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第八十二話
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駆け足で地図片手に戻ってきたルクスとともに現在の世界の状況を確認していく。
彼が持ってきた地図は時代に合わせて更新されるマジックアイテムであり、今のこの世界が昔とどれだけ違うのかを確認することができる。
机に広げられた地図は現在のこの世界の配置を詳細に記載していた。
「――そう大きくは変わっていないのか……少し村や街が増えたり減ったり、あとはダンジョンも増えているかな」
ぱっと見でわかる情報から確認していく。ヤマトは記憶を照らし合わせて考え込むようにつぶやいた。
「うーん、この右上と左上の海の上の大陸って前はなかったかも?」
地図を指差しながらユイナも気づいたことを口にしていた。
彼らが思いつくままに言っていくそれらを全てルクスがメモをとっていく。しばらくの間、その話し合いは続いた。
「地殻変動が起きているのか……とりあえず、装備と職業をもっと充実させていかないとだなあ」
地図から顔を上げたヤマトは悩むように首の後ろ辺りを掻く。
今の職業もかなり強力なものではあったが、更に上の力を手に入れないと戦いが厳しくなるだろう――そうヤマトは感じていた。
「やっぱり強くなっておきたいよねー」
ゲームの頃も、アップデートが来るたびに次々と新たなダンジョンやボスが実装されていき、それらを倒すために装備や職業、そしてレベル上げに勤しんでいた。懐かしそうに思い出を振り返りつつ、ユイナはにっこりと微笑む。
「うん、トリトンの時はたまたまなんとかなったからいいけど、あの時よりも強い敵がでるはずだから強くならないと……」
真剣な表情でヤマトはぐっと拳を作って更に上を目指そうと意気込む。
力を得て、その力を使いこなせるようになり、装備を強化して、更にアイテムを揃えてから強者に挑戦する。
ゲーム時代、幾度となくそれを繰り返してきた二人にとって、レベル上げや装備集めは当然のことであった。
「そうですね、ならばまずは森林都市で手に入る職業と装備から手を出すのがよいでしょう。おそらくまだ取っていませんよね?」
ふわりとほほ笑んだルクスは二人がここにやってきた時の装備からそう判断していた。
「……確かに、あんなでかい街に行ったのにただ通過しただけだったね」
「うん、ここに来ることしか考えてなかったよー」
二人は自分たちのことながら、街を見ていくことがすっぽりと抜け落ちていたことに驚いていた。
それほどまでに自分たちの家がどうなっているかということに意識が向いていた事実に、二人は顔を見合わせて苦笑交じりで笑いあう。
「――そういえば、お二人は新たにお仲間を連れていたりはしないのですか?」
「んー……仲間、というのとは少し違うかもしれないけど、エクリプスという馬が聖馬に進化して俺たちと一緒に戦うことがある。レベルもそれなりだよ」
ヤマトの返答を受けてルクスは少し考え込んでいる。なにやら考えがまとまったのか、真剣な表情で顔を上げた。
「……その、よろしければ私も連れていってもらえないでしょうか?」
屋敷付きの使い魔ルクス。
彼はこの家を購入した際についてきた使い魔だったが、元々戦闘用の能力を持っており、槍使いだった。
その小さな体の何倍もの大きさの大きな槍を自在に操って戦う姿は圧巻だ。元々の柔軟性と相まり、そこらのモンスターならばあっという間に撃退してしまうほどの腕を持つ。
「……ルクスを連れていく?」
そのことは発想になかったため、きょとんとした表情でヤマトはオウム返しに質問してしまう。ルクスは黙って頷いた。
「わぁ! それ、いいーっ! ルクスも一緒なら旅ももっと楽しくなりそう!」
一方で可愛いものに目がないユイナは思わぬ提案にすっかり乗り気になっていた。
「はい、私も戦う力があります。以前の……その、ゲームの頃であれば、お二人にもお仲間がいたと思いますが、今はお二人と馬の三人で増える見込みがありません。また、お二人の状況を理解している相手でなければ、おいそれと仲間に加えるのは難しいでしょう。――ならばこそ、私をお仲間に加えて下さい」
膝をつき、忠誠を誓う騎士のようにしっかりと頭を下げたルクス。彼とて生半可な覚悟で申し出たわけではないようだった。
この世界には、今のところではあるが、ヤマトとユイナ以外にプレイヤーの存在は確認できていない。
