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第十二話
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「――あれか!」
すっかり夕日が沈みかけて夜が迫っているという頃に優吾は街を視界に捉えた。
街の北門にわらわらとたくさんの魔物が集まってきていたが、冒険者たちが協力して劣勢ではあるものの、なんとかそれを撃退しているように見える。
現れている魔物たちは昔に比べてとても弱いが、対する冒険者とてそれは同じ。
全力を持って戦っているというのが伝わってくる奮闘ぶりだった。
優吾は近くまで来ると勢いよく大跳躍して、街の城門の上に軽い足取りで着地した。
「大した魔物もいないからなんとかなっているようだけど……やっぱり冒険者たちの疲労が強いかな……――あれは、リーネリア!? なぜ彼女が!」
街から離れた森で暮らしているはずのリーネリアもなぜか冒険者に混じって武器を手に魔物と戦っていた。
慌てた優吾は城門から飛び降りて瞬時に彼女の近くに着地する。幸いにもあまりに素早い動きであったのと、戦いの喧噪のおかげで彼の存在に気づく者はいない。
「――っ!? ユーゴさん!?」
突如目の前に現れた優吾にリーネリアはとても驚いていた。
「どうしてリーネリアがここにいるんだい!?」
「わ、私もこの街にはお世話になっていますし、それに戦う力があるので……!」
優吾に問い詰められるように肩を掴まれた彼女は驚きながらも優吾の質問に答えてくれる。
たまたま街に用事があってきていたリーネリアは以前、戦闘訓練を受けた経験があったため、少しでも力になれればと自ら志願して戦いに臨んでいた。
この街の人ならばあり得ないとは思うが、無理に戦場に投入されたわけではないと分かって優吾は安堵した。
「――よっしゃあ、撃退したぞ!」
それは街の前で防衛線を敷いていた冒険者の一人の言葉だった。興奮交じりのその声は次々に安堵の感情となって冒険者たちに広がっていく。
「まずいな……」
喜び、緊張が解け、弛緩している冒険者たちを見て、ひとり、優吾は危機感を募らせていた。
「どうかしましたか? 魔物は撃退できたのでは……?」
「――すぐわかるはずだよ」
戸惑うリーネリアをよそに優吾は城壁の上に視線を送る。
そこには遠方を確認する偵察兵の姿があった。
「……すぐに?」
優吾の真剣な横顔を見たリーネリアも彼と同じ方向へ視線を送る。
すると、二人の視線の先にいた偵察兵から慌てた様子の声があがった。
「――だ、第二陣、魔物の第二陣がやってきたぞ! 規模は第一陣とほぼ同規模……いや、強いのも交じっているぞ!!」
叫ぶような悲痛なその声は冒険者たちを絶望させる言葉だった。
「も、もう無理だよ、これ以上戦えない……」
「もう、駄目だ……」
「……に、逃げるぞ!」
心も身体も疲弊している冒険者たちに、第二陣が来るという言葉は重くのしかかる。その中に強いものも交じっていると聞けばその辛さは何倍にも膨れ上がるというものだ。
ある者は崩れ落ち、ある者は街に逃げ帰り、ある者は街自体から逃げるなどまさに阿鼻叫喚といった様相だった。
「ギリギリで撃退したのに同じ数の魔物が襲ってくるとなれば、こうもなるよね」
だがそんななかでも優吾は冷静に状況を見ていた。嘆き叫び、逃げ戸惑う冒険者たちの中で彼の存在だけが時が止まったように浮いていた。
「ユ、ユーゴさん! 私たちも逃げないと……!」
既に戦線が崩れている今、このまま戦い続けてもいたずらに命を失うことになるのは目に見えていた。見知った存在を見捨てるほどリーネリアは薄情な子ではなく、優吾にも逃げるようにと告げる。
「……リーネリアに一度救ってもらった命。ここはリーネリアの命を守るために使わせてもらうよ」
「っユ、ユーゴさん!!」
それを聞いたリーネリアは嫌な予感がして縋るように再び優吾の名前を呼んだ。
流れ着いた優吾を助けたのは事実だったが、あれだけの数の魔物と戦う理由にはなっていない。少なくともリーネリアはそう思っている。
