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第十二話

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「はあはあはあはあ」

 魔力の放出を止めるとユーゴは肩で呼吸をしていた。しばらく、そのままの姿勢で、徐々に呼吸を落ち着かせていく。


「ふう、魔力の枯渇はかなりきついな……」

 手にあまり力が入らず、立ち上がろうにも足に力が入らない。なんとか座位姿勢を保つので精一杯だった。


 ユーゴは身体を支えるのもきついため、ばたりとそのまま仰向けに寝っ転がる。

 草が生えている場所であるため、薄いクッション代わりになっている。


「空がきれいだな」

 ユーゴの視線の先には星々が輝く夜空が広がっている。


 その光景を楽しみながら、ゆっくり深呼吸をする。

 呼吸で取り込むのは空気だけでなく、空気中に漂う魔素も同時に吸い込んでいた。


 自分で放出した魔力を自分に戻すことはできないので、空気中に微量に含まれる魔素を吸い込んで体内の魔力を生成していく。


 動かずに魔力生成を行うことで、ユーゴの身体には徐々に魔力が戻って行く。

 時間にして三十分ほどそうしていたところで、身体を起こす。


「ふう、これならなんとか動けそうだ。よっと」

 一部ではあるが魔力が回復したユーゴは飛び起きて、ゆっくりと身体の調子を確認していく。

 手も足も力が入る。しかし、身体は全体的にだるさが残っていた。


「これで寝て起きれば魔力上限がどうなってるかわかるだろ」

 夕食はまだだったが、疲労が強すぎるため、小屋に戻るとそのままベッドにばたりと倒れこんで眠りについてしまう。


 それから朝が来て、昼が近くなるまでユーゴは眠り続けていた。


「――……うわっ!」

 熟睡していたユーゴはびっくりした声をあげながらがばっと身体を起こす。


「あー……そうか……今は旅もしてない、学校も行ってない、急ぎの納品もなかったな」

 賢者の旅路、学生の週間、鍛冶師の仕事――今はそのどれにも縛られることがないことを改めて確認して、胸をなでおろす。


 安心した途端に腹の虫が空腹を訴えるように声を上げる。


「しかし、夕食も食べ損ねたからさすがに腹が減った……生命の実でも食っておくか」

 生命の実は普通に果物として食べても美味しいため、一つ取り出してかぶりつく。

「っ……美味い!」

 中からみずみずしい果汁が滴り、口の中にはさわやかな香りが広がる。


 昨夕食と朝食を食べておらず、更にはこれから昼食の時間がやってくるとなると、お腹がペコペコであり、ついつい生命の実を五つほど平らげてしまう。食べた途端に身体に残っていた疲労が消え、体力が漲っていく感じを覚えた。


「豪勢な食事になったな……」

 賢者時代にこの実を手に入れようとしたら、かなりの金額を要求される。

 しかし、ユーゴは群生地帯を知っているため、これくらいの量であれば消費しても問題なかった。


「さて、今日はどうするか……の前に魔力量を確認しないとだな」

 ユーゴは目を瞑る自分の身体に流れる魔力の量をあらためていく。

 すると、昨日より確実に魔力量が多くなっていることに気づく。


「これは、すごい。創作なはずなのに、意外と的を射てるんだな」

 漫画やゲームやアニメなどの創作物は、作者が生み出した想像の産物である。

 特に魔法などが登場する物語ではそれが顕著である。試しにとやってみた行動ではあったが、効果が得られて満足げである。


「これを繰り返していえば、魔力量も増やせそうだな。それと……」

 ユーゴはベッドから降りて小屋の外に出る。

 そこで視線を空に向けた。


「この結界を完成させないとな」

 昨日、全魔力を放出して作り出そうとした結界だったが、全域を覆うことはできず、森の三分の一ほどで終了している。


 この森はユーゴが思っていた以上に広大だった。

 人の手が入っていないせいで、どんどん自然が広がり、森の規模は数十年前の数倍ほどになっている。


「いきなり全部やるのは難しいから、徐々にやっていくか」

 結界を張ることは、魔力の増強にもつながるため、今後の課題としてはちょうど良いものだった。


「とりあえず、街に出てみるか」

 錬金術師ミリエルの店と、鍛冶師のバームの店には訪れたが、他の店には食事を買う程度でしか寄っていないので、街を散策するのも良いかと考えていた。


 街への移動方法はいつもと同じ魔法で飛んでいくもので、すぐに到着することとなる。


 二人の店には向かわずにプラプラと街を歩くユーゴ。

 この街は鍛冶師ユーゴが住んでいた田舎町よりも格段に大きく、色々な施設が揃っている。


 その一つが冒険者ギルドだった。


 そこに行こうと思った理由は学生であるユーゴの記憶。

 大学生が漫画やアニメのような魔法などが存在する世界にやってきて、そこに冒険者ギルドがあるとなれば、ワクワクしないわけがなかった。


「賢者の時は別に行く必要がなかったし、鍛冶師は仕事一筋だったから冒険者ギルドにいくの何気に始めてなんだよなあ」

 今の肉体年齢は三十代だが、精神年齢は大学生のそれに引っ張られてきている。


 訪れてはいないものの、街をぶらぶらした際に各施設がある位置は確認済みであるため、迷うことなく冒険者ギルドへと到着する。


 しっかりとした佇まいの冒険者ギルドの建物の扉は大きく開け放たれており、ユーゴはゆっくりと中へ入っていく。


 入ると広いホールが目に飛び込んでくる。

 左にある壁には大きな掲示板があり、そこに様々な依頼が掲示されている。

 右側には色々な素材を受け取っているカウンターがある。恐らくは、そこが素材買取や確認を行うカウンターであると予想できる。


 そして正面には役所を思わせる大きなカウンターがあり、そこに受付嬢が何人も並んでいる。


「これが冒険者ギルドか……悪くない」

 依頼を確認している者、買取の査定待ちをしている者、正面で依頼達成の報告をしている者。

 多くの冒険者がそれぞれの目的に合わせた場所にいる。


 また、掲示板の更に奥には併設された酒場兼食堂があり、そこでは昼間から酒をあおっている冒険者の姿もあった。


 それらの光景は、この空気を味わいたかったユーゴの気持ちを満たし、自然と笑顔にしていた。


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