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第三十八話
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「お父様、おじい様、お二人が私を助けてくれたんですね?」
感動のシーンを終えて、落ち着いたあとにアーシャが期待に満ちた表情で二人に質問をする。
家族である二人が助けてくれたと思っているため、その目はキラキラと輝いていた。
「あぁ、いや、もちろん私たちも動いたけど、君を直接的に助けてくれたのはユーゴさんとミリエルさんの二人なんだよ」
ディバドルの説明を聞いてアーシャはきょとんと首を傾げる。
「えっと、ミリエルさんは確か、街でお店を開いてる方ですよね。その……ユーゴさんという方はどのような?」
知らない名前を聞いたため、アーシャは興味を持っていた。
実際にはユーゴと短いやりとりをしていた彼女だが、体調不良の間はぼんやりとしか覚えておらず、それがユーゴだとは一致していなかった。
「あぁ、ユーゴさんは最近この街の近くに住み始めた方で、アーシャの病気のことも彼のおかげでわかったんだ。治療薬についても、薬の材料を集めるのも、薬を作るのも彼が頑張ってくれた」
そこまで聞くと、アーシャの目は先ほどよりもキラキラと輝いている。
「その方が私を救ってくれたのですね……すごいです!」
手を合わせて感激するアーシャ。まだ見ぬ救いの主ユーゴ。彼女が知っているのは、名前と自分に対してやってくれたこと。
それだけだったが、既にユーゴに対しての尊敬と感謝と憧れの気持ちが渦巻いている。
「父さん……」
「あぁ……」
二人は目を合わせて互いに確認する。ユーゴがどうやって薬を飲ませたかは絶対に内緒にしておこうと。
「どうかなさいましたか?」
あどけない笑顔で首を傾げて質問するアーシャ。
そんな彼女に、緊急事態だったとはいえ既に唇をその男性に奪われているとは二人とも口にはできずにいる。
「は、はは、元気になってよかったなと思ってね」
「う、うむうむ、やはりアーシャは笑顔が一番だ」
そのため、二人は動揺を隠しきれずこんな反応をしてしまうこととなった。
「もっと元気になって、身体が動くようになったら、是非ユーゴ様にお礼をしなければなりません」
ぐっと拳を作って気合の入ったアーシャのその表情は恩人への感謝の気持ちだけでなく、どこか恋する乙女のようでもあり、二人の胸には不安が去来していた。
「お父様、おじい様。体力が戻ったら、ユーゴ様に会わせて下さいね」
「あ、あぁ」
「わ、わかってるよ」
今度も二人は怪しい反応になってしまうが、アーシャのまぶしい笑顔の前には頷く他なかった。
「それでは、その前に私が病気にかかっている間どんなことがあったか教えて下さい。熱で倒れたのと、少しだけ調子が良くなったのは覚えているんですが、それ以外はちょっと記憶があいまいで……」
他でもないアーシャの申し出に、それならばと、二人はゆっくりと話を始めていく。
そんな中で、一度ポーションによって体調が持ち直した際にユーゴに会っていることを話すと、アーシャは信じられないと驚きを見せる。
「一度お会いしているというのに忘れてしまっただなんて、とても失礼なことをしてしまいました。でも、そう言われるとなんだかぼんやりとどなたかとやりとりをしたような気も……」
記憶をたどるように頭をひねるアーシャだったが、それでも靄がかかったようにはっきりと思い出すことはできない。
それほどまでに彼女の身体を病魔が蝕んでいたのだろう。
「これはもう絶対にユーゴ様に会わないといけません! お父様、明日から少しずつ運動を始めるので付き合って下さい!」
これまでずっと寝たきりであったため、動けるとあっては一人ではきっと無茶をしてしまうと、自分の性格を分析したがゆえに彼女は父であるガンズの協力を依頼する。
「わかった、何が理由であれば前を向いて動くことはいいことだ。協力しよう!」
大きく頷いたガンズは娘の決断を尊重して、アーシャの願いを叶えることにした。
まずは体力をつけなければいけないと、彼女は食事から頑張ることとなる。
そんなやりとりが行われてるとはつゆ知らず、ユーゴはぼーっと街を散策している。
