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第二十二話

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 二体分の素材だったが、皮膚は全て綺麗に剥がしており傷もほとんどない。

また、鉱石を含んだ身体の部分も置かれているため、これだけでもボリュームはある。


「しかも、全て品質がいいですね。剥がし方も完璧で、傷も恐らくは自然についたものだけのようです。こんなに見事なものは見たことがありませんよ!」

 グレイは興奮気味に素材鑑定を行っている。


「これなら買取してもらえるか?」

 外からは依頼の説明を行っている声が聞こえてくる。


 ユーゴは早くこの場を立ち去りたいと思っていた。

 説明を終えてメタルロックデーモンの討伐に出発して、現地に冒険者がたどり着いたら……――そう考えると、落ち着かない気分になる。 


「えぇ、もちろんです。これなら最高評価での買取になりますよ。さすがに表に持っていくわけにはいかないので、ここで買取手続きをしましょう。少々お待ち下さい」

 そう言うとグレイは部屋を出て行く。恐らくは手続きに必要な書類か、金か、魔道具かを取りに行ったものと思われる。


 その間ユーゴは椅子に座ってグレイが戻るのを待つことにする。

 時間に数分経過したところで再び扉が開かれる。


「やっと来たか……」

 そう言いながら扉へと視線を向けると、そこにはグレイの姿ではなく見覚えのない女性の姿があった。

 背はユーゴよりもだいぶ低い、恐らくは150cm程度。

 深い青い髪で肩のあたりで切りそろえられている。耳の形から察するに獣人であることがわかる。


 ユーゴは戸惑いながら軽く頭を下げる。この場所に来たということは恐らく冒険者ギルドの職員であることが予想できた。


「えっと、グレイ、さんかと思って勘違いを……」

 間違えて声をかけたことを説明するユーゴだったが、彼女は軽く頷いて返す。わかっているとでも言いたげな表情だった。


「急に来てごめんなさい。私の名前はレスティナ。グレイさんの、同僚になります。耳の形でわかりますかね? 犬の獣人です」

 自己紹介をするレスティナは、再度ニコリと笑顔を見せる。


 その柔らかい笑顔を見てユーゴは思う。


(この人、油断ならないな……)


「俺の名前はユーゴ。今日はちょっと買取をしてもらいたくて、グレイさんに査定をしてもらってます」

 ちなみに机の上に出ていた素材は、扉が開いた瞬間にカバンの中にしまっている。

 この部屋にやってくるのがグレイだけではない可能性を考慮にいれているがゆえの素早い判断だった。


「なるほど、机の上には何もないようですが一体なんの買取なんでしょうか?」

「それは……」

 素直に答えるかどうか逡巡すると、レスティナの後ろからグレイがやってくる。


「あぁ、先にいらっしゃっていたんですね。こちらがユーゴさんで、今回」

「メタルロックデーモンの素材を持ち込んだ方ですね」

 グレイの言葉の続きをレスティナが先回りして口にする。


 諦めに似たなにかを感じながらユーゴはやはりと心の中でつぶやく。


「なんだ、知ってたんですね。あんな質問をするから、てっきり知らないものだと思いましたよ」

 笑顔で、さわやかな口調でレスティナを口撃する。知っていたのに、あんな演技をしたのか? と。


「うふふ、先に聞いていたのをついつい忘れてしまいました。ごめんなさい」

 レスティナは含みのある笑顔でユーゴに謝罪する。


 どこか不穏な空気が流れていることに気づいたグレイ。

 なぜなのか考えた彼がとった行動。


「ユーゴさんは初めてですね。こちらは当ギルドのギルドマスターのレスティナと言います」

 それはレスティナをユーゴに紹介することだった。


「――なっ!?」

 驚いたのはユーゴではなくレスティナ。彼女はユーゴに自己紹介をした際に、あえて肩書を隠していた。

 ギルドマスターが相手となれば、硬くなってしまいちゃんとしたやりとりができないかもしれない。

 また、タイミングを考えて正体を明かせば効果的に言動を引き出せるかもしれない――レスティナはそんな風に考えていた。


「ははっ、グレイにはかなわないな。腹のうちを探りあっていたっていうのに、一気に場の空気を持っていかれたよ」

 驚くレスティナとは対照的にユーゴは笑みをこぼしていた。


 グレイは買取の話を進めたいだけである。

 そして、レスティナもユーゴを詰問したいわけではなく、メタルロックデーモンの素材を持ってきた彼に興味を持っただけであった。


「いつもの口調に戻そう。俺はユーゴ、今回メタルロックデーモンの素材を手に入れたから買い取ってもらいにきただけだ。ちなみに、メタルロックデーモンの討伐依頼交付のタイミングと被ったのは全くの偶然だ。まさかそんな騒ぎになっているとは思わなかったからな」

 ユーゴは砕けた口調で改めて状況を説明する。


 グレイが相槌として大きく頷いたことで、レスティナもユーゴの言葉を信じることにする。


「なるほど、そうでしたか。よければもう少し込み入った話をさせてもらってもいいですか?」

 これまでのやりとり、部屋を包んでいる魔法。ユーゴの態度。彼から薄っすらと感じる、うちに秘めている力。

 それらから判断して、ユーゴがただものではないとレスティナは判断する。


「わかった、場所を移すか?」

 誰でも出入りできるようなこの部屋で話を続けるのか? とユーゴが確認をする。


「そう、ですね。上の私の部屋に行きましょう。グレイさん、申し訳ありませんが買取の手続きはあとにして下さい」

 グレイは頷き二人に軽く頭を下げると、レスティナの指示に従って部屋をあとにした。


「さあ、こちらです。ギルドホールは盛り上がっているようですが、あまり見られないように上に行きましょう」

 ギルドマスターの部屋に招かれるともなると、特別な誰かなのか? と職員からも冒険者からも邪推されてしまうがゆえの提案だった。


「承知した」

 返事をして、ユーゴは先に部屋を出たレスティナのあとをついていく。

 気配遮断、そして魔法により認識阻害を使って周囲に気取られないように移動する様はまるで忍者のようであった。


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