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第五十九話 復興に向けて
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戦いが終わってからは時間があっという間に過ぎて行く。
サングラム王国の人々は魔法王国の占領下では自由な活動は許されず、非常に窮屈な生活を送っていたため、国を取り戻してくれたガレオスたち隊長格が戦犯ではないことはすぐに受け入れられた。元より武源騎士団がクーデターを起こしたと言われたことをずっとどこか疑いの目で見ていた者が多かったこともあるだろう。
ガレオスは最初は隊長として内政組に加わっていたが、向いていないことを再認識したイワオによって壊れた城の復興の現場組に回されていた。
「えっほえっほ」
数人で運ばなければならないような資材も軽々と何個も同時に持てる彼は資材の運搬を主に担当していた。あまりの働きぶりに、現場の職人たちも負けてなるものかと気合を入れて仕事をしている。強面な見た目も現場の職人たちはあっさりと受け入れて、今ではずっと共に働いて来た同僚のような扱いを受けている。
「ガレオス隊長! 今後の流れについて団長からお話があるそうです」
そこへフランがガレオスのことを呼びに来た。
内政向きな彼女は本来ガレオスが担当すべき部分も全て引き受け、忙しく働いている。だがその表情は辛さなど感じさせないもので、彼女も国を取り戻せた充足感に満ちているのだろう。
「おう、みんなすまんな。ちょっと行ってくるぞ」
「いってらっしゃい!!」
ガレオスが抜けることは人手として考えると痛いものだったが、職人たちは快く送り出してくれた。
「お前ら、ガレオス隊長が戻ってくるまでに仕事を終わらせるぞ!」
「おお!!」
まだまだ作業は残っていたが、作業の終わりをガレオスに見せたいと職人たちは奮起して今まで以上に気合をいれてとりかかっていく。
「隊長はああいう方たちにはすぐに受け入れられますね」
元々職にだったと言われても信じてしまいそうなくらいにガレオスは打ち解けていた。強面の見た目に慣れてしまえば、あとはただ真っすぐな裏表のないガレオスの男前な人の良さに皆惹きこまれてしまうのだ。
少し離れたところでいきいきと働く彼らを見る二人の眼差しは優しいものだった。
「あぁ、いいやつらだな。それで、集合場所は広間でいいのか?」
思い出したかのようなガレオスの問いにフランは頷き、二人は王城の広間に向かって行く。
彼らが広間につくと、既に他の隊長は揃っていた。
「うむ、これで全員揃ったようじゃな」
この場を仕切っているのは、第五隊長と現騎士団長を兼務しているイワオだった。
城を取り戻して以降、各隊の副長や隊員を探しだし、かなりの人数が再度城に集まることができていた。
「第一と第四の隊長はいませんけどね……」
ぼそりと悲しげにそう言ったのは、第一隊の副長だった。
タモツはガレオスによって討たれ、その後は不明。第四隊長、デイビッドもどこにいるのか消息不明だ。
「そのへんはおいおい考えていくとしよう。それよりも、お主らに集まってもらったのは今後のスケジュールが決まったんじゃ。城の修復も順調に進んでおる。じゃから、週明けに姫に演説を行ってもらおうと思う」
現在、姫は教育係によって様々な勉強をしてもらっている。これは彼女も納得済のことであり、順調に彼女は王族として育っていた。
修道院にいた頃に学んだことや旗印として自分の意思を持つ大切さが彼女のやる気を更に引き出し、皆が彼女を認めていた。
「ついに、ね」
それを聞いたリョウカはどこか感慨深いものがあった。
嬉しくもあるが二人の間に確実に隔たれた距離が作られることへの寂しさも同時に感じていた。ずっと護衛として側にいたが、彼女が王族としての務めを果たすとなれば、彼女との時間が減る。立派に成長してくれたリーナを間近で見て来たからこそ、その思いもひとしおだろう。
