上 下
19 / 26

第十九話

しおりを挟む
「えぇ、そうなんですが……実は母が姿を消して長く経つので、私のところに取り立てにきたのは、ついこの間のできごとなんです」
 ここで、やっとテオドールがリザベルトを助けた場面に話が繋がる。

「なるほど……つまり、現状をまとめると借金は逃げてくる際に使った資金で、今は一千万で僕が肩代わりした。それに、これからも村からの追っ手が来る可能性はある。そういうことだね?」
 テオドールは状況を整理して、それをリザベルトに確認する。すると彼女は少し考え込んだ。

「前半はそのとおりで、追っ手に関しては可能性はありますが……今はそれは低いかと。私がいた場所では住んでいる土地を遠く離れることを禁忌と考えていて、母と私は集落がある大陸を出てこの地に流れ着いたので……」
 別の大陸まで来たからこそ、追手があっても彼女は堂々とギルドで仕事をすることができていた。

「にしても、集落っていうわりにそんな暗殺技術に特化した人がいるなんてすごいね……」
 一般的な集落の人口を考えれば、たった二人を追いかけるために追っ手を出すのは非効率的である。

「えっと、私がいた集落なんですが、住んでいた人数は数千人とかなりの規模で昔から暗殺を生業としてる人もたくさんいたんです……ちなみに、たくさん人がいてもエルフが住んでいる場所は集落といいます」
「なるほど……」
 規模による違和感を拭うことができたテオドールは納得して、すぐに思考を追っ手に切り替える。

「となると、今後その大陸に僕たちが行く可能性もある。もしくは年月が経って、大陸から出てくることもあるかもしれない。だったら、リザには自分で身を守れるくらいには強くなってもらわないとだね!」
 ニコリと笑いながら言うテオドール。勇者や賢者時代も命を狙われることはあったため、そこまで彼は悲観していなかった。

「あ、あの、はい……」
 それに対してリザベルトはやや自信がなさそうな表情で返事をする。
 弓とナイフを使うことができるとは話したものの、あくまで生活に必要な程度でしかなく、戦いの中で使いこなせる自信はなかった。

 そんな不安を和らげるように、テオドールは笑顔を語りかける。

「リザ、大丈夫だよ。僕には鑑定能力はないけど、人を見る目には少し自信があるんだ。勇者時代も賢者時代も色々な人を見て来た」
 励ますような笑顔でそう言うと、テオドールは立ち上がる。

「それこそ、力だけは強い人、魔法だけは強い人、どちらも弱いけど心だけは強い人、どれも弱いように見えるけど実は芯に強さを持ってる人、強そうに見えて弱い人、いつか裏切ろうと考えている人……そんな人たちをたーっくさん見てきたんだ」
 いい人悪い人、色々な人間に会い、話し、長い時をともに過ごすことで、そんな彼らのことがわかるようになった。
 
 そんな自分の目を信じて欲しいとテオドールはいう。

「……そ、それで、私はいかがでしょうか?」
 リザベルトはドキドキしながらも、少しの期待感を抱いてその質問を投げかける。

「そうだねえ……リザの場合はこれまで戦ってきたわけじゃないし、一番目立つ才能は鑑定能力。だけど、もっと自信を持ってやることで戦闘能力はあがると思うし、魔法の才能もあるように思える。なにより、これまで苦労をしてきたからちょっとやそっとじゃ折れない心の強さを持ってるように見えるよ」
 少し考えたのち、テオドールは感じたことを素直に言葉にしていく。

「そ、それはちょっと褒めすぎのような気が……」
 真っすぐに視線を向けて話してくるテオドールに対して、リザベルトは頬を赤くしながら視線を逸らしていた。

「いやいや、リザは美人だし、スタイルもいいし、髪も綺麗でサラサラだし、鑑定もできる。それに加えて、戦えて、魔法も自在に使えるってなったら完璧だよ!」
 テオドールの褒めは止まらずに、先ほどの能力面に加えて容姿にまで触れていく。

「いやいやいやいや、テオさんこそ可愛くてカッコイイですし、能力も高くて、お金もたくさん稼げますしすごいです!」
 今度はリザベルトも言われてばかりではなく、なんとか反撃をする。

「いやいや、リザこそ!」
 こうやって、二人は互いに褒めあいながら時間を過ごしていった。

 明日はついに借金取りが初の取り立てにやってくる日だったが、そんなことをまるで忘れたかのように二人は互いを褒めたたえながら盛り上がっていた。



 そしてこの日はそのままリザベルトの家に泊ることになった。




 翌早朝

「さて、僕の家に戻る前にリザの家を」
「あ、荷物はひととおりまとめてあるので大丈夫です、もういけま……」
 慌てたように外へ出たリザベルトがそこまで言ったところで彼女の動きが止まる。

「家ごと闇魔法で収納……っと!」
 家の上空に闇の魔力が生み出され、そのままずるんと家が飲み込まれた。

「さあ、それじゃ行こうか!」
「……えっ……?」
 家があった場所はポカンと開けた状態になっており、家の形跡が地面に残っているだけだった。
 そこだけ土がむき出しになっていたが、家があったためのものだろう。

「い、いいい、家ごと運ぶなんてやっぱりありえないですよおおおぉ!?」
 とんでもない出来事が目の前で起きたことに、リザベルトの雄たけびが森に響き渡った。

「あー、ほら、家自体にもお母さんとの思い出があるかなって思って。必要な荷物はまとめてもらったけど、それでも本当は持っていきたかったけど諦めたものもあったかなーってさ」
 それに対して、テオドールは落ち着いて返事をしていた。

 その返事を聞いたリザベルトは気づく。

「もしかして最初からそのつもりだったから『必要な』荷物って言っていたんですか?」
「正解! 最初から全部持っていけるって言ってもよかったんだけど、それだとすぐに使うものとそれ以外をわけられないからね」
 実際そう言われていたからこそ、リザベルトすぐに使ったり身につけたりする物や母の残したお守りなどを選別していた。

「ふわあ、すごいですね。テオさんはすごく色々考えていて、そういうところからもやっぱり前世の話も本当なんだなって思います!」
 信じていないわけではなかったが、こういう細かい点からも彼の発言の信憑性が増していた。

「ふふっ、こんなのが理由でも信じてくれて嬉しいよ。でも、まだまだ色々やっていくから、きっとリザが驚くシーンがあると思うけど……頑張ってね!」
「はい!」
 今までは戸惑いが強かったが、ここにきてテオドールがどんな人物なのか、理解度が深まったリザベルトはむしろそんな彼がこれから成すことを楽しみにしていた。

 それから二人は借金取りを待つために、一路テオドールの家へと戻って行った。


借金:4000万
所持金:400万+約30万

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄ですか? でしたら貴方様には、その代償を払っていただきますね

柚木ゆず
ファンタジー
 婚約者であるクリストフ様は、私の罪を捏造して婚約破棄を宣言されました。  ……クリストフ様。貴方様は気付いていないと思いますが、そちらは契約違反となります。ですのでこれから、その代償を受けていただきますね。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...