102 / 149
第百一話
しおりを挟む
まちはずれにあるエルエルの家は転送装置のある建物から近くにあり、数分程度で到着した。
小さいながら温かみのある木造の家は長年住んでいるが、きちんと整備されているのがわかる建物だった。
「大したものはないが、お茶くらい飲んでいってくれ」
中に入ったヤマトたちは応接間に案内され、温かい茶が用意されていた。
「ありがとうございます。……それで、早速話を聞きたいんですが」
早く知りたいという気持ちを抑えきれず、遠慮がちながらしっかりと催促するヤマトにエルエルは笑いながら頷く。
「元々はの、先ほどの転移装置を使って、ヴォラーレ諸島の各島での行き来が盛んだったんじゃ。そして、装置を使っていたのはそのほとんどが冒険者じゃった――」
ゆっくりと語るエルエルの話をそこまで聞いたヤマトとユイナは、どうして転移装置が使われなくなり、さびれていったのかが予想できていた。
「しかし、冒険者たちはいつの日かパタリとヴォラーレ諸島へやってくることがなくなった。……それからは転移装置の使用頻度がどんどん下がっていってのぉ……ついには誰も使うものがいなくなったというわけじゃ。本来、転移装置を使うと身体に負担がかかるからのう。身体を鍛えておる冒険者でなければ、おいそれと使うことはできないんじゃよ」
悲しげに話すエルエルはそこで一度茶を口に含む。
確かそんな設定だったなあとヤマトとユイナは思い出していた。
「それでは元々の島の住人はどうやって、島と島の間を移動しているのでしょうか?」
そっと手をあげたルクスの質問に、穏やかに微笑んだエルエルが頷く。
「そこじゃな。直接見える範囲の島であれば、我々はこの翼を使って空を飛んでの移動も可能なんじゃ。しかし、飛ぶということは落ちる危険性がある。当然、この上空にもモンスターはおるからのう」
落ちてしまえば終わり――そうあっては、島から島への移動の頻度も減っていく。
ウィンディア族はとても温厚な性格で争いを好まない。平和を愛する彼らは手の届く範囲で暮らすようになっていったようだ。
「ということは、今はほとんど島々の移動はないということですか……。――だったら、あの島にあった町が廃墟になっているの頷ける、か」
顎に手をやって考え込むヤマトは最初に移動した島のことを思い出していた。
「そういうことじゃな。そういうことで、転移装置は使われなくなり、小さな島にある町はそのほとんどが放棄され……やがて廃墟になっていった」
昔を知るエルエルだからこそ、少し悲しそうな表情になり、俯き気味になる。
「なるほど、ではウィンディア族の人たちは……今はバウンディアにそのほとんどがいるということですか?」
ヤマトの質問に顔を上げたエルエルがゆっくりと頷く。
「そういうことじゃな。転移装置の機能を十全に知っておるのも、もうわしくらいのものじゃろう。わしの一族は代々あの施設のメンテナンスを請け負っていてな、使う者がいなくてもいつか使用の機会があるかもしれないと今も続けていたんじゃが……そのかいもあったというものじゃな」
ヤマトたちを温かいまなざしで見るエルエルのその言葉、表情からは喜びが見てとれる。自分のやってきたことが無駄ではなかったことを彼らが証明してくれたからだろう。
「では……俺たちが使うまで、誰も使う人はいなかったということですか……。――それは恐らくプレイヤーがいなくなったからかもしれない」
考え込むようにつぶやいたヤマトの言葉に、ユイナもルクスも頷いている。
「ほう? 何か知っておるのじゃな……。しかしまあ、聞いても仕方のないことじゃ。今はもう使う者はほとんどおらんからな。わしの代でお主たちが使ってくれただけで十分じゃよ」
うんうんと何度も頷きながら満足そうな表情をしているエルエル。
これまで彼が費やしてきた年月を思い出し、それが報われたことを心から誇りに思っていた。
「そうですか……転移装置についてはわかりましたが、それ以外――つまりこのバウンディアの街について聞かせてもらえますか? 今はどんな状況なのか、俺たちみたいに外部の人間がやってきても大丈夫なんですか?」
翼がないヤマトたちでは、悪目立ちしてしまうのではないかという懸念ゆえの質問だった。森林の民のときもかなり浮いた存在であっただろうことは彼らもわかっていたからだ。
「うーむ……そうじゃの、恐らくは大丈夫じゃろうて。実際、ウインディア族のものだけが住んでおるわけではないからのう。複数の種族がこの街には住んでおる。各島の者たちが、ここに一挙に集まってきたおかげで、この街はかなり栄えておるんじゃ。じゃから、新顔が増えてもそうそう目立つこともないじゃろう」