彼がどれだけ戦えるかリーネリアは知らないが、冒険者たちが一丸となってようやく倒した敵の数が来ているならば一人で挑むなど無謀だと泣きそうな表情で引き留める。
「ここで待っていて」
大丈夫だと安心させるに彼女に微笑みを見せた優吾は逃げ惑う冒険者たちの間を縫って先頭に向かって行く。
「――お、おい、お前! ……くそっ、勝手に死んでろ!」
それに気づいた冒険者の一人が親切心で優吾に声をかけるが、振り返ることもしないため悪態をついて逃げていく。
「さて、これで開けた場所に出られたな」
「ユーゴさん! どうするつもりですか!? 早く逃げましょう!」
どうにかこうにか人混みをかき分けてついてきたリーネリアは必至の形相で優吾を止めようとする。
「あれ、ついて来たのかい? まあいいか、少し離れていて。あいつらは俺が倒すから」
驚きながらも優吾はリーネリアを自身の後ろに下がらせ、一本の杖を取り出す。その杖は街の散策の際に購入したものだった。
杖を持つ彼の表情はこれまでリーネリアが見て来た優しいものではなく戦う男の顔になっている。
「ユーゴさん?」
その表情に一瞬見惚れてしまったことに気づいたリーネリアがハッとしたように我に変えって、視線を地平線の向こうに向けると魔物の大群が向かってきている。
しかし、優吾は悠然と杖を取り出し構えていた。
混乱に陥っているこの戦況の中で彼の様子はリーネリアには奇妙に思えた。
「さて、まずは《探知魔術発動》」
杖を手に魔術を展開した優吾は街へと向かっている魔物を探知し、その全てをロックオンする。
「結構多いな。……それじゃあ、いこうか。まずはっと」
すっと腕を振るった優吾の杖の先から小さな炎の玉が生まれ、それが上空へと浮かび上がっていく。
玉は高度を上げるにつれて徐々にその大きさが増していった。
それは魔法使いが使うような炎の魔法よりもはるかに大きく、まるであらたな太陽が生まれたのはないかと思ってしまうほど大きくなっている。
「お、おい! あれはなんだ!」
それは逃げ惑う冒険者たちの足を止めさせる。それほどにインパクトのあるものだった。
「《魔物たちを殲滅しろ、“星降る夜”》」
強い魔力の波動を身にまといながら優吾がそう魔術名を口にし、杖を魔物の群れへと向けると炎の玉からいくつもの小さな火球が生まれ、雨あられのように魔物たちへと降り注いでいく。
その一つ一つがまるで隕石かと思うような威力を持っており、迷うことなく魔物たちを次々と貫いていく。魔物を貫通した火球は勢いを失うことなく地面に突き刺さり、クレーターのように穴をあけていく。
あまりの威力に、あまりの轟音に、あまりに信じられない光景に逃げ惑っていた冒険者はその場で立ち止まり、呆然とその光景を見守ることしかできなかった。
「威力は十分だな」
優吾は魔術がおこしている結果に満足そうに前方を見ている。
冒険者の一人はまるで炎の雨みたいだ。無意識にそう呟いたが、この攻撃に一切の無駄はなく、全ての火球が魔物に直撃していた。
「す、すごい……っ」
優吾の少し後ろから見ていたリーネリアは目の前で起きるあり得ない状況に、口元を押さえながらそう呟くと呆然としながら魔法の行方を見ていた。
この場には魔法使いや、数々の依頼をこなしている冒険者も多くいたが、その誰もが優吾が使ったのが魔法ではなく魔術であることに気づかない。余程の大魔法を駆使したのだろうと思っていた。
いま、この世界で魔術というのは失われた技術であり、今やまともに使えるのは世界に優吾ただ一人であると思われる。
「あとは時間の問題かな」
火球の大元となる炎の玉は小さな玉を吐き出すうちに徐々に小さくなっていたが、それでも魔物を倒すのに十分な数の火球が生み出されるだけのサイズであった。
あれだけ街に来ていたはずの魔物ももうほとんど残っておらず、優吾はのんびりと杖をしまう。
「ユーゴさん、あなたは一体……」
我を取り戻したリーネリアは杖をおさめて状況を見守っている優吾に近づいてとまどいながら声をかけるが、優吾はいまだ前方の魔物たちを見たままだった。