となれば、二人がどんな状況であって、どんな力を持っているのか――それをあけすけに話せる相手となれば、ルクス以外に思い浮かばない。
「――わかった。ルクス、今日から俺たちは仲間だ。よろしく頼む」
少し考えたのち、メニュー画面からヤマトはパーティ申請をルクスに出し、すっと手を差し出す。
「はいっ! 精一杯お役に立てるように頑張ります!」
感激したように顔を上げて立ち上がったルクスはその手を両手でしっかりと握り返して、パーティ加入を了承した。
「あー、ずるいよ! 私もルクスと握手するー!」
ヤマトが手を離したのを見たユイナはすかさずルクスの手をとって、ぎゅっぎゅっと握手をしていく。ぷにぷにの肉球の触感を楽しみつつ、仲間をして歓迎した。
「ユイナ様もよろしくお願いしますっ」
嬉しそうにはにかむルクスの笑顔にユイナも自然と笑顔になっていた。
「これで最大四人になったから、パーティボーナスで能力が強化されるね」
最大六人のパーティ制。
人数が増えれば増えるほどに、パーティボーナスが増えて強化されていく。
実際、ルクスが増えたことで二人は能力の強化を実感していた。
「それじゃあ、本日は家でゆっくりして明日の朝出発しよう」
ヤマトの提案に異存はないらしく、ユイナもルクスも頷いていた。
「それでは私は夕飯の準備をしますね!」
「あー、私も手伝うよー」
使い魔としてだけのルクスであれば、ここは断固として断るところであった。しかし、今は仲間になっているため、ユイナの提案を無下にするのも失礼だと考えていた。
「――わかりました、ただし危ないことは私が担当します!」
少し考えたのち、ルクスはそう結論を出した。
「了解! じゃ、ヤマトはゆっくりしてていいよー!」
返事を待たずに飛び出したユイナとその後ろを慌てて追いかけるルクスはばたばたとキッチンへ向かって行った。
「それじゃあ、俺はゆっくりしながら少し地図を確認していこうかな」
その後ろ姿を優しい眼差しで見送ったヤマトは、地図で新しくできた場所の中でも、大きそうなダンジョンや規模の大きな街を中心にピックアップしていく。
新しくできた場所にこそ何かあるのではないかと思ったためである。
それを終えると残りの装備の中で使えるものがないかを確認していく。
キッチンから美味しそうな匂いがしてくるまで、それは続いた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133
彼が持ってきた地図は時代に合わせて更新されるマジックアイテムであり、今のこの世界が昔とどれだけ違うのかを確認することができる。
机に広げられた地図は現在のこの世界の配置を詳細に記載していた。
「――そう大きくは変わっていないのか……少し村や街が増えたり減ったり、あとはダンジョンも増えているかな」
ぱっと見でわかる情報から確認していく。ヤマトは記憶を照らし合わせて考え込むようにつぶやいた。
「うーん、この右上と左上の海の上の大陸って前はなかったかも?」
地図を指差しながらユイナも気づいたことを口にしていた。
彼らが思いつくままに言っていくそれらを全てルクスがメモをとっていく。しばらくの間、その話し合いは続いた。
「地殻変動が起きているのか……とりあえず、装備と職業をもっと充実させていかないとだなあ」
地図から顔を上げたヤマトは悩むように首の後ろ辺りを掻く。
今の職業もかなり強力なものではあったが、更に上の力を手に入れないと戦いが厳しくなるだろう――そうヤマトは感じていた。
「やっぱり強くなっておきたいよねー」
ゲームの頃も、アップデートが来るたびに次々と新たなダンジョンやボスが実装されていき、それらを倒すために装備や職業、そしてレベル上げに勤しんでいた。懐かしそうに思い出を振り返りつつ、ユイナはにっこりと微笑む。
「うん、トリトンの時はたまたまなんとかなったからいいけど、あの時よりも強い敵がでるはずだから強くならないと……」
真剣な表情でヤマトはぐっと拳を作って更に上を目指そうと意気込む。
力を得て、その力を使いこなせるようになり、装備を強化して、更にアイテムを揃えてから強者に挑戦する。
ゲーム時代、幾度となくそれを繰り返してきた二人にとって、レベル上げや装備集めは当然のことであった。
「そうですね、ならばまずは森林都市で手に入る職業と装備から手を出すのがよいでしょう。おそらくまだ取っていませんよね?」
ふわりとほほ笑んだルクスは二人がここにやってきた時の装備からそう判断していた。
「……確かに、あんなでかい街に行ったのにただ通過しただけだったね」
「うん、ここに来ることしか考えてなかったよー」
