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第一話
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転移後、城の前でしばらく呆然としているとシステムメッセージが送られてくる。
《グランドクエストクリアおめでとうございます。現在、本来の報酬およびムービーが確認できない状態になっております。ご迷惑をおかけしますが、調査をお待ち下さい》
「おー、なるほど。半年間誰もクリアできなかったからこの不具合が見つけられなかったのか」
パーティメンバーの一人はそのメッセージに納得したようだった。
「ふう、なんか一気に力が抜けたね。どうしようか?」
ヤマトがみんなに確認すると、ユイナを除く四人が首を横に振った。
「今日は疲れたから落ちるよ」
「私も」
「同じく」
「……(右に同じ)」
目的を達成したことでそれを止める理由もないため、ヤマトとユイナは彼らのことを見送る。
「――さて、どうしようか?」
「そうだなぁ、なんかすぐに落ちるのももったいない気がするかな」
ヤマトの問いに少し寂しそうに笑ったユイナが答える。それを聞いてヤマトも優しく微笑んだ。
「やっぱり? ……俺も同じだよ、なんかこの十五年間プレイしてきた集大成があの戦いだったんだなあとか思うとなんか、すぐ落ちるのは名残惜しいよね」
噛みしめるようにしみじみと語るヤマトの言葉にユイナもぱぁっと笑顔になっていた。同じ気持ちを共有できていることが嬉しいと思ったからだ。
「あ、そうだ! あそこに行こうよ!」
弾むような声音でユイナが言うあそこ――というのは二人が気に入っているいつもの場所だった。
「いいね! 行こうか!」
二人は最寄りのエリアにワープの魔法を使って移動し、そこから小型のドラゴンに乗って移動をしていく。
彼らの目的の場所は、はるか上空にあった。
遮るものがない浮島は心地よい風に包まれた穏やかで静かな雰囲気の場所だ。ヤマトとユイナはなにかあるとここにきて遅くまで語り合った思い出深い場所でもある。
二人が目的の空に浮かぶ島に到着すると同時に、全ユーザーに緊急大規模メンテナンスの予告が公布される。
《地球時間で今から二時間後に、大規模メンテナンスを行ないますので、ユーザーの皆さまにおきましては時間までにログアウトして頂きますよう、お願い致します》
「結構デカイ不具合みたいだね」
「満を持してのラスボス投入、それで初攻略と同時に不具合発覚だもんねぇ……それにしても……最後の時のヤマトすっごくかっこよかったよ!」
きゃーっと騒ぐユイナの言う最後とは神話の剣を発動した時のことをさしている。
「あー、あれねえ。効果は知ってたけど初めて使ったから、うまく発動してよかったよ……おかげで剣と盾はこんなだけどね」
苦笑交じりにヤマトがその二つを取り出してユイナに見せる。
「うわあ、すごいねえ」
剣の刀身はボロボロになっており、盾も穴があいてどちらも本来の役割を果たせなくなっている。名称も【壊れた神話の剣】、【壊れた神話の盾】になっていた。
「これじゃもう使えないよなあ」
ヤマトはボロボロの二つを見て、残念そうにつぶやく。
「手にいれるの大変だったもんね……でも、記念にとっておこっか。家に飾ってもいいし、ね!」
二人がゲーム内で購入した家に勝利の証として飾るのも悪くない、励ますように笑って言うユイナの意見にヤマトも同意して頷いていた。
オレンジ色に世界が染まっていく中、二人は島から夕陽が沈んでいくのを眺めながら、今日の戦いのことについて話していた。
「メンテってもう少しで始まるんだっけ?」
なんとなくの時間は覚えていたが、正確な開始時間を把握していなかったため、ヤマトがユイナに尋ねる。
「うーん、今が四時五十九分だから……あと一分ないね。どうしよう、落ちておく?」
ユイナは自分の視界の端に表示されている現実での時間を確認しながら答えた。
「もうすぐだからいいんじゃないかな。いつもみたいに、メンテ開始と同時に強制ログアウトで」
こんな経験も今回だけではないため、ヤマトは最後までユイナと二人でいることを選択する。少しの時間でも長く一緒にいたいというのが二人の共通の考えだった。
「ヤマト、そろそろメンテ開始の時間だよ! ごーぉ、よんっ、さん、にーっ、いち!」
