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第十二話
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馬の呼び笛の購入を終えると、ヤマトは旅の準備のために食料や道具の購入をしに雑貨屋や食材屋を巡っていた。
アイテムボックスは食事などが格納された場合、時間がとまり温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま保存されるため、ヤマトは買ったそばからアイテムボックスにしまっていた。
「あっ、それとそれもお願いします」
食事に寄った店で、美味しい料理が提供されると食器代を払ってまでそれを購入することもあった。美味しいものは大切な人と一緒に共有したいという気持ちからだった。
あまりに美味しそうに食べるヤマトにそそられた客が同じものを注文したり、彼と同じように持ち帰るという者もおり、その店はヤマトが去ったあともしばらくにぎわい続けた。
そんな賑わいにも気づかず、ユイナのことを考えながら旅に向けての一通りの買い物を終えたヤマトは宿に向かう。
いよいよ、合流に向けて動き出すことを早くユイナに伝えたかったからだ。
部屋は空いており、ヤマトは無事に部屋をとることができる。もちろん防音性の高い部屋を選んだ。
「さて、ユイナは通話できるかな? ――ユイナ?」
ベットに腰かけたヤマトは優しく指輪に触れながらユイナへの通話を開始する。
待つこと、一分。なかなか返事が返ってこないため、忙しいのかもしれないとヤマトが通話を諦めようか考え始めた頃。
『――ヤマト?』
ちょうどそのタイミングでユイナから返事が返ってきた。
「よかった、今通話大丈夫かな?」
『うん! すぐに反応できなくてごめんね、ちょっと寝てたー』
通話音で慌てて起きたユイナだったが、すぐに頭はしゃっきりとしたようで通話に対応していた。
「あー、それはごめんね。ちょっと話したいことがあったから……」
寝ているところを起こしてしまった罪悪感からヤマトは謝罪する。
『ううん、気にしないでいいよ。それより話したいことってなぁに?』
ふにゃりと笑いながら首を横に振るユイナは寝ているところを起こされたことよりも、ヤマトから通話をくれたことに対する嬉しさが強かった。
「えっとね、そろそろデザルガを出て、中央都市リーガイアを目指そうと思ってるんだ」
『ほんと! あ、でも私はもうちょっとこっちでレベル上げしないと大変かも……やっと弓がレベル15になったばかりなんだよね……』
ヤマトの速度についていけない自分のことをユイナは少し不甲斐なく思い、しょんぼりとしてしまう。
「ううん、いいんだよ。ユイナはユイナのペースで、確実に上がってきてるしね。とりあえず俺はリーガイアに向かうから、その時点でまたどうするか決めればいいよ。俺がそっちの街に迎えに行ってもいいし、途中で合流するのもありだよね」
優しく答えるヤマトは彼女に気を使ってるわけではなく、単純に思ったことを口にしているだけだった。ずっと昔から変わらない彼の優しい言葉に胸がぽかぽかと温まったユイナは自然と笑顔になっていく。
『ふふっ、やっぱりヤマトはヤマトだなー……』
「えっ? 俺は俺だけど……何を当たり前のことを言ってるの?」
どうやらその返事はユイナの好みに合わなかったらしく、通話の向こうで彼女は不機嫌そうにつんと口をとがらせていた。
『もー、そういうとこだよ! ヤマトの良くないところ! いいの、なんか雰囲気なの! ヤマトはヤマトなの!』
「……あー、なんかごめん」
なにが悪かったのかはわからなかったが、ユイナの機嫌を損ねたことだけは理解したヤマトは苦笑交じりで即座に謝罪した。
『いいよっ、許してあげる!』
理由がわかっていなくても、ヤマトが謝罪をする時は気持ちがこもっていることをわかっているユイナはあっさりと許すことにした。
そうしてどちらともなく笑いあうこれが二人のなかではお決まりのやり取りのようなものだった。
「とりあえず馬の呼び笛と旅に必要な道具とか食料を買い込んだから、早速明日には街を発つことにするね」
『うん! えへへ……まだ会えないのはわかってるけど、二人の距離が縮まるのはなんか嬉しいね!』
