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第十九話 大剣入手!

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 店の奥に入るとそこには工房があった。いろんな工具がある中で、奥から金属を叩く気持ちのいい音が響く。少し手狭なため、大柄なガレオスは少し身をかがめるようにして歩かねばならなかった。
「おーい、かーちゃん!」
「はいよー!」
 店主の呼びかけに応えたのは、店主の妻だった。
 現れた彼女を見てガレオスとフランは一瞬驚いた。彼女の身長が思ったより、低かったためである。
「もしかして、ドワーフか?」

 店主の妻は作業中だったらしく、ゴーグルを外してガレオスたちに振り向いた。
「ん? お客さんかい、そうだよあたしゃドワーフさ!」
 ドンッと胸を叩いて彼女は誇らしげに言った。
「初めまして、私たちは武器を探しているんですが、そちらの方に連れてこられまして……」
 なんと説明したものか悩みながらもフランが状況を話していく。

「かーちゃん、こいつ見てくれよこいつ!」
 店主はそう言ってガレオスのことを指差した。
「ん? お、おぉ! あんたでかいねぇ。やけにデカイ壁があると思ったけど人だったとは……」
 彼女の身長だと大きく体をそらして見上げなければガレオスの顔を見ることができなかった。
「おう、でかくてすまんな」
 ガレオスは自分の後頭部を撫でて、彼女に謝罪した。

「そんなことよりかーちゃん、こいつならアレ使いこなせるんじゃねーかな?」
「アレ? あー、あれかあ。確かに、いけるかもしれない」
 二人だけで盛り上がっているため、ガレオスとフランはいささか置いてけぼり感を感じる。
「あんたたち、武器を探してるんだったよね。だったらついといで!」
 またもや返事を聞かずに店主たちは連れ立って別の部屋へと向かっていった。
「似た者夫婦だな……」
 ガレオスはそう呟きながらも大人しく二人のあとを追いかけることにした。

 次に案内された部屋には様々な武器がところせましと並んでいた。店に並べられているものより雑多な雰囲気だが、置いてある武器はどれも趣向の凝らされたものだった。
「ここは、いわゆる倉庫みたいなもんでな。かーちゃんが作った武器が並べられているんだ……そして、あんたに見せたかったのはこれだ!」
 手前の武器を横にどかした先には一本の剣があった。
「これは……」
「本当に女将さんがこれを作られたのですか?」
 驚きの表情を浮かべながらフランは呼び方から二人の関係性を予想して女将、という呼び方をチョイスする。

 フランの疑問の言葉に女将は嫌な顔せずに再びドンッと胸を叩いた。
「あったりまえだよ! 正真正銘あたしがうった剣だよ!」
 彼女の疑問は当然だった。その剣は女将の身の丈以上のサイズであり、彼女がうったとは思えないサイズだったからだ。
「こいつは良さそうだな。手に取ってもいいか?」
「構わないよ、でもちょっとばかし重いよ、かくごを……ってあんたすごいね!」

 ちょっとばかしと言ったが、この工房で作られた中で最も重いその剣は扱える者がおらず、お蔵入りになっていた。
 しかし、ガレオスはそれを軽々と持ち上げている。まるでガレオスのために作ったかのように彼の手に自然となじんでいた。
「うむ、いい重さだ。これなら強度もあるな、ゴーレムくらいでは折れなさそうだ」
 右手で持ち、左手で持ち、刀身を手で軽く叩いて具合を確認していく。
「かーちゃん……」
「あんた……」
 店主と女将はそんなガレオスの様子に二人して謎の感動に打ち震えていた。

「どうかしたか?」
 一通り確認し終えたガレオスは大剣を見るのをやめて二人に話しかける。
「いやいやいやいや、あんたすごいな! その剣は今まで誰一人として使いこなせなかったんだぞ!」
 店主はガレオスの背中をバンバン叩く。叩き終わると案の定、赤くなってしまったその手にふーふーと息をかけていた。
「その剣はあたしの自信作でね、これ以上のものはもう二度とうてない! それくらいに思っていたんだけど、使い手のことを考えていなかったもんでお蔵入りになっていたのさ。でもついにそいつを扱える人が現れた……」

 女将は感激に打ち震えて少し涙目になりながらガレオスのことを見ている。店主も女将が喜んでいることを嬉しく思ってか、もらい涙をしていた。
「なんでこの二人は泣いているんだ?」
「えぇっと、恐らくですが隊長がその剣を軽々と持っているからではないでしょうか」
 フランは彼らの反応と言葉から理由を予想してそう返事をする。彼女の言葉に二人はそうだと言わんばかりに何度も頷いていた。
「そ、そうなのか?」
 ガレオスはただ剣を見ていただけだったため、その答えに戸惑っていた。

「あんた気に入った! その大剣、あんたに譲るよ! えっと、あれはどこにいったかしら……」
 女将はそう言うとおもむろに大剣の鞘を探し始める。
「かーちゃん、鞘ならここだよ!」
 店主は女将が何を探していたのか察しており、それをすぐに見つけていた。
「ありがと、さすがあたしが選んだ旦那だよ!」
 仲の良さそうな二人の掛け合いをガレオスとフランは黙って見ていた。

「これがその剣の鞘さ。こんな大きさだし、腰につけるのはちょっと難しいから背中に背負う形がいいと思うよ。あんたが何者でこれから何をしようとしているのか知らないけど、あたしが作った剣を持っていくんだ。半端に負けるんじゃないよ!」
 なぜかいつの間にか女将の期待を背負うことになってしまったガレオスだが、彼女の言葉に笑顔で答える。
「おう! 任せておけ、俺は誰にも負けん!」
「……隊長が言うと慢心に聞こえないから不思議ですね。あと、心配するとしたらその剣が隊長の力に耐えられずに壊れることだと思いますが」
 フランの呟きが聞こえた女将は笑顔を見せる。

「それでいいんだよ。武器なんてものはいつか壊れる。もちろん手入れをしなかったから壊れるなんてのは論外だがね。あんたが言うのはそうじゃないんだろ?」
「もちろんです」
 笑顔でフランは女将の問いに即答した。
「ならいいさ。強敵と戦って壊れる。強烈な攻撃を防いで壊れる。あんたを守ったりあんたの敵を倒すために壊れたのならそれこそ武器冥利に尽きるさ」
 武器を作品として見ておらず、使われるべきものとして見ている女将だからこその言葉だった。

「それで、こいつはいくらになるんだ? 自信作とも言っていたし、金属もいいものを使っている、と思う。安くはないだろう?」
 ガレオスは受け取った鞘に大剣をしまいながら質問する。
 それを聞いた店主と女将は互いに顔を見合わせてから頷いた。
「いいよ、タダで持っていきな」
 そんな女将の気前のいい言葉にフランが思わず声をあげる。
「え、でも……」
「いいんだよ! 言っただろ? 使えるやつがいなくてお蔵入りだったって、武器は使ってこそなんぼだよ。あんたたちなら悪いようには使わないだろうしね」
 そう言ってにかっと歯を見せて笑った女将の顔はこれまでで一番の笑顔だった。
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