「――こいつは……面白いね」
最初に使った探知魔術は魔物であるということだけを条件に使われており、魔物の詳細までは調べていない。ゆえに、それぞれの個体が持つ能力までは把握していなかった。
だが大量の魔物が消えた今、探知魔術に引っかからなかった何かに気づいた優吾はにやりと笑う。
「……お、面白い?」
「あぁ、一体だけ火球で倒せないやつがいるんだよ」
今度のリーネリアの質問には優吾は楽しげな雰囲気で答えた。
「しかも、怒ってこっちに向かってきているみたいだね」
「え……? ――わぁっ! それじゃあ今度こそ逃げないと!」
優吾が放った魔術は魔法使いたちの中では大規模魔法と呼ばれるだけの規模であり、それこそ複数人の魔法使いが集まって発動されるレベルだった。
それを知っているリーネリアは、あれで倒せなかったのならば大量の魔力を消費した優吾にはもう手はないと考え、再度逃亡を提案した。
「まあまあ、見ていてよ」
だがのんびりと笑う優吾は逃げる素振りを見せない。そうしている間にも魔物はすさまじい勢いで飛ぶように走ってきて優吾と対峙する。
「貴様……何者だ」
見定めるように冷静な表情をしつつも優吾を強く睨み付ける魔物は二足歩行で、作りだけみれば人間と同じような身体をもっている。どこか違いがあるとすれば皮膚の色が紫で、頭部にするどい角が上向きに二本生えていることだった。
「それはこっちのセリフなんだけどね、君は何者であの街を襲おうとしたのはなんでなんだい?」
人間のような魔物の視線もなんのその、優吾は飄々とした様子で質問をする。
だが優吾のすぐ後ろにいたリーネリアはその人間のような姿の魔物を見て顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。
「――ま、魔族!?」
これがその理由だった。
魔族は魔を使役するもので、魔大陸と呼ばれている場所に住んでいる。その力は通常の人では太刀打ちできるものではないとまで言われていた。それが目の前に現れたことにリーネリアは絶望していたのだ。
すっかり夕日が沈みかけて夜が迫っているという頃に優吾は街を視界に捉えた。
街の北門にわらわらとたくさんの魔物が集まってきていたが、冒険者たちが協力して劣勢ではあるものの、なんとかそれを撃退しているように見える。
現れている魔物たちは昔に比べてとても弱いが、対する冒険者とてそれは同じ。
全力を持って戦っているというのが伝わってくる奮闘ぶりだった。
優吾は近くまで来ると勢いよく大跳躍して、街の城門の上に軽い足取りで着地した。
「大した魔物もいないからなんとかなっているようだけど……やっぱり冒険者たちの疲労が強いかな……――あれは、リーネリア!? なぜ彼女が!」
街から離れた森で暮らしているはずのリーネリアもなぜか冒険者に混じって武器を手に魔物と戦っていた。
慌てた優吾は城門から飛び降りて瞬時に彼女の近くに着地する。幸いにもあまりに素早い動きであったのと、戦いの喧噪のおかげで彼の存在に気づく者はいない。
「――っ!? ユーゴさん!?」
突如目の前に現れた優吾にリーネリアはとても驚いていた。
「どうしてリーネリアがここにいるんだい!?」
「わ、私もこの街にはお世話になっていますし、それに戦う力があるので……!」
優吾に問い詰められるように肩を掴まれた彼女は驚きながらも優吾の質問に答えてくれる。
たまたま街に用事があってきていたリーネリアは以前、戦闘訓練を受けた経験があったため、少しでも力になれればと自ら志願して戦いに臨んでいた。
この街の人ならばあり得ないとは思うが、無理に戦場に投入されたわけではないと分かって優吾は安堵した。
「――よっしゃあ、撃退したぞ!」
それは街の前で防衛線を敷いていた冒険者の一人の言葉だった。興奮交じりのその声は次々に安堵の感情となって冒険者たちに広がっていく。
「まずいな……」
喜び、緊張が解け、弛緩している冒険者たちを見て、ひとり、優吾は危機感を募らせていた。
「どうかしましたか? 魔物は撃退できたのでは……?」
