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第六十一話
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光が収束し、一行が転送されたのは、港町ヒューリアに近い場所だった。周囲に人のいる気配はない。
「すごいなあ。一瞬でここまで移動できるなんて……」
トリトンの戦いの時の転送で思い知っていたが、街の近くでありながらも周囲に人がいない場所を選択肢して飛ばしてくれたことにヤマトは改めて感心していた。
「うんうん、やっぱ転移系の力は便利だよね……私たちにそのへんが使えないのも何か理由があるのかな?」
広大な世界観を誇るエンピリアルオンライン内では、プレイヤーには拠点に一瞬で戻る能力と、一度立ち寄った街へ瞬時に移動できる能力が無条件で付与されていた。
しかし、そのどちらも今はグレーアウトしており、使用不可状態にあった。
「うーん、なんだろうねえ。条件次第なのか、それとも何かクエストをクリアすると使えるように調整されているのかな?」
腕組みをしながらヤマトは考え込む。
無条件に使えるのはかなりのアドバンテージになってしまうため、ヤマトたちをこの世界に呼び込んだ何かがそう制限をかけたのか……それはまだ未確定な事項だった。
「ま、とりあえずは街に戻ってガズルさんと貴族の人に会いに行こっ。えーっと、ガズルさんの家に行けばいいのかな? それともご飯屋さんかなあ?」
考えるのが苦手なユイナはぴょんと一歩前に出てヒューリアへ歩き出す。それをヤマトとエクリプスがゆっくりと追うように歩く。街に入る手前で自然とわかれたエクリプスは街の外で待つようでどこかへ去って行った。
特に急ぐことなくのんびりとした足取りで彼らが街の中へ入ると、二人は驚くこととなる。
「――おい! 船の用意はできてるのか?」
「積み荷の確認をしておけよ!」
「今すぐ客への連絡をしてこい!」
「今なら、三十人まで乗れるが誰か乗っていく人はいるかー?」
ガズルの家へと向かう道中で、多くの船乗りが出向の準備や荷物や乗船客の確保に追われていた。街全体がこれまでせき止められていたものを吐き出すように慌ただしい気配に包まれている。
「嵐が収まったっていう情報はもうみんな知ってるみたいだね」
「早いねー、ガズルさんももしかしたら動いてるかもしれないね!」
その可能性は十分にあると考えた二人の足は徐々に速くなっていた。
「――ガズルさん!」
ガズル家の扉が開いていたため、ノックしながら家の中へと飛び込んでいく。
「……ん? あぁ、お前たち戻ったのか、おかえり。怪我は……ないみたいだな。よかった」
いきなり飛び込んできたヤマトたちに一瞬目を見開いて驚くが、ガズルは落ち着いた様子で彼らを見て、そんな反応を返してくる。
「……あ、あれ? なんか全然慌ててない?」
ガズルの反応が予想と違っていたため、ユイナはとても驚いていた。ヤマトも言葉にしないが驚いて固まっている。
「みんな色々動いているみたいだが、俺はあんたたちを待つと決めていたからな。……アレを解決したのはあんたたちなんだろ? 街じゃ奇跡だなんだなんて騒いでいるけどな」
自分だけがその真実を知っているということにガズルは喜びと、安心を覚えているようだった。それと同時に深い感謝の念が言葉に込められている。
「そう、だったんですか。ふう……慌てなくてもよかったね」
「うん、ガズルさんもみんなと同じように船の準備とかあの貴族と交渉とかしてるのかと思ってたからねえ」
顔を見合わせて大きく安堵の息を吐く二人に今度はガズルが驚く番だった。
「ははっ、まさかそんなことを思っていたとはな。まあ、俺のことをそこまで知ってるわけじゃないから、街の様子をみればそうも思うか。そうそう、あの貴族は俺以外のやつと話をつけてもう出発したみたいだぞ。だから、俺はお役御免ってわけだ」
それもあってか、ガズルは落ち着いているようだった。あの貴族も船が出せれば何でもよかったということなのだろう。
「ならよかったです。それじゃあ、船は出す必要はないんですね」
念のためのヤマトの確認にガズルはニッと笑顔で頷いていた。
「あぁ、だけど二人が船を出してほしいということであればいつでも出発できるぞ。なんせ、ずっと船乗りや漁師が困っていた問題を解決してくれたんだからな。みんなに話せば、いくらでも助力を申し出てくれる奴はいるさ」
そのうちの一人が自分であるとガズルは胸を張って言う。屈強で大柄な彼のその言葉からはとても頼もしい雰囲気が感じられた。
「あー、あの問題はちょっと荒唐無稽な話なもので、あんまりおおやけにはできないんですけど……。それでもガズルさんが船を出してくれるのならぜひお願いします」
ヤマトは真実を話せないことを心苦しく思っていたが、ガズルにしてみればそうなる可能性も既に予想済みだった。
「わかった! 深くは聞かないし、なんだったら今すぐ船を出せるぞ。そこまで大きい船じゃないから、別の港町に行くくらいしかできないけどな」
