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第八話

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 昼食をとるのも忘れてポーションの販売に関する話を進めていくユーゴとミリエル。

 二人は一定のルールを決めることにする。


 ・納品は最大で三十個。

 ・納品は七日で二回程度。

 ・売上の分配は、ミリエルが二、ユーゴが八。


 大まかにはこのあたりで落ち着く。

 話の中で、作り方を教えようかとユーゴが提案したが、ミリエルはそれを丁重に断った。

 希少なアイテムの作り方を安易に教えるのは危険でるため、そしてユーゴが培った技術を教えてもらうだけの覚悟がないというのが理由だった。


 そんな二人は、連れ立って街に食事に繰り出していた。

 昼を過ぎてしばらく経っているので、どこの店も空いているため、ミリエルのお気に入りの店に行くことにする。


 そこは地元の素材を使った料理の店でミリエルが週に一度は通っている店だった。

 カランカランというベルの音とともに店の中に入る二人。


「はい、いらっしゃい! おや、ミリエルさん。今日はお若いお連れさんだね。お孫さんか何か……って種族が違うか。ははっ、まあゆっくりしていって下さい」

 ウェイターは二人の来店に気づいてにこやかに挨拶をする。

 気さくな青年は馬の獣人で、人の身体に馬の顔がついているタイプだった。


「あぁ、スオウかい。いつも元気でいいねえ、この人はお友達のユーゴじゃよ。食事をすることになったから、せっかくだからお気に入りのお店に連れてこようと思ってねえ」

 ウェイターのスオウから見れば老婆のミリエル。よって口調もそれに合わせる。


「それは光栄です。今の時間は空いているので、お好きな席にどうぞ。水をお持ちします」

 笑顔でそう言うと、スオウは容器をとりに向かう。


「ごめんね、魔法解除してくればよかったんだけど……ついつい忘れちゃってた」

 本来の姿であれば、見た目と口調の違和感をユーゴに感じさせることがなかったため、ユーゴにだけ聞こえるような小さな声で謝罪をするミリエル。


「いや、別に構わないよ。そもそも、本来の姿を見抜けている俺が悪いだけさ。そんなことより、料理を楽しもう。久々にまともな食事にありつけるから、楽しみなんだよ」

 ユーゴは笑顔でミリエルに言う。


 実際、ここ数日のユーゴの食事は空間魔法で格納されていた保存食だけであり、味もまずいとは言わないが決して美味しいものではなかった。


「一体どんな食事を……」

 ミリエルはさらっと言ったユーゴの言葉に驚きながらも、いつも座っている席へと移動していく。


 メニューには商品名の隣にイラストが掲載されているため、どれがどんなものなのか誰でも簡単にわかるようなつくるになっている。


「私のお勧めは、この豆料理よ。といっても、人族のユーゴには物足りなく感じるかもしれないわね」

 エルフのミリエルは嫌いなものはなく、なんでも食べるが故郷で良く食べていた豆料理を好んで食べる。


「なるほど……俺はガッツリ食べたいから、このステーキを頼もうか。パンもセットになってるみたいだし、ボリュームも申し分なさそうだ」

 イラストの見た目にごくりと唾を飲みこみながらユーゴはメニューの一番上にあるお勧めセットを指さす。


「男性だったら、それくらいがちょうどいいかもしれないわ。それじゃあ、店員さん呼ぶわね。――すいませーん」

 老婆の元気な声に一瞬驚いたスオウだったが、すぐに笑顔になって注文をとりにやってくる。

 むしろこちらが気づかなかったのではないかと少し駆け足ですらあった。


 その後、全ての料理が揃ったところでユーゴが周囲に薄い壁の膜を作って声が届かないようにする。

 だがそれは膜の内側にいるユーゴたちにしか気づけないほど薄くて細い魔法だった。


「あらまぁ……ユーゴ、こんなこともできるのね。こんなに繊細な魔法初めてよ……」

 食事に手をつけながら、ユーゴの魔法に感心するミリエル。

 エルフであるミリエルは自身も魔法を使うことができ、エルフの凄腕の魔法使いを見たこともある。


 しかし、ユーゴの魔法はその中の誰もできないほどに高度なものであった。


「うーん、まあ色々とな。そもそも、こんなことに魔法を使うやつが珍しいかもしれない。やらないだけで、意外とできるのかも?」

 自分でしたことは些細な魔法だと思っているユーゴはさらりと言ってのけるが、そんな彼の様子に思わずミリエルは苦笑する。


「ユーゴはもっと自分の力を理解したほうがいいと思うわよ? あんなにすごいポーションを作って、しかもこんな魔法も使えるだから。言っておくけど、やろうとしてできる人なんてほとんどいないわ」

 そんなものか……とユーゴは頬を掻く。


「まあ、そのへんは気をつけるとして……これ美味いな!」

 食事を始めてすぐに魔法の話になったため、料理の感想がまだだったことに気づいたユーゴがぱっと表情を変え、嬉しそうにそう口にする。

 三つの記憶をたどってみて、それらと比較したとしても美味いと言えるほどにここの料理の味は最高だった。


「でしょ! うんうん、やっぱりユーゴはわかってるね。ここの料理は最高なのよ。肉料理だけ美味しいお店、野菜料理だけ美味しいお店、豆料理を……扱ってない店……」

 最初は嬉しそうに華やいだミリエルの言葉から徐々に力が失われていく。


「……ごめんなさい、豆のことはおいておくわね。とにかく、どれかに特化してるお店はあっても、全ての料理が高いレベルで美味しいのはここくらいなのよ」

 ミリエルは他店での豆の嫌な思い出があるらしく、そのことを振り切るようにしてこの店を褒めていた。


「それはすごいな。また来るのが楽しみになるよ。俺はこの街に来たばかりだから、こうやって新しい店を知れるのは有益だ」

 ユーゴは食事に舌鼓を打ちながら、喜びをミリエルに伝える。


「ふふっ、喜んでもらって嬉しいわ。でも、この店はトータルで一番かもしれないけど、他にも美味しい店はたくさんあるから、よかったらまた今度案内するわね」

 ミリエルは案内した店をユーゴが気に入ってくれたことを嬉しく思い、次はどの店に案内しようかと考えを巡らせていた。


 その様子を遠くで見ているウェイターたちは、老婆と青年がイチャイチャしているように見えて、首を傾げていた。
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