楽しそうな声音でユイナがカウントダウンをしはじめ、それがゼロになってたが、なぜか二人になんの変化も起きなかった。
「――あれ? おかしいな?」
ヤマトも時間を確認してみるが、そちらも同様にメンテナンスの時刻を過ぎていた。
このゲームのメンテ開始時間は厳しく管理されており、これほどまでに時間がずれることはなかった。時間になれば強制ログアウトが待っているはずだった。
「あっ、タイマーが消えた……」
戸惑っている内にじっと見ていたはずの地球時間を表示しているタイマーが突如、二人の視界から消えてしまった。
「一体何が……」
嫌な予感がする気持ちを落ち着かせようと、二人はメニュー画面を確認していく。
「えっと、アイテムは……あれ!? アイテムが何もないよ!」
「ほんとだ……えっ? レベルも一に!?」
二人はメニュー画面から、それぞれの能力やアイテムを確認していくが、次々にそれらがなくなっていくのを眺めているしかなかった。
能力も数字がカウントダウンされるようにどんどん目減りしていくのがわかる。
訳の分からない現状にメニュー画面を閉じて、ヤマトはユイナを、ユイナはヤマトを見ようとしたが、互いに起きている変化に気づいてそれどころではなくなってしまう。
何もしていないのに戸惑う二人の身体に転移魔法のエフェクトが発動していたのだ。
「ユイナ!」
「ヤマト! なにこれ、私何もしてないのに!」
二人は互いの名前を呼び合って手を伸ばすが、転移魔法の発動は止まらずに指先が振れる直前、二人はこの場から飛ばされてしまった。
二人が飛ばされた先は、それぞれが最初に選んだ職業を司る街。
片手剣を選んだヤマトは、勇猛の街デザルガへ。
弓を選んでいたユイナは、森の街ルフィナへ。
「――あの二人が……」
ヤマトとユイナしかいなかったはずのシリアルリザードの巣に、第三の人影があった。フードをかぶっており、表情はよく見えないが、声から恐らくは男性だろうということはわかった。
「……あの、お方の……」
何やら呟いていたが、二人の姿は既にそこにはなく、男の声が静かに響くだけだった。
ヤマト:剣士LV1
ユイナ:弓士LV1
壊れた神話の剣
神話時代に作られた剣だが、
今は見る影もない
壊れた神話の盾
神話時代に作られた盾だが、
今は見る影もない
《グランドクエストクリアおめでとうございます。現在、本来の報酬およびムービーが確認できない状態になっております。ご迷惑をおかけしますが、調査をお待ち下さい》
「おー、なるほど。半年間誰もクリアできなかったからこの不具合が見つけられなかったのか」
パーティメンバーの一人はそのメッセージに納得したようだった。
「ふう、なんか一気に力が抜けたね。どうしようか?」
ヤマトがみんなに確認すると、ユイナを除く四人が首を横に振った。
「今日は疲れたから落ちるよ」
「私も」
「同じく」
「……(右に同じ)」
目的を達成したことでそれを止める理由もないため、ヤマトとユイナは彼らのことを見送る。
「――さて、どうしようか?」
「そうだなぁ、なんかすぐに落ちるのももったいない気がするかな」
ヤマトの問いに少し寂しそうに笑ったユイナが答える。それを聞いてヤマトも優しく微笑んだ。
「やっぱり? ……俺も同じだよ、なんかこの十五年間プレイしてきた集大成があの戦いだったんだなあとか思うとなんか、すぐ落ちるのは名残惜しいよね」
噛みしめるようにしみじみと語るヤマトの言葉にユイナもぱぁっと笑顔になっていた。同じ気持ちを共有できていることが嬉しいと思ったからだ。
「あ、そうだ! あそこに行こうよ!」
弾むような声音でユイナが言うあそこ――というのは二人が気に入っているいつもの場所だった。
「いいね! 行こうか!」
二人は最寄りのエリアにワープの魔法を使って移動し、そこから小型のドラゴンに乗って移動をしていく。
彼らの目的の場所は、はるか上空にあった。
遮るものがない浮島は心地よい風に包まれた穏やかで静かな雰囲気の場所だ。ヤマトとユイナはなにかあるとここにきて遅くまで語り合った思い出深い場所でもある。
二人が目的の空に浮かぶ島に到着すると同時に、全ユーザーに緊急大規模メンテナンスの予告が公布される。
《地球時間で今から二時間後に、大規模メンテナンスを行ないますので、ユーザーの皆さまにおきましては時間までにログアウトして頂きますよう、お願い致します》