「――すぐわかるはずだよ」
戸惑うリーネリアをよそに優吾は城壁の上に視線を送る。
そこには遠方を確認する偵察兵の姿があった。
「……すぐに?」
優吾の真剣な横顔を見たリーネリアも彼と同じ方向へ視線を送る。
すると、二人の視線の先にいた偵察兵から慌てた様子の声があがった。
「――だ、第二陣、魔物の第二陣がやってきたぞ! 規模は第一陣とほぼ同規模……いや、強いのも交じっているぞ!!」
叫ぶような悲痛なその声は冒険者たちを絶望させる言葉だった。
「も、もう無理だよ、これ以上戦えない……」
「もう、駄目だ……」
「……に、逃げるぞ!」
心も身体も疲弊している冒険者たちに、第二陣が来るという言葉は重くのしかかる。その中に強いものも交じっていると聞けばその辛さは何倍にも膨れ上がるというものだ。
ある者は崩れ落ち、ある者は街に逃げ帰り、ある者は街自体から逃げるなどまさに阿鼻叫喚といった様相だった。
「ギリギリで撃退したのに同じ数の魔物が襲ってくるとなれば、こうもなるよね」
だがそんななかでも優吾は冷静に状況を見ていた。嘆き叫び、逃げ戸惑う冒険者たちの中で彼の存在だけが時が止まったように浮いていた。
「ユ、ユーゴさん! 私たちも逃げないと……!」
既に戦線が崩れている今、このまま戦い続けてもいたずらに命を失うことになるのは目に見えていた。見知った存在を見捨てるほどリーネリアは薄情な子ではなく、優吾にも逃げるようにと告げる。
「……リーネリアに一度救ってもらった命。ここはリーネリアの命を守るために使わせてもらうよ」
「っユ、ユーゴさん!!」
それを聞いたリーネリアは嫌な予感がして縋るように再び優吾の名前を呼んだ。
流れ着いた優吾を助けたのは事実だったが、あれだけの数の魔物と戦う理由にはなっていない。少なくともリーネリアはそう思っている。
彼がどれだけ戦えるかリーネリアは知らないが、冒険者たちが一丸となってようやく倒した敵の数が来ているならば一人で挑むなど無謀だと泣きそうな表情で引き留める。
「ここで待っていて」
大丈夫だと安心させるに彼女に微笑みを見せた優吾は逃げ惑う冒険者たちの間を縫って先頭に向かって行く。
「――お、おい、お前! ……くそっ、勝手に死んでろ!」
それに気づいた冒険者の一人が親切心で優吾に声をかけるが、振り返ることもしないため悪態をついて逃げていく。
「さて、これで開けた場所に出られたな」
「ユーゴさん! どうするつもりですか!? 早く逃げましょう!」
どうにかこうにか人混みをかき分けてついてきたリーネリアは必至の形相で優吾を止めようとする。
「あれ、ついて来たのかい? まあいいか、少し離れていて。あいつらは俺が倒すから」
驚きながらも優吾はリーネリアを自身の後ろに下がらせ、一本の杖を取り出す。その杖は街の散策の際に購入したものだった。
杖を持つ彼の表情はこれまでリーネリアが見て来た優しいものではなく戦う男の顔になっている。
「ユーゴさん?」
その表情に一瞬見惚れてしまったことに気づいたリーネリアがハッとしたように我に変えって、視線を地平線の向こうに向けると魔物の大群が向かってきている。
しかし、優吾は悠然と杖を取り出し構えていた。
混乱に陥っているこの戦況の中で彼の様子はリーネリアには奇妙に思えた。
「さて、まずは《探知魔術発動》」
杖を手に魔術を展開した優吾は街へと向かっている魔物を探知し、その全てをロックオンする。
「結構多いな。……それじゃあ、いこうか。まずはっと」
すっと腕を振るった優吾の杖の先から小さな炎の玉が生まれ、それが上空へと浮かび上がっていく。
玉は高度を上げるにつれて徐々にその大きさが増していった。
それは魔法使いが使うような炎の魔法よりもはるかに大きく、まるであらたな太陽が生まれたのはないかと思ってしまうほど大きくなっている。
「お、おい! あれはなんだ!」
それは逃げ惑う冒険者たちの足を止めさせる。それほどにインパクトのあるものだった。
「《魔物たちを殲滅しろ、“星降る夜”》」
