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第十五話

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 勇ましい表情で短剣【ルフィリアナイフ】を手にしたユイナは後方に下がりながらも、軽やかな動きで次々に襲いかかってくるゴブリンを倒していく。
 弓士は遠距離での戦いを弓で行い、近距離の対応として短剣を装備できるようになっていた。ルフィナの街の名前が入ったルフィリアナイフは弓士ならば誰でも持っている銀色に輝く短剣だ。


「――せいっ!」
 短剣で戦うユイナは先ほどよりもノッており、ひらひらと舞うように飛んだり跳ねたりしてステップを踏んでいた。

「ゴブブブ……」
 仲間がどんどん倒されていく現状を悔しげな目線でにらむジェネラルゴブリンはここまでかと観念していた。
「ゴブウウウウウウウウウウウウウウ!」
 そして、次の瞬間、やけくそ気味に周囲へ響き渡るような大きな叫び声をあげていた。

「キャッ!」
 空気をびりびりと震わせるほどの大声にユイナは驚いて思わず声をだしてしまう。
 それと同時にまだ生き残っているゴブリンはジェネラルゴブリンのもとへと集合していた。ユイナがかなりの数を倒したため、その数も両手で数えられる程度になっている。

「な、なんの声なの? こんなの初めてだけど……」
 困惑交じりの表情のユイナはジェネラルゴブリンがなんの指示を出したのかわからず、ゴブリンたちの動きに注視する。

 しかし、これは悪手だった。ユイナが行うべきは、周囲の状況把握だった。
 気づけばドドドドという音とともに大量の何かが近づいてくる気配がする。

「……まさか!」
 顔色を悪くしながらユイナは画面端に表示されているミニマップを慌てて確認する。そこにはユイナが立っている場所を中心に周囲から赤い玉が集まって来るところだった。あまりにも集まり過ぎてもはやそれは玉というより波状に大きく広がっていた。

「あれは、《魔物の呼び声》!?」
 ゲーム時代、都市伝説であった『魔物の呼び声』。その声は、周囲に存在するモンスターを声がする場所へと集めるというものだった。

 都市伝説というとおり、確実に本人が見たという情報が聞こえてこなかった。
「まさか本当にあるなんて……」
 しかし、それを目の当たりにしてしまったユイナは、ここにきてその噂を信じることになってしまった。

 そして、これもユイナにとって悪い選択だった。
 本来であれば、気付いたと同時にどんな手段をとってもこの場所から走って逃げるべきだった。

 叫び終わったジェネラルゴブリンはにやりと下品な笑みを浮かべ、集まってくる大量のモンスターの数に絶望しているであろうとユイナを満足そうに見ている。

「――もう、遅いよね。やるしかない、かな……」
 逃げ遅れたせいでゆっくりとだが確実に迫るモンスターの波に奥歯をギリッとかみしめたユイナ自身もそう感じており、集まって来たモンスターと戦うしかない状況に追いやられていた。

「でも、ここまでいっぱいゴブリンを倒したおかげで回復士のレベルも上がったからなんとかなる、よね!」
 苦境に立たされたユイナは自分に言い聞かせるようにあえて明るい声音で短剣をギュッと掴む。
 チラリと確認する自分のステータス。そこに表記されているのは、弓士LV21、回復士LV6だった。

「まずは……君からだよ! ジェネラルゴブリンさん!」 
 まずはこんな状態に陥った原因であるジェネラルゴブリンに短剣で斬りかかるユイナ。その動きたるや目視できるものではなく、一撃で何度も切り付けられたジェネラルゴブリンは何が起こったのか理解できずにその命を終えた。

「さあって、できるだけ数を減らさないとね……“ファストショット”!」
 倒れるジェネラルゴブリンをちらりと一瞥したユイナはさっと弓を構えると、生き残ったゴブリン含め、未だ距離のある相手に向かってスキルを放っていく。
 リーダーのジェネラルゴブリンを倒されて動揺した生き残りゴブリンたちは呆気なく倒せたが、魔物の呼び声で集まってくるモンスターたちはそうはいかないようだ。