「結構デカイ不具合みたいだね」
「満を持してのラスボス投入、それで初攻略と同時に不具合発覚だもんねぇ……それにしても……最後の時のヤマトすっごくかっこよかったよ!」
きゃーっと騒ぐユイナの言う最後とは神話の剣を発動した時のことをさしている。
「あー、あれねえ。効果は知ってたけど初めて使ったから、うまく発動してよかったよ……おかげで剣と盾はこんなだけどね」
苦笑交じりにヤマトがその二つを取り出してユイナに見せる。
「うわあ、すごいねえ」
剣の刀身はボロボロになっており、盾も穴があいてどちらも本来の役割を果たせなくなっている。名称も【壊れた神話の剣】、【壊れた神話の盾】になっていた。
「これじゃもう使えないよなあ」
ヤマトはボロボロの二つを見て、残念そうにつぶやく。
「手にいれるの大変だったもんね……でも、記念にとっておこっか。家に飾ってもいいし、ね!」
二人がゲーム内で購入した家に勝利の証として飾るのも悪くない、励ますように笑って言うユイナの意見にヤマトも同意して頷いていた。
オレンジ色に世界が染まっていく中、二人は島から夕陽が沈んでいくのを眺めながら、今日の戦いのことについて話していた。
「メンテってもう少しで始まるんだっけ?」
なんとなくの時間は覚えていたが、正確な開始時間を把握していなかったため、ヤマトがユイナに尋ねる。
「うーん、今が四時五十九分だから……あと一分ないね。どうしよう、落ちておく?」
ユイナは自分の視界の端に表示されている現実での時間を確認しながら答えた。
「もうすぐだからいいんじゃないかな。いつもみたいに、メンテ開始と同時に強制ログアウトで」
こんな経験も今回だけではないため、ヤマトは最後までユイナと二人でいることを選択する。少しの時間でも長く一緒にいたいというのが二人の共通の考えだった。
「ヤマト、そろそろメンテ開始の時間だよ! ごーぉ、よんっ、さん、にーっ、いち!」
楽しそうな声音でユイナがカウントダウンをしはじめ、それがゼロになってたが、なぜか二人になんの変化も起きなかった。
「――あれ? おかしいな?」
ヤマトも時間を確認してみるが、そちらも同様にメンテナンスの時刻を過ぎていた。
このゲームのメンテ開始時間は厳しく管理されており、これほどまでに時間がずれることはなかった。時間になれば強制ログアウトが待っているはずだった。
「あっ、タイマーが消えた……」
戸惑っている内にじっと見ていたはずの地球時間を表示しているタイマーが突如、二人の視界から消えてしまった。
「一体何が……」
嫌な予感がする気持ちを落ち着かせようと、二人はメニュー画面を確認していく。
「えっと、アイテムは……あれ!? アイテムが何もないよ!」
「ほんとだ……えっ? レベルも一に!?」
二人はメニュー画面から、それぞれの能力やアイテムを確認していくが、次々にそれらがなくなっていくのを眺めているしかなかった。
能力も数字がカウントダウンされるようにどんどん目減りしていくのがわかる。
訳の分からない現状にメニュー画面を閉じて、ヤマトはユイナを、ユイナはヤマトを見ようとしたが、互いに起きている変化に気づいてそれどころではなくなってしまう。
何もしていないのに戸惑う二人の身体に転移魔法のエフェクトが発動していたのだ。
「ユイナ!」
「ヤマト! なにこれ、私何もしてないのに!」
二人は互いの名前を呼び合って手を伸ばすが、転移魔法の発動は止まらずに指先が振れる直前、二人はこの場から飛ばされてしまった。
二人が飛ばされた先は、それぞれが最初に選んだ職業を司る街。
片手剣を選んだヤマトは、勇猛の街デザルガへ。
弓を選んでいたユイナは、森の街ルフィナへ。
「――あの二人が……」
ヤマトとユイナしかいなかったはずのシリアルリザードの巣に、第三の人影があった。フードをかぶっており、表情はよく見えないが、声から恐らくは男性だろうということはわかった。
「……あの、お方の……」
何やら呟いていたが、二人の姿は既にそこにはなく、男の声が静かに響くだけだった。
ヤマト:剣士LV1
ユイナ:弓士LV1
壊れた神話の剣
神話時代に作られた剣だが、
今は見る影もない
壊れた神話の盾
神話時代に作られた盾だが、
今は見る影もない
応援ありがとうございます!
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