「この街に来てからというものの、色々とあったものだなあ」
思わずそんなことをつぶやきたくなるくらいには、退屈とは無縁だった。
そんなことを思い出していると、行列ができている店を発見する。
行列の先を辿ってみると、そこは以前ユーゴが訪れたこともある、バームの店だった。
「――鍛冶師の店がなんであんなに繁盛するんだ?」
その疑問は当然のものである。以前ここにやって来た時も来客はユーゴ以外におらず、静かなものだった。
店の前においてある武器に目をくれる者もいなかった……はずである。
しかし、現在は店の周りに騎士や冒険者の姿が多くあり、順番待ちの待機列を作っていた。
誰もがそわそわとして自分の番が回ってくるのを楽しみにしている様子だ。
「これは、嫌な予感がするな……」
思わず感じた嫌な予感にユーゴの頬がひくひくと動く。
同じような光景をミリエルの店で見たことがあり、その原因となったのが自分がつくったポーションだった。
となると、今回バームの店が混雑しているのも自分の作ったものが原因であるかもしれないと考える。
この状況にあってユーゴが取るべき行動は一つ。
「……逃げろ!」
知り合いに会う前に、誰にも気づかれないようにユーゴは街を抜け出して自分の小屋へと戻ることにした。
念のため、気配遮断と認識阻害の魔法を使い、加えて自分を追いかける気配がないか探知魔法を使って安全を確認しながら戻ることにした。
今度の生はこれまでの記憶を駆使して自分の好きなようにのんびりと生きたいと思っているため、逃げにも全力だ。
そのかいもあって、森に到着し小屋に入っても誰も追いかけてくる者はいなかった。
「ふう、しばらくはここにこもっていればゆっくりできるだろ……」
自分だけの空間に戻ってきたユーゴは大きく息を吐いてソファに腰かけてぐったりと力を抜いた。
ユーゴはそのまま横になり、ソファで眠ってしまう。気づけばポム、ヴァル、ワルボが寄り添っていた。
穏やかに流れる時間――つかの間の休息かもしれなかったが、次の何かがやってくるまでユーゴは身体を休めることにする……。
感動のシーンを終えて、落ち着いたあとにアーシャが期待に満ちた表情で二人に質問をする。
家族である二人が助けてくれたと思っているため、その目はキラキラと輝いていた。
「あぁ、いや、もちろん私たちも動いたけど、君を直接的に助けてくれたのはユーゴさんとミリエルさんの二人なんだよ」
ディバドルの説明を聞いてアーシャはきょとんと首を傾げる。
「えっと、ミリエルさんは確か、街でお店を開いてる方ですよね。その……ユーゴさんという方はどのような?」
知らない名前を聞いたため、アーシャは興味を持っていた。
実際にはユーゴと短いやりとりをしていた彼女だが、体調不良の間はぼんやりとしか覚えておらず、それがユーゴだとは一致していなかった。
「あぁ、ユーゴさんは最近この街の近くに住み始めた方で、アーシャの病気のことも彼のおかげでわかったんだ。治療薬についても、薬の材料を集めるのも、薬を作るのも彼が頑張ってくれた」
そこまで聞くと、アーシャの目は先ほどよりもキラキラと輝いている。
「その方が私を救ってくれたのですね……すごいです!」
手を合わせて感激するアーシャ。まだ見ぬ救いの主ユーゴ。彼女が知っているのは、名前と自分に対してやってくれたこと。
それだけだったが、既にユーゴに対しての尊敬と感謝と憧れの気持ちが渦巻いている。
「父さん……」
「あぁ……」
二人は目を合わせて互いに確認する。ユーゴがどうやって薬を飲ませたかは絶対に内緒にしておこうと。
「どうかなさいましたか?」
あどけない笑顔で首を傾げて質問するアーシャ。
そんな彼女に、緊急事態だったとはいえ既に唇をその男性に奪われているとは二人とも口にはできずにいる。
「は、はは、元気になってよかったなと思ってね」
「う、うむうむ、やはりアーシャは笑顔が一番だ」
そのため、二人は動揺を隠しきれずこんな反応をしてしまうこととなった。
「もっと元気になって、身体が動くようになったら、是非ユーゴ様にお礼をしなければなりません」
ぐっと拳を作って気合の入ったアーシャのその表情は恩人への感謝の気持ちだけでなく、どこか恋する乙女のようでもあり、二人の胸には不安が去来していた。