二人は自分たちのことながら、街を見ていくことがすっぽりと抜け落ちていたことに驚いていた。
それほどまでに自分たちの家がどうなっているかということに意識が向いていた事実に、二人は顔を見合わせて苦笑交じりで笑いあう。
「――そういえば、お二人は新たにお仲間を連れていたりはしないのですか?」
「んー……仲間、というのとは少し違うかもしれないけど、エクリプスという馬が聖馬に進化して俺たちと一緒に戦うことがある。レベルもそれなりだよ」
ヤマトの返答を受けてルクスは少し考え込んでいる。なにやら考えがまとまったのか、真剣な表情で顔を上げた。
「……その、よろしければ私も連れていってもらえないでしょうか?」
屋敷付きの使い魔ルクス。
彼はこの家を購入した際についてきた使い魔だったが、元々戦闘用の能力を持っており、槍使いだった。
その小さな体の何倍もの大きさの大きな槍を自在に操って戦う姿は圧巻だ。元々の柔軟性と相まり、そこらのモンスターならばあっという間に撃退してしまうほどの腕を持つ。
「……ルクスを連れていく?」
そのことは発想になかったため、きょとんとした表情でヤマトはオウム返しに質問してしまう。ルクスは黙って頷いた。
「わぁ! それ、いいーっ! ルクスも一緒なら旅ももっと楽しくなりそう!」
一方で可愛いものに目がないユイナは思わぬ提案にすっかり乗り気になっていた。
「はい、私も戦う力があります。以前の……その、ゲームの頃であれば、お二人にもお仲間がいたと思いますが、今はお二人と馬の三人で増える見込みがありません。また、お二人の状況を理解している相手でなければ、おいそれと仲間に加えるのは難しいでしょう。――ならばこそ、私をお仲間に加えて下さい」
膝をつき、忠誠を誓う騎士のようにしっかりと頭を下げたルクス。彼とて生半可な覚悟で申し出たわけではないようだった。
この世界には、今のところではあるが、ヤマトとユイナ以外にプレイヤーの存在は確認できていない。
となれば、二人がどんな状況であって、どんな力を持っているのか――それをあけすけに話せる相手となれば、ルクス以外に思い浮かばない。
「――わかった。ルクス、今日から俺たちは仲間だ。よろしく頼む」
少し考えたのち、メニュー画面からヤマトはパーティ申請をルクスに出し、すっと手を差し出す。
「はいっ! 精一杯お役に立てるように頑張ります!」
感激したように顔を上げて立ち上がったルクスはその手を両手でしっかりと握り返して、パーティ加入を了承した。
「あー、ずるいよ! 私もルクスと握手するー!」
ヤマトが手を離したのを見たユイナはすかさずルクスの手をとって、ぎゅっぎゅっと握手をしていく。ぷにぷにの肉球の触感を楽しみつつ、仲間をして歓迎した。
「ユイナ様もよろしくお願いしますっ」
嬉しそうにはにかむルクスの笑顔にユイナも自然と笑顔になっていた。
「これで最大四人になったから、パーティボーナスで能力が強化されるね」
最大六人のパーティ制。
人数が増えれば増えるほどに、パーティボーナスが増えて強化されていく。
実際、ルクスが増えたことで二人は能力の強化を実感していた。
「それじゃあ、本日は家でゆっくりして明日の朝出発しよう」
ヤマトの提案に異存はないらしく、ユイナもルクスも頷いていた。
「それでは私は夕飯の準備をしますね!」
「あー、私も手伝うよー」
使い魔としてだけのルクスであれば、ここは断固として断るところであった。しかし、今は仲間になっているため、ユイナの提案を無下にするのも失礼だと考えていた。
「――わかりました、ただし危ないことは私が担当します!」
少し考えたのち、ルクスはそう結論を出した。
「了解! じゃ、ヤマトはゆっくりしてていいよー!」
返事を待たずに飛び出したユイナとその後ろを慌てて追いかけるルクスはばたばたとキッチンへ向かって行った。
「それじゃあ、俺はゆっくりしながら少し地図を確認していこうかな」
その後ろ姿を優しい眼差しで見送ったヤマトは、地図で新しくできた場所の中でも、大きそうなダンジョンや規模の大きな街を中心にピックアップしていく。
新しくできた場所にこそ何かあるのではないかと思ったためである。
それを終えると残りの装備の中で使えるものがないかを確認していく。
キッチンから美味しそうな匂いがしてくるまで、それは続いた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133
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