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第十九話

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「えぇ、そうなんですが……実は母が姿を消して長く経つので、私のところに取り立てにきたのは、ついこの間のできごとなんです」
 ここで、やっとテオドールがリザベルトを助けた場面に話が繋がる。

「なるほど……つまり、現状をまとめると借金は逃げてくる際に使った資金で、今は一千万で僕が肩代わりした。それに、これからも村からの追っ手が来る可能性はある。そういうことだね?」
 テオドールは状況を整理して、それをリザベルトに確認する。すると彼女は少し考え込んだ。

「前半はそのとおりで、追っ手に関しては可能性はありますが……今はそれは低いかと。私がいた場所では住んでいる土地を遠く離れることを禁忌と考えていて、母と私は集落がある大陸を出てこの地に流れ着いたので……」
 別の大陸まで来たからこそ、追手があっても彼女は堂々とギルドで仕事をすることができていた。

「にしても、集落っていうわりにそんな暗殺技術に特化した人がいるなんてすごいね……」
 一般的な集落の人口を考えれば、たった二人を追いかけるために追っ手を出すのは非効率的である。

「えっと、私がいた集落なんですが、住んでいた人数は数千人とかなりの規模で昔から暗殺を生業としてる人もたくさんいたんです……ちなみに、たくさん人がいてもエルフが住んでいる場所は集落といいます」
「なるほど……」
 規模による違和感を拭うことができたテオドールは納得して、すぐに思考を追っ手に切り替える。

「となると、今後その大陸に僕たちが行く可能性もある。もしくは年月が経って、大陸から出てくることもあるかもしれない。だったら、リザには自分で身を守れるくらいには強くなってもらわないとだね!」
 ニコリと笑いながら言うテオドール。勇者や賢者時代も命を狙われることはあったため、そこまで彼は悲観していなかった。

「あ、あの、はい……」
 それに対してリザベルトはやや自信がなさそうな表情で返事をする。
 弓とナイフを使うことができるとは話したものの、あくまで生活に必要な程度でしかなく、戦いの中で使いこなせる自信はなかった。

 そんな不安を和らげるように、テオドールは笑顔を語りかける。

「リザ、大丈夫だよ。僕には鑑定能力はないけど、人を見る目には少し自信があるんだ。勇者時代も賢者時代も色々な人を見て来た」
 励ますような笑顔でそう言うと、テオドールは立ち上がる。

「それこそ、力だけは強い人、魔法だけは強い人、どちらも弱いけど心だけは強い人、どれも弱いように見えるけど実は芯に強さを持ってる人、強そうに見えて弱い人、いつか裏切ろうと考えている人……そんな人たちをたーっくさん見てきたんだ」
 いい人悪い人、色々な人間に会い、話し、長い時をともに過ごすことで、そんな彼らのことがわかるようになった。
 
 そんな自分の目を信じて欲しいとテオドールはいう。

「……そ、それで、私はいかがでしょうか?」
 リザベルトはドキドキしながらも、少しの期待感を抱いてその質問を投げかける。

「そうだねえ……リザの場合はこれまで戦ってきたわけじゃないし、一番目立つ才能は鑑定能力。だけど、もっと自信を持ってやることで戦闘能力はあがると思うし、魔法の才能もあるように思える。なにより、これまで苦労をしてきたからちょっとやそっとじゃ折れない心の強さを持ってるように見えるよ」
 少し考えたのち、テオドールは感じたことを素直に言葉にしていく。

「そ、それはちょっと褒めすぎのような気が……」
 真っすぐに視線を向けて話してくるテオドールに対して、リザベルトは頬を赤くしながら視線を逸らしていた。

「いやいや、リザは美人だし、スタイルもいいし、髪も綺麗でサラサラだし、鑑定もできる。それに加えて、戦えて、魔法も自在に使えるってなったら完璧だよ!」
 テオドールの褒めは止まらずに、先ほどの能力面に加えて容姿にまで触れていく。

「いやいやいやいや、テオさんこそ可愛くてカッコイイですし、能力も高くて、お金もたくさん稼げますしすごいです!」
 今度はリザベルトも言われてばかりではなく、なんとか反撃をする。

「いやいや、リザこそ!」
 こうやって、二人は互いに褒めあいながら時間を過ごしていった。

 明日はついに借金取りが初の取り立てにやってくる日だったが、そんなことをまるで忘れたかのように二人は互いを褒めたたえながら盛り上がっていた。



 そしてこの日はそのままリザベルトの家に泊ることになった。




 翌早朝

「さて、僕の家に戻る前にリザの家を」
「あ、荷物はひととおりまとめてあるので大丈夫です、もういけま……」
 慌てたように外へ出たリザベルトがそこまで言ったところで彼女の動きが止まる。

「家ごと闇魔法で収納……っと!」
 家の上空に闇の魔力が生み出され、そのままずるんと家が飲み込まれた。

「さあ、それじゃ行こうか!」
「……えっ……?」
 家があった場所はポカンと開けた状態になっており、家の形跡が地面に残っているだけだった。
 そこだけ土がむき出しになっていたが、家があったためのものだろう。

「い、いいい、家ごと運ぶなんてやっぱりありえないですよおおおぉ!?」
 とんでもない出来事が目の前で起きたことに、リザベルトの雄たけびが森に響き渡った。

「あー、ほら、家自体にもお母さんとの思い出があるかなって思って。必要な荷物はまとめてもらったけど、それでも本当は持っていきたかったけど諦めたものもあったかなーってさ」
 それに対して、テオドールは落ち着いて返事をしていた。

 その返事を聞いたリザベルトは気づく。

「もしかして最初からそのつもりだったから『必要な』荷物って言っていたんですか?」
「正解! 最初から全部持っていけるって言ってもよかったんだけど、それだとすぐに使うものとそれ以外をわけられないからね」
 実際そう言われていたからこそ、リザベルトすぐに使ったり身につけたりする物や母の残したお守りなどを選別していた。

「ふわあ、すごいですね。テオさんはすごく色々考えていて、そういうところからもやっぱり前世の話も本当なんだなって思います!」
 信じていないわけではなかったが、こういう細かい点からも彼の発言の信憑性が増していた。

「ふふっ、こんなのが理由でも信じてくれて嬉しいよ。でも、まだまだ色々やっていくから、きっとリザが驚くシーンがあると思うけど……頑張ってね!」
「はい!」
 今までは戸惑いが強かったが、ここにきてテオドールがどんな人物なのか、理解度が深まったリザベルトはむしろそんな彼がこれから成すことを楽しみにしていた。

 それから二人は借金取りを待つために、一路テオドールの家へと戻って行った。


借金:4000万
所持金:400万+約30万

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