どんと胸を叩きつつも申し訳なさをにじませたそれは十分ヤマトたちの要望に応えるレベルである。
「それじゃあ、ユイナ」
「うん――雪の都フリージアナまでお願いします!」
海底神殿でアイテム散策をしている間に、二人は次の目的地を話し合っていた。
ヤマトに促されて元気よくユイナが告げた場所――ヒューリアよりも更に北にある、雪の都フリージアナ。
万年雪に覆われている大国であり、精霊や神の存在も多いといわれてる場所である。そして、過去に敗れた魔王が封印されている地でもあった。
「……ふーむ、あんな場所になんの用事があるのかわからないが……いいだろう! ただし、先に防寒具を用意しておいてくれ。あそこはかなり冷える。俺は海であちこち行くもんだから持ってるが、見たところ二人は持っていないだろう?」
フリージアナは街に近づくだけで、かなり気温が低く、見える範囲に入ったところでいたるところに雪が降りつもっていることもある――そんな場所であるため、寒さに対する準備が必要だった。
「わかりました、これから街で買いだししてきます。他に必要なものはありますか? 船に使うものでもいいですし」
自分たちの防寒対策だけでなく、船に関しても何か対処をしなくてはならない。そのための確認をヤマトがとるが、ガズルは首を横に振る。
「――俺を誰だと思ってるんだ? ……あぁ、言ってみたかっただけだ。俺のことはそんなに知らないんだったな。俺の船は型自体は小さいが、全天候に対応できるものだから心配しなくてもいい。灼熱だろうと、雪が降っていようと、それこそ氷が張っていようとそれを砕いて進んで見せるさ」
彼の自慢の船の高性能ぶりに感心する二人。普通ならついているのが少ない、砕氷機能もついていることにヤマトはほっとする。
「よかった、それじゃあ早速行って来ますね!」
「いってきまーす!」
手を振って元気よく出て行った二人を見てガズルは自然と笑顔になっていた。
「……俺はもしかしたらとんでもない二人と知り合ったのかもしれないな」
街を長らく悩ませていたほどの大きなことを成したにも関わらずそれを誇ろうともしない、そして元気よく買い物に出かけた二人は見た目よりもやや幼さも見せる。
そんな二人にガズルは好感を抱いていた。
ポセイドンの時もそうだったが、彼らには人を惹きつける魅力が自然と備わっていた……。
ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195
ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37
エクリプス:聖馬LV113
「すごいなあ。一瞬でここまで移動できるなんて……」
トリトンの戦いの時の転送で思い知っていたが、街の近くでありながらも周囲に人がいない場所を選択肢して飛ばしてくれたことにヤマトは改めて感心していた。
「うんうん、やっぱ転移系の力は便利だよね……私たちにそのへんが使えないのも何か理由があるのかな?」
広大な世界観を誇るエンピリアルオンライン内では、プレイヤーには拠点に一瞬で戻る能力と、一度立ち寄った街へ瞬時に移動できる能力が無条件で付与されていた。
しかし、そのどちらも今はグレーアウトしており、使用不可状態にあった。
「うーん、なんだろうねえ。条件次第なのか、それとも何かクエストをクリアすると使えるように調整されているのかな?」
腕組みをしながらヤマトは考え込む。
無条件に使えるのはかなりのアドバンテージになってしまうため、ヤマトたちをこの世界に呼び込んだ何かがそう制限をかけたのか……それはまだ未確定な事項だった。
「ま、とりあえずは街に戻ってガズルさんと貴族の人に会いに行こっ。えーっと、ガズルさんの家に行けばいいのかな? それともご飯屋さんかなあ?」
考えるのが苦手なユイナはぴょんと一歩前に出てヒューリアへ歩き出す。それをヤマトとエクリプスがゆっくりと追うように歩く。街に入る手前で自然とわかれたエクリプスは街の外で待つようでどこかへ去って行った。
特に急ぐことなくのんびりとした足取りで彼らが街の中へ入ると、二人は驚くこととなる。
「――おい! 船の用意はできてるのか?」
「積み荷の確認をしておけよ!」
「今すぐ客への連絡をしてこい!」
「今なら、三十人まで乗れるが誰か乗っていく人はいるかー?」
ガズルの家へと向かう道中で、多くの船乗りが出向の準備や荷物や乗船客の確保に追われていた。街全体がこれまでせき止められていたものを吐き出すように慌ただしい気配に包まれている。
「嵐が収まったっていう情報はもうみんな知ってるみたいだね」
「早いねー、ガズルさんももしかしたら動いてるかもしれないね!」
その可能性は十分にあると考えた二人の足は徐々に速くなっていた。
「――ガズルさん!」
ガズル家の扉が開いていたため、ノックしながら家の中へと飛び込んでいく。
「……ん? あぁ、お前たち戻ったのか、おかえり。怪我は……ないみたいだな。よかった」
