上 下
28 / 38

第二十八話

しおりを挟む
 翌日


「ふわあ、やっぱり魔力枯渇でぶっ倒れると早くは起きられないもんだなあ」

 ユーゴが目を覚ました頃には既に日が高く昇っていた。


 顔を洗ってから簡単な食事の準備をする。

「といっても、魔倉庫から適当に食べ物を出すだけだけど……」

 前回とは別の店のパンを取り出してモシャモシャと食べるユーゴ。寝起きで完全に油断していたため、小屋に近づくものの気配に気づいていなかった。


 コンコンと玄関の扉がノックされる音にユーゴは振り返る。


「……誰だ? はーい、どうぞ」

 誰が来たとしても対処はできるため、パンの最後の一口を適当に頬張って飲み込み、中へ入るよう声をかける。

 しかし、扉はいっこうに開く気配がない。


 そして、再度コンコンとノックされる。


「入っていいのにな……はーい、今あけます」

 扉をあけるとそこにいたのは、昨日寝てしまった三体の魔物だった。


 扉の中央あたりをノックするために、一番下に猪、中断に毛玉、一番上に狼の順で器用に重なっていた。


「なるほど、それで普通にノックができていたのか。それでなんの用事で来たんだ?」

 タワーを解除した三体にユーゴが質問する。


「ピーピピ」

「ガウガウ」

「ブルル」

 何を言っているのか聞き取れてはいないが、恐らく名前のことを言っているのだろうことがユーゴには伝わる。


「名前な、昨日考えついた頃には暗くなってたからなあ。そうそう、あれから色々考えたんだけど、お前たちさえよければただ名前をつけるだけじゃなく、名前に俺の力を乗せる契約にするのはどうかと思ったんだよ」

 それを聞いて具体的なことが伝わっていない三体は首を傾げている。


「あー、つまりだな。俺の力の一部をお前たちに分け与えるんだよ。メリットとしては、俺の魔力の一部を自分のものにすることで強くなれる。デメリットとしては、俺の眷属というか契約魔獣というかになるので、俺の強い命令には逆らえないこともある」

