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第九十一話

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 三人の踊りに促されるように太陽の宝玉の木はみるみるうちに幹が成長し、大木となる。
「な、なんでこんな……」
 こんなことが目の前の事実起きていることにアスターの理解は追いついてきていなかった。

「それそれ、どんどん踊れー!」
 三人は踊りを止めず、むしろそれは激しさを増していく。

 踊りが激しさを増すとともに木の成長も止まらず、ついには最大まで成長して、見上げるほどの巨木にまでなる。
 太く成長した幹。それを彩るように青々と茂る大きな葉っぱ。先端に伸びた枝にはぽこん、ぽこんと太陽の宝玉が実り、その数は絶滅寸前だったとは思えないほど数多くあった。
 どれも急成長したとは思えないほど艶やかで立派な実ばかりで、鈴なりになっているため、重みで枝が下がってきており、芳醇な香りが一気に立ち込める。

「ふう、よく踊った」
「疲れたねー」
「がんばったかいがあるというものですっ」
 巨木となった太陽の宝玉の木を見上げて、三人は踊りきったという満足感に満ちた表情をしていた。

「――まさか、そんな踊りを踊ったくらいでこの地に太陽の宝玉がこれほどにしっかりと根付くなんて……」
 以前にも、太陽の宝玉の木が倒れて死んでしまってから、アスターやミノスも何度か種を植えてみたものの、そのほとんどが芽を出さず、また運よく芽を出してもすぐに枯れてしまった。

 それほどまでに太陽の宝玉は育成が難しく、一度ダメになってしまうと再びよみがえらせるのに大変な苦労が伴うものなのだ。

「まあそれもこれもあの踊りの成果です!」
「でっす!」
 茶目っ気たっぷりに笑うヤマトの言葉に、にっこりと笑顔のユイナが続く。余程楽しかったのか、ルクスは未だに小さく踊りをしているほどだ。

 二人とも迷信じみたこの踊りの効果を信じて、何かがある度にいつも踊っている。
 今回の結果を見て、アスターは馬鹿にできないとまで思っていた。
 さんさんと降り注ぐ日の光の下、悠然と構える巨木に成長した太陽の宝玉の木を目を細めて見ている。

「さあ、それじゃあ早速取ってみましょう!」
「おー!」
「いきましょう!」
 ヤマトたちは意気揚々と太陽の宝玉の木の方に向かう。

「……っ、ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってくれ。その前に親父殿を呼んでくるから待っててくれ!」
 アスターは状況を受けれいれてすぐに動こうとするヤマトたちを制止して、先ほどの部屋にミノスを呼びに行こうとする。待てをされた三人は残念そうではあるが、うずうずしながらも待っている。





 アスターが部屋に戻ろうとしたその時、この空間に飛び込んで来たのはミノスだった。

「――な、な、なんじゃああああ!」
 アスターが呼びに行くまでもなく、この状況をモニターで確認していたミノスは現地で確認しようと急いで広場にやってきていたようだ。

「お、親父殿! アレを見てくれ!」
「知っとるわ! だが、なんだあれは!?」
 親子は揃って混乱の渦中にあるようだった。

 種が芽吹き、木となり、巨木となったのは見てわかっていたが、その事実は認めていても、なぜこんなことになったのかだけは理解できず、ひたすらに混乱している。

「どうですか? 約束どおり太陽の宝玉は復活させましたよ」
 巨木を背景に大きく腕を広げたヤマトは満面の笑みでミノスに質問する。
「あ、あぁ、確かに……しかし、これほどの結果になるとは……」
 未だ目の前の光景が信じられないとミノスはヤマトと木を何度も見比べている。

「まあ、あの種があったこその結果ですけどね。あとは、俺たちの家にたくさんのアイテムがあったおかげですね」
 困ったような表情で笑うヤマトは謙遜ではなく本心からそう言ったが、ミノスたちはこれほどの結果を残してくれた相手にそう思えるはずがなかった。

「い、いやいや! これはとてもものすごいことだ! 偉業だ!」
 手放しに絶賛するミノス。それに同意して何度も頷くアスター。

 それを受けた二人は異様なほどの褒め具合にひいてしまった。
 彼らは今回の件について、よくあるゲームの一イベントのように感じており、それをただのNPCではなく、感情のある神にこれほど褒められることを今一つ受け入れられずにいる。

「そ、そうですか……それよりも早く実をとりましょう!」
 無理やり話題を変えるようにヤマトは太陽の宝玉の採集に話を変える。

「おぉ、そうだったな。せっかくあれほどに鈴なりになったのであれば、採集せねば落ちてしまうな」
 嬉しそうに太陽の宝玉の木に近づいたミノスはどこからか籠を用意して、その中に太陽の宝玉を入れていく。たくさん実った太陽の宝玉はどれもSランクと言ってもいいほどの質があった。

「この土地は我のものだが、この偉業を成し遂げたのはお前たちだ。好きにとっていくがいい」
 くるりと振り返ったミノスのその提案にヤマトたちは笑顔になる。

 先ほど採集しようとしていたが、それは集めきったら全てミノスに渡すつもりだったため、この申し出はとてもありがたかった。

「よし、ユイナ、ルクス、勝負だ!」
「うん!」
「勝利条件は最も質の良い物を見つけたら、ですね!」
 意気揚々と駆けだした三人は、楽しそうに目当ての太陽の宝玉に手を伸ばす。

「あの三人は、これがどれほど貴重なものなのかわかっているのか?」
 ゲーム時代はただの一アイテムだったが、今のこの世界ではほとんど生息しておらずランクSのものになると、恐らくはここでしか手に入らない代物だった。

「おいアスター、うかうかしていると全てとられかねないぞ! 急げ!」
 ヤマトたちの採集速度はすさまじく、放っておいては本当に全て取ってしまうくらいの勢いだった。

「お、おぉ! これは急がないと!」
 負けじと木に向かったミノスとアスターも籠を片手に、次々と太陽の宝玉を集めていく。その表情はとても明るく、輝きに満ちていた。






 集め始めて三十分は経過したころだろうか、ミノスたちはおかしなことに気づいた。
「――採っても採っても減らないな……」
 ヤマトたちが全て集めてしまうのではと、焦って採集にまわったミノスたちだったが、採った先から次々に新たな実がなっていくのを見て、驚きにその手を止めていた。

「結構集まったね。あ、二人もやってたんですか……結構採れましたね!」
 ヤマトは二人の籠を覗いて、笑顔で感想を言う。それ以上の数を自身のアイテムボックスに入れているのはあえて口にはしなかった。

「……なあ、この木は一体どうなっているんだ? 前にあったものは採ったら次がなるまで結構な時間を要したんだが」
 戸惑うアスターの質問に、ヤマトはどうしてこうなったかを少し考える。

「……うーん、もしかしたら種を植えた時の祝福や成長の水の効果かも? あれはかなり強力なアイテムで、名前のとおり植物の成長を促すんですよ。しかもそれが祝福をかけた上でなので、今もずっと成長し続けているんだと思います。幹はもう成長できないから実の方に栄養が回ってるんだと思うのでいつか止まるのかどうか……」
 苦笑交じりのヤマトの曖昧な反応に、ミノスとアスターは再度木を見上げた。その視線の先では新たな太陽の宝玉がまた一つ大きく実っていた。







ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV10
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67、銃士LV17、森の巫女LV20
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV13、サモナーLV21
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