単純な直線距離が近づくだけだったが、それはユイナを笑顔にする要素だった。
それから二人は夜遅くまで通話を続ける。再会が近づいたことでより互いを強く意識した二人の通話は日をまたいだころまで続くこととなった。
翌朝
「ふわぁ……昨日は遅くまで通話しちゃったなあ」
いつもの格好に旅用のローブを羽織ったヤマトは眠い目をこすりながら、朝の街中を歩いていた。静けさの残る早朝の今は、人の姿もまばらだ。
早朝に出発すれば、昼過ぎくらいに馬が音をあげて休憩になるような計算だった。
「またすぐに戻ってくるか、それとももう戻ってこないか……わからないけど、行ってきます!」
ダンジョンにいることが多かったヤマトは、デザルガの街での思い出が少なかったが、それでも今回も旅立ちの最初の街であったため、思い入れがあった。
決意を胸に街に向けて挨拶をすると、進む先に身体を向けて馬を呼び出すことにした。
「さてさて、どんな感じでくるのやら……――ピー!」
ゲームの時はメニューで選ぶとその場にポンと現れるだけだったため、わくわくしながらヤマトが笛を吹くと、ほどなくして馬がどこからともなくやってきた。
「ヒヒーン!」
「おうおう、元気だね。それじゃこれからよろしくお願いします」
ヤマトに駆け寄ってきては元気よく頬ずりをしてくる馬の頭を撫でてから笑顔で挨拶をする。
彼はこの馬をただの乗り物としては考えておらず、旅の相棒としてとらえていた。
「嫌じゃなければ名前をつけてあげたいんだけど……どうかな?」
穏やかに問いかけるヤマトの質問を理解しているのか、馬は一瞬考えたようにじっと彼を見つめ、同意するように鼻を鳴らした。
「それじゃあ……お前の名前はエクリプスだ!」
「ヒヒーン!」
名前を聞いた瞬間、とても気に入ったのか、馬は縦に首を振るとやる気を見せるように大きくいなないた。
「気に入ってくれたみたいだな、よろしくなエクリプス!」
エクリプスの喜びを感じ取ったヤマトも嬉しそうに笑う。
さっそく騎乗し、リーガイアに向けて旅立ったヤマト。この時のエクリプスはまだ、移動用に買った馬としての存在だったが……。
ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18
ユイナ:弓士LV15
アイテムボックスは食事などが格納された場合、時間がとまり温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま保存されるため、ヤマトは買ったそばからアイテムボックスにしまっていた。
「あっ、それとそれもお願いします」
食事に寄った店で、美味しい料理が提供されると食器代を払ってまでそれを購入することもあった。美味しいものは大切な人と一緒に共有したいという気持ちからだった。
あまりに美味しそうに食べるヤマトにそそられた客が同じものを注文したり、彼と同じように持ち帰るという者もおり、その店はヤマトが去ったあともしばらくにぎわい続けた。
そんな賑わいにも気づかず、ユイナのことを考えながら旅に向けての一通りの買い物を終えたヤマトは宿に向かう。
いよいよ、合流に向けて動き出すことを早くユイナに伝えたかったからだ。
部屋は空いており、ヤマトは無事に部屋をとることができる。もちろん防音性の高い部屋を選んだ。
「さて、ユイナは通話できるかな? ――ユイナ?」
ベットに腰かけたヤマトは優しく指輪に触れながらユイナへの通話を開始する。
待つこと、一分。なかなか返事が返ってこないため、忙しいのかもしれないとヤマトが通話を諦めようか考え始めた頃。
『――ヤマト?』
ちょうどそのタイミングでユイナから返事が返ってきた。
「よかった、今通話大丈夫かな?」
『うん! すぐに反応できなくてごめんね、ちょっと寝てたー』
通話音で慌てて起きたユイナだったが、すぐに頭はしゃっきりとしたようで通話に対応していた。
「あー、それはごめんね。ちょっと話したいことがあったから……」
寝ているところを起こしてしまった罪悪感からヤマトは謝罪する。
『ううん、気にしないでいいよ。それより話したいことってなぁに?』
ふにゃりと笑いながら首を横に振るユイナは寝ているところを起こされたことよりも、ヤマトから通話をくれたことに対する嬉しさが強かった。