「お父様、おじい様。体力が戻ったら、ユーゴ様に会わせて下さいね」
「あ、あぁ」
「わ、わかってるよ」
今度も二人は怪しい反応になってしまうが、アーシャのまぶしい笑顔の前には頷く他なかった。
「それでは、その前に私が病気にかかっている間どんなことがあったか教えて下さい。熱で倒れたのと、少しだけ調子が良くなったのは覚えているんですが、それ以外はちょっと記憶があいまいで……」
他でもないアーシャの申し出に、それならばと、二人はゆっくりと話を始めていく。
そんな中で、一度ポーションによって体調が持ち直した際にユーゴに会っていることを話すと、アーシャは信じられないと驚きを見せる。
「一度お会いしているというのに忘れてしまっただなんて、とても失礼なことをしてしまいました。でも、そう言われるとなんだかぼんやりとどなたかとやりとりをしたような気も……」
記憶をたどるように頭をひねるアーシャだったが、それでも靄がかかったようにはっきりと思い出すことはできない。
それほどまでに彼女の身体を病魔が蝕んでいたのだろう。
「これはもう絶対にユーゴ様に会わないといけません! お父様、明日から少しずつ運動を始めるので付き合って下さい!」
これまでずっと寝たきりであったため、動けるとあっては一人ではきっと無茶をしてしまうと、自分の性格を分析したがゆえに彼女は父であるガンズの協力を依頼する。
「わかった、何が理由であれば前を向いて動くことはいいことだ。協力しよう!」
大きく頷いたガンズは娘の決断を尊重して、アーシャの願いを叶えることにした。
まずは体力をつけなければいけないと、彼女は食事から頑張ることとなる。
そんなやりとりが行われてるとはつゆ知らず、ユーゴはぼーっと街を散策している。
「この街に来てからというものの、色々とあったものだなあ」
思わずそんなことをつぶやきたくなるくらいには、退屈とは無縁だった。
そんなことを思い出していると、行列ができている店を発見する。
行列の先を辿ってみると、そこは以前ユーゴが訪れたこともある、バームの店だった。
「――鍛冶師の店がなんであんなに繁盛するんだ?」
その疑問は当然のものである。以前ここにやって来た時も来客はユーゴ以外におらず、静かなものだった。
店の前においてある武器に目をくれる者もいなかった……はずである。
しかし、現在は店の周りに騎士や冒険者の姿が多くあり、順番待ちの待機列を作っていた。
誰もがそわそわとして自分の番が回ってくるのを楽しみにしている様子だ。
「これは、嫌な予感がするな……」
思わず感じた嫌な予感にユーゴの頬がひくひくと動く。
同じような光景をミリエルの店で見たことがあり、その原因となったのが自分がつくったポーションだった。
となると、今回バームの店が混雑しているのも自分の作ったものが原因であるかもしれないと考える。
この状況にあってユーゴが取るべき行動は一つ。
「……逃げろ!」
知り合いに会う前に、誰にも気づかれないようにユーゴは街を抜け出して自分の小屋へと戻ることにした。
念のため、気配遮断と認識阻害の魔法を使い、加えて自分を追いかける気配がないか探知魔法を使って安全を確認しながら戻ることにした。
今度の生はこれまでの記憶を駆使して自分の好きなようにのんびりと生きたいと思っているため、逃げにも全力だ。
そのかいもあって、森に到着し小屋に入っても誰も追いかけてくる者はいなかった。
「ふう、しばらくはここにこもっていればゆっくりできるだろ……」
自分だけの空間に戻ってきたユーゴは大きく息を吐いてソファに腰かけてぐったりと力を抜いた。
ユーゴはそのまま横になり、ソファで眠ってしまう。気づけばポム、ヴァル、ワルボが寄り添っていた。
穏やかに流れる時間――つかの間の休息かもしれなかったが、次の何かがやってくるまでユーゴは身体を休めることにする……。
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さくさく読めて面白かった!
あっあっ新連載だ!!!待ってました!!!
ポーションの過剰な摂取で、別の病気にかかりそうな気がするのですが、そこは大丈夫なのでしょうか?