 一匹二匹倒れたところで、ユイナの方を目指して突き進むモンスターは気に留めることもなく、次々と集まっている。

「くっ……“バーストショット”!」
 ある程度距離が詰まってきたモンスターにはこちらのスキルを使って攻撃する。爆発によって、数体のモンスターが倒れるが、これも焼け石に水という言葉がぴったりだった。

「それでも……やるしかない!」
 諦めることなくキッとモンスターたちを強く睨むユイナは次々にスキルを放っていく。
 その心に焦る気持ちは確かにあったが、ユイナはふとヤマトの言葉を思い出していた。


 ――戦いの場において冷静さを欠いては結果を残すことはできないんだよ、ユイナ。


 それはゲーム時代に少しでもなにかイレギュラーなことが起こるとすぐ慌てるユイナを見たヤマトから何度も言われたものだ。今も焦っている気持ちを抑え込みながら彼の言葉で上書きしていた。愛しい者の言葉は辛い状況で強い心の支えとなる。

「ふー……一発一発を確実にあてないと……」
 冷静さを取り戻した彼女は狙いが雑になってきていることに気づいて、気持ちを切り替えるように一つ深呼吸をする。そして、再度狙いを定めてモンスターの頭部を狙っていた。

 “ヘッドショット”。口で言うのは簡単だが、ユイナの精密射撃は神がかっていた。
 警鐘を鳴らす心、冷静さを保とうとする頭、ヤマトの言葉が支えてくれている心。このバランスがほどよく均衡を保ち、高いパフォーマンスを引き出している。

「まだ、まだなんだから!」
 徐々にモンスターの集団との距離が縮まっているが、できるうる限り矢での攻撃を続けていく。

 しかし、それも限界がやってきた。
「っもう、無い……」
 それは距離が縮まったからではなく、矢筒にあった矢が尽きてしまったためだった。

「ここから、もう短剣で戦うしかないんだよね……――よし、やろう!」
 だがそれで諦める彼女ではなかった。再度気合を入れなおし、ユイナは素早く黒檀の弓をアイテムボックスにしまうと、ルフィリアナイフを左右の手に握って走り出した。

 ただやみくもにモンスターの群れに突っ込んでいったのでは、いくら元最強プレイヤーのユイナといえども早々にやられてしまうことは明白である。

 ゆえに、ユイナが向かった先はモンスターの集団が縦に伸びて塊がばらけた場所だった。

「ここからなら、まだ切り崩せる!」
 先頭のモンスターと接触する瞬間、ユイナは素早いステップで胴に斬りつけ、次の瞬間には別のモンスターに狙いを定めていた。

 集中が最大限高まっているユイナだったが、その集中が切れればそこから一気に崩れてしまうことはわかっている。
 だからこそ、余計なことを考えないようにしてモンスターを倒していた。

「――なんで!?」
 しかし、視界に見覚えのある馬の姿が見えたためユイナは動揺してしまう。それはユイナをここまで連れてきてくれた馬だった。
 帰還命令で去ったはずの馬は自由を与えられ、このあたりをブラブラとしていたようだった。

「もー! そこは、ゲームみたいにどっか別空間にいてよね!」
 ユイナはツッコミを入れながら馬を助けるために走っていく。大量のモンスターに追いかけられながらも馬はなんとか襲われないように逃げていたが、それでも徐々にダメージを受けていた。
 それを証明するように次第に走る速度が落ちてきており、下卑た笑いを浮かべたモンスターの恰好の的になってしまう。

「大丈夫! 私が助けるから!」
 自分のことにかまうことなく、ユイナは今にも馬に襲いかかろうとしていたモンスターめがけて弓を構える。矢は既に尽きていたはずなのに。

「矢がないなら……“バーストショット”!」
 気合いを込めてユイナが矢代わりに放ったのは、先ほどまで使っていた短剣ルフィリアナイフだった。




ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18
ユイナ:弓士LV21、回復士LV6
エクリプス:馬LV6


ルフィリアナイフ
 弓士を目指す者に与えられる最初の近接用の武器。銀色に輝く短剣で、柄の部分には自然豊かなルフィナの街をイメージした細かい細工が施されている。
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