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第二十四話

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「俺がリーネリアに話したのはあくまで一般的な案だけだよ。これ以外の可能性も考えれば色々あるはずだよ」
 あえて、他の案を言わなかった優吾。彼女自身にも色々考えてほしいと思っていた部分もある。

「えっと……どういうことですか?」
 そんな彼の意図を感じ取ってリーネリアが考えてみたものの、この三案くらいしか思い浮かばないため、困ったような表情で質問を返す。

「例えば……街の人を巻き込んで守ってもらうってのも一つの手ではあるよね。あぁ、前提としてそれがいい案かどうかっていうのは別にしておくよ。あくまで可能性という話で聞いてほしい」
 優吾の注釈を受けてリーネリアは頷いた。

 街の人に守ってもらう――突拍子もない案に聞こえるが、例えば街に強力な冒険者がいればこの案も決してありえない考えはではない。いくら冒険者が弱くなったといっても、その中で強いものがいないわけではない。

「他にはそうだなあ……リーネリアがすごく強くなって、刺客とやらを全て撃退するなんていうのも面白いよね」
「……そんなこと!」
 できるわけがない――ぐっと悔しげに口をつぐんでその言葉をリーネリアは飲み込む。
 可能性という話であれば、それも可能な案の一つであるためだった。

「そう、できるかもしれないよね? ……可能性というのはたくさんあるんだよ。だから、俺の提案に引っ張られないでほしかったんだ」
 穏やかに微笑みながら彼女が否定するであろう案まで考えた優吾。この柔軟な考え方が魔術という型にはまらない力を使う上でも重要なものであった。

「なるほど……ユーゴさんが言いたいこと、少しわかるかもしれません……」
 安易な考えだけピックアップして、その中から選ぶとなると先ほどのように消去法で一つを選ぶしかなくなってしまう。

 そうならないように、本当にそれしかないか? それを考えて決断するのが大事だということだった。

「それはよかった。それをわかってもらえた上で俺が提示する案。結構面白いと思うんだけど、リーネリアはどう考えるかな? あのね――」
 悪戯っぽく微笑んだ優吾はその案を彼女にそっと耳打ちする。誰に聞かれているわけでもなかったが、なんとなくそうするのが正しいように感じたためだった。

「…………ええええええ!? ほ、本気で言ってるんですか!?」
 それはリーネリアに大声を出させるだけの力を持っていた。ぎょっと驚いた彼女は少し引いている。
「ふふっ、面白くないかい? それに、この案だったら色々と面白いことができそうだと思うんだよね」
 クスリとほほ笑んだ優吾は本気で言っており、しかもそれを楽しいとさえ思っていた。

「な、なるほど……それは、確かに面白いというのは語弊があるかもしれませんが、色々な可能性を含んでいるように思えます」
 最初は驚きの声をあげてしまったリーネリアだったが、徐々に優吾の案に賛成する気持ちが生まれてきていた。彼が安易な考えでものを言っているわけではないと知ったからこその気持ちもある。

「うん、そうそう途中で別の案に切り替えることも容易にできるからね。――だから、俺と一緒に獣人国をひっかきまわさない?」
 そう言った優吾はにっこりと笑ってリーネリアに手を差し出した。これが彼の考えた案だった。





 三百年前、賢者として過ごしていた頃から優吾には不満なことがあった。それは獣人に対する扱いだ。
 獣人は身体能力や、戦闘能力に優れている種族であるにも関わらず、見た目の点で人と相違点があるというだけで、下等に扱われたり、奴隷という扱いになることも少なくなかった。

 そして、三百年前に魔王と戦ったパーティには獣人族もいた。
 優吾が亡くなった後、残ったメンバーでなんとか魔王を倒すことができたようで、彼らは各国で勇者として迎え入れられたと聞いていた。それがこの世界に残っている物語だった。

 しかし、その物語にはなぜか仲間にいたはずの獣人の姿は一文も出てこなかった。
 本来であれば勇者として迎えられるはずだった獣人の彼は人知れず、記憶の彼方に葬り去られてしまっていたということ――それは優吾にとって悔しく、そしてとても悲しいことだった。




「……なぜ、この世界の獣人は不遇な扱いを受けることが多いのか? それが俺にはわからないんだよ。俺の仲間にも獣人はいた、彼はとても明るくてムードメーカーだった」
 唐突に話し始めた優吾、遠くを見るように懐かしそうに語るその話をリーネリアは真剣に聞いていた。

「俺は魔王を倒す前に死んでしまったから、そのあとに何があったのかを知らないんだ。なぜ歴史から抹消されたのか……彼だって他の仲間たち同様、活躍したはずなのに、獣人の扱いは三百年経った今でも変わらない……」
 それは優吾が許しがたいことだった。こぶしをぎゅっと握り締め、その表情は悲しさの中に怒りをにじませていた。

「――優吾さんは優しいんですね」
 穏やかな表情のリーネリアは、獣人に対してそんな考えを持ち合わせている優吾のことを優しいという言葉で表す。しかし、優吾はそれに違和感を覚えてしまう。

「優しい……優しいかあ。うーん……それはなんか違うんだよね。――俺は別に優しいわけじゃないよ? だってさ、差別とか、不遇な思いをすることが多いのを見てたら、単純に嫌じゃないか」
 元々が地球人で、日本人であるがゆえの感覚なのかもしれないが、この感覚こそが今回の優吾の話の根本を形作っていた。

「まあ、難しいことはあとで考えるとして、俺はリーネリアと一緒に獣人の国に向かって色々と引っ掻き回すのが面白いかなあと思っているんだよ」
 話を切り替えるように改めて自分の考えをリーネリアに話す。

「……あの、そのためにお願いがいくつかあるんですが」
 少し考え込んだリーネリアは真剣な表情で顔を上げる。

 彼女自身、自分でちゃんと考えた結果、優吾の案には賛成している。だが、今のままでは力を持つ優吾にただただ甘えることになってしまう。それはリーネリアは承服しかねる部分であった。

「――私を、鍛えて下さい!」
「もちろんだよ」
 短いつきあいながら、リーネリアであればそう言ってくるのではないかと優吾は事前に予想していたため、返事は笑顔で即答であった。

「……えっ? い、いいんですか……?」
 あまりにも早い返答であったため、彼女はきょとんとして驚いてしまう。
「当たり前だろう? 俺はこの街で獣人の子どもに少し手ほどきをしたこともあるんだけど、やっぱり獣人は魔術と相性がいいみたいだ。リーネリアも獣人だし、しかも魔力が他の獣人よりも高いみたいだからね」
 むしろ望んでいた回答が出てきたことに嬉しさを感じた優吾は笑みが深まる。

 賢者として技術を高めた彼は他者の魔力量を感じとることができた。
 そもそも狐の獣人は魔力の高い者が多い。それは白虎と狐のハーフであるリーネリアも例外ではなかった。

「で、でも、私は魔法は全然使えませんし、父からは出来損ない扱いされてました……」
 魔力が強いと言われ、戸惑うリーネリアはしょんぼりと肩を落とす。過去の記憶から、自分が駄目な獣人であるという負い目を感じていた。
「大丈夫、俺が言うんだから間違いないよ。――俺と一緒にそいつらを見返してやろう!」
 大きく背中を押すような優吾の言葉に力づけられたリーネリアは、輝くような笑顔で大きく頷いていた。
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