「それでじゃ、お主らには当日警備にあたってもらいたい。ガレオス、お主はリーナ姫の直接の警護を頼む。この中で最も腕がたつのはお主じゃからな」
「わかった。何があってもリーナを守ると約束しよう」
ガレオスは即答するが、最も腕がたつと言われたことは気にしていない様子だった。むしろ、それを気にしていたのはこの場にいる何人かの副長だった。
「あの、お言葉ですが」
そして、それを実際に口にするものがいた。それは第六隊副長の副長、ドレイク=ミカミだった。凛々しい顔立ちは真面目さを感じさせるが、それは同時に彼が頑固であることも象徴していた。
「私は、ガレオス隊長にうちの隊長であるショウが劣ると思えません」
彼は自分の実力に自信があり、その上にあるショウのことを信奉にも近い感情で見ていた。当然ショウが選ばれるだろうと確信していただけに、なぜガレオスが選ばれたのか心から疑問に思ったようだ。
「おい、ミカミ!」
たしなめるようにショウが声を荒げて注意するが、彼は答えをもらうまではこの場をひかないという覚悟でイワオを睨み付けていた。
「ふむ、お主にはガレオスが強そうにはみえんとな?」
「えぇ、他隊の隊長にこのようなことを言うのは心苦しいのですが、元々人数の少ない隊で隊長と言われましても」
イワオはその視線を受けても動じることはない。静かにイワオに問われたミカミは実際にガレオスの力を見たことがないため、このようなことが言えた。彼にとってガレオスはただ図体が大きく、強面で、しかもそんなガレオスの隊は他の隊からの寄せ集めだという認識しかなかったのだ。
「うーむ、俺は別にショウが護衛でも構わないぞ? 別に誰が強くても、大事なのはリーナの身が守られることだからな」
ガレオスに対して不満のあるミカミ以外は、この言葉でガレオスの器の大きさを感じており、ミカミのそれは認めたくないというわがままを口にしているという風にみられている。
「ショウ、どうするかの?」
そして、決断はショウに任されることになる。
「えっ、僕が決めるの? だったら嫌だよ、ガレオスさんに任せます」
「ならば、最初に決めたとおりガレオスに頼もう」
イワオに突然話を振られたショウは困惑する。だが彼が迷うことなく即答したことにミカミは驚き、何か言いたげに口を開こうとするがこれ以上の横入りは認めないとイワオが話を次に進めていく。
「ミカミ、誰が強いかなんてどうでもいいことだ。それよりも、姫の演説が成功するよう全力をつくすぞ」
イワオが話を進めていく中、ショウは不満げにしているミカミに対して彼だけに聞こえるように小声でそう言い聞かせた。当人に言われてしまったため、渋々ながらミカミは頷くしかなかったが、俯き加減のその顔は険しいものになっていた。
「……面倒なことにならなければよろしいですが」
その一部始終を見ていたフランは誰にも聞こえない声でぼそりと呟いた。
それぞれへの指示を終えると、会議が終わる。あの後は会議は特にもめることもなかったため、すんなりと進んで行き、解散の合図とともに各部隊のメンバーはその場をあとにしていた。
しかし、ガレオスはこの場に残っていた。会議の終わりにイワオがガレオスに残るよう指示していたからだ。
「ガレオスすまんな。お主には話しておかんとならんでのう」
「一体なんだっていうんだ?」
他の隊長がいた時には話すことができないらしく、イワオは神妙な顔をしていた。なにか思い悩むことがあるようだった。
「お主は最近の騎士団をどう思う?」
「なんともまあ、ざっくりとした質問だな。大体みんな帰って来たことだし、悪くないんじゃないか? まあ、全員が全員今の状況に適応しているとはいいがたいが……」
ガレオスも感じるところがあるらしく、すっきりとしない物言いになる。先ほどのミカミの反応を見たあとだからこそ、普段はあまり気にしていなかったことが考えさせられた。
「そうじゃのう、じゃからこそお主にリーナ姫の警護を依頼したんじゃ。お主なら何かに左右されることはないじゃろうからな」
