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第四話 騎士団からの命令

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「あぁ、俺もそれは気になってたところだ。ゴーレムだが意思を持って街を襲うなんてことは通常ありえない、だがあいつらは意識的に街を襲っているように見えたな」
 そんなゴールの言葉にゼンタスは難しい顔になっていた。
「それだな、どこかに持ち主の魔道士でもいたのかもしれないが……そもそも何の目的でこの街を狙ったのかわからん」
「俺は難しいことはわからんが、騎士団では何か掴んでいないのか?」
 その質問にも先ほどと同様、ぐっと眉を寄せてゼンタスは難しい顔になる。

「何か掴んでたらここに来てないさ……はぁ、お前たちが何か見てないか期待して来たんだけどな」
 がっかりした様子でゼンタスは椅子にもたれかかり、天を見上げた。
「そう言われてもなあ」
 力になれないのがもどかしいのかゴールはそう言って頭を?いた。
「ゴールはそういう細やかなことは向いてないよな。まあ、お前らしいっちゃらしいか、そのへんをお前の仲間がフォローしているから警備隊はいいチームだよ」
「だろ? あいつらすげぇいいやつらなんだ」
 仲間を褒められたことにゴールの顔は綻んでいた。

「それはさておき、どうするんだ?」
 だがすぐにゴールは表情を引き締ると、ゼンタスに尋ねた。
「とりあえず、明日騎士団で近隣の怪しい場所を回ってみるつもりではいる」
 そこまで言うとゼンタスは口を真一文字に結び、なにか思案するように目をつむってしまう。
「どうした?」
 ゴールがそう声をかけるが、彼は反応を示さずに目をつむったままだった。その様子から余程話しづらいことを抱えているんだろう、とゴールは無言で待つことにする。

 しばらく考え込んでいる様子だったため、ゴールは二人分の茶を用意して自分の分をすすっている。
「すまん、時間をとらせたな」
 ゴールが一杯飲み終わろうというところで、ゼンタスはおもむろに口を開いた。
「いや、構わん。とりあえずお茶でも飲め、少し冷めたかもしれんがそれくらいのほうが飲みやすいだろ」
「ありがたい」
 礼を言うと、お茶を一気に飲み干し覚悟を決めて話し始める。

「実はだな、今日俺がここに来たのは上の命令をお前に伝えるためなんだ」
 そう言った彼の表情はやや悔しさを含んでいた。
「おう」
 そんなことだろうと思っていたゴールの表情にはなんの疑問も浮かんでいない。
「……明日からの犯人の捜索。お前たち警備隊からも人を出すようにとのことだ。そして、ゴール……お前の参加は絶対だそうだ」
 そこまで言うと、彼は頭をさげた。
「すまん、色々とこちらでも言ったんだが覆らなかった」
「気にするな、お前は指示されただけだろう? だったら、俺はその任務を遂行したお前の気持ちに応えようじゃないか」
 任せろと言わんばかりにゴールは力強い言葉で大きく頷いた。

「だが、街の警備はあくまで警備隊の仕事だからとそちらには騎士団は出さないということになった……」
 元々彼の性格を知っているゼンタスは彼がそう言うであろうとわかっていたが、一番言いづらかったことを最後に付け足した。
「ふむ……だったら俺だけが行こう。街のほうには副長以下全員を置いていけば大丈夫だろう」
 ゴールの提案に騎士隊長は目を見開いた。
「ん? 何を驚いているんだ? 警備隊から人員を割けという指示で、俺の参加が必須なら俺だけが出れば問題はないだろ?」 
 その反応にゴールは何がおかしいのかわからず、首をかしげながら自分の考えを口にした。

「は、ははは。お前はやっぱり面白いな。俺はそんなこと思いつきもしなかったぞ!」
 憂いが晴れたように大きな声で笑いながら騎士隊長はゴールの背中をバシバシと叩いた。
「いってー!!」
 だがその声をあげたのは、叩いた騎士隊長のほうだった。
「……お前は何をやっているんだ。それで、明日は具体的に俺は何をすればいいんだ?」
「あぁ、それはだな……」
 明日の任務の説明に始まり、そこから徐々に雑談に変わり、それは夜遅くまで続けられた。

 日をまたぐ頃にゼンタスは帰っていったが、ゴールは夜間勤務を請け負っているため眠るわけにはいかず、そのまま詰所で待機していた。
 夜が明ける頃になると、宿舎で寝ていた騎士たちが数人起きてゴールと任務の交代にやってきた。その中にはフランの姿もあったため、ゴールはそのまま今日の任務についての説明をする。
「昨日の夜に、騎士隊長のゼンタスが来てな。今日はあの魔物たちをここに送り込んだやつの捜索をすることになっているそうだ。そこに警備隊からも人を出せとの命令を持ってきた」

 この警備隊も給料が領主より出ている。
 だが基本的には騎士団とは別組織であるため、昨日の現場であったような命令を聞く義務はなかったが、騎士団より立場が弱いため、騎士隊長などの上のものが持ってきた命令には従う義務があった。
「騎士団だけで人員は足りてるのではないでしょうか……でも、命令ということなら仕方ないですね。私が何人か率いて行ってきましょう」
 話を聞いた副長は怪訝な顔をしたあと、ゴールにこれ以上負担をかけまいと自分の参加を名乗り出るが、ゴールは首を横に振った。

「あいつの話だと、俺の参加は決定しているんだそうだ」
 ゴールは自分が参加することをなんとも思っていないようで、大したことではないように言ったが隊員たちはそういかないようだった。
「なんです、それは!!」
 最初に憤りの声をあげたのはフランだったが、他の隊員もそれに続く。
「そんな命令無視しましょう!」
 強行的な意見まで出てきたが、ゴールはそれを手で制した。
「俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、俺は行くぞ。むしろ俺だけが行こうと思っている。街のことはみんなに任せた」
 その言葉に隊員たちは更に驚き、声をあげようとしたがそれもゴールによって止められた。

「これは街のことを考えて一番いいと思った方法だ。警備隊から人員を出せ、俺は必須。だったら俺が一人で出れば両方の条件を満たせるし、街のことはお前たち全員に任せられる。これは決定事項だから反論は認めないぞ」
 険しい顔で言うゴールに対して、それでも! と反論できる者はいなかった。
「……わかりました。街のことは私たちに任せて下さい。その代わり無茶をしないで下さい、と言っても無駄なんでしょうね。無事に帰って来て下さい、帰ってくる場所は私たちが守りますから」
 あきれた様にため息をついたフランの言葉にゴールは笑顔になった。

「あぁ、頼んだぞ!」
 信頼する彼女からの了承にゴールは嬉しさのあまり彼女の背中をドンッと叩くが、勢いが強すぎたため、フランはそのままよろよろと倒れてしまった。
「た、隊長。ご自分の力を考えて下さい。鎧を着てなかったら私はこの場で気を失っていましたよ」
「す、すまん。ついな」
 しょんぼりとゴールは謝ると、自分の手を何度も閉じたり開いたりしながら首を傾げた。
「そんなに強くやったつもりはないんだけどなあ……」
 こんなやりとりもいつものことだと隊員たちは笑っていた。
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