「えっとね、そろそろデザルガを出て、中央都市リーガイアを目指そうと思ってるんだ」
『ほんと! あ、でも私はもうちょっとこっちでレベル上げしないと大変かも……やっと弓がレベル15になったばかりなんだよね……』
ヤマトの速度についていけない自分のことをユイナは少し不甲斐なく思い、しょんぼりとしてしまう。
「ううん、いいんだよ。ユイナはユイナのペースで、確実に上がってきてるしね。とりあえず俺はリーガイアに向かうから、その時点でまたどうするか決めればいいよ。俺がそっちの街に迎えに行ってもいいし、途中で合流するのもありだよね」
優しく答えるヤマトは彼女に気を使ってるわけではなく、単純に思ったことを口にしているだけだった。ずっと昔から変わらない彼の優しい言葉に胸がぽかぽかと温まったユイナは自然と笑顔になっていく。
『ふふっ、やっぱりヤマトはヤマトだなー……』
「えっ? 俺は俺だけど……何を当たり前のことを言ってるの?」
どうやらその返事はユイナの好みに合わなかったらしく、通話の向こうで彼女は不機嫌そうにつんと口をとがらせていた。
『もー、そういうとこだよ! ヤマトの良くないところ! いいの、なんか雰囲気なの! ヤマトはヤマトなの!』
「……あー、なんかごめん」
なにが悪かったのかはわからなかったが、ユイナの機嫌を損ねたことだけは理解したヤマトは苦笑交じりで即座に謝罪した。
『いいよっ、許してあげる!』
理由がわかっていなくても、ヤマトが謝罪をする時は気持ちがこもっていることをわかっているユイナはあっさりと許すことにした。
そうしてどちらともなく笑いあうこれが二人のなかではお決まりのやり取りのようなものだった。
「とりあえず馬の呼び笛と旅に必要な道具とか食料を買い込んだから、早速明日には街を発つことにするね」
『うん! えへへ……まだ会えないのはわかってるけど、二人の距離が縮まるのはなんか嬉しいね!』
単純な直線距離が近づくだけだったが、それはユイナを笑顔にする要素だった。
それから二人は夜遅くまで通話を続ける。再会が近づいたことでより互いを強く意識した二人の通話は日をまたいだころまで続くこととなった。
翌朝
「ふわぁ……昨日は遅くまで通話しちゃったなあ」
いつもの格好に旅用のローブを羽織ったヤマトは眠い目をこすりながら、朝の街中を歩いていた。静けさの残る早朝の今は、人の姿もまばらだ。
早朝に出発すれば、昼過ぎくらいに馬が音をあげて休憩になるような計算だった。
「またすぐに戻ってくるか、それとももう戻ってこないか……わからないけど、行ってきます!」
ダンジョンにいることが多かったヤマトは、デザルガの街での思い出が少なかったが、それでも今回も旅立ちの最初の街であったため、思い入れがあった。
決意を胸に街に向けて挨拶をすると、進む先に身体を向けて馬を呼び出すことにした。
「さてさて、どんな感じでくるのやら……――ピー!」
ゲームの時はメニューで選ぶとその場にポンと現れるだけだったため、わくわくしながらヤマトが笛を吹くと、ほどなくして馬がどこからともなくやってきた。
「ヒヒーン!」
「おうおう、元気だね。それじゃこれからよろしくお願いします」
ヤマトに駆け寄ってきては元気よく頬ずりをしてくる馬の頭を撫でてから笑顔で挨拶をする。
彼はこの馬をただの乗り物としては考えておらず、旅の相棒としてとらえていた。
「嫌じゃなければ名前をつけてあげたいんだけど……どうかな?」
穏やかに問いかけるヤマトの質問を理解しているのか、馬は一瞬考えたようにじっと彼を見つめ、同意するように鼻を鳴らした。
「それじゃあ……お前の名前はエクリプスだ!」
「ヒヒーン!」
名前を聞いた瞬間、とても気に入ったのか、馬は縦に首を振るとやる気を見せるように大きくいなないた。
「気に入ってくれたみたいだな、よろしくなエクリプス!」
エクリプスの喜びを感じ取ったヤマトも嬉しそうに笑う。
さっそく騎乗し、リーガイアに向けて旅立ったヤマト。この時のエクリプスはまだ、移動用に買った馬としての存在だったが……。
ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18
ユイナ:弓士LV15
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