 しゃがみこんで彼らと目線を合わせてユーゴは真剣な表情で語り掛ける。

 実際にはそんな命令をするつもりはなかったが、彼らの覚悟を試すつもりで説明していた。


「ピー!」

「ガウ!」

「ブル!」

 だがしっかりと気合の入った雰囲気の三体は元気よく即答する。


 返事をしたと思うと、大きく頷き、早くやってくれとユーゴの足にまとわりつく三体。


「わ、わかった。今、契約のための魔石を用意するから待ってくれ」

 三体の勢いに押され気味になりながらも、ユーゴは魔倉庫から昨日の空の魔石を三つ取り出すと、それぞれにあった魔力をイメージして魔宝石を作っていく。


 作るのに時間はかからず、一つあたり一分程度でできあがる。


「――よし、できたぞ。それじゃあ順番にやっていくから並んでくれ」

 ユーゴが指示を出すと、そわそわと待ちきれない様子ながらも三匹は素早く一列に並ぶ。


「お前から行くぞ。――”名はポム。汝に名を授け、我が眷属とする”」

 最初に名前をつけたのは毛玉の魔物。命名『ポム』。使った魔宝石の色は青。

「ピー!」

 返事と共に身体が光を放つ。モフモフの身体を元気良く揺らして跳ねている。


 徐々にその光が収まると、一回り大きくなり毛が青みがかった毛玉の魔物ことポムの姿がそこにはあった。


「ピ、ピー」

 自身に内包される力が強くなっているのを感じたポムは、じっと静かに自分を見ていた。


「さあ、続けて行こう。次はお前だな。”名はヴォル。汝に名を授け、我が眷属とする”」

 次に名前をつけたのは狼の魔物。命名『ヴォル』。使った魔宝石の色は緑。

「ガウ!」

 こちらも返事とともに身体が光を放っていく。


 ヴォルもサイズが一回り大きくなり、目も鋭く精悍な顔つきになっている。

 ベースの毛の色が銀色で、毛先が鮮やかな黄緑色になっていた。


「さあ、最後はお前だ。”名はワルボ。汝に名を授け、我が眷属とする”」

 最後は猪の魔物。命名『ワルボ』。使った魔宝石の色は赤。

「ブル!」

 ここの流れは同じで、ワルボのサイズも一回り大きく、牙が鋭くなり毛先がところどころ赤く染まっていた。


「ふう、これで終わりだな。というわけで、ポム、ヴォル、ワルボ。契約完了だ。よろしく頼む」

「ピーピピー!」

「ガウガーウ!」

「ブルブルー!」

 『三人』の鳴き声は変わらずだったが、以前よりも言葉の意味がユーゴに伝わるようになっていた。


「喜んでくれたみたいでよかったよ……それじゃあ、以前も頼んだが森の素材探しは頼んだぞ」

 任せろと言わんばかりに大きく頷く三人を見て、ユーゴは満足そうに微笑む。


 しかし、次の瞬間ユーゴは眉をひそめた。


「……誰か、森に入って来たな。一人、二人……三人が馬車でやってきてる」

 この結界はユーゴが結界内にいる限り、外からの侵入はおおよそ把握できるようになっている。


「お前たちは姿を見せるなよ。温厚だといっても、人から見たら怖い魔物かもしれないからな。森に戻るか、小屋の陰にでも隠れていろ」

 真剣な表情で言ったユーゴの命令に、これまた神妙な表情で頷くと三人はすぐに小屋の陰へと移動していった。


 結界が森全体を覆っているため、馬車が小屋に到着するまでしばらく時間がかかる。

 その間、ユーゴは来訪者の気配を探っていた。三つの気配のうち、一つには覚えがある。


 ゆったりとした速度でやってくる馬車の姿が遠目に見えたところで、気配の正体が当たっていたことを確認できた。


「やっぱりか」

 その呟きは誰にも聞こえないものであり、ユーゴは表情を硬くしていた。


 馬車がユーゴの近くまで到着すると三人が降りてくる。


「あ、ユーゴ。その、こんにちは」

 挨拶したのはミリエル。老婆の口調ではなく、本来の口調であり、その表情はとても気まずそうなものだった。


「初めまして、私の名前はガンズドロー。近くの街の領主の息子です。こっちは御者を担当してくれた、領主の騎士団の小隊長のマックです」

 ガンズドローは丁寧な口調で挨拶をする。三十歳まで少しはありそうな、美しい金髪の男性だった。身長はユーゴより少し低い。

 顔立ちも口調と同じく、優しそうである。


 うってかわって、マックと呼ばれた騎士は気難しそうであり、ユーゴのことを警戒するように睨みつけていた。

 口をきゅっと一文字に結んでおり、もちろん挨拶を口にすることもない。


「……よろしく。はあ、これがどういうことなのか。説明してくれるんだよな?」

 ユーゴが目を細めながら声をかけた相手はミリエルだった。

「――うぅ、ごめんなさい……」

 泣きそうな彼女の口から、最初に出てきたのは謝罪の言葉だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギフトで復讐![完結]

れぷ
ファンタジー
皇帝陛下の末子として産まれたリリー、しかしこの世はステータス至上主義だった為、最弱ステータスのリリーは母(元メイド)と共に王都を追い出された。母の実家の男爵家でも追い返された母はリリーと共に隣国へ逃げ延び冒険者ギルドの受付嬢として就職、隣国の民は皆優しく親切で母とリリーは安心して暮らしていた。しかし前世の記憶持ちで有るリリーは母と自分捨てた皇帝と帝国を恨んでいて「いつか復讐してやるんだからね!」と心に誓うのであった。 そんなリリーの復讐は【ギフト】の力で、思いの外早く叶いそうですよ。

この死に戻りは貴方に「大嫌い」というためのもの

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
侯爵令嬢ロゼ・フローラは第一王子の婚約者候補の一人だった。 そして愛し合うようになり二年が過ぎたある日。 晴れて二人は婚約者となるはずだったのだが……? ※作者独自の世界観です。 ※妊娠に関するセンシティブな内容を含みます(ヒロイン、恋人の立場に不妊が関係します)。辛い方は避けてください。 ※5/25 お話をより分かり易くするために文を修正しました。話の内容に変更はありません。 ※6/11 21話のタイトル(前回1→前回)と文(西の国→西の大国)を訂正します。 ※6/27 完結しました。この後カタリナ視点の話を別作品として公開予定です。そちらはドロドロの話の予定ですが、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです。 ※6/28 カタリナ視点でのお話「空っぽから生まれた王女」を公開しました。(あわせて読んでいただけると嬉しいですが、あっちはダークです。ご注意を)

異世界召喚鍛冶師

蛇神
ファンタジー
「どうやら、私は異世界に召喚されたらしい」 平和なキャンパスライフを送っていた私、天野崎雪(あまのざきゆき)は気がついたら洞窟にいた。偶然居合わせた青年にアレコレお世話になり、異世界に馴染み始める私だが…何故か鍛冶師に!? 召喚の裏には大きな野望。元の世界へ戻るには色々問題が…?? これは私が元の世界へ戻るまでの、笑いあり、涙ありの冒険譚である。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...