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第二十五話

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 翌朝、ユーゴはミリエール工房の開店に合わせて街に向かう。

 ポーション騒動は落ち着いているようで、店の前には客の姿はなかった。


 周囲にも人の気配を感じないことを確認したユーゴは、店の中へと入っていく。

「はいよ、いらっしゃい……ってユーゴじゃない。いらっしゃいませ。この間はポーションありがとうね。おかげさまで全部完売、加えて大量に客が押し寄せることもなくなったわ。重ねてありがとうね」

 笑顔で礼を言うミリエル。


 思っていた以上の騒動になってしまったが、今となってはユーゴと仲良くなれたことを喜んでいる気持ちがあった。


「それはよかった。そうそう、そのポーションだけど追加の納品を持ってきたぞ。どこに置けばいい?」

 今回も本数が多いため、この場に出すわけにもいかないため場所の確認する。


「そうねえ……少し待ってて。外の札をかけ替えてくるわね」

 このままでは客がやってくる可能性もあるため、ミリエルは扉にかかっている札をクローズにして戻ってくる。


「これで大丈夫ね。奥に行きましょう。あれから少し片づけたのよ?」

「おー、これはすごい……」

 ミリエルの案内で、店の奥に入っていくと見違えていたためユーゴは驚くこととなる。


 ところ狭しと並んでいた品物は種類ごとに箱にわけられて、探しやすくなっており、更には新しい商品を置くスペースも確保されていた。

「うふふっ、でしょう? 普段は裏側を誰かに見せることはないから気にしないでいたのだけれど、この間ユーゴに見られてからちょっと意識が変わったのよ。それに、これならユーゴの大量納品にも対応できるわ」

 どうだと胸を張って言うミリエルに対して、ユーゴは両手を軽く上げて降参のポーズをとった。


「それでポーションは前回と同じ百本用意したけど、そのあたりに置けばいいのかな?」

 通行の邪魔にならず、かつ百本のポーションを置けるスペースを指して確認する。


「えぇ、そこにお願い。私はちょっと用意してくるわね」

 そう言うと、ミリエルはどこかへと行ってしまう。

「準備?」

 なんのことかわからず首を傾げたユーゴだったが、まずはやるべきことをやろうとポーションを並べていく。


 半分ほど置き終えたところで、ミリエルが戻ってきた。

「任せてしまってごめんなさいね。これ、お疲れ様の飲み物とこの間までの売上のユーゴの取り分ね」

「ありがとう」

 まずは飲み物を受け取って、一気に飲み干しグラスをミリエルに返却する。


 続いて、売上が入った袋を手に取るユーゴだったが、それを手にした瞬間の動きが止まる。

「……これ、多くないか?」

 ずしりという重さが、中身の金額の多さを物語っている。


「そうかしら? 最初に取り決めていたとおりの金額が入っているはずよ。追加の品物に関しては今夜のうちに並べて、明日販売開始にするわね」

 金額に関してとりあうつもりがないのか、ミリエルは話を変える。


「わかったよ。あと半分で出し終わるから少し待っていてくれ」

 ユーゴもそれを理解したため、自分の作業を優先していく。


 ほどなくして作業は終わり、店のほうへと戻るとユーゴがキョロキョロと周囲を見渡し始めた。


「あら? どうかしたからしら? 何か店におかしいところでも?」

 ユーゴの行動に対して、反応するミリエル。彼女はユーゴのことを認めており、彼が気になることがあれば、店にとって問題だと考えていた。


 言葉はいつもどおり落ち着いているものであったが、視線は動いて自分の店に何か落ち度があるかと確認している。


「あー、いやそうじゃなくて、今日はちょっと買い物に来たんだよ」

 何かを気にかけているのではなく、ユーゴは品物を探していた。


「そ、そうなの。よかったわ……」

「よかった?」

「な、なんでもないの! それよりも、一体何を買いに?」

 思わず呟いた言葉にユーゴが反応したため、ミリエルは慌てて話題を買い物の話へとシフトする。


「あぁ、これくらいの」

 ユーゴが拳より少し小さいくらいの丸を作る。

「これくらいの?」

 ミリエルもそれに合わせておおよそ同じサイズの丸を手で作る。


「そう、それくらいの空の魔石があったら欲しいなと思って来たんだけど……」

 説明しながらもユーゴが店の中を散策していく。

 決して大きな店ではなかったが、色々な品物が並んでいるため一つ一つ確認していく。


「あぁ、それならこっちに」

 ミリエルが案内してくれたのは、店の中でもやや暗い端のあたりだった。

 そこにはユーゴが求めている魔石――それも魔力がこめられていない空のものが籠の中に雑多に詰め込まれていた。


「なんでこんなわかりづらい場所に?」

「なんでと言われても……空の魔石を使うような人はそんなにいないからあまり売れないのよね。使う人にしても、魔力を込めることで色が変わるのと属性が多少付与されるくらいしか使い道がないから」

 彼女自身それほど魔石に興味を持っていないのか、軽い口調でそう言う。

 この世界では実際その程度では、お守り代わりに持つくらいしか使い道がない。


「なるほど……そんなものなのか」

 つまり、ミリエルも魔石に強い魔力をこめたものを見たことがないのか? とユーゴが考える。

 考えた末、それを質問せずに魔石を一つ手に取る。


「これは購入させてもらう。いいか?」

 ユーゴの問いにミリエルが頷く。きっと何か驚くことをするのだろうと思い、彼が何をするか楽しみにしていた。


「いくぞ……――ふんっ」

 ユーゴは手のひらから魔力を放出すると、その魔力が徐々に魔石に移っていく。


 時折ダンジョンなどで手に入る魔石は既に魔力が封入されているもので、それなりの値段で取引されていく。

 ユーゴは自らの手でそれを作り出そうとしていた。


「えっ? もしかして、魔石が?」

 ミリエルはユーゴの手にある魔石の変化に驚いている。


 魔石の色は基本黒色をしている。

 魔力によって色がつくことがあるが、ユーゴの魔力がこめられた魔石は透明感のある色に輝いており、まるで宝石のようだった。


「ふう、こんなものか」

 改めてミリエルに魔石を見せるユーゴ。

 ミリエルは口を開けたまま呆然として、それを見ていた。
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