ガレオス同様、イワオも何か感じるものがある様子だった。だからこそこれがいい機会だとイワオは思っていた。
サングラム王国の人々は魔法王国の占領下では自由な活動は許されず、非常に窮屈な生活を送っていたため、国を取り戻してくれたガレオスたち隊長格が戦犯ではないことはすぐに受け入れられた。元より武源騎士団がクーデターを起こしたと言われたことをずっとどこか疑いの目で見ていた者が多かったこともあるだろう。
ガレオスは最初は隊長として内政組に加わっていたが、向いていないことを再認識したイワオによって壊れた城の復興の現場組に回されていた。
「えっほえっほ」
数人で運ばなければならないような資材も軽々と何個も同時に持てる彼は資材の運搬を主に担当していた。あまりの働きぶりに、現場の職人たちも負けてなるものかと気合を入れて仕事をしている。強面な見た目も現場の職人たちはあっさりと受け入れて、今ではずっと共に働いて来た同僚のような扱いを受けている。
「ガレオス隊長! 今後の流れについて団長からお話があるそうです」
そこへフランがガレオスのことを呼びに来た。
内政向きな彼女は本来ガレオスが担当すべき部分も全て引き受け、忙しく働いている。だがその表情は辛さなど感じさせないもので、彼女も国を取り戻せた充足感に満ちているのだろう。
「おう、みんなすまんな。ちょっと行ってくるぞ」
「いってらっしゃい!!」
ガレオスが抜けることは人手として考えると痛いものだったが、職人たちは快く送り出してくれた。
「お前ら、ガレオス隊長が戻ってくるまでに仕事を終わらせるぞ!」
「おお!!」
まだまだ作業は残っていたが、作業の終わりをガレオスに見せたいと職人たちは奮起して今まで以上に気合をいれてとりかかっていく。
「隊長はああいう方たちにはすぐに受け入れられますね」
元々職にだったと言われても信じてしまいそうなくらいにガレオスは打ち解けていた。強面の見た目に慣れてしまえば、あとはただ真っすぐな裏表のないガレオスの男前な人の良さに皆惹きこまれてしまうのだ。
少し離れたところでいきいきと働く彼らを見る二人の眼差しは優しいものだった。
「あぁ、いいやつらだな。それで、集合場所は広間でいいのか?」
思い出したかのようなガレオスの問いにフランは頷き、二人は王城の広間に向かって行く。
彼らが広間につくと、既に他の隊長は揃っていた。
「うむ、これで全員揃ったようじゃな」
この場を仕切っているのは、第五隊長と現騎士団長を兼務しているイワオだった。
城を取り戻して以降、各隊の副長や隊員を探しだし、かなりの人数が再度城に集まることができていた。
「第一と第四の隊長はいませんけどね……」
ぼそりと悲しげにそう言ったのは、第一隊の副長だった。
タモツはガレオスによって討たれ、その後は不明。第四隊長、デイビッドもどこにいるのか消息不明だ。
「そのへんはおいおい考えていくとしよう。それよりも、お主らに集まってもらったのは今後のスケジュールが決まったんじゃ。城の修復も順調に進んでおる。じゃから、週明けに姫に演説を行ってもらおうと思う」
現在、姫は教育係によって様々な勉強をしてもらっている。これは彼女も納得済のことであり、順調に彼女は王族として育っていた。
修道院にいた頃に学んだことや旗印として自分の意思を持つ大切さが彼女のやる気を更に引き出し、皆が彼女を認めていた。
「ついに、ね」
それを聞いたリョウカはどこか感慨深いものがあった。
嬉しくもあるが二人の間に確実に隔たれた距離が作られることへの寂しさも同時に感じていた。ずっと護衛として側にいたが、彼女が王族としての務めを果たすとなれば、彼女との時間が減る。立派に成長してくれたリーナを間近で見て来たからこそ、その思いもひとしおだろう。
「それでじゃ、お主らには当日警備にあたってもらいたい。ガレオス、お主はリーナ姫の直接の警護を頼む。この中で最も腕がたつのはお主じゃからな」
「わかった。何があってもリーナを守ると約束しよう」
ガレオスは即答するが、最も腕がたつと言われたことは気にしていない様子だった。むしろ、それを気にしていたのはこの場にいる何人かの副長だった。
「あの、お言葉ですが」
そして、それを実際に口にするものがいた。それは第六隊副長の副長、ドレイク=ミカミだった。凛々しい顔立ちは真面目さを感じさせるが、それは同時に彼が頑固であることも象徴していた。
「私は、ガレオス隊長にうちの隊長であるショウが劣ると思えません」
彼は自分の実力に自信があり、その上にあるショウのことを信奉にも近い感情で見ていた。当然ショウが選ばれるだろうと確信していただけに、なぜガレオスが選ばれたのか心から疑問に思ったようだ。
「おい、ミカミ!」
たしなめるようにショウが声を荒げて注意するが、彼は答えをもらうまではこの場をひかないという覚悟でイワオを睨み付けていた。
「ふむ、お主にはガレオスが強そうにはみえんとな?」
「えぇ、他隊の隊長にこのようなことを言うのは心苦しいのですが、元々人数の少ない隊で隊長と言われましても」
イワオはその視線を受けても動じることはない。静かにイワオに問われたミカミは実際にガレオスの力を見たことがないため、このようなことが言えた。彼にとってガレオスはただ図体が大きく、強面で、しかもそんなガレオスの隊は他の隊からの寄せ集めだという認識しかなかったのだ。
「うーむ、俺は別にショウが護衛でも構わないぞ? 別に誰が強くても、大事なのはリーナの身が守られることだからな」
ガレオスに対して不満のあるミカミ以外は、この言葉でガレオスの器の大きさを感じており、ミカミのそれは認めたくないというわがままを口にしているという風にみられている。
「ショウ、どうするかの?」
そして、決断はショウに任されることになる。
「えっ、僕が決めるの? だったら嫌だよ、ガレオスさんに任せます」
「ならば、最初に決めたとおりガレオスに頼もう」
イワオに突然話を振られたショウは困惑する。だが彼が迷うことなく即答したことにミカミは驚き、何か言いたげに口を開こうとするがこれ以上の横入りは認めないとイワオが話を次に進めていく。
「ミカミ、誰が強いかなんてどうでもいいことだ。それよりも、姫の演説が成功するよう全力をつくすぞ」
イワオが話を進めていく中、ショウは不満げにしているミカミに対して彼だけに聞こえるように小声でそう言い聞かせた。当人に言われてしまったため、渋々ながらミカミは頷くしかなかったが、俯き加減のその顔は険しいものになっていた。
「……面倒なことにならなければよろしいですが」
その一部始終を見ていたフランは誰にも聞こえない声でぼそりと呟いた。
それぞれへの指示を終えると、会議が終わる。あの後は会議は特にもめることもなかったため、すんなりと進んで行き、解散の合図とともに各部隊のメンバーはその場をあとにしていた。
しかし、ガレオスはこの場に残っていた。会議の終わりにイワオがガレオスに残るよう指示していたからだ。
「ガレオスすまんな。お主には話しておかんとならんでのう」
「一体なんだっていうんだ?」
他の隊長がいた時には話すことができないらしく、イワオは神妙な顔をしていた。なにか思い悩むことがあるようだった。
「お主は最近の騎士団をどう思う?」
「なんともまあ、ざっくりとした質問だな。大体みんな帰って来たことだし、悪くないんじゃないか? まあ、全員が全員今の状況に適応しているとはいいがたいが……」
ガレオスも感じるところがあるらしく、すっきりとしない物言いになる。先ほどのミカミの反応を見たあとだからこそ、普段はあまり気にしていなかったことが考えさせられた。
「そうじゃのう、じゃからこそお主にリーナ姫の警護を依頼したんじゃ。お主なら何かに左右されることはないじゃろうからな」
ガレオス同様、イワオも何か感じるものがある様子だった。だからこそこれがいい機会だとイワオは思っていた。
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