穏やかに笑うエルエルの言葉のとおり、一つの大陸に集中したことで人口も増えていた。
いくつも点在していた小さな町が寄せ集まったおかげで、ひとつの大きな街へと発展したようだ。
「この大陸にはバウンディアの他に町はあるんですか?」
「うむ、よくわかったのう。お主は昔、ここに来たことがあるんじゃったな。この大陸は他に比べてかなりの面積があるでの、それ故に分散していくつか新しく町ができたんじゃ。土地だけはいくらでもあるからのう、ほっほ」
機嫌よく身体を揺らしながらエルエルは笑う。
一つの大きな街――バウンディアはやがて小さな町をいくつか生み出し、各拠点とのやりとりで栄えているようだった。
ヴォラーレ諸島の中で最大の面積を誇るこの大陸は、日本が丸々入って余裕がある程度の面積を誇っている。
そして、この大陸は島々の中でも高い位置にあるため、下からは確認できないようになっている。
「なるほど――それなら色々と問題はクリアできそうです」
ヤマトたちの本来の目的であるソレ。この大陸の配置ならば、それを手に入れるためにやらなければならないことは問題なく行える。
「そうだねえ、でも早めに動いたほうがいいかもね」
ユイナも同意するが、今島がそんな状況であることで、決して簡単にいくと思わせないものであった。
「あぁ、ゆっくり街を散策したいところだけどすぐに動こうか」
お茶を飲み干したヤマトは、そう言って立ち上がる。
「お前さんたちは一体何をしに来たんじゃ?」
何気なく聞いてきたエルエルの質問に、にっこりと笑顔でヤマトは答えることにする。
初見のそれを楽しもうとこれまでルクスに黙っていたが、ここにきてそれをする意味はないと考えていた。
「――黄竜との契約、です」
その一言だけ告げると、お茶の礼に頭を下げたヤマトはユイナとルクスを連れてエルエルの家を出ていく。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36
小さいながら温かみのある木造の家は長年住んでいるが、きちんと整備されているのがわかる建物だった。
「大したものはないが、お茶くらい飲んでいってくれ」
中に入ったヤマトたちは応接間に案内され、温かい茶が用意されていた。
「ありがとうございます。……それで、早速話を聞きたいんですが」
早く知りたいという気持ちを抑えきれず、遠慮がちながらしっかりと催促するヤマトにエルエルは笑いながら頷く。
「元々はの、先ほどの転移装置を使って、ヴォラーレ諸島の各島での行き来が盛んだったんじゃ。そして、装置を使っていたのはそのほとんどが冒険者じゃった――」
ゆっくりと語るエルエルの話をそこまで聞いたヤマトとユイナは、どうして転移装置が使われなくなり、さびれていったのかが予想できていた。
「しかし、冒険者たちはいつの日かパタリとヴォラーレ諸島へやってくることがなくなった。……それからは転移装置の使用頻度がどんどん下がっていってのぉ……ついには誰も使うものがいなくなったというわけじゃ。本来、転移装置を使うと身体に負担がかかるからのう。身体を鍛えておる冒険者でなければ、おいそれと使うことはできないんじゃよ」
悲しげに話すエルエルはそこで一度茶を口に含む。
確かそんな設定だったなあとヤマトとユイナは思い出していた。
「それでは元々の島の住人はどうやって、島と島の間を移動しているのでしょうか?」
そっと手をあげたルクスの質問に、穏やかに微笑んだエルエルが頷く。
「そこじゃな。直接見える範囲の島であれば、我々はこの翼を使って空を飛んでの移動も可能なんじゃ。しかし、飛ぶということは落ちる危険性がある。当然、この上空にもモンスターはおるからのう」
落ちてしまえば終わり――そうあっては、島から島への移動の頻度も減っていく。
ウィンディア族はとても温厚な性格で争いを好まない。平和を愛する彼らは手の届く範囲で暮らすようになっていったようだ。
「ということは、今はほとんど島々の移動はないということですか……。――だったら、あの島にあった町が廃墟になっているの頷ける、か」
顎に手をやって考え込むヤマトは最初に移動した島のことを思い出していた。
「そういうことじゃな。そういうことで、転移装置は使われなくなり、小さな島にある町はそのほとんどが放棄され……やがて廃墟になっていった」
昔を知るエルエルだからこそ、少し悲しそうな表情になり、俯き気味になる。
「なるほど、ではウィンディア族の人たちは……今はバウンディアにそのほとんどがいるということですか?」
ヤマトの質問に顔を上げたエルエルがゆっくりと頷く。
