、ということでしょうか……?」
 ヤマトの言葉にルクスが続くが、これにはヤマトも首を横に振るしかなった。

「うーん、その可能性もなくはないと思うけどね。おそらくはそういう機能があるんじゃないかと思うんだよね。自浄作用、みたいなさ。つまり俺たちがここで命を失うことがあれば、自浄作用が働いてきれいさっぱりとすぐに消え去ることとなるかもしれない」
 ヤマトの話にユイナ以外の面々はごくりと唾を飲む。

「――これだけの建物で、これだけの自浄作用が働くということは、この建物自体に相当な魔力が込められているんだと思う。だから、油断しないでいこうね」
 真剣な表情でいうヤマトに対して、みんなは深く頷いた。







ヤマト:剣聖LV235、大魔導士LV232、聖銃剣士LV141
ユイナ:弓聖LV233、聖女LV225、聖強化士LV170、銃士LV107、森の巫女LV154
エクリプス:聖馬LV191
ルクス:聖槍士LV174、サモナーLV198
ガルプ:黄竜LV1
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