強い魔力の波動を身にまといながら優吾がそう魔術名を口にし、杖を魔物の群れへと向けると炎の玉からいくつもの小さな火球が生まれ、雨あられのように魔物たちへと降り注いでいく。
その一つ一つがまるで隕石かと思うような威力を持っており、迷うことなく魔物たちを次々と貫いていく。魔物を貫通した火球は勢いを失うことなく地面に突き刺さり、クレーターのように穴をあけていく。
あまりの威力に、あまりの轟音に、あまりに信じられない光景に逃げ惑っていた冒険者はその場で立ち止まり、呆然とその光景を見守ることしかできなかった。
「威力は十分だな」
優吾は魔術がおこしている結果に満足そうに前方を見ている。
冒険者の一人はまるで炎の雨みたいだ。無意識にそう呟いたが、この攻撃に一切の無駄はなく、全ての火球が魔物に直撃していた。
「す、すごい……っ」
優吾の少し後ろから見ていたリーネリアは目の前で起きるあり得ない状況に、口元を押さえながらそう呟くと呆然としながら魔法の行方を見ていた。
この場には魔法使いや、数々の依頼をこなしている冒険者も多くいたが、その誰もが優吾が使ったのが魔法ではなく魔術であることに気づかない。余程の大魔法を駆使したのだろうと思っていた。
いま、この世界で魔術というのは失われた技術であり、今やまともに使えるのは世界に優吾ただ一人であると思われる。
「あとは時間の問題かな」
火球の大元となる炎の玉は小さな玉を吐き出すうちに徐々に小さくなっていたが、それでも魔物を倒すのに十分な数の火球が生み出されるだけのサイズであった。
あれだけ街に来ていたはずの魔物ももうほとんど残っておらず、優吾はのんびりと杖をしまう。
「ユーゴさん、あなたは一体……」
我を取り戻したリーネリアは杖をおさめて状況を見守っている優吾に近づいてとまどいながら声をかけるが、優吾はいまだ前方の魔物たちを見たままだった。
「――こいつは……面白いね」
最初に使った探知魔術は魔物であるということだけを条件に使われており、魔物の詳細までは調べていない。ゆえに、それぞれの個体が持つ能力までは把握していなかった。
だが大量の魔物が消えた今、探知魔術に引っかからなかった何かに気づいた優吾はにやりと笑う。
「……お、面白い?」
「あぁ、一体だけ火球で倒せないやつがいるんだよ」
今度のリーネリアの質問には優吾は楽しげな雰囲気で答えた。
「しかも、怒ってこっちに向かってきているみたいだね」
「え……? ――わぁっ! それじゃあ今度こそ逃げないと!」
優吾が放った魔術は魔法使いたちの中では大規模魔法と呼ばれるだけの規模であり、それこそ複数人の魔法使いが集まって発動されるレベルだった。
それを知っているリーネリアは、あれで倒せなかったのならば大量の魔力を消費した優吾にはもう手はないと考え、再度逃亡を提案した。
「まあまあ、見ていてよ」
だがのんびりと笑う優吾は逃げる素振りを見せない。そうしている間にも魔物はすさまじい勢いで飛ぶように走ってきて優吾と対峙する。
「貴様……何者だ」
見定めるように冷静な表情をしつつも優吾を強く睨み付ける魔物は二足歩行で、作りだけみれば人間と同じような身体をもっている。どこか違いがあるとすれば皮膚の色が紫で、頭部にするどい角が上向きに二本生えていることだった。
「それはこっちのセリフなんだけどね、君は何者であの街を襲おうとしたのはなんでなんだい?」
人間のような魔物の視線もなんのその、優吾は飄々とした様子で質問をする。
だが優吾のすぐ後ろにいたリーネリアはその人間のような姿の魔物を見て顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。
「――ま、魔族!?」
これがその理由だった。
魔族は魔を使役するもので、魔大陸と呼ばれている場所に住んでいる。その力は通常の人では太刀打ちできるものではないとまで言われていた。それが目の前に現れたことにリーネリアは絶望していたのだ。
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