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第二十二話

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「……えーっと、この魔石はどなたかにもらったもの、ということでしょうか?」
 おずおずと伺うようにジャイズ族の職員は一番あり得る可能性を口にする。
「いいえ、私たちが取ってきました」
 だがユイナはニコニコと笑顔でそう答える。

 ジャイズ族の職員は自分より年下であるだろう目の前の女性冒険者の笑顔に威圧されている自分がいるのを感じていた。美人がただ笑っているというのは恐ろしささえ感じる。
「そ、その、誰かが倒したモンスターからとったということでしょうか……?」
 思わず普段なら絶対にしないであろう質問が彼の口をついてでる。

 自分が何を言ったのか理解したジャイズ族の職員の表情はサッと青ざめていた。
「いいえ、私たちが倒して、取ってきました」
 それでもユイナははっきりと改めて言い直す。もちろん、この際も笑顔だった。

「し、失礼しましたっ! しょ、少々お待ち下さい!」
 終始笑顔のユイナに、自分はまずい相手を敵に回してしまったのではないかと恐怖を抱いたジャイズ族の職員は慌てて、奥にある階段を登って行った。
 温厚で知られる彼が慌てて走っていくのを他のギルドの職員は不思議そうに見ていた。



「……もう、ユイナも人が悪いなあ、あんなにプレッシャーかけなくてもいいのに」
「えー、だってこうでもしないとよくある一気にランクアップ! ができないじゃんー」
 カウンター前に残された二人。苦笑交じりのヤマトに注意されて、不満そうにユイナは唇を尖らせていた。

「でも、本当にユイナの言うとおりになるかな? なんか、面倒な客が来たと思われて適当にあしらわれそうな気もするけど……」
 冷静なヤマトの指摘に、ずっとニコニコ顔だったユイナの顔が一気に青ざめていく。

「そ、その可能性は、頭の中になかったかも……」
 実を縮こまらせながらユイナは左右の人差し指を突き合わせて、視線を泳がせていた。

「……まあ、駄目で元々ということで。仮にこの街で何かあったとしても、別の街に行けばいいだけだからね」
 やっぱり深い考えがあっての行動じゃなかったのか、とヤマトは困ったように笑う。
 元々この世界を冒険するつもりだった二人。このあたりではリーガイアが最も大きな街だったが、何かあれば次の街に進むという選択肢ももちろんあった。

「そ、そうだよね! うん、なんか大丈夫な気がしてきた!」
 ぱぁっと雰囲気を明るくしたユイナはヤマトの言葉で、すぐに元気を取り戻していた。

 表情がころころと変化しているユイナだったが、次の変化はジャイズ族の職員が戻ってきたのを見つけた時だった。

「あぁ、お二人ともお待たせしました。――ギルドマスターがお話を聞きたいそうなので、こちらへどうぞ」
 汗をにじませた彼の話の後半は声を抑えてのものだった。ギルドマスターと聞いて二人は事態が上手くいっていることに内心安堵の気持ちを抱いた。

「ヤマト!」
「うん」
 顔を見合わせて頷きあった二人は案内されるままに、ジャイズ族の職員のあとをついていく。

 声を抑えた職員だったが、一介の冒険者がカウンターの中に入っていくという光景は結局、注目のまとになっていた。







 カウンターの奥にある階段を登って行き、三階に辿りついたところで、一つの部屋の前でジャイズ族の職員の足が止まる。

「ここの部屋です。詳しい話はギルドマスターから聞いて下さい」
 軽く振り返ってそう言ったジャイズ族の職員は姿勢を正すと、目の前の扉をノックする。
「マスター、先ほどお話しした二人を連れてきました」

「……あぁ、入ってもらってくれ」
 返って来た声が若い声だった為、二人は思わずきょとんと顔を見合わせる。
「それではここからはお二人でお願いします」
 穏やかな笑みでそれだけ言うとジャイズ族の職員は階下へと戻って行った。




 ヤマトとユイナは頷きあうと意を決してギルドマスタールームへと入っていく。
「失礼します」
「失礼しますー」
 二人が入ると、そこには誰もいないように見えた。全体的にシンプルな黒色のアイテムで揃えられた室内は立派な執務室だ。

「君たちが魔石を持ってきたという二人か」
 部屋の奥、大きな作業机の向こうにあった椅子がくるりと向きを変えてヤマトたちと向かい合う形になる。声の主はそこに座っていた。

「こど……」
 そこまで口にしたところでこの部屋の主に強く睨まれたのを感じたユイナは慌てて口を閉じる。
「いや、ユイナ、あの人はチャイル族の人だよ」
 ヤマトのそれを聞いたユイナはそういえばと大きく頷いていた。


 チャイル族とはエンピリアルオンラインの世界に住んでいる種族の一つで、わかりやすい言い方をすると小人族という言い方になる。成人になっても子供のように小さな身長であることが特徴だ。


「ほう、そっちのお前はちゃんとわかっているようだな」
 感心したようにヤマトを見た彼は大人びた口調で話してくる。声が若いため、喋り方と声と見た目がアンバランスだった。

「その、あなたがギルドマスターですか」
 伺うようなヤマトの問いに、チャイル族の彼は今更何を聞いているんだと怪訝な表情になる。

「当たり前だろう? この部屋の扉にそう書いてあったはずだが……まあいい、私が中央都市リーガイアの冒険者ギルドのマスター、グタールだ。そっちのお前が言うようにチャイル族であっている。年齢は恐らくお前たちよりははるかに上のはずだ」
 立派な椅子の上で腕を組んで偉そうに言うグタールだったが、その背格好ゆえに威厳というものは感じられなかった。

「うーん、あれだね……やっぱり子どもに見えちゃう!」
 先ほど言うのをやめたユイナだったが、素直な気持ちが口をついて出てしまった。ふわふわと悪意なく笑っているのが余計に素であることを証明していた。
「お前……」
 思わずイラっとするグタールだったが、ヤマトが真剣な表情で自身を見ていることに気づいてその怒りをおさめる。

「――なんだ?」
 そして、矛先をヤマトに向けた。
「いや、すごいと思いまして……――かなりお強いですよね?」
 ユイナとグタールがやり取りしている間、ギルドマスターをじっと見ていたヤマトは彼のステータスを確認していたのだ。

 ヤマトたちはある程度のデータは相手を『調べる』ことで見ることができる。
 彼の能力はギルド内で見たどの冒険者よりも高いもので、そのレベルは120だった。

「お、わかるか?」
 ようやく話の分かる相手が来たかというようにグタールはにやりと笑っている。彼にとってそのレベルは自慢できるものの一つのようだ。

「あ、ほんとだ……すごく強い」
 ヤマトと同じように『調べる』を発動させたユイナは驚きながらも純粋にすごいと思っていた。

 あくまでこのあたりではという注釈つきにはなるが、それでもこの120というレベルは他の冒険者たちを圧倒するだけの力を持っている。もちろん無策でいけばヤマトやユイナでも勝てないだけの力を持っていた。現段階では……。






ヤマト:剣士LV35、魔術士LV25
ユイナ:弓士LV30、回復士LV15
エクリプス:馬LV15


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 相手をじっと見ることで発動できる能力。他からはただ見つめているだけのように見える。
 レベルをはじめとした簡易的なステータスが見ることができ、相手の力量を知るのにはとても便利。
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