いきなり飛び込んできたヤマトたちに一瞬目を見開いて驚くが、ガズルは落ち着いた様子で彼らを見て、そんな反応を返してくる。
「……あ、あれ? なんか全然慌ててない?」
ガズルの反応が予想と違っていたため、ユイナはとても驚いていた。ヤマトも言葉にしないが驚いて固まっている。
「みんな色々動いているみたいだが、俺はあんたたちを待つと決めていたからな。……アレを解決したのはあんたたちなんだろ? 街じゃ奇跡だなんだなんて騒いでいるけどな」
自分だけがその真実を知っているということにガズルは喜びと、安心を覚えているようだった。それと同時に深い感謝の念が言葉に込められている。
「そう、だったんですか。ふう……慌てなくてもよかったね」
「うん、ガズルさんもみんなと同じように船の準備とかあの貴族と交渉とかしてるのかと思ってたからねえ」
顔を見合わせて大きく安堵の息を吐く二人に今度はガズルが驚く番だった。
「ははっ、まさかそんなことを思っていたとはな。まあ、俺のことをそこまで知ってるわけじゃないから、街の様子をみればそうも思うか。そうそう、あの貴族は俺以外のやつと話をつけてもう出発したみたいだぞ。だから、俺はお役御免ってわけだ」
それもあってか、ガズルは落ち着いているようだった。あの貴族も船が出せれば何でもよかったということなのだろう。
「ならよかったです。それじゃあ、船は出す必要はないんですね」
念のためのヤマトの確認にガズルはニッと笑顔で頷いていた。
「あぁ、だけど二人が船を出してほしいということであればいつでも出発できるぞ。なんせ、ずっと船乗りや漁師が困っていた問題を解決してくれたんだからな。みんなに話せば、いくらでも助力を申し出てくれる奴はいるさ」
そのうちの一人が自分であるとガズルは胸を張って言う。屈強で大柄な彼のその言葉からはとても頼もしい雰囲気が感じられた。
「あー、あの問題はちょっと荒唐無稽な話なもので、あんまりおおやけにはできないんですけど……。それでもガズルさんが船を出してくれるのならぜひお願いします」
ヤマトは真実を話せないことを心苦しく思っていたが、ガズルにしてみればそうなる可能性も既に予想済みだった。
「わかった! 深くは聞かないし、なんだったら今すぐ船を出せるぞ。そこまで大きい船じゃないから、別の港町に行くくらいしかできないけどな」
どんと胸を叩きつつも申し訳なさをにじませたそれは十分ヤマトたちの要望に応えるレベルである。
「それじゃあ、ユイナ」
「うん――雪の都フリージアナまでお願いします!」
海底神殿でアイテム散策をしている間に、二人は次の目的地を話し合っていた。
ヤマトに促されて元気よくユイナが告げた場所――ヒューリアよりも更に北にある、雪の都フリージアナ。
万年雪に覆われている大国であり、精霊や神の存在も多いといわれてる場所である。そして、過去に敗れた魔王が封印されている地でもあった。
「……ふーむ、あんな場所になんの用事があるのかわからないが……いいだろう! ただし、先に防寒具を用意しておいてくれ。あそこはかなり冷える。俺は海であちこち行くもんだから持ってるが、見たところ二人は持っていないだろう?」
フリージアナは街に近づくだけで、かなり気温が低く、見える範囲に入ったところでいたるところに雪が降りつもっていることもある――そんな場所であるため、寒さに対する準備が必要だった。
「わかりました、これから街で買いだししてきます。他に必要なものはありますか? 船に使うものでもいいですし」
自分たちの防寒対策だけでなく、船に関しても何か対処をしなくてはならない。そのための確認をヤマトがとるが、ガズルは首を横に振る。
「――俺を誰だと思ってるんだ? ……あぁ、言ってみたかっただけだ。俺のことはそんなに知らないんだったな。俺の船は型自体は小さいが、全天候に対応できるものだから心配しなくてもいい。灼熱だろうと、雪が降っていようと、それこそ氷が張っていようとそれを砕いて進んで見せるさ」
彼の自慢の船の高性能ぶりに感心する二人。普通ならついているのが少ない、砕氷機能もついていることにヤマトはほっとする。
「よかった、それじゃあ早速行って来ますね!」
「いってきまーす!」
手を振って元気よく出て行った二人を見てガズルは自然と笑顔になっていた。
「……俺はもしかしたらとんでもない二人と知り合ったのかもしれないな」
街を長らく悩ませていたほどの大きなことを成したにも関わらずそれを誇ろうともしない、そして元気よく買い物に出かけた二人は見た目よりもやや幼さも見せる。
そんな二人にガズルは好感を抱いていた。
ポセイドンの時もそうだったが、彼らには人を惹きつける魅力が自然と備わっていた……。
ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195
ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37
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