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第二十二話

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「……まあ、いいか。気に入ってくれたみたいだからそれで十分だ。それで、テオ、お前さんのほうなんだが、正直何がいいかわからんからどっちもいくつか用意してみた」
 ジャーノは夢中になっているリザベルトを放置して、テオドールの武器に話をシフトさせる。

 カウンターには杖が五本、片手剣が五本並べられていく。

「なるほど、選んでいいなら……杖はこれで、剣はこれをお願いします」
 一通りカウンターに並んだ武器を見たテオドールはさほど悩むことなく、それぞれ一本ずつ選択する。

「うん、うん、魔力の流れがスムーズでいいですね」
 まず杖を手にして魔力を流していく。
 さすがに魔法の発動まではしなかったがら、これだけでも十分杖のポテンシャルを計ることができている。

 特殊な意匠は施されておらず、いわゆるわかりやすいシンプルな魔法用の杖だったが、素材には魔素の濃い地域に生息するダークアウトナットという樹木が使われている。

「それを選ぶとはなかなかのものだな。それだけは俺が作ったものなんだ」
 かなりの自信作であり、それが選ばれたことをジャーノは誇らしく思っていた。

「へー、やっぱりジャーノさんはすごいですね! すごい持ちやすいし、魔力の流れがすごく綺麗です」
 テオドールは杖の中を流れる魔力を感じ取っており、それが気持ちよく流れていた。

 賢者として名をはせていた彼の魔力にも耐え、十分以上に応えられている杖は、かなりの代物だと思われた。

「こっちの剣も、いいですね」
 剣のほうは堅い金属が使われている以外は普通のものだったが、柄に魔石が込められており、刀身への魔力浸透をしやすくしていた。

「あぁ、そっちは刀身は俺が打って、装飾は知り合いがやったんだが、なかなかのものだろ?」
 こっちも自分が打ったものを選んでくれたことに、ジャーノは喜んでいた。

「よし、決めました! 僕はこの杖と剣を、リザはあのナイフと弓を買いたいと思います! 思うんですが……」
 ここでテオベルトの視線が泳ぐ。
 今朝借金を返したばかりで金は三十万程度。そして、これほどの武器をこれだけの数ともなればその額には収まらない。

(一気に返さずに百万くらい残しておけばよかったか……)
 と考えてはいるものの、それでも強い後悔はなく、どうこれだけの武器の代金を稼ぐかに考えをシフトさせていく。

「あぁ、これもサービスでいい。お前たちならこれを使ってとんでもないことをやらかしそうだから、その時に武器はうちで買ったと宣伝でもしてくれ」
 彼らが借金を背負っていることを知っているジャーノは元々金をもらうつもりはなく、後半の宣伝というのも半分以上冗談で言っていた。

「……えっ!? こ、こんなにすごいものをタダで!?」
 そこへ我に返ったリザベルトはありえないことに素直に驚きを見せる。

「なるほど、有名になれば僕たちの発言が宣伝効果を持つのか……」
 それに対して、テオドールは新しい商機があるかもしれないとニヤリと笑っていた。

「ま、まあ、なんにせよ、そういうことだからそれはお前たちが持って行ってくれ。手入れもうちに持って来てくれればやるから安心してじゃんじゃんつかうんだぞ」
 ジャーノは二人のこれまでの行動や発言に対して、感じ入るものがあるらしく気に入っており、なにかをしてあげたいという思いを持っていた。

「ありがとう、すごく助かります!」
「ありがとうございました!」
 テオドールとリザベルトは、彼の厚意を受け取ることにして、感謝の想いを素直に伝え、頭を深々と下げていた。

「いや、気にしないでくれ。俺のほうにもいくらかの打算があるからな……。とりあえず使ってみて、何かおかしなところがあったら教えてくれ」
 自分が作った武器ということもあり、ジャーノは使ってみて不具合でもあれば、すぐに調整をするつもりだった。

「そうですね、使い心地も含めてあとで報告に来ますね!」
「楽しみです!」
 二人とも新しい武器を手にいれたことで、早くそれを試したいという気持ちが強くなっていた。

「わかったわかった、使いたいんだろ? さっさと行ってこい」
 その気持ちをジャーノも見透かしており、追い出すようではあったが、笑顔で二人を見送った。

 対して、笑顔で大きく頷いたテオドールとリザベルトは店を飛び出していった。





「それじゃ、実力の確認のためにも少し魔物と戦闘しようと思うんだけど、いいかな?」
「はいはい!」
 店を出るなり振り返って質問してきたテオドールに対して、リザベルトは若干の緊張を交えながら返事をする。

 武器を使うのはリザベルトも楽しみだったが、実戦ともなると少々及び腰になってしまう。

「ははっ、大丈夫大丈夫。武器はいいものだし、なにより僕が一緒だからなにがでてきても大丈夫! リザは自分の力の確認と、活かし方、それからどう成長させていくかを少しずつ考えていこう」
 年下のテオドールの言葉だったが、それを聞くだけでリザベルトは心が落ち着いていくのを感じていた。
 前世の記憶のせいなのか、彼自身が元からそういう性格なのかはわからないが、テオドールと一緒にいることを選んだことは間違いではなかったのだとリザベルトに思わせた。

「それじゃ、東の草原に行ってみようか。あそこなら見晴らしもいいから、遠くの魔物も狙いやすいんじゃないかな」
 東の草原は中央を貫くようにとおる街道にこそ魔物が出てくることはほとんどなかったが、道を逸れると魔物の姿があり、初級冒険者などが訓練のために行くことが多い。

「了解です! あそこなら、いい戦闘練習になりますね」
 リザベルトも東の草原にいる魔物のことを知っており、自分の力を試すにはいい場所だと思っている。

「よかった、なら早速出発しようか」
「はい!」

 意気揚々と東の平原を目指すテオドールとリザベルト。
 そんな二人の様子は、街の人々からは不思議な組み合わせとして映っている。

 片や父親を亡くしたばかりの子ども、片や錬金術師ギルドで徐々に有名になってきた看板受付嬢(本人は知らず)。
 そんな二人が連れ立って歩いていることは、他の住民からすれば違和感を覚えるものだった。

 しかし、当の二人は新しく手に入れた武器を試せることを楽しみにしているため、周囲の反応は目に入らずに歩いている。




 街を出てからも談笑しながら進む二人だったが、草原が近づくにつれて表情には徐々に真剣さが帯びていく。

「さて、到着したね……魔物も、結構いるみたいだ」
 テオドールは風魔法を使って、草原にいる魔物を事前に探っていた。

「そう、ですね」
 リザベルトはエルフ特有の魔力感知能力の高さ、気配察知能力の高さを活かして魔物のおおよその居場所を把握している。

「とりあえずあそこにいるゴブリン、見えるかな?」
「はい、見えます」

 小さな木の棒を持ち、少し汚い腰かけを身に着けたゴブリンがのそのそと草原を歩いている。
 まだゴブリンとの間にはかなりの距離があるが、テオドールは魔力で視力を強化しており、リザベルトは自前の視力でゴブリンの姿をしっかりと捉えていた。

「それじゃリザ、あのゴブリンの頭を撃ち抜いてみようか。できるかな?」
 距離にして二十メートルは離れている。
 冒険者などの戦闘を生業としている中には弓を扱う者もいるが、この距離で命中させるのは難易度が高い。

「問題ありません、いきます」
 即答するとリザベルトは弓を構える。
 まるで時が止まったかのように静かな所作で弓を構え、魔力を流して魔法矢を作り出すと弦を引き絞って放った。

借金:3600万
所持金:約30万
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