「そういうことじゃな。転移装置の機能を十全に知っておるのも、もうわしくらいのものじゃろう。わしの一族は代々あの施設のメンテナンスを請け負っていてな、使う者がいなくてもいつか使用の機会があるかもしれないと今も続けていたんじゃが……そのかいもあったというものじゃな」
ヤマトたちを温かいまなざしで見るエルエルのその言葉、表情からは喜びが見てとれる。自分のやってきたことが無駄ではなかったことを彼らが証明してくれたからだろう。
「では……俺たちが使うまで、誰も使う人はいなかったということですか……。――それは恐らくプレイヤーがいなくなったからかもしれない」
考え込むようにつぶやいたヤマトの言葉に、ユイナもルクスも頷いている。
「ほう? 何か知っておるのじゃな……。しかしまあ、聞いても仕方のないことじゃ。今はもう使う者はほとんどおらんからな。わしの代でお主たちが使ってくれただけで十分じゃよ」
うんうんと何度も頷きながら満足そうな表情をしているエルエル。
これまで彼が費やしてきた年月を思い出し、それが報われたことを心から誇りに思っていた。
「そうですか……転移装置についてはわかりましたが、それ以外――つまりこのバウンディアの街について聞かせてもらえますか? 今はどんな状況なのか、俺たちみたいに外部の人間がやってきても大丈夫なんですか?」
翼がないヤマトたちでは、悪目立ちしてしまうのではないかという懸念ゆえの質問だった。森林の民のときもかなり浮いた存在であっただろうことは彼らもわかっていたからだ。
「うーむ……そうじゃの、恐らくは大丈夫じゃろうて。実際、ウインディア族のものだけが住んでおるわけではないからのう。複数の種族がこの街には住んでおる。各島の者たちが、ここに一挙に集まってきたおかげで、この街はかなり栄えておるんじゃ。じゃから、新顔が増えてもそうそう目立つこともないじゃろう」
穏やかに笑うエルエルの言葉のとおり、一つの大陸に集中したことで人口も増えていた。
いくつも点在していた小さな町が寄せ集まったおかげで、ひとつの大きな街へと発展したようだ。
「この大陸にはバウンディアの他に町はあるんですか?」
「うむ、よくわかったのう。お主は昔、ここに来たことがあるんじゃったな。この大陸は他に比べてかなりの面積があるでの、それ故に分散していくつか新しく町ができたんじゃ。土地だけはいくらでもあるからのう、ほっほ」
機嫌よく身体を揺らしながらエルエルは笑う。
一つの大きな街――バウンディアはやがて小さな町をいくつか生み出し、各拠点とのやりとりで栄えているようだった。
ヴォラーレ諸島の中で最大の面積を誇るこの大陸は、日本が丸々入って余裕がある程度の面積を誇っている。
そして、この大陸は島々の中でも高い位置にあるため、下からは確認できないようになっている。
「なるほど――それなら色々と問題はクリアできそうです」
ヤマトたちの本来の目的であるソレ。この大陸の配置ならば、それを手に入れるためにやらなければならないことは問題なく行える。
「そうだねえ、でも早めに動いたほうがいいかもね」
ユイナも同意するが、今島がそんな状況であることで、決して簡単にいくと思わせないものであった。
「あぁ、ゆっくり街を散策したいところだけどすぐに動こうか」
お茶を飲み干したヤマトは、そう言って立ち上がる。
「お前さんたちは一体何をしに来たんじゃ?」
何気なく聞いてきたエルエルの質問に、にっこりと笑顔でヤマトは答えることにする。
初見のそれを楽しもうとこれまでルクスに黙っていたが、ここにきてそれをする意味はないと考えていた。
「――黄竜との契約、です」
その一言だけ告げると、お茶の礼に頭を下げたヤマトはユイナとルクスを連れてエルエルの家を出ていく。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36
0
お気に入りに追加
1,771
あなたにおすすめの小説
豪傑の元騎士隊長~武源の力で敵を討つ!~
かたなかじ
ファンタジー
東にある王国には最強と呼ばれる騎士団があった。
その名は『武源騎士団』。
王国は豊かな土地であり、狙われることが多かった。
しかし、騎士団は外敵の全てを撃退し国の平和を保っていた。
とある独立都市。
街には警備隊があり、強力な力を持つ隊長がいた。
戦えば最強、義に厚く、優しさを兼ね備える彼。彼は部下たちから慕われている。
しかし、巨漢で強面であるため住民からは時に恐れられていた。
そんな彼は武源騎士団第七隊の元隊長だった……。
なろう、カクヨムにも投稿中
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる