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第二十話 いざ、職人の街へ

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 武器屋をあとにしたガレオスの背中には先ほど譲ってもらった大剣が背負われていた。
「よかったですね、いい武器が見つかって」
 上機嫌な様子のガレオスにフランが声をかけた。
「うむ、これならかなり使いやすい。あっちはそう簡単にどこでも使えるわけではないから普通の武器でなんとかしないとだからな」
 時折彼は自然と手が鞘に伸びており、そうやって武器の存在を確かめていた。

「ですね。目的のためにはまだ正体がばれるわけには……」
 彼女の表情は険しいものになっていた。現状、他の仲間の情報は少なく、かつての仲間探しの旅もまだ始まったばかり。ここでガレオスの正体が大っぴらになってその旅ができなくなれば、本拠地を取り戻すという目的がさらに遠のいてしまうからだ。
「なんとか仲間を集められればいいんだがな……」
 ガレオスの表情も同様であり、道行く者はその顔と巨体を見てその迫力に驚いて距離をとっていた。

「隊長! 顔、顔、すごいことになってます!」
 それに気づいた彼女が慌てて指摘する。先ほどまで暗くなっていたことを彼女に忘れさせるくらい、ガレオスの表情は周囲に影響を及ぼしていた。
「む、すまんな」
 ガレオスは自分の顔を乱暴にマッサージしてほぐしていく。その様は顔がぐにゅぐにゅと混ぜられてとても異様に見えたため、遠巻きに見ていた住民たちは更にガレオスから距離をとることとなる。
「むむ、これも駄目なのか。まあ特に困るわけでもないからいいか」
 周囲の反応を気にすることをやめたガレオスはそのまま歩を進めていく。

「はあ、そういうところは隊長らしいからいいんですけどね。表情も元に戻ったみたいですし……ところで隊長、どんどん行かないで下さい! 他のものを買いにいきますよ、こっちです」
 フランが指差した方向はガレオスが進む方向とは反対の方向だった。
「おう、悪いな」
 次に二人が寄ったのは日用品の店だった。大きな街であるため、品ぞろえがよく必要なものを買うにはうってつけだった。


「さて、一通り必要な物は買えたのでそろそろ出発しましょうか」
 買い物を終えて店を出た二人のことを店員が外に出てまで見送っていたが、それは二人が購入した金額が何日分もの売り上げだったからに違いなかった。しかしそれを気にすることなく、二人は宿に併設された馬車置き場に向かっていた。
 二人が買った大量の荷物はフランのカバンの中にすべて収納されているため、一見すれば身軽に見える。
 フラン自身はあまりお金を持っておらず、買い物で支払った金はガレオスのものだったが、その理由が彼女のバッグにあった。これは見た目以上に収納量が拡張されている魔道具の拡張カバンだった。

「そのカバン便利だよな。俺も買うか」
 ガレオスの提案にフランは首を横に振る。
「これはそれなりに高いものですから無理に買う必要はないかと。隊長の荷物なら私がこれに入れて運びますので」
 彼女は自分の仕事をとらないで下さいとでも言いたそうだった。
「それもそうだな」
 うんうんと頷いたガレオスもそれ以上は口にすることはなかった。


 馬車を回収して街の入り口まで行くとそこにはカタリナとミナの姿があった。ガレオスたちの姿を見つけるとミナはぱあっと花が咲いたような笑顔を見せた。
「あ、フランさんと、えっと……ゴールさん」
「おねーさんとおにさん!」
 ニッコリ笑顔のミナのガレオスに対する呼び方にカタリナは頬をひくつかせていた。
「おう、鬼さんだぞ!」
 しかもガレオスはミナが意図している通りに受け取っており、それがカタリナの額に汗を浮かべさせることとなる。

「こちらをお使い下さい」
 カタリナの心境を察したフランがハンカチをそっと差し出した。
「えっ、あっ……すいません」
 彼女は二つの意味で謝っている。それは自分の娘が失礼をしてしまったこと、そして親切にハンカチを貸してくれたことだったが、フランはそれをきちんと理解していた。
「いえいえ、お気になさらないで下さい」
 それに対するフランの返事も二つの意味を持っていた。

「隊長はそれくらいのこと気にしませんので、それに子供の言う事ですから……むしろ怖がらずにいてくれることを喜んでいると思いますよ」
 カタリナはそう言われてガレオスに視線を移した。先ほどは自分の娘が失礼なことをしていると焦る気持ちばかりに気を取られていたが、落ち着いてガレオスとミナを見ると二人は楽しそうに笑いあっている。
「はあ、よかったです。とても失礼なことをしてしまったかと」
 嘆息するカタリナにフランは首を横に振った。

「いいんですよ。あれくらいのことは慣れている、というよりミナさんの反応はむしろ良いものですから……それよりもどうなされたんですか? わざわざ見送りに来てくれた、ということでしょうか?」
 きょとんとした顔でフランは人差し指を顎に当てて質問する。
「はい、いえ、見送りに来たのはそうなんですが、夫から手紙を預かってきました」
 カタリナはそういうと一通の手紙を差し出した。

「手紙、ですか」
 わざわざ遠回りなことをすることに何かあるのだろうとフランは考えていた。
「えぇ、そうです。色々と伝えたかったことが書いてあるそうなので、道中にお読み下さい」
 口で伝えるには憚られる。ここでは読まない欲しい。カタリナは暗にそう語っていた。
「ふふっ、そうさせてもらいますね」
「はい、お願いします」
 二人は笑顔だったが、どこか緊張感を持っていた。

「おかーさん怖いー」
 そんな緊張感のあるやりとりもミナにかかればこの一言で断じられてしまう。二人の間に漂っていた固い空気は彼女の言葉で霧散した。
「そう言ってやるな。大人には色々あるんだ」
 いつの間にそうしていたのか、ガレオスは肩車からゆっくりとミナをおろして話す。
「はーい」
 その素直な様子にカタリナは目を見開いて驚く。普段自分が言ってもなかなか聞いてもらえないのに、ガレオスが言うとこうまで違うものなのか、と。

「さて、話は終わったようだな。俺たちはそろそろ出発しようと思うが構わないか?」
「あ、はい、大丈夫です」
 ガレオスの質問にフランが頷いて返す。
「それじゃ、二人とも世話になったな。アダムにもよろしく言っておいてくれ」
 ガレオスは御者台に乗りこみ、二人に手を振った。ぺこりと二人に一礼をしたのち、フランも続いて乗り込んでいく。

「お二人ともお気をつけて」
「また来てね」
 出発しようとする二人に対して、カタリナとミナが声をかけ手を振る。
「あぁ、それまでかあちゃんの言う事を聞いて良い子にしているんだぞ」
「うん!」
 ガレオスはその返事に満足すると、手綱を握り出発する。北